第22話 ゾディアック
「――第一戦速!!」
夜空の中、サーチライトや街明かりで照らされた浮遊大陸へと向かう。
アクエリアスは帝都ラガードへと強行突入する。
金色に輝くロンドンのような街並みが広がる。
全方位からレーザーやビームが飛び交う。
「くそっ、敵の攻撃が激しすぎる!!」
俺は周囲の攻撃に対し反撃や迎撃を試みるも、追いつかない。
『アクエリアス、アゼカルス区を突破』
「……」
皇帝はその様子を重苦しく見ていた。
対照的にラマルは高揚しており、更なる攻撃を命じる。
「手ぬるい、大型カプセルミサイルも砲爆撃も全て使え、これは本土決戦なのだ、撃って撃って撃ちまくれ!!」
『D-38発動』
『第八VLS起動』
『親衛隊第4師団をこちらへ』
「全てのデザインアーミーもオートマトンも特化運用、奴らの頭上を火の海にしろ」
皇帝は恐る恐る口を開く。
「ラマル、住民の避難はどうなっている」
ラマルはその声に口角を上げてから答える。
「ご安心を。住民は自主的に避難しておりますので」
側面にアエロー級が2隻飛んできた。
ビームのエネルギーが砲塔に収束する。
「まずいっ!!」
アエロー級が同じアエロー級に撃たれ爆沈した。
「何っ!? 同士討ちか……!?」
その同士討ちを行ったアエロー級を見ると、他の艦や砲台施設やミサイル発射管にも攻撃していた。
「アエロー級より通信が入ってます」
ラクシェネラの報を受け、艦長は繋げと返す。
メインモニターに通信の相手が投影される。
そこには、空中庭園で助けたカンケルの副長が写っていた。
『こちらギリム。これより貴艦を援護する……野郎ども、第一戦速、砲雷撃戦用意!!』
『ここは任せろ、アクエリアス、先へ進め!!』
ギリムの艦はビームでVLSを破壊し、親衛隊の艦艇にミサイルを放った。
艦長はキャプテンハットを深々とかぶる。
「協力、感謝する」
「何、裏切り者だと? 潰せ」
ラマルは電話を切って攻撃司令を下す。
「カンケルの副官か……愚かなものだ……自ら死路を選ぶとは……」
「敵の攻撃、激しくなっています!!」
ギリムの乗る艦の内部は激しい揺れに襲われていた。
アクエリアス同様、四方八方から攻撃を受けているのだ。
アクエリアスとは違い防御力もそこまで高くないため、あちこちで火災が発生している。
『第7ブロックに火災発生』
『主砲、射撃不能!』
『推進力、30%減!!』
「まだだ、持ちこたえろ、アクエリアスを送り届けるまでな!!」
ギリムは艦内の揺れや計器の破片で体もボロボロになるも、歯を食いしばり、持ちこたえる。
「アクエリアスの道は俺達が作る!!」
アクエリアスは進む。
住宅街の影からハルピュイア級が浮上し、それをパルスカノンで撃ち落とした。
奥からも無数のアエロー級が現れるも、徹甲弾で撃破していく。
「次から次へ……キリがないぞ……」
マルコは必死に操舵を行う。
「右舷よりミサイル20、急速接近!!」
「対空迎撃!!」
無数のミサイルを近接レーザー機銃で撃ち落とした。
「大陸中心部はもうすぐだ……」
マルコは告げた。
しかし、目の前を親衛隊の艦隊が自滅覚悟で道を塞ぐ。
俺はその事に驚いた。
「こいつら……命を失う事も恐れてないっていうのか!?」
ハルピュイア級の突撃程度ではアクエリアスの装甲に傷はつかない。
それでも、数が多すぎる。
皆、アクエリアスに激突した後は自身で機関を暴走させて自爆している。
「これが本土決戦だ。皆、明日を生きるために必死なんだ」
艦長は静かに戦争の事実だけを述べる。
『最終防衛線に親衛隊の自爆部隊を配置しました』
「よい。背後からミサイル攻撃、及び機動艦隊による追撃だ」
ラマルはその様子を冷静に見守っていた。
目の前が敵艦隊で覆われ、マルコは思わず舵を横に切る。
「このままでは先へは……うわあああああっ」
艦尾にミサイルが直撃し、背後からやってきたハルピュイア級数隻が一斉に攻撃する。
そこへ、別の反応が接近していることをラクシェネラは知らせる。
「高速でこちらに向かってくる反応あり!!」
