第20話 虹色の海で
永遠に続くかのように広がる海。
振り向いても陸地は見えない。
ここまでよく来たな、と俺は今までの旅を振り返っていた。
――決戦が近い。
「この海域はバルクーガー海域と言って豊富な栄養によって様々な海洋生物が集うらしいぞ」
海面は様々な発光バクテリアにより、赤、緑、青、黄色、様々な色が混じり合い、綺麗な虹色を表現している。
夜なのにきらめいて見えてとても幻想的な景色だ。
「なんでも複数の海流の合流ポイントだとか」
ヒラガはそんな幻想的な見た目に惑わされず、実体を把握し判断を下す。
「海流の温度差で上空には乱気流が常に発生している。ここを通るのはまさに自殺しに行くようなものだ」
「うむ、迂回するしかないな」
艦長は転舵を指示しようとした。
次の瞬間、強い揺れが船内を襲う。
「艦底に正体不明の攻撃です!!」
下を見ると、そこには赤く点滅する何かがある。
「直下に金属反応!!」
そう、機雷が漂っていた。
「馬鹿な……機雷だと!?」
艦長は当たるはずのない機雷が命中していたことに驚いていた。
しかし、そうして見ているとこちらに向かって飛んでくる機雷が幾つかあった。
磁力機雷。
潮の流れに乗って動き、遠隔操作で起動すると磁力を纏って爆発するという、帝国の新兵器だ。
「潮の流れを読んだというのか……」
ヒラガは敵のデータ解析能力に驚く。
しかし、マルコは見方を立てる。
「いや……違うな……。この潮の流れは明らかに不自然だ!! おそらく奴らが操作している!!」
それは、敵の罠にハマっている事を意味していた。
艦長はすぐに命令を下す。
「最大戦速、この海域を離脱する……!!」
「前方に巨大な積乱雲です!!」
マルコの声に前を見ると、雲が立ちはだかっていた。
それは遠くにありながら、あまりの大きさに1つの壁に見える。
「アレは……ワイバーンの渦だ!!」
艦長は重苦しく呟く。
ワイバーンの渦。この世界で商船殺しの伝承がある悪名高き積乱雲。
後ろから機雷群が、ピアノ線で引っ張られているかのごとく迫る。
「まんまと誘われているな……」
俺はその状況を見て、状況が圧倒的に不利なことを悟った。
「仕方ない、積乱雲に突入するぞ! 総員、衝撃に備えろ!」
艦長は突入を決断した。
ブルーネ将軍は偵察艇を介して情報を見ていた。
「よし、誘導にかかったようだ」
彼女は不敵な笑みを浮かべ、腕を組む。
「本作戦はフェーズ2へと移行する。カプリコルンの輝きよ……」
カプリコルンが3つの子機衛星を飛ばす。
それは周囲を回転し、複雑な模様を空中に描く。
「スターゲイザー、捜索網を展開しろ!!」
「フフフ、アクエリアス、この虎の目から逃げられると思うな」
積乱雲の中は常に突風が吹き荒れ、あちこちに稲妻が奔る。
アクエリアスの表面にも静電気が生じ、内部の照明が時折点滅する。
不安定な気流で船体は大きくあおられ、操作を完全に奪われる。
エンジンは信じられないほどの速度で回っており、中から火花が散る。
ロギータさんが大きく吹き飛ばされたほどだ。
「エンジンが爆発しそうだよおおおおっ!!」
ロギータさんが珍しく泣き言を言っている。
ヒラガが通信越しに叫ぶ。
「泣き言を言ってる場合か!! 今はこの船の全てがかかってるんだぞ!!」
マルコは必死に慌てながら操舵するも、完全にアクエリアスは風に流されている。
「舵が言うことを聞かねえ!! 機関室、これで出力あげてるのか!?」
タカザキは巨大なレンチで暴走する歯車を抑えながら言った。
「主機出力最大ですよ、これでも!!」
レオの艦長、カルノはブルーネの命令を待っていた。
アクエリアスは積乱雲の中で視認できず、レーダーも効果がない現状では彼女の言葉を待つ他なかった。
しばらくすると、ようやく彼女から連絡が来た。
『目標はポイントBを通過中だ。そちらに座標データを送信する』
ブルーネから送られてきた映像では、雷雲の中を移動するアクエリアスがはっきりと見えていた。
「では、超高熱気化物体空間投射砲、発射スタンバイ」
レオに備わった巨大なメダルのような物体が赤く発光する。
前方に円柱のフィールドが形成され、その距離が長くなっていく。
「空間投射ルート、固定。目標、アクエリアス」
「変圧器正常、冷却器稼働」
「超高熱気化物体空間投射砲、いつでも行けます」
『焼き払え……』
ブルーネは、カルノに対し落ち着いた声で命じた。
「了解であります」
レオから放たれた高温のエネルギーが乱気流を物ともせずまっすぐ飛んでいく。
それは、嵐の中を飛ばされているアクエリアスの右側に命中した。
バリアによって直撃を避けたがそれでもそのエネルギーが衝撃波を齎した。
乱気流の揺れの中でも気づくほどの大きなものだ。
「うわあああああああああっ」
「なんだなんだ、何が起こっている」
右側を見ると、特殊効果のような激しい点滅が生じていた。
「右舷に強力な高熱体の投射攻撃です!!」
