第5話 可愛い後輩

「先輩にはいつも助けてもらってて、すごく感謝しているんです!」

「そうなのね!なんだか私も誇らしいわ。」


ノクトが、古家へ戻ると中から聞き覚えのない声と義母ははの弾んだ声が漏れていた。


「(こんなに朝早くから来客とは珍しいな。村の誰かが訪ねてきているのだろうか?)」

「ただいま戻りました。」

そう声をかけると、扉を開け、ノクトを出迎えたのは見知らぬ人物であった。


年の頃は、16〜18くらいであろうか。

腰ほどに届きそうな黒い髪。

少年とも少女とも取れる中性的な整った顔立ち。

脆弱さすら感じるような、透き通るように白い肌。

そんな白い肌にあって、一際目立ったのは深い紅色の瞳であった。


「お疲れ様です!ベスティア!」

「戻ってきたのね、可愛いがあなたの事を待っていたのよ。」

顔をほころばせながら出迎える二人とは対照的にノクトは、思慮を巡らせていた。


まず義母ははの言葉から、この謎の人物が『青年』である事が分かる。

だが、化者狩ケモノがりであるノクトには、『ベスティア先輩』と呼ばれるような後輩などいない。

そもそも、ほとんど顔を合わせない化者狩ケモノがり同士に先輩や後輩という意識はない。


義母ははが、この『青年』の事を擬態カモフラージュとして利用している『保安隊』の後輩だと思っていることは想像にかたくないが、当然ながら『』であるため、ノクトが保安隊に所属しているという事実は存在しない。


それでいて、この青年がノクトであると騙っていることから辿り着く答えは一つであった。

この青年は、から正式に送られてきた化者狩ケモノがりであろう。


からの命令で今回起こった事件について、先輩の助手として派遣されました!」

青年は初対面であるにも関わらず、いかにも可愛い後輩といった様子でうそぶいた。


「(ここはうまく話を合わせなければ・・・)」

「あぁ・・・よく来てくれたな。助かるよ。」


咄嗟に出たのは、まるで用意された台本を読むかのような単調な口ぶりの言葉。

「(この仕事を辞めたとしても役者にはなれないな・・・)」

心なしか、先ほどよりも青年の視線が冷たいものになったように感じた。


幸いにも、義母ははは可愛い来訪者のおかげで上機嫌だったため、この見え透いた演技に気がつきはしなかった。


「さぁ!ノクトも戻った事だし、まずはみんなでご飯にしましょう。ノクト、お父さんを連れてきてもらえる?」


正直に言えば朝食よりも先に、この青年と口裏を合わせておきたかった。

青年の名前すら知らないというのは、この後に取り繕いきれない場面が出てくるかもしれないからだ。


だが、そんな胸中を見透かしたように

「僕も手伝います!先輩!」と声が上がった。


「いいのよ。君はお客さんなんだから座ってて。」


なるほど、なかなか聡明な青年のようだ。


「こっちは一人で大丈夫だから、義母かあさんの手伝いをしてくれ。ラニット。」


今度は違和感なく言えたと思う。


「分かりました!では、お母さん。お手伝いさせてください!」

「あらまぁ、なんていい子なんでしょ。じゃあお言葉に甘えて手伝ってもらおうかしら。うちの息子もこのくらい、いい子だったらよかったんだけどねぇ。」

「先輩はとてもいい人ですよ!」

「あの子が、あなたくらいの歳の時はね・・・」


義父ちちの部屋に向かうノクトの背後からは、そんな賑やかな声が聞こえていた。

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