第3話 始まり

「・・・あの日、この村へ外の人間達が訪れた。」


義父ちちの話を要約するとこうだった。



この村の不幸の始まりの日。


その日は珍しく村を訪ねてきた者達がいた。

3人の歳若き男女。


なんでも、生物の観察が好きで、この村の近くにある森の生態系の調査に来たと言い、少しの間村に滞在させて欲しいとのことだった。


このような寒村では満足に客人をもてなすこともできないが、故郷だと思って気の済むまでこの村で過ごすと良い。


義父ちちはそんな風に快諾したそうだ。


3人の若者達は、村長である義父ちちの態度に安堵したようで申し訳なさそうにもう一つ申出をした。


『案内役として森に詳しい村人に同行してもらいたい。』


義父ちちは、この村で木こりをやっている夫婦を若者達に紹介した。


木こりの夫婦も珍しい客人に興味を持ち、この申出を受け入れた。


若者達が村に来た初日は、日も高く昇っていた頃だったので、下見という意味で森の入り口付近を散策した程度で日暮前には村に戻ったと言う。


村には客人用の宿などないので、3人は木こりの家で厄介になることになったそうだ。


2日目、若者達は木こりの夫と共に朝早くから森へ入ったものの、日が落ちても夫達が帰ってこないと木こりの妻が家に訪れたので、義父ちちも心配していた。

あたりが暗くなり月が輝き始める頃、若者の1人に肩を貸すようにして戻ってきた。

話を聞くと、観察に夢中になるあまり足を滑らせてしまい、岩肌でザックリと足を切ってしまったらしい。

血は止まっていたが、傷口が悪化するのを防ぐために手当てをしてほしいとの事だった。


この家で、夫達の帰りを待っていた木こりの妻も一緒になり若者の手当てを行った。


もっとも木こりの妻は血や傷口を見るのが苦手なようで、怪我をした若者よりも血の気の引いた顔で手伝っていたと義父ちちは笑って語った。


若者の怪我は、幸いにも血が止まっていれば大したこともなく安静にしていればすぐに良くなるものであった。


ここまでは、どこの田舎にも良くある話であったが、この翌朝に最初の事件は起きた。


若者達が日の出前に目覚めると、木こりの妻が狼狽えた様子で夫の姿が見えないと言っていたそうだ。


初めは、なんらかの用で村に出ていると考えていた3人であったが、いつまで経っても帰ってくる様子がなく、朝日が差す頃に木こりの妻と共にこの家に訪れたとの事だ。


村人総出で村の中や村の周辺を探してみるものの、木こりの夫の姿は無く、外出用の上着なども自室に置かれたままの状態であり、今に至るまで見つかっていない。


これが失踪事件の最初の被害者の話であった。

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