ラクシェネラの報告を聞き敵を探そうとする。
しかし、嵐が壁のような雲を形成しているので敵が見えない。
「電磁波の影響でレーダーが使えませんが、恐らくこの嵐の外からの狙撃です!!」
「この乱気流の中でこんなに正確な攻撃、どうやって……気流を読んだというのか!?」
マルコの問いにヒラガが答える。
「違うな、記録を見るにヤツの砲弾は直進してきた。おそらく空間に対して投射しているんだ!! だからこの乱気流の中でも僅かなブレもない……」
続けてヒラガは別のポイントに焦点を向ける。
「それよりもどうしてこの位置を的確に攻撃できた……敵艦の武装は一体……!? ゾディアック級2隻、というのも線としてはありえるかもしれん」
ラクシェネラは敵の攻撃を防ぐ方法に頭を抱える。
「空間に対して投射……G-バリアで弾道を逸らすのが関の山ね……。そしてそのバリアはもう少しで限界、次に撃たれたらアクエリアスは丸裸ね……」
艦長の決断は1つだった。
「一刻も早くこの嵐を抜けねばならんな」
「次弾装填、300秒後には撃てるであります」
レオは主砲の冷却を行う。
砲身から蒸気が噴き出す。
しかし、艦首は常にアクエリアスの方を向いていた。
『任せたぞ、カルノ』
「は、ブルーネ殿下の心のままに」
風巻と霹靂の中、アクエリアスは流されるがままに舞っていた。
「積乱雲はまだ抜けられねえのかよ!!」
マルコは思わず周りに当たり散らした。
しかし、その直後自身の愚かさに静まる。
「こうも敵の術中だと心も荒んでいきますな……」
ヒラガは相変わらず表情1つ変えていない。
だが、頬を伝う汗がその心を表していた。
「2時方向より高エネルギー反応、直撃コースです!!」
ラクシェネラの報告を聞いている間に、再び強い衝撃を受けた。
右側を見ると、先程と同じような激しい閃光と、バリアの破片が散らばっていた。
「バリア、使用不能!!」
「ヒラガ、俺の方に空間歪曲反応のデータを送れ!」
俺の命令にヒラガは思わず尻込みする。
「やるつもりか!?」
「撃たれてばかりでたまるかよ!!」
俺は感情のままに言った。
「全砲門、開け、砲雷撃戦、用意。撃ち方はじめ!!」
全砲塔を右側に向け、嵐の中、パルスカノンを放った。
しかし、そのエネルギーは雲の中へとフェードアウトした。
見えなくなったのではない、霧散したのだ。
「パルスカノン、距離200で消滅!!」
ヒラガはその様子を冷静に見た。
「乱気流の影響もあるが、おそらく硬雲というやつだ」
「硬雲?」
聞き慣れない単語だった。
「ダイラタンシー流体というものを知っているか? 強い衝撃を受けた時に固体的な特性を持つ液体の事を言うのだが、おそらくこの空域の雲はそういった特性の特殊な雲が紛れている」
つまるところ、今は何もできないというわけだ。
しかし、そんな絶望ももうすぐ終わる。
マルコが希望のきざしを告げてくれた。
「積乱雲、もうすぐで抜けます!! 10カウント!!」
もうじきこの揺れともおさらばだ。
この時の俺達は知らなかった……。
更なる絶望が待っていることを……。
ブルーネは、艦橋の広いモニターに明瞭に映るアクエリアスを見て言う。
「レオ、奴は積乱雲を抜ける。空間歪曲モードを解除しろ、速射で奴の装甲を削るのだ」
『は、了解であります』
レオのメダルの部分が変形し、ガドリングガンのような物が突き出した。
「アヴァロン、爆撃隊を高度7000のルートBに出せ。奴はもうじき乱流の中から姿を出す。その時に落とせ」
『しかしそれではレオとカプリコルンがオシャカになっちゃいませんかねぇ』
イデミリスは相変わらず軽薄に聞く。
「そのための爆撃隊だ。これで攻撃する前にレーダーと主砲を潰す! 飛車角を取らせる覚悟で玉を取る。これが戦い方というものだ」
ブルーネはそう言うって鼻で笑い、こう続けた。
「あの船はこうでもしなければ
アヴァロンのアングルドデッキに何かがせり上がる。
逆ガル翼が特徴的な寸胴の形状、緑のカラーリングを施され、各部に赤色のランプが取り付けられたその機体は、リフトで上昇を終えるとカタパルトの位置に着く。
「SBt-87 テティス。発艦する」
「
機体の後ろにはジェット・ブラスト・ディフレクターを展開する。
パイロットが手の甲でピースサインを出すと、マーシャラーが発進の合図を出す。
すると、一気にエンジンを全開にして、ランディングギアから火花を散らしながら、空母を飛び立った。
他の機体も、流れるように次々と飛び立つ。
群れ成す鳥のように、編隊となる様はまさに芸術的だった。
次第に高度を上げ、遥か上空で待機した。
「頼むぜぃ、奴らの脳天に600ポンゴをぶちかましてやれぇ!!」
その様子をイデミリスは見ていた。
「右舷に艦2捕捉」
雲に隠れていた2隻の艦を視認する。
それと同時にシオンも反応を認知した。
「クリスタルに反応あり……。レオとカプリコルンです!!」
ヒラガは予想通りといった様子で睨んでいた。