それはアエロー級だった。
「通信入ってます!!」
繋ぐと、満身創痍のギリムが写っていた。
『アクエリアス!! お前らの行く先は俺達が切り開く!! だから、明日を掴め!!』
ボロボロになったアエロー級が最大戦速で目の前の親衛隊艦に突っ込む。
『機関、オーバーロード!!』
アエロー級は親衛隊諸共大爆発によって消し飛んだ。
「あいつ……」
俺は「すまない」と心のなかで謝り、前に進むことを決意する。
市街地の中に目立つ4つの塔が見えた。
それは突如輝き出し、エネルギーのようなものを放射し始める。
「いかん、磁力光線だ!!」
艦長はその形状から性質を看破した。
アクエリアスはピアノ線で引っ張られるかのようにその塔目掛けて飛んでいく。
「吸い寄せられる……!!」
マルコは思うように操舵ができずに敵の術中に嵌められたことに対して震える。
「回頭180度、推力全開!!」
艦長は磁力による衝撃を緩和させる事を命じた。
アクエリアスは船体を真逆にし、噴射を行うことで減速させる。
そのまま鉄塔の間に収まり、アクエリアスは不時着した。
ラマル達はアクエリアスが鉄塔の間に吸い寄せられた様子を見ていた。
「アクエリアス、磁力塔の間に固定しました!!」
「攻撃のチャンスですが、如何致しましょう」
問われたラマルは悩んでから答えた。
「ふむ、攻撃はしなくてもよい。王女の奪還が優先だ。デザインアーミー兵によるコマンドを向かわせろ」
「は!!」
「ではこれから草薙、シオン、マルコの3名に帝都突入作戦を命じる」
艦長の決断にヒラガが聞いた。
「3人だけでよいのか?」
それに対し艦長は冷静に答えた。
「不用意に数を増やしてもデタラメに混乱を引き起こすだけだ、我々の目的は戦争ではない、和平交渉だ」
「アン!!」
艦橋に包帯を巻きながらふらついた足取りでアンが入ってきた。
「……アンタに渡すものがある」
アンは、胸元からハンドバズーカとその弾丸を取り出し、手渡した。
「装填は中折式、3発しかないから使い所は考えて……」
俺はその武器を受け取って感謝した。
「それから、マルコにも……。ゴーニィさんの部屋にあった予備のライフル。いつか来るべき時が来たら渡せって遺してたのよ」
次にアンはマルコにライフルを渡した。
「航海長……」
「皆、死なないで」
最後に、それだけ言うと、彼女は医務室へと向かった。
「――ああ」
マルコは涙を拭い、その武器を構える。
「……行ってくる」
『3名が市街地に突入しました』
市街地に張り巡らされたドローンや監視カメラが走っていく3人の姿を捉える。
映像は、建物の中からコマンド兵が飛び出すも、即座にライフルや拳銃で撃退しているものだった。
「ほう、こちらに向かってきているわけか。ではアクエリアスには爆撃とオートマトンを差し向けておけ」
それに対して部下は気になることを聞く。
「しかし、こちらの防衛は……」
ラマルは笑いながら答えた。
「このルーオプデン宮殿は周囲の可視光線を操作することで姿を消すことすらできる。ここに来ることはないさ」
皇帝は全てが狂っていくその様子を、ただ眺めることしかできなかった。
俺達はコマンド兵からの襲撃を避けつつ何かの研究所に潜り込んだ。
そこはカプセルの中に羊が浮いていたり、遺伝子や脳みその模型が並んでいたりと、ただひたすら不気味な光景だった。
俺はそこにいる博士に声をかけた。
目の前の様子を見ると、どうやら植物の研究をしているみたいだ。
「植物ってのは光合成をするじゃないですか。私は考えたわけです。それなら逆にすれば植物から光を抽出できるんじゃないかと」
そんな馬鹿な話があるかと俺は思った。
それよりも公邸の場所を聞いた。
その答えは会話になっていなかった。
「裸の羊を人工的に作り出すことには成功したんですよ」
他の研究についても、排泄物を食料に戻す研究、対立する人々の脳を半分ずつ組み合わせて和解させる試みなど、常軌を逸したものだった。
「そんなことより、私達はここの公邸を探しているんです!!」
