第6話 化けの皮

義父ちちとも挨拶を済ませたラニットは、朝食の席でもノクトのありもしない逸話いつわを自慢げに話していた。

義父母りょうしんも普段は知らないノクトの姿に好奇に満ちた目で話を聞いていた。


「その時の先輩は、すごくかっこよかったんですよ!ね?先輩?」

「やるべき事をやっただけだ。褒められるような事でもない。」


ラニットが語る中で気になったのは、全てがでもないところであった。

ノクト化者狩ケモノがりとして、過去に解決してきた事件の内容が所々混ざられていた。


「(オレの事は、抜かりなく調べ上げてきているということか。)」


朝食を盛った皿の上が綺麗になったところで、ノクトは口を開いた。


「ラニット、そろそろ『仕事』に入るぞ。」

「了解です!お母さん、ごちそうさまでした!とってもおいしかったです!」


義母ははは、嬉しそうに微笑みながら片付けを始める。


義父とうさん、先にコイツと話をしてくるから後でまた部屋へ行くよ。」

「あぁ。」

「ラニット、オレの部屋で話そう。義母かあさん、悪いんだけど、仕事の話をするから・・・。」

「分かってるわよ。盗み聞きなんてしないわ。」

二人は、義母ははに感謝の意をこめて少し頭を下げ、部屋に向かった。



「さて、自己紹介してもらおうか。ラニット。」


部屋に入ると、先程までの快活で愛くるしい後輩の姿はなく冷淡な顔の化者狩ケモノがりの姿があった。


、ベスティアさん。お気づきだと思いますが、上よりの指令で今回の失踪事件を担当する事となったラニットです。」

「さっきとは大違いだな。役者になれるんじゃないか?」

「少なくとも、あなたよりはボクの方が向いていると思います。」

「・・・ッ。オレのこともよく調べていたようだが?」

「渦中の村の関係者が組織にいるとなれば、当然です。あなたの現在に至るまでの情報は可能な限り調査しました。」

「『』か・・・。それにしてもよくオレが保安隊を隠れ蓑にしている事がわかったな。そこまでは、書庫にもない情報だったろ。」


『書庫』とは、組織の情報担当の通称であり、あらゆる情報を化者狩ケモノがりに提供してくれる機関である。


「それは、あなたのお義母かあ様との会話の中から拾いました。ボクは、彼女にあなたの『』であることしか伝えていません。あとは、他愛もない会話から彼女がペラペラと喋ってくれました。」

「ほう・・・その歳で化者狩ケモノがりになれるだけの事はあるってことか。」

「ベスティアさん、演技の上で先輩と呼びましたが、先輩面するのは辞めてください。ボク達は化者狩ケモノがりなんですから。」

「・・・あぁ、分かったよ。」


ラニットの険のある物言いに少々癇に障ったが、ノクトは『大人』として堪えた。

なにより化者狩ケモノがり達が、必要以上に親交を深めないのは訳がある。

情が生まれてしまうからだ。


確かに複数で動けば、早期の事件の解決にもつながるかもしれない。

だが、時に情は判断を狂わせる。

仲間が負傷をすれば、化者ケモノよりもそちらを優先してしまう場合もある。

仲間の死を目の当たりにして、怖気付いてしまう場合もある。

化者狩ケモノがりにとって、最も優先すべきは仲間ではない。

化者ケモノを駆除することだ。

だから、化者狩ケモノがり達は『連携』する事はあっても『助け合い』はしない。


ノクトは、あまりこの考えが好きではなかった。むしろ嫌っていると言っても良いほどである。

ノクトにとって、化者狩ケモノがりとは『人助け』であったからだ。

当然、仲間がきゅうした時には仲間を助けるべきだと思っている。


「(コイツの態度は気に食わないが、必要以上に馴れ合わないという意味では化者狩ケモノがりとして正しい姿なのかもしれんな。)」


「なら、本題に入るがオレもまだ3件の失踪事件のうち1件の話しか聞いていない。残りの話は、この後、義父ちちから聞く手筈になっている。」

「想定よりも行動が遅いですね。まぁいいです。その話を聞かせてください。」

「・・・あぁ。」


親交を深めないという事を差し引いても、刺々しいラニットの態度にノクトは思った。

化けの皮を剥がしたラニットの本性は、『可愛い後輩』などとは程遠いと。

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