「やはり2隻か。2隻ともゾディアック級とは、敵さんも本気だな」
俺は予め用意していた照準の誤差を修正する。
「パルスカノン発射準備よし」
その時は気づかなかった。後方の上空から、別の敵が迫ってきていることを。
『敵はこちらに釘付けであります!』
カルノの報告を聞き、ブルーネは命令を下した。
「爆撃を開始しろ!!」
「左舷上空に機影多数、高速で接近してきます!!」
ラクシェネラが急速に接近する反応をレーダーで捉える。
「何!?」
艦長は思わず驚く。
上空からテティスが急降下を開始する。
爆撃艇の赤いランプが点滅し、耳障りなサイレンを奏で、最高速度に乗った所で爆弾を切り離す。
爆弾の切り離しを行うと機首を上げて急上昇し、元の高度へと戻る。
「急降下爆撃、来ます!!」
「対空戦闘用意!!」
何機かは対空レーザー機銃で迎撃するも、爆弾はそのまま落下してきた。
「総員、衝撃に備えろ!!」
ブリッジクルーは目の前の操作盤にしがみつく。
はじめに艦橋の上に備わったレーダーが破壊される。
「レーダー大破!!」
続く爆撃が甲板や主砲、VLSを破壊していく。
激しい火花と白煙が絶え間なく発生し甲板に炎が上がる。
「第一砲塔、第三砲塔大破、射撃不能です!!」
「VLS大破、火器弾薬庫に誘爆!!」
「続いて第四、第二砲塔も炎上しています!!」
上部の通路を走っていた乗組員が爆発に巻き込まれる。
開いた穴からは工作班の人が勢いよく投げ出され、手足をばたつかせながら落下していく。
アクエリアスの上は文字通り火の海になっていた。
「これで目と武器を潰した」
ブルーネはその様子を見て戦いが順調に進んでいる事を認識した。
「草薙、こちらもゼロとナイトバードを出して迎撃だ!!」
艦長は航空戦力には航空戦力を、と命令を出す。
俺は言われなくてもそうするつもりだった。
伝声管を使い、格納庫の航空隊に告げた。
「了解、本艦は敵の爆撃を受けている、直ちに航空隊はこれを迎撃せよ!! 繰り返す……」
すぐにナイトバード、ゼロ・ホースが出撃した。
「……アン、頼んだぞ」
出撃した航空隊がテティスの編隊と空戦を始める。
航空隊は次々と左舷後方の上空へ向かっていく。
『連中は急降下爆撃隊とこちらに気を取られている、雷撃隊を出せ。手薄なアクエリアスの左前方から行け。今なら雲で上空からは見えまい』
「了解。雷撃艇、発艦せよ」
イルカのような形状のテティスよりもやや大きい機体が、リフトでせり上がり姿を表す。
複座型で後退翼、翼下には大量の魚雷が装填されている。
機体名称はSBG。ラマルがつけた名前はヴァリアントだ。
勇気、恐れ知らずを意味する名前だという。
モニタを見るとアクエリアスが雲海に着水している。
「これで魚雷の餌食だぜぃ……。さらばじゃああああ!!」
低い高度を飛んでいくヴァリアントがアクエリアスへ近づく。
「10時方向より敵機接近!! なんてこと!?」
ラクシェネラはその数に驚く。
30機を超える大編隊が飛んできているのだ。
「航空隊へ、航空隊へ!! 現在左舷前方より雷撃艇と思わしき機体が接近中、至急これの迎撃にあたれ。繰り返す……」
俺はすぐに連絡を入れたが、航空隊はテティスとドッグファイトの真っ最中だ。
雷撃艇から大型の魚雷が切り離される。
それは雲海の中に着水し、スクリューによって勢いよく推進した。
レーザー機銃で撃ち落とそうとするも数が多すぎるため、数発が直撃する。
爆炎が艦内にいた人を巻き込み、雲の水柱を立たせる。
「ダメージコントロール!!」
隔壁が閉鎖する。
逃げ遅れた人が空中へと投げ出された。
「弾幕、張り続けろ!!」
レーザー機銃を絶え間なく撃つ。
航空隊がようやく雷撃艇の迎撃に向かうも、再び急降下爆撃が敢行された。
そして、完全に意識の範囲外となっていた右舷からは先程とは比べ物にならない連射速度での砲撃が襲う。
魚雷攻撃、急降下爆撃、そしてレオの砲撃により、アクエリアスは手も足も出なかった。
『ハハハ、これは演習の的ですな』
イデミリスは相変わらず品のない大声で笑う。
「その割には命中率が低いぞ」
ブルーネはそれにほほえみつつ、ノッて返した。
『は、申し訳ありません!』
ブリッジクルーは絶望していた。
この窮地を脱する方法はもはや残っていない。
圧倒的な火力にさらされ、武装はほとんど全滅。
レーダーもバリアも使えない今、どうすることもできない。
「くそ……何か……何かないのか……。こんなんじゃ嬲り殺しじゃねえか……」
俺は情けなく嘆くことしかできなかった。
『こちらニコラス。敵空母発見!!』
その位置は左舷前方、丁度雲の影だった。
「でかした!」
俺は彼が空母を撃破しにいくのを見る。
直後、ニコラスは雲の中から機銃掃射を受け、空中で炎を上げながら落下し、爆散した。
流動する雲の中からその艦は姿を表した。
細長く二又に分かれた先端を備えた小型艦。
小型故に速力があり、アクエリアス以上の速度で旋回している。
