第7話 情報不足

「これが義父ちちから聞いた話だ。」

「なるほど・・・」


ノクトが昨晩に聞いた話をすると、ラニットは少し考えるような仕草を見せ、こう続けた。


「この事件が化者ケモノによるものだと仮定すると、部屋の中で争った形跡すら残らないというは妙ですね。」

「そこはオレも不思議に思っていたんだ。これまで担当した事件では、ここまで完璧に痕跡を残さないような事例はなかった。」

「・・・本当にそう思ってました?ボクの意見に便乗しているだけじゃないですよね?」

「本当にそう思っていた!」

「冗談ですよ。このくらいのことに気がつけないなら化者狩ケモノがりとして失格ですからね。そんなにムキにならないでください。」

「お前の冗談は、全く笑えない。」

「度量が狭いですね。」

「・・・ッ。」


これ以上は、大人としての威厳を失ってしまいそうになったのでノクトは口をつぐんだ。


「とにかくあなたのお義父とう様から残りの話を聞いて、あとは直接村へ調査に行くしかなさそうですね。今のところは。」

「・・・そうだな。」

「『虫』は放してあるんでしょう?何か『知らせ』は届きましたか?」

「オレの方は、まだだな。」

「ボクの方もまだです。こればかりは待つしかありませんから。」


『知らせ』が、化者狩ケモノがり達の都合のいいように届くとは限らない。

存在するかどうかも分からない相手を探す事の苦労は誰よりも彼らがよくわかっている。

こうして、2人は残りの事件の話を聞きに行くことにしたのであった。



義父とうさん、入ってもいいかな?」

「あぁ。」

義父ちちの部屋の戸を叩くと中から返事が聞こえた。


「体調はどうだい?」

「悪くないな。やはり、若者達の声を聞くのが一番の薬だ。」

「よかったよ。昨日の話の続きをして欲しいんだけど・・・。」

「あぁ、構わないよ。」

「それで・・・後輩ラニットも同席しても構わないかな?」

「もちろんだともお前の助手なんだろう?」

「ありがとう、ラニット、入って。」

ラニットは、部屋の前で待たせてあった。

意外にも、これはラニットの方から提案してきた事であった。

公になっているとはいえ、村の問題を部外者には喋りにくいのではと言う事らしい。

「と言うのは建前で、いきなり押しかけて警戒され嘘や隠し事をされては困りますからね。」と言っていたが。


「失礼します。改めまして、保安隊のラニットです。お体が悪いところ申し訳ありません。」

「いや、いいんだ。息子の事を支えてやってくれ。」

「はい!先輩の力になれるように全力を尽くします!」

そんなラニットの言葉に義父ちちは穏やかな微笑みを浮かべ続けた。


「・・・たしか、1件目のことは話したな。先に言っておくと、3件目の事件については私も詳しくは分からない。その頃に伏せってしまってな。」

「どんな些細な情報でも構わない。教えてくれ。」

義父ちちは、ノクトの言葉に頷くと言葉を選ぶように語り始めた。


木こりの夫が消えてしまった後、何か手掛かりはないかと村人達で捜索を続けていた。

2日ほど経過した日、その日はくだんの森の捜索を行うこととなったらしい。

動ける村人達と外から訪れた3人は、2人1組となって森の中の捜索を始めた。

そこで、木こりの妻と3人の内の1人、残る2人が組となった。


これが失敗であったと悔いるよう義父ちちは言った。


日暮れも迫る頃、外部からの2人組の片割れが森で相方とはぐれてしまったとして1人で帰ってきたそうだ。

いくら森を探しても見つからず、いくら待てども村へは帰ってこない。

村は蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。

当然だ。この短期間で2人も消えてしまったのだから。


事件はこれだけでは終わらなかった。

こうなってしまうと捜索に参加する村人はほとんどいなくなってしまった。

翌日以降、木こりの妻と残された2人だけで捜索を行っていたらしい。

そんな彼等の様子を村人達は見ていたものの、協力しようとするものは誰もいなかった。

そして、2人目の失踪者が出てから3日目の夜。

今度は、木こりの妻が消えてしまった。


「私が知っているのはここまでだ。力になれなくてすまないな。」

「事件の全貌が見えただけでも十分だよ。ありがとう。」


義父ちちに礼を言い、部屋を出ようとすると声をかけられた。

「・・・ノクト、無理はするなよ。」

「あぁ、でも自分の故郷のことなんだ。多少の無理は通すさ。」


正直に言えば、情報が少ない。特に3件目の事件に関してはほとんど何も分からない。

だが、化者狩ケモノがりは足で情報を稼ぐのが仕事だ。


「(ひとまずは部屋に戻って、ラニットの意見も聞くか・・・。)」

改めて礼を言い、2人は部屋を後にした。

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