シオンはその無駄で意味のない話に対し、焦りと怒りを露わにしながら聞く。
俺達はそれを宥めた。
「えっと……確か宮殿か……宮殿……どっちだっけな……」
しかし、その学者の答えは要領を得ないものだった。
他の学者もその質問には答えられない。
「東だよ東……東ってどっちだっけ、ナイフを持つほうが西だから……」
マルコはその凄惨な様子に呆れ果てた。
「くそ、どいつもこいつも……研究ばっかりで日常生活すらままならないレベルとは、ろくでもねえ町だ……」
俺は「これが科学技術を進化させた都市の末路か」と思った。
恐らくここの人々は研究職といった重要なポジションで、何不自由ない生活を与えられ、余計な政治思想や反抗意志を持たないよう、不必要な知恵を消されたのだろう。
「お付きの人がいないとわからないのでな……お付きの人は今戦争に出ちまってて……すまんねぇ」
お付きの人というのも恐らく親衛隊の政治将校といったポジションのはずだ。
この国には快適はあっても自由などなく、人々の尊厳も踏み躙られており、是正しなければならないと思った。
何も情報を得られないまま俺達は研究所を後にした。
俺達は住宅街の中で迷っていた。
延々と同じような光景が続く。
しかし、俺は細部の傷や建物の看板を記憶していた。
「ここはさっきも通ったぞ!!」
マルコは並外れた土地勘で状況を理解した。
「きっとこの町は動いている、区画がランダムに変化しているんだ!」
俺は合理的な視点からそれを更に補強する。
乱数による撹乱はこの場合だと不適切だ。
何故ならば、高い確率で正しいルートに導かれてしまうのである。
「ランダムではないだろう、機械が自動的に行かせないようにしてるはずだ」
そしてシオンは議論をまとめた。
「それって私達を行かせない方向に中枢があるって事?」
しかし、その仕組みがわかったとしても自分の現在位置がどこにいるかわからなければどうしようもない。
何か目印になる物が必要……。
「曳光弾だ!!」
俺は閃いた。
「曳光弾を撃てば俺達がどう動いているかわかる!!」
すぐに曳光弾を装填し、真上に向かって撃った。
眩い光が空中を漂う。
その光はすぐに移動している。
区画を移動させる機械が今も動いている証拠だ。
「機械仕掛けは……物理的な力に弱いもんだ!!」
アンから貰ったハンドバズーカで地面のシステムを撃ち抜く。
すると、曳光弾の位置……否、自分たちの位置が変わらなくなった。
そして、マルコが導き出した道を進むと、周りの景色に隠されていた巨大な建物が見えてきた。
「光学迷彩だったのか……」
ここまでして隠すものは公邸以外にはないだろうと思い、俺は突入を決心した。
「こうなったら和平条約を締結しよう。我々は分かり合える……対話による世界を!!」
皇帝は堰を切ったようにラマルに言った。
「これ以上戦う必要はない、確かにゾディアックこそ残ってはいるが、クリスタルはもうない」
しかし、皇帝の言葉は途中で遮られた。
それは一つの銃声。
ラマルの持つ拳銃から出ているものだった。
皇帝の腹から血が溢れる。
しかし、親衛隊は誰も気にはしていなかった。
「君には役を降りてもらおう」
ラマルは見下したような口調で冷酷に告げた。
「クリスタルはないと言ったな。それは大きな過ちだよ、皇帝陛下」
「な……何を……」
皇帝はその様子に困惑している。
「あるではないか、この浮遊大陸群を支えている、根源のクリスタルが……」
ラマルは下を指さした。
「馬鹿な……そんな事をすればこの帝都ラガードは……」
ラマルの発言に皇帝は震える。
しかし、そんな彼を気にせずラマルは続けた。
「あのゾディアックこそが新生ラガードなのだよ。それに人など……いくらでもいるではないか……」
「ゾディアック……だと!?」
それは遥か昔、おとぎ話の存在だった。
否、実在はする。しかし、それは世界の滅亡を意味していた。
「世界を滅ぼす気か!?」
一拍置いてラマルは答える。
「滅ぼす、ですか? とんでもない、再び我々の物へと取り戻すだけですよ、君のアホ面にも心底うんざりだ」