それに対し、艦長はキャプテンハットを深く被って俯き、静かに言った。
「ここに来て護衛艦のお出ましとはな……」
シオンはクリスタルを見てそれがゾディアック級であることを告げる。
「艦種識別、ジェミニです!!」
「ジェミニ、こちらへ向かってきます。いかが致しましょう」
ラクシェネラが聞くと、艦長は答える。
「前方の雲の谷に逃げ込め、このままでは爆撃の的だ」
「第二戦速、面舵15。ヨーソロー!!」
アクエリアスは右へと曲がり、そのまま突き進む。
ジェミニはその後を追う。
「アクエリアス、逃さないでござるよ!」
「うむ!!」
二人の道化師は、艦橋でアクロバットしながら嗤っていた。
アクエリアスは雲の隙間を飛ぶ。
左右には高速で流れる雲。
後ろからはジェミニ、そして上空からは急降下爆撃だ。
魚雷の攻撃は雲の隙間に逃げたことでなんとか難を逃れたが、次に抜け出した時は再び攻撃が来るはずだ。
そして、しばらく止んでいるレオの攻撃も、再び空間歪曲モードで雲をすり抜けて撃ってくるはずだ。
魚雷からの攻撃が止んだことと引き換えに、小さな硬雲に衝突する。
「やっぱり嵐の中を抜けるべきじゃなかったんだ」
マルコはその今までで一番難しい操舵に思わず不平を述べる。
「過ぎたことを後悔しても仕方ない。今は前に進むことだけを考えろ」
俺は行く先に見える星空を見据えて言う。
ジェミニからビーム攻撃が飛んできた。
「艦尾に被弾!!」
「格納庫に火災発生!!」
「このままだとジリ貧だ……。艦長!!」
マルコは絶え間なく浴びせられる攻撃に我慢ができなくなる。
「落ち着け。左には硬雲が殆どない。少しずつ左の雲の内部に入るのだ」
艦長はそんな事を言うと、マルコはハッとして左舷を見る。
右舷に比べると極端に火花が少ない。
「しかし、よく気が付きましたね」
俺は思わず感心した。
「何、揺れの体感でおおよそわかるものだ」
そういうものなのかなぁ、と俺は思いながら雲に入っていく光景を見た。
再び乱気流の中だ。
「あの……これって雲の中に入る必要あるんですか……?」
シオンが艦長に聞いた。
「まあ見てろって」
艦長の代わりに俺が答えた。
先程までいた雲の隙間の所にゼロ・ホースが飛んできて、2発のロケット弾を放った。
直進するロケット弾がジェミニ目掛けて飛翔する。
しかし……。
「反応が2つ!?」
「分離したんだ!!」
ジェミニが2隻に分離した。
1隻はこちらに向かってきて、もう1隻は離脱するゼロ・ホースを狙う。
離脱していく方は激しい火花を散らしながら硬雲を突き抜けてショートカットし、ゼロ・ホースの目の前へと躍り出た。
「奴はどうして平気なんだよ!?」
俺は身をもってこの速度で硬雲に激突した時の危険度を理解している。
だからこそ目の前の現象が不思議で仕方がなかった。
「あれを見ろ、傷ついた部分がものすごい速度で復元していく」
ヒラガが指を差した先を見る。
ジェミニの艦首だ。
硬雲との衝突や摩耗によりすぐに装甲が剥離したり凹んだりするが、それも逆再生しているかのように元に戻っていく。
「おそらくは空間を介してエネルギーを伝達、お互いに超高速修復しあっているのだろう……厄介な相手だ」
ヒラガがその仕組みを推測すると、俺は敵の厄介さを理解した。
「つまり、同時に撃破しないといけないという事か……」
「通信不能領域へと突入します!!」
雲の更に深い部分に突入した。
周囲が白から黒へと変わっていく。
「くそ……追い込まれているのはこちらの方か……」
俺は何もできない状況に指を噛んでいた。
激しい稲妻が奔る。
後方からはピッタリとジェミニが張り付き、ビームを放ってきている。
別方向からはレオによる長距離射撃が時折飛んでくる。
「上方から見渡せれば勝機が見えてくるのに……」
マルコがブツブツと呟く。
そう、上方から見渡せれば。
「カイトで俺が出る……」
俺はそう決断した。
「無茶だ。あの乱気流の中、それにジェミニやレオが狙っている以上、外は危険だぞ!!」
ヒラガは静止する。
「あれを扱えるのは航空隊以外だと俺くらいしかいない……。今することはなんだ? 奴らに勝ち、ここを進む事だ」
「……俺が出たら通信可能領域まで出て、合図があったらその位置にアンカーを撃ってくれ」
それだけを言い、俺は艦橋を去る。
「艦長、止めなくてもいいんですか!?」
ラクシェネラは聞くが艦長の答えはこうだった。
「止めても無駄だ。それに、こうなってしまった以上、より勝率の高い方法を選ぶ他あるまい」
その後は静寂だった。
今も続く激しい揺れと照明の明滅、徐々に破壊されていくアクエリアスの艦体に対し、希望はこれしかないのだ。
そのとき突然、シオンも走って艦橋を抜け出した。
「シオン!? 戻ってこい、お前は……!!」
上部の格納庫は奇跡的に爆撃を免れていた。
しかし、システムの一部が破損していたようで、手動でこじ開ける。
