第4話 懐疑心

義父ちちが『始まり』の事件について語り終えた時、部屋には暖炉の薪が爆ぜる音だけが響いていた。


空はもう月が高く上がる頃であろうか。

義父ちちの体調も考え、2つ目以降の事件の話は明くる日とすることとなった。


義母ははの手によりノクトが村から出ていった後も整理整頓された自室へ戻り、今聞いた話を反芻していた。


まず思ったことは、話に出てきた『木こりの夫婦』に覚えがなかったことである。


「(明日以降、その夫婦についても調が必要だ・・・)」


同時に今回の話には違和感も生じていた。

人間を『』のは、たとえ化者ケモノであっても簡単なことではない。

家の中にいる人間を襲うとなれば尚更である。


妙な物言いだが、この事件は化者ケモノらしさがない。


この人間社会において、人一人が消えて『はい、そうですか。』とはなろうはずがない。

人は他人と何かしらで繋がって生きているからだ。

人は一人では生きられない。

その繋がりが急に途切れれば、騒ぎ立てる人間が必ず現れる。


それならば化者ケモノは、人間を『』形跡を隠しても人間が『』形跡まで隠す必要はない。


「(とにかく、このままにしておくわけにはいかないな)」


ノクトは、いぶかる気持ちを押さえながら眠りについた。




翌朝、早くに目が覚めたノクトは僅かなでもないかと村に出た。

幼き頃の記憶とほとんど相違ない村。


昨晩は気が付かなかったが、各家の戸口には、白い小さな花が添えてあった。

このあたりに群生する魔除けの効果があると信じられている花である。


村人皆が、失踪事件に恐怖している。

村を歩いて確認できたのは、その事実のみであり、こうしていると不穏な事件など起きていないかの様な静けさであった。


こういった時に化者狩ケモノがりが、できる事は存外に少ない。

一つは、ひたむきに自分の足で化者ケモノの痕跡や手掛かりとなるものを探す事である。


これまでも、それらしい事件や不穏な噂があるとの指令に従って、現地へ赴き調査を行ってきた。

だが、化者ケモノとは何の関係もない事が大半であり、10に1つ、いや20に1つ、化者ケモノが絡んでる場合があると言ったところである。


だからと言って彼等ケモノがりたちはどんな指令にも、決して手を抜かない。

自分たちが、万に一つでも化者ケモノの痕跡を見逃せばどういう事になるかよく理解しているからである。


それともう一つ、化者狩ケモノがりは、自分の足での調査と共に『虫』を放つ。

化者ケモノは、人間にはわからない『』をその体から発している。

『虫』はその『ニオイ』を探り当て、主人に『知らせ』を届ける。


化者狩ケモノがり個々で『虫』は異なるが、ノクトの場合はどこにでもいる小鳥であった。

村に入る直前にすでに『虫』を放っていたが、未だ『知らせ』はない。


(ヤツらの方から尻尾を出してくれれば、こんな苦労も必要ないんだがなあ)


化者ケモノを外見から見分ける為の最たるかつ唯一の特徴は、月光にさらされると瞳が白くなるという習性を持つ事であるが、ヤツらは狡猾だ。

人前で迂闊に月明かりの下にはでない。


人に紛れる黒い影を絞り込むためにひたむきに『歩き』、『虫の知らせ』を待つ。


化者狩ケモノがりの基本を為しつつ、村の中を一周した頃に日が差し始め、ノクトは丘の上の古屋へ戻ったのであった。

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