ラマルは親衛隊達にアイコンタクトを取り、ニヤリと笑った。
「ルーオプデン帝国新皇帝……いや、唯一神ラマル・シコルスキーの決定だ」
その様子に対し、皇帝はただ恐怖に震えていた。
ラマルはただ1つの判決を下す。
「皇帝陛下、役立たずと言ったことを撤回しよう」
「そう、君は役立たず以下なのだから」
それは死刑宣告。
皇帝の下の地面に穴が開き、そのまま彼は建物の外に投げ出された。
「いずれにせよラガードの人々なぞ死ぬがね。この大陸のクリスタルを起動したのは陛下だ。陛下が死んだ時点でクリスタルは効力を失う。そんな事も忘れたのか、この耄碌ジジィが」
ラマルは最後にそれだけ吐き捨てると、親衛隊と共にエレベーターで中央リアクターへと向かった。
「誰か落ちてくるぞ!!」
マルコの声に驚き、上を向く。
綺羅びやかな装束の老年男性が降ってきたのだ。
俺は落下地点をすぐに見極め、その場を移動し両手を構える。
皇帝の落下の勢いと体重で腰や腕を痛めるも、なんとかキャッチできた。
「君達が……アクエリアスの乗組員か……そこにいるのはシオンだな……」
その言葉にマルコは思わず武器を構える。
しかし、俺は手で制止した。
「ヒトレス皇帝陛下……ですね……?」
シオンは見覚えのある風貌に声を紡ぐ。
次に彼から出た言葉は謝罪だった。
「すまなかった」
俺は皇帝を傍の瓦礫の上に座らせた。
彼の腹からは鮮血が今も流れる。
シオンは応急箱から止血道具を出すも、彼はそれを拒んだ。
それから彼は話し始める。
「私の愛妻ハトナは隣国との戦争で、私を守るためにラマルを喚び出し、それで亡くなった」
「その後、戦争に勝利したが私の心には空洞が空いた。それをラマルに付け込まれた……」
ラマルはそうして今は力に溺れ暴走しているのだと。
俺は聞いた。
「でも、クリスタルで蘇らせることはできただろ……。ハトナにクリスタルは使わなかったのか?」
フック艦長はかつてロシェアを蘇らせようとして失敗したのだった。
しかしそうであれば、ホルスーシャ王族の血を引く彼であればクリスタルを使って蘇生させることなど造作もないのではと考える。
彼の答えは違った。
「クリスタルは既に死んだ人を蘇らせる事はできない。それをすればクリスタルは砕けるだけだ」
ひよこ色のクリスタルが砕けたのはその膨大な願いと力によるものだという。
どんな科学力を以てしても死を乗り越えることはできなかった。
「だが、死にかけた人を救うことならできる。それはたとえホルスーシャ人でなくても、強い絆さえあれば起動できる。クリスタルの力というのは、何万年と紡がれてきた人類の絆の結晶だからだ」
俺は、クリスタルは元々人々の罪の証だと思っていた。
しかし、そうであればクリスタルを生む必要もなく、異世界と繋がる人々を根絶やしにすればいいだけだ。
そこには絆を大切にする人々の思いが込められていたのだ。
それは何万年前から変わらない、心の形だ。
シオンは皇帝にクリスタルを使おうとするも、それすらも拒んだ。
「それは大切に取っておけ。なに、私のことは構わないでくれ……」
それから彼は続ける。
「ラマルは大陸中心に向かっている、ゾディアックを動かすため、大陸のクリスタルを抜き取りに行った……。ここはもうじき崩れる。君達は逃げなさい……」
そして、シオンの方を向き、彼は父親のような優しい表情で言った。
「シオン。死はかならずある。だからこそ、全てが終わった時、この世界を自由に見て回れ。義父としてできるのはこれくらいだ……」
その様子に、俺は手を差し伸ばす。
「ヒトレス皇帝も一緒に……」
彼は威厳ある仕草で手を払った。
「私は君達とは一緒に歩めぬ。一度は汚したこの手、もはや取り合う資格などないさ……。我が身がこの首都と共に滅びることがせめてもの贖罪なのだ」
シオンは、諦められず彼を救おうとする。
「でも、でも!!」
マルコはシオンに言った。
「彼が自ら望んでる事なんだ、俺達が干渉していい理由にはならない!」
俺は決断する。
「アクエリアスに戻ろう!」
俺達は涙を拭い、敬礼して去っていった。