凄まじい風と頬を刺激する静電気。
「この中を飛ぶしか無いよな……」
上から見えるのはひたすら黒い雲の中。よく見ると空気がものすごい速度で流れている。
そう言いながら俺はカイトⅢの準備をする。
すると、後ろから女の子の声がする。
「私も連れて行って……」
シオンだった。
俺はすぐさま首を振った。
「これは戦争なんだぞ……お前が死んだらこの船はどうする。動かなくなるんだぞ」
「知ってるよ。それでも、私は翼君と一緒にいたい。それに私、草薙君より目はいいよ?」
シオンの目は今までと違う。流されるがままに進んできたわけじゃない、決意に満ちたものだった。
「……仕方ない。観測頼んだ。俺は操縦に専念する」
「あー、ブリッジ、ブリッジ応答。一人俺と共に出る人が増えた。だが支障はない。これより出撃します」
俺はカイトⅢのチェックを終える。
「シオン。出るぞ、掴まれ。見張り頼んだぞ」
俺は機体に掴まり、主機を起動させる。
すると、シオンが後ろから抱きついて、お腹に何かを巻いてきた。
「ねえ翼君。このロープでお互いを繋がない? いざという時にはぐれないように、ね?」
頭を抱えつつ彼女に従った。
ジェミニは執拗にアクエリアスの背を追っていた。すると、アクエリアスの艦橋の後方、煙突の後ろからハッチが開き、何かが飛び出した。
拡大映像にすると、グライダーに乗ったシオンと草薙が映る。
道化師はそれを見て小躍りした。
「馬鹿め、王女様が自ら出向いたでござるよ!!」
『うむ!!』
「このまま蜂の巣でござる!!」
『しねえええっ!!』
「ジェミニ、カイトに急速接近!!」
「奴ら……丸腰の草薙達を狙いやがって!!」
ラクシェネラの報告にマルコは怒りを露わにする。
「まて、これはチャンスかもしれぬ……」
しかし、ヒラガは飛んでいるカイトが陽動になっている事をチャンスと捉えた。
俺達はなんとか乱気流を脱出するも、後ろからジェミニの砲撃が襲う。
「うわああああああっ!!」
慌ててまた雲の中に逃げ込んだ。
一方シオンは落ち着いた様子で、下の様子を見て報告した。
彼女はその視力の良さで雲の中のアクエリアスを捉える。
「アクエリアス、もうすぐ雲から出るよ!!」
俺は雲に流されないように操縦に全意識を集中する。
雲間に光、ジェミニのレーザー機銃が発射された。
俺はそれを急旋回で回避する。
「シオン、アクエリアスはまだ!?」
「もう少し!!」
ジェミニの船体が急接近し、接触寸前まで近づく。
「くそっ……俺達をどつき落とす気だ!!」
「アクエリアス、雲を抜けました!!」
シオンの報告があり、俺はすぐにアクエリアスからの敵の相対座標を確認する。
「座標送信、241,162,114!!」
「右舷ビームアンカー、行けます」
ラクシェネラが火器管制システムで機能の生存を確認する。
「了解。座標に向けて射出!!」
ヒラガが俺の代わりにアンカーを撃った。
俺達を狙っていたジェミニ目掛けて高速でビームアンカーが射出される。
「ビームアンカー、ジェミニに命中しました!」
艦長はその報告を聞くと頷いた。
そして、もう1隻のジェミニの位置を捕捉した。
それを確認すると、艦長は号令する。
「振り回せ!!」
気流に乗るようにして、アクエリアスはヨーイングを行う。
2隻のジェミニは遠心力によって、硬雲の中を激しい火花を散らしながら振り回される。
そして、ジェミニ同士の距離が近づいていく。
「アマァ、何やってるでござる!!」
『ココこそ、よけてぇぇぇぇっ!!』
二人の道化師の乗った艦は衝突し、空中で爆発四散した。
『ブルーネ殿下、ジェミニがやられました!!』
ブルーネは不機嫌そうな顔をしながらも冷静に次の指揮を行う。
「狼狽えるな!! アヴァロン、残りの爆撃艇全てを出してアクエリアスを爆撃、レオ、奴は雲の外だ、狙える位置に出て空間歪曲モードを解除しての連射だ。奴に攻撃の隙を与えるな」
『
アンは赤く塗装がされたゼロ・ホースに騎乗していた。
『こちらアクエリアス、敵艦ジェミニを撃破!』
「へぇ……アタシもフルスロットルでいく。アクエリアスには指一本触れさせない!」
アンはエンジンの出力を全開にして飛ばしていく。
目標は雷撃艇の編隊だった。
「敵機、右舷より急速接近、単騎の突撃です!!」
その報告を受けると、後部の爆撃管制を担当するパイロットが小馬鹿にした口調で言う。
「へっ、たかが1機で何ができる」
アンは雷撃艇のレーザー機銃攻撃を紙一重で回避しながら、2機を機銃で撃破した。
その後、高度を急激に落とす。
敵が混乱している間に1機を下から狙い撃ち、急上昇の後に反転、後ろの2機を瞬時に撃破した。
「
その様子には誰もが驚愕していた。
雷撃艇は機動力こそ劣るものの、武器搭載量に優れており、レーザー機銃も複数門ある。おまけに装甲は分厚く、簡単には撃墜されないのだ。
別名『空飛ぶ戦闘要塞』なのだが、それをいとも容易く撃墜していった。
