第2話 故郷

ノクトが故郷に着いたのは、三度目の夜が訪れた頃であった。


いつ来ても変わらぬ小川が流れる小さな村。

村民全員を合わせても50にも満たないであろう。


そんな変わらぬ村の村民達の表情は重く暗い物であった。


「よく帰ってきたね、ノクト」

「街での話を聞かせておくれよ!」

「ノクト坊!手土産くらい持ってきたのか?」


見かけ上は、彼を歓迎し明るく振る舞ってくれたものの、その瞳は暗く濁っていた。


ひと月の間に3人もの失踪というのは、寂れた小さな村にとっては、それほどの恐怖と絶望をもたらす物であったからだ。


挨拶もそこそこに彼はすぐにに取り掛かった。

愛すべき村民達を、この苦しみからいち早く解放したい。

愛すべき故郷に暖かな営みを取り戻したい。


まず、彼が向かったのは、生家とも言える村長の家であった。

義父母りょうしんの顔を見たい気持ちもあったが、村の事情を誰よりも把握しているという理由の方が大きかった。


村の小高い丘の上に建つ少し大きな家。


家なき子であった彼を我が子のように育て、生き方を教えてくれた優しき養父母りょうしん


いつまでも変わらぬ暖かな場所。


「ただいま帰りました。」


そう言って扉を開けると迎えたのは、優しい笑顔の義母ははだった。


「よく帰ったね、ノクト。少し大きくなったかい?」


義母かあさん、もう子供じゃないんだ。変わらないよ。」


「私から見たら、お前はいつまでも子供のまま変わらないよ。」


義父とうさんは?」


「奥の部屋にいるから、早く顔を見せてやっておくれ。」


暖かな暖炉のある居間を抜け、奥の部屋に入るとベッドに横になる義父ちちがいた。


義父ちちは、ここ最近で体調がすぐれなくなってベッドに横になっていることが多いと便りが届いていた。


顔色はいいみたいだが、少し痩せてしまっているようだった。


「よく戻ったな。ノクト。」


覇気が衰えているものの、しっかりと芯のある声。幼少の頃より聞いている義父ちちの声。


「体調はどう?義父とうさん」


「もう歳だ。食も細くなり、身体も衰えた。だが、お前の声を聞いていると、よくなった気がするよ。」


厳格な村長として、優しい義父ちちとして愛情を込めて育ててくれたその人の弱々しい姿を見ると胸が苦しくなった。


だが、そんな気持ちを切り替え、村長としての彼に聞いた。


「今回はをしに来たんだ。失踪事件について聞きたい。ひと月の間に何があった?」


当然、ここでのとは、『化者狩ケモノがり』のことではあるが、義父母りょうしんには街の保安隊に所属していると言ってある。


単刀直入にそう聞くと、義父ちちの目は、優しいものから厳格なものへと変わり、少しの沈黙の後、重い口を開いた。


「・・・あの日、この村へ外の人間達が訪れた。」


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