大陸の中枢。
巨大な空間の中に、柱のようなモノリスがあった。
ゾディアック級とは違うものの、この大陸もかつてホルスーシャ文明で作られた移動式の要塞だ。
それ故にクリスタルとモノリスによる制御が成されていた。
ラマルは親衛隊の一人にクリスタルの回収を命じる。
その親衛隊員は、彼が意識を奪い手足のように操れるホルスーシャ王族の子供だ。
親衛隊は無言のままクリスタルを抜き取り、ラマルの元へと戻る。
彼らはクリスタルを失ったモノリスを一瞥して次に向かった。
エレベーターは更に地下深くへと向かう。
暗い空間へと突入した。
ラマル達はエレベーターを降り、次は移動式の浮遊リフトへと乗り換えた。
そこは格納庫だった。
アクエリアスの数倍はある巨大な飛空艇。
それは1つの要塞と言えるほどの大きさだった。
形状は全翼機、胴体らしきものが見えず、毒蛾と呼ぶに相応しい鋼鉄の塊だ。
「残された資料から復元を試みたが、これではカタログスペックの6%にも満たないではないか。まあよい……」
ラマルは上部からリフトでゾディアックに乗り込む。
そして、謎の文字が刻まれたブロックが絶え間なく移動する区画、その中核にある巨大なモノリスにクリスタルを嵌め込んだ。
すると、周囲の文字が虹色に輝く。
「発進、格納庫の扉を開けろ!!」
町の一角に巨大な穴が空き始める。
地下でゾディアックを建造していた研究都市区画だ。
瓦礫が空に向かって落下し、地響きが轟く。
中からは巨大な毒蛾が現れた。
その大きさは帝国の町1区画をすっぽりと覆うくらい。アクエリアスと比較すると実物とミニチュアくらいの圧倒的な差だ。
「メインエンジン点火!」
ゾディアックのエンジンが点火し、推進炎が青く輝く。
「フライホイール接続」
「重力制御コンバータ稼働」
「対消滅エンジン全て正常」
「高度を上げていきます」
重力制御が行われ、超重量のボディは徐々に高度を上げ、町の中からその姿を表した。
完全に宙に浮くとランディングポッドが機体内部に格納される。
クリスタルの制御を失った大陸は徐々に崩れ始める。
そして、大陸が真っ二つに裂けた。
ゾディアックの艦底が開き、そこからパラボラアンテナのような形状のものが出現した。
そのアンテナからはトラクタービームが照射される。
狙いはシオンだった。
シオンはその場を離れ、ゾディアックの方へと吸い寄せられていく。
「シオーーーン!!」
「翼君!!」
「王女さえ確保できれば後は用済みだ。始末しろ」
「了解、カノン砲、照準合わせ」
二連装パルスカノン砲が草薙達に照準を合わせる。
「シオーーーン!!」
ゾディアックからパルスカノンが発射され、宮殿を貫通した。
俺達目掛けて崩れてくる。
マルコは近くに置いてあった白いロボットホースに跨り、俺の首根っこを掴んで無理やり後ろに乗せた。
「彼女は後だ、今は生き延びてアクエリアスに戻ることを優先しろ!」
「――命あっての物種ってやつだ」
「シオン、必ず助けに行くからな!!」
俺はそう叫びながら、マルコに掴まった。
全速力でその場を離れる。
宮殿は跡形もなく破壊され、火の海と化した。
マルコは黄金でできたハイウェイへ飛び乗った。
後ろからは絶え間なく続くゾディアック級の艦砲射撃、そして黒いロボットホースに跨る親衛隊員がやってきた。
親衛隊員たちはこちら目掛けて発砲する。
マルコはロボットホースを操作しながらライフルを片手で構えた。
「伏せろ!!」
薙ぎ払うように乱射した。
それによって、後ろから追ってきた親衛隊が落馬する。
マルコはその様子を見て、ライフルをしまって前に向き直る。
「速度を上げるぞ!」
崩れていくハイウェイを、跳躍して駆け抜けていく。
やがて、アクエリアスが見えてきた。
アクエリアス周囲には、コンピュータウイルスで停止させられたオートマトンの山が築き上げられていた。
前に侵入したオートマトンを解析して開発されたウィルスだ。
「戻ったぞ!!」
俺達は急いでハッチを開けさせ、ロボットホースを足場に、跳躍した。