アンはゼロ・ホースの人間の耐えられるGギリギリの機動と、卓越した操縦テクニックで次々と撃破していく。
ついに雷撃艇は最後の1機となった。
その1機は機首を持ち上げ、反転下降を試みる。
狙いはアンの撃墜。
機体下部の機銃がせり出し、アンに向ける。
しかし、アンはひるまずにローリングしながら突進する。
距離を縮めると急に横へと飛び、機体真横から榴弾砲を発射、雷撃艇を撃ち抜いた。
最後の1機を撃墜すると、一枚の家族写真が燃えながら飛んできた。
その様子にアンは舌打ちする。
「こんな戦争、誰が望むかっての……」
「隊長、雷撃隊が!!」
「なんだよヴィクトル……なっ!?」
それは雷撃隊が全滅している光景だった。
全てが黒煙となっていた。
そこから離脱するのは1機の赤い機体。
「……
爆撃隊と交戦していたツムギもその様子に感心していた。
そこに敵爆撃艇の機銃が飛んでくる。
「すげぇ……おわっ!?」
その敵爆撃艇を別のゼロ・ホースが撃墜した。
「ツムギ! 油断するな」
「ヤマダさん……」
安堵していると、アクエリアスから通信が入った。
『敵空母より爆撃艇発艦!!』
アヴァロンを見ると、新たに爆撃艇が8機ほど飛び出していた。
ツムギは全速力で離脱した。
「好き放題やりやがってーーー!!」
目標は敵空母アヴァロン。
「まて、ツムギ!!」
「敵機接近、対空迎撃戦闘用意!!」
アヴァロン内に警報が鳴り響く。
レーザー機銃が芝刈り機のような音を上げてツムギ機を狙った。
その制止も聞かずに突っ込むツムギは、アヴァロンのレーザー機銃の掃射を浴び、一瞬で炎の塊と化した。
その様子を見たヤマダは震えていた。
「よくも……よくもやりやがったな!!」
ゼロ・ホースに装備されているロケット弾全てを切り離す。
空中でブースターが点火し、目標へと飛翔した。
ロケット弾はレーザー機銃に数発が落とされるも、残りがアヴァロンの側面を撃ち抜く。
内部に格納されていた爆撃艇や爆弾に引火し、大爆発を引き起こした。
「おわああああっ」
アヴァロンの艦橋が大きく揺れる。
「こいつも持ってけぇぇぇぇぇぇっ!!」
その勢いのまま上空から急接近。
艦橋、飛行甲板、第二の飛行甲板と化している主翼目掛けて機銃掃射を浴びせた。
あちこちに火が回り、アヴァロンが真っ二つに裂ける。
そして、雲海の中へと沈んでいった。
「お頭、あっしらはどうしたらいいっすか!?」
元空中海賊の下っ端がアンに聞いた。
「隊長と呼びな!!」
アンはそれを訂正だけする。
彼女は混戦状態の現状を見極めるのに忙しい。
「テッキセッキン、テッキセッキン」
ジョンがそう言ったため、周囲を見渡す。
「9時方向からくるわよ、全機散開!!」
アンが特別に塗装した赤い機体はよく目立つ。そのため、真っ先に狙われた。
「エースか!!」
今までの敵と違う機動、敵機体の側面に貼られた黒いバラのマークで、アンは相手が強敵であることを理解した。
「
レーザー機銃がアンのゼロ・ホースの燃料タンクを狙う。
しかし、それはアンの想定内だった。
他の仲間がその機体目掛けてレーザー機銃を放つ。
アンの機体が陽動であったことにようやく気づく。
間一髪で機体を傾けてそれを回避、姿勢を立て直し、反撃を試みる。
その矢先、通信が入る。
『
「
アンは相手が動揺した隙に後ろに回り込み、エンジンを的確に蜂の巣にする。
エンジンが破壊されたことで燃料が漏れ、機体が炎に包まれる。
「
そして、黒薔薇の機体は雲海に沈んでいった。
「総員傾注! 我々は帰るべき艦を失った。これより、アクエリアスに捨て身の突撃を開始する。我に続け!!」
テティスの編隊が反転し、アクエリアスへと向かう。
速力を限界まで上げ、機首を突撃角度に。
レーザー機銃による対空戦闘が始まったが、数機のテティスが迎撃されても構わない。
そのまま最高速度で直進していった。
「左舷に敵機直撃!!」
「対空機銃大破」
「Lブロックに火災発生!!」
「第二波、来ます!!」
見ると、左側から最高速度に乗ってまっすぐ突っ込んでくる爆撃艇の集団があった。
「こんなバカげたことが……」
普段は機械的とも呼ばれているヒラガが、この時ばかりは動揺していた。
艦長は静かにその様子を見て言った。
「相手さんも必死なのだろう。愛する祖国の明日の為に命を散らすのも惜しまない。これはそういうものだ。なんと虚しい事か……」
1機が特攻を仕掛けようとするテティスを追う。
しかし、速度が間に合わない。
敵は残りの燃料を考えない全速力だからだ。
そこに、別のナイトバードが斜めから突っ込んできた。
「させるかよおおおっ!!」
「やめろ、サッジ!!」
思わず制止の声を上げる。
叫びも虚しく、テティスとナイトバードが衝突し、爆散する。
目の前には粉々に砕けた両機の破片と黒煙だけが残っていた。
「バカげた事を……」
ブルーネは頭を抱えていた。
爆撃艇のパイロットはほとんどが若年兵だった。
