第12話 新たな決意

部屋に戻ったノクトは、先ほどの義父ちちとの話について考えていた。


己の責務とは何か。

当然、化者ケモノを滅する事である。

それは、これまでもこれからも変わらない。


ノクトの臆病さは、別なところにある。

化者ケモノは、人間の営みに紛れる。

つまり、偽りとはいえ他の誰かの大切な人であったのではないか。

それを自分が奪ってしまったのではないか。

自分が正義だと思ってやってきた事は、本当に人の助けとなっていたのだろうか。


ノクトにとっての化者狩ケモノがりの使命は、人助けだ。

化者ケモノを殺せば、たしかに誰かを助けるがその一方で、何も知らない他の誰かを不幸にしていたのかもしれない。


だが、それはノクトの個の感情である。

義父ちちは言っていた。

責務の為には、個の感情は優先するべきではないと。

みなの為に、責務を果たせと。


思い返せばノクトは、これまで己の為に化者狩ケモノがりの責務を果たしてきたのかもしれない。

人助けをしたいという気持ちも得られる虚構の満足感も全て自分の為であった。


「オレのやるべき事。それは化者ケモノを殺し、この村に平和を取り戻す事だ。」


ノクトは確かめるように呟く。

相手が誰であっても、責務を果たす。

それは自身の為にではない。

故郷の為にだ。


「(みなの為に、やれる事をやろう。

ウジウジと悩むのは、事が終わってから1人でやればいい。)」


全てを納得し、受け入れた訳ではない。

だが、こうして部屋の中で石のようになっていても状況が好転する事はない。

己の臆病さを押し殺し、ノクトは部屋を出たのだった。


「(・・・まずはラニットにもう一度頭を下げて、捜査に合流させてもらうか。)」



会いたくないと思って歩いた時は会ってしまったらどうするかなどと余計な心配が頭に浮かんでいたが、いくら小さな村とはいえ闇雲に歩いて目的の人物にばったり出くわすと言うのは可能性としては低い。


「(まずは、聞き込みでラニットの目撃情報を集めるのが最も効率がいいだろうな。)」


実際には、聞き込みと言うほど大層なものでもない。

闇雲に歩けば確かに難しいだろうが、村人達に聞いてどの辺りを彷徨さまよっているか大まかな位置を割り込めば、あとは村について熟知しているノクトの方から追いつく事は可能だというただそれだけの事である。


だが、ノクトのこの安易な目論見は外れる事となる。

違和感を生じたのは、何人目の村人に声をかけた時だったろうか。

村人達も常に外に出ているわけでもないし、ましてやラニットを監視しているわけでもない。

だが、こう言った寒村では外から来た人間とは否が応でも目立つものである。

それであるのに、全く目撃情報がない。


昨夜の話であれば、ラニットは化者ケモノの捜索を行っているはずである。

おそらくは、ラニットの『虫』がつけたを頼りに、この村を地道に調査しているのだろう。

だが、誰に聞いても、ラニットを見かけていないと言う。


「(森の方へ向かったのか?)」


確かにラニットは、早朝から部屋を出た。

その足でまっすぐ森へ向かえば、目撃情報が無いのも頷ける。

昨日の話から森の中に何か手掛かりがないかと調査しているのかもしれない。


今から森へ向かっても、日暮れまでにあまり時間がない。

そもそも森に向かったという確証もない。

結局、ノクトは村の中をあてもなく彷徨さまよってみたが、日暮れを過ぎてもラニットを発見する事はできなかった。


半日の歩き通しにより、少し疲れが溜まった足で帰路につくと義母ははが心配そうな顔で待っていた。


「あぁ!ノクト!やっと帰ってきたのね!あら?ラニット君はどうしたの?」


当然だが、義母ははノクトとラニットが別行動となった事を知らない。

ここは正直に答える他なかった。


「ラニットとは別個に動く事になったんだ。その方が調査の幅も広がるから。」


「そうだったのね、だけどもう夜よ?そろそろ戻ってきてもいいんじゃないかしら?」


「いや・・・おそらくここには戻ってこない。」


「どういう事?ラニット君はどこにいるの?」


「・・・分からない。」


ノクト自身もラニットが今どこにいるのか検討がつかない。

もしかしたら先に帰っているかと希望的観測もしたが、義母ははの様子からそれも否定された。


「分からないって、あなた。ラニット君は後輩なんでしょ?しっかり面倒を見てあげないとダメじゃない。他に知り合いもいないこの村でどうやって夜を過ごすのよ。」


「あぁ、分かってるよ。だが、無事でいる事は確かだから。大丈夫だよ。」


「本当なのね?あんなにいい後輩なんだから大事にしないとダメよ?」


「・・・そうだな。」


ラニットも一端いっぱし化者狩ケモノがりだ。

その辺の野生動物には遅れを取らないだろうし、この村では、もめ事に巻き込まれるというのも考えにくい。


「(どこかで野宿でもしているのだろうか。明日は、もう一度村を回って森の方へも向かってみるか。)」


ラニットの事が気がかりではあるものの、義母ははの最後の一言については素直に同意できないノクトであった。



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