「掴まれ!」
ジャックとフマン博士が格納庫から手を伸ばす。
俺とマルコはなんとか掴まり、艦内へと入った。
「シオンは!?」
アンはその様子を見て心配そうにする。
「敵に捕まった、あのデカブツの中だ……。俺がいながら、すまないと思ってる」
俺は彼女に叱られることを覚悟した。
しかし、俺の予想とは裏腹にアンは俺の手を握った。
「……それじゃあ早く助けましょう。どちらにせよ、あんなものを放置してはおけないわ!!」
ステンドグラスにパイプオルガン、規則正しく並んだ長椅子。
それは教会の礼拝堂のような内装だ。
地面から突き出した金色の機銃型照準器に体重をかけ、照準を合わせる。
「アクエリアスの諸君、別れの刻が来たようだ」
「見せてあげよう。ゾディアックは全ての兵器を上回る。まさに最強の存在だと」
正面のモニターには帝都に横たわるアクエリアスが拡大投影されている。
「超電導冷却モーター起動」
「超高熱炉、温度上昇」
「圧力限界120%」
「砲身内部に磁界形成」
「電磁誘導力場発生、高電圧回路開きます」
「準備完了、行けます」
ラマルはただ一言。
「ホルスーシャ砲、発射!!」
そのトリガーを引いた。
「高エネルギー体接近!!」
「緊急浮上!!」
明らかに尋常じゃない光が接近する。
それは、ラガードの街を削りながら直進してきた。
「サイドスラスター噴射、ジャンプで回避しろ!!」
艦長の命令でマルコは急いで操舵する。
轟音と灼熱。
熱線が木々を焼き払い、烈風が地を蹂躙した。
衝撃波で土が舞い上がり、方向感覚を失うほどの濃い闇に包まれた。
やがて強烈な爆風で真空となった爆心地に風が吸い寄せられ、その舞い上がった土埃が晴れる。
後に残った光景を見た乗組員達の反応は衝撃だった。
「な……!?」
太陽が一万個集まったかのような光り輝く柱が目の前に聳え立っていた。
「山が消えた……!?」
アクエリアスが先程まであった場所は跡形もなく消え去り、遥か遠くにある山だった場所は、巨大な穴と化しており、岩石の一部は融解しキラキラと輝いていた。
「主翼大破!! 左舷対空機関砲及びスラスター損傷」
「直撃していたら間違いなく消し炭だったな……」
マルコが「操舵が間に合った」と安堵する。
「間一髪……ですね……」
ラクシェネラが汗を拭う。
「世界が燃えちまうわけだ」
「本来の性能ならば世界を3回は滅ぼしているんだ……」
ゾディアックのオペレーターはその威力に戦慄していた。
ラマルはニヤリと不気味な笑みを浮かべながら椅子に腰掛ける。
「超磁力兵器ホルスーシャ砲。またの名を神々より人類に齎された原初の火、プロメテウス……。私のかつていた世界なら創世記のソドムとゴモラを滅ぼした炎、北欧に伝わる雷神の槌や日本神話における神殺しの子にもなりうるだろうな」
「――ルーオプデンの意味は太陽の鏡……つまり世界を照らす星なのだ。そして、その王である私はまさに唯一神だ」
「神は言った。光あれと。これは、希望の光なのだ」
ラマルはその神々しく美しい光を見ながら聖書を開いて言った。
「悪魔が……これは絶望の光だ」
艦長はその禍々しく醜悪な光を見て言った。
地上の人は見上げる。
ゾディアックに立ち向かう、アクエリアスの勇姿を。
――今こそ世界を滅ぼす毒蛾を撃ち堕とす時だ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
HBS-0 ゾディアック
開発:ホルシアン・インダストリー
装甲:スーパーセラミック/超ジュラルミン
全長:2500メルテ
全幅:7280メルテ
全高:860メルテ
最大速力:96ロノート
兵装
超磁力砲プロメテウス<ホルスーシャ砲>
52セロメルテ二連装パルスカノン砲
20モアメルテ近接防空レーザー機関砲
ロケット砲発射管エリ・エリ・レマ・サバクタニ
ディエス・イレ航空爆雷
重力子ビーム砲ノリ・メ・タンゲレ
Gバリアシステム
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