自分よりも遥かに明るい未来がある彼らを、こんな戦争で散らせてしまっている。
しかし、彼女はそれ故に前を向いた。
「彼らの死を無駄にはできんな」
「止まりなさいよおおおおっ!!」
アンはアクエリアス目掛けて飛んでいくテティスに対し、機銃を撃った。
テティスの主翼とエンジンを破壊し、炎上させるも、アンのゼロ・ホースもその爆発に巻き込まれてしまった。
「まずいっ!!」
そのままボロボロになったゼロ・ホースと共にアクエリアスの穴の空いた部分へと突っ込む。
「制御が効かないっ!!」
機体は通路の壁に衝突、激しい火花を散らして爆発四散した。
「うぅ……なんとか……生きてるけど……骨の数本逝ったわね……」
「レオが雲の隙間から姿を表しました!」
ラクシェネラの報告を受け、マルコは身構える。
「くるぞ……」
爆撃艇、雷撃艇が撃墜、あるいは特攻したことでしばらく静かになっていたが、再び揺れが始まった。
「高熱体、艦首に直撃!!」
「副長、第三砲塔の修理は大丈夫かね」
艦長はラクシェネラに聞く。
「ええ、全修復エネルギーを回して、なんとか間に合いそうだわ」
第三砲塔の修復は後少し。
巻き戻るように再生していく。
しかし、レオのガトリング部分に熱が収束していく。
狙いは修復しつつある第三砲塔だ。
レオの砲身が眩い光を放つ。
「第三砲塔、修理完了しました!!」
ラクシェネラの報を受け、草薙の代わりにヒラガが照準を向け、トリガーを引く。
「撃ち方はじめ!!」
螺旋を描き、レオの超高熱気化物体投射砲を裂きながら飛んでいく。
レオは主砲を撃ち抜かれ、内部の燃料に引火、激しい炎を上げながら沈んでいく。
そして、エンジンに誘爆し、大爆発した。
膨大なエネルギーを放出し、周囲に熱線を放つ。
その衝撃はカイトⅢの主翼に直撃する。
「なんだ!?」
俺は左右を見渡し、すぐに状況を理解した。
「シオン、掴まってろ、これは……まずい!!」
左翼の一部が焼け落ちている。
「翼君、このままじゃ乱気流に!!」
俺は舵を取ろうとするも言うことを聞かない。
機体の制御を失い、そのまま乱気流へと突っ込んでいった。
ブルーネは目をつぶり、自分の敗北を認める。
「私の敗因は、目先の勝利を急ぐあまり護衛艦であるジェミニを前衛に出してしまった事か……」
彼女は自嘲気味に笑った。
「フ……最後の最後に詰めを誤ったな……」
「総員傾注!」
凛々しい声で彼女は告げる。
「貴様らともいよいよお別れだ。私はこれよりアクエリアスに向かって特攻を掛ける」
「馬鹿な……」
副長は信じられないという面持ちで彼女を見ていた。
「ふふ、このまま本国に帰還しても処刑されるだけさ」
ブルーネは理由を述べると優しい顔になって言う。
「心配するな。貴様らの事はこちらで手を打っておく。だから安心して脱出しな」
暗に脱出を命令された。
しかし、誰も従わなかった。
「ブルーネ殿下……脱出する者はいません。皆、貴方と共に散りゆくと……」
彼女は姿勢を変えずフッと笑って言う。
「死にぞこない共め……好きにしろ……」
「ありおがたきお言葉、最後までお供させていただきます」
副官も、部下も、皆涙を流しながら彼女を讃えた。
「カプリコルンから通信が入っています」
ラクシェネラの報告に、艦長は即答した。
「繋げ」
『私はカプリコルンの艦長、ブルーネ・ナル・ホルスーシャ』
「私はフック・J・ワイルドギースだ」
お互いに顔合わせをする。
立派な口ひげを蓄えた老年の男性、美しいオレンジ色の髪を持つ凛々しい女性。
対極的ながらもどこか似た雰囲気を持つ二人はこの時初めて両者を見た。
『そなたの戦い。まこと見事だった』
モニタには、ブルーネ将軍の武人としての笑顔があった。
「……我々はこれ以上、戦う必要があるのだろうか」
重苦しい声で艦長は聞く。
『ない。アヴァロン、ジェミニ、レオを失った今、そなたらに戦いを挑むのは無謀だ』
『それに、これ以上戦ったとて、帝国に何か益があるわけでもない』
艦長はその言葉に安堵し頷く。
「……そうだな」
『だが、武人として今一度そなたを打倒したい』
『それが今の私の誇りであり生き甲斐なのだから』
『それに、そなたも軍人の端くれならわかるだろう。ここで退いては散った部下が無駄になると』
艦長はその言葉で散った仲間を思い出していた。
この決戦で撃墜された者、艦内で爆発に巻き込まれた者、ヤマタノオロチ作戦で戦死した者やゴーニィ・アラギノル……シオンの母親……。
『これが、私のホルスーシャ魂だ……』
『最後にそなたのような勇気ある者と相まみえた事を感謝する。両者に栄光あれ!!』
『では行くぞ!!』
通信が切れる。
それと同時に、カプリコルンは動き出した。
「敵艦、突撃してきます!!」
ラクシェネラの言う通り、カプリコルンは全速力でこちらに向かってくる。
カプリコルンは側面に備わっているビーム砲を連射する。
アクエリアスの左側に直撃し、火花を散らした。
「左舷に被弾!!」
艦長は叫ぶ。
「こちらも主砲発射だ!!」
生きているのは第三砲塔のみ。
火力の差は圧倒的だ。
「目の前にある雲海に潜航して撒きましょう、艦長!!」
マルコは艦長に提案するも、艦長は潜航をしない理由を答えた。
「無駄だ。敵の武器はおそらく広範囲の絶対索敵能力、こうなっては正面で受け止める他あるまい」
「この艦の兵装はもうすでに……」
ラクシェネラは不安そうに言いかけた時、気づいた。
「衝角……」
艦長は静かに頷き、目を瞑る。
ヒラガは敵を見た様子から弱点を説明する。
「敵艦の機動力はそれほど高くありませんな、あの円盤の下部であれば装甲が比較的薄いと思われます」
マルコはその説明でやるべきことを把握した。
「つまり、高速で敵目掛けて一直線、アッパーで撃破、という事だな」
ラクシェネラはその作戦に反対した。
「しかし、目の前には気圧断層があってとても危険です!!」
ヒラガは冷静に告げた。
「やるしかない……この状況を逃せば、この艦は終わりだ」
艦長はようやく目を見開く。
「出力全開、最大戦速で奴に突っ込め!!」
アクエリアスの主翼が後退し、バーニアから青白い炎を噴射する。
敵艦がビームを放ち迎撃を試みるも、アクエリアスは前方の衝角で弾いた。
敵が目の前にくると、艦首を下げる。
「いけえええええええっ!!」
マルコは叫びながら、一気にアクエリアスを前進翼の格闘モードに変化させ、艦首を上げる。
衝角がカプリコルンを突き上げ、上空へと吹き飛ばす。
「第三砲塔にエネルギー伝達」
「自動追尾、および手動調整」
「測的完了。誤差修正、上下角3度」
「撃てぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
螺旋を描きながら飛ぶエネルギー弾がカプリコルンを貫いた。
アクエリアスは満身創痍だった。
殆どの兵装が破壊され、あちこちに穴が空き、内部は死屍累々。
「シオンと草薙は大丈夫か……?」
マルコは周囲を見渡しながら、心配していた。
ヒラガがクリスタルの輝きを見て、なだめるように語りかける。
「クリスタルが光っているという事は生きているはずだ。どこかで生きているとなれば、明日には救難信号があるはずだろう。この状態で最終決戦に挑むのは流石に無謀だ。修復しつつ、彼らの捜索をする」
――目が覚めると、一面お花畑だった。
空は青く、空気の流れからここが遥か高い場所にあるという事を伝える。
溢れんばかりの花の匂い。
「俺達は……死んだのか?」
立ち上がって前に進もうとすると、バランスを崩す。
シオンと縄で繋いでいたのだった。
思った以上にキツく縛られており、悪戦苦闘した俺は諦めてナイフを取り出した。
縄を切ると、俺は周囲を確認する。
「現実……だよな……?」
俺は気を失っているシオンの頬を弄る。
「起きろ、シオン!」
「むにゃ……?」
ハッと目が覚めると、彼女は周りの光景を見て、自分は死んだのか、と俺と同じ事を言った。
「生きてるんだよ、俺達」
「生きてる……」
シオンはまだ実感がわかないみたいで、俺は両手を握る。
「生きてるんだよ!! やったああああああっ」
抱きしめて、花の上を転げ回る。
俺は落ち着いた後、信号弾を発射し、救難信号を送った。
「あれ……誰かくるよ」
シオンが指さした先を見ると、風の向こうから誰かがやって来た……。
――目標地点到達まで残り12,000キオメルテ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
HBS-6 ジェミニ
開発:ホルシアン・インダストリー
装甲:スーパーセラミック/超ジュラルミン
全長:382メルテ
全幅:35メルテ
全高:22メルテ
最大速力:102ロノート
兵装
35セロメルテ二連装ビーム砲
20モアメルテ近接防空レーザー機関砲
アクティブステルスシステム
Gバリアシステム
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
HBS-8 レオ
開発:ホルシアン・インダストリー
装甲:スーパーセラミック/超ジュラルミン
全長:102メルテ
全幅:302メルテ
全高:207メルテ
最大速力:40ロノート
兵装
超高熱気化物体空間投射砲
アクティブステルスシステム
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
HBS-1 カプリコルン
開発:ホルシアン・インダストリー
装甲:スーパーセラミック/超ジュラルミン
全長:162メルテ
全幅:162メルテ
全高:64メルテ
最大速力:33ロノート
兵装
35セロメルテ二連装ビーム砲
20モアメルテ近接防空レーザー機関砲
超範囲索敵システムスターゲイザー
アクティブステルスシステム
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