第18話 クリスタルの王国
工作班達は先程の戦闘でボロボロになったアクエリアスの修理をしていた。
命綱を装着し、火花をあちこちで散らせている。
「明るい内に済ませるんだ。夜になると作業もはかどらねえぞー!」
そんな中、数人が倒れた。
船医、ドクター・シノノメが慌てていた。
「コック、ビタミン不足で壊血病患者が続出してるのよ!」
コック・ドゥーヂィは頭を抱えている。
「困ったヨ……ミーは航行スケジュールがここまで遅れると思わなかったんだヨ」
「赤道祭で調子に乗って豪華料理なんて出すからですよ、全く!!」
ラクシェネラの叱責はもっともだ。
「それは完全にこちらの落ち度だヨ……すまない」
「現在、ゲリオセマネ浸食域北部を航行中」
下を見下ろすと、広い密林と複雑に分岐した川がある。
さながら熱帯雨林のジャングルといった感じだ。
「ここなら野菜や果物の類も手に入りそうだな」
マルコは地形データから植物などを細かくデータベース照合し、主計科・船務科・衛生科・補給科に送る。
「さて、どの辺りに着陸すべきだろうか」
マルコが着陸地点を探していると、シオンが声を上げた。
「まって、クリスタルが反応してる……」
クリスタルの光が、ジャングルの中を指し示した。
「導いてるんだ……」
艦長はマルコに命じた。
「光の射す方へ向かえ」
「了解」
アクエリアスを接近させて、クリスタルの光の先を見ると、森の一部が開き、巨大な格納庫のようなものが現れた。
「なんだなんだ!?」
皆はその常識を疑う光景に困惑している。
俺は敵を警戒していた。
「帝国の基地……ってわけでもないよな……?」
「とりあえず着陸しよう」
艦長の言葉を受けて、格納庫の中へと降下していくと、徐々に天井が閉じていく。
樹海地下の巨大格納庫。
そこは薄暗く、照明が少し存在しているだけだ。
見渡すと、緑色の非常灯らしきものを発見する。
非常灯の下には扉があり、ナイトバード2機分くらいの大きさがある。
アクエリアスはその中心に停泊した。
「シオン、きっとここから先はクリスタルが必要だ。持っていけ」
シオンはモノリスからクリスタルを抜き取ると、その場を後にした。
先に格納庫の中を調査した先発隊によると、扉から外に出られるという報告があり、補給班と、シオンと俺のみの調査班に分かれた。
「行こう、シオン」
シオンの手を引いて、俺は格納庫の扉を開けた。
眩い光で思わず目を瞑る。
そこには、地上を遥かに上回る規模の色彩豊かな巨大樹の森が広がっていた。
巨大樹一本一本が高層ビルを遥かに上回る高さで、太さもアクエリアスの幅と同じくらいと、とにかく規模が違った。
空は青く、雲すら見える。
人工の太陽があり、さながら地上としか思えない広大な空間だった。
後ろを見ると、扉も壁もない。
否、よく見るとあるのだが、遠景に擬態しており、透明としか捉えられないのだ。
「地下にこんな場所があるなんて……」
俺は思わず驚嘆した。
俺達は補給班とは違い、クリスタルの指し示す方向へと向かう。
途中、野生動物や恐竜、恐鳥類に出くわしながらも危機をうまく乗り越えていった。
「リリパット村……?」
シオンは看板を読む。
「こんなところにも人が住んでるのか!?」
俺は思わず驚く。
その先には、少し小さな小屋が無数に点在していた。
「ごめんくださーい。誰かいますかー?」
シオンは大声で聞く。
「おい、大声出すな! 友好的とは限らないだろ!?」
「そんな事言ってると誰ともわかりあえないよ?」
俺達がそうして口喧嘩していると、足元に何かが飛んできた。
よく見ると吹き矢だ。
先端には紫色の液体が塗られている。
その先を見ると、俺達の身長の半分くらいの大きさの人間がいた。
皆、こちらを睨んでいる。
「は、はろー? はうわーゆー?」
俺は思わず愛想笑いで返した。
その小さな人間たちは石を振り回していたり、吹き矢や弓を構えていた。
「ほらな……友好的とは思えないだろ?」
「……だね」
俺達は全速力で逃げ出した。
もちろん連中は走って追いかけてくる。
矢や石が飛び交い、脚力でも圧倒的に差がある。
万事休すかと思った瞬間、シオンの下げていたクリスタルが光りだした。
「うわっ、なんだなんだ!?」
その光を見た小人達は驚いた表情をし、武器をすぐに捨てて平伏した。
「何が起こっているの……?」
「恐竜とかならまだしも、まさか小人の原住民までいるなんて思わなかったぞ……ここから先何が出てもおかしくねえよ」
俺はそう言いながら森の中を進む。
クリスタルが光るたびに木々の間隔が広がり、道ができる。
まるで森全体が動いているようだ。
突如、空……否、天井が爆発した。
そして、帝国の強襲揚陸艇が降りてくる。
「偵察艇の連絡は本当だったようだ」
「まさかこんなところにも未開の地があったとはな……一段落したら全て焼き尽くしてやる」
強襲揚陸艇の中から、数両の戦車、装甲車、高機動装輪車両が出てくる。
それを見て、俺はとにかく先を急ぐことにした。
「シオン、走ろう!!」
装輪車両に乗った帝国兵が、ライフルで小人達を射殺しながら集落を破壊して進む。
「ホルスーシャの女は生け捕り、後は皆殺しだ」
後に戦車、装甲車が続く。
上空には観測ドローンが数機飛ぶ。
「西方角、385に発見!」
「了解!」
装輪車両がその方向に向かって走り始めた。
俺とシオンは逃げている。
鬱蒼と生い茂るジャングルの間を、泥濘で足を取られそうになりながらも、追いつかれないように。
そうしていると、装輪車にまたがった帝国兵が木々の間から飛び出してきた。
「やばいっ!!」
しかし、敵側も車の制御を失い、大木に衝突した。
タイヤが転がり、フロントはペシャンコに。
運転していた兵士は衝撃で気を失っているようだ。
「今の内だ!!」
しかしそこへ、大柄な体格の兵士が立ちはだかった。
シオンは俺の後ろで怯えている。
指揮官のような兵士が叫ぶ。
「よし、捕らえたぞ!!」
俺は拳を握り、震える膝を抑え、なんとか立つ。
拳を構え、大男相手に向かっていく。
「うおおおおおっ!!」
しかし、拳は受け止められ、手痛い反撃を受ける。
「翼君!! よくも……」
「おいおい、そっちからやってきたんだぜ」
指揮官のような男は離れた場所からヤジを飛ばした。
他の兵士達もそうだそうだーと盛り上がる。
さながら格闘技のコロシアムだ。
俺は立ち上がった。
「シオン……俺を置いて逃げろ……」
「でも……」
「ほう、そういう関係か」
大柄な男はそう言うと俺の胸ぐらを掴み、持ち上げる。
そして、もう一発。
「いいぞいいぞーーーっ」
帝国兵達は俺をいたぶる姿を愉しんでいた。
指揮官も笑いながら見ていると、彼は痛みを感じたのか、腕を訝しむ。
そこには大きなスズメバチのような昆虫がいた。
「フンッ!!」
大きなスズメバチをもう片方の手で叩き潰す。
大木に激突し、炎上する装輪車両の側には、一抱えほどもある大きなハチの巣が転がっていた。
その巣の中から無数の目が光る。
「わあああああああっ」
針を持ったハチの群れが周囲の兵士たちに襲いかかる。
発砲して応戦するも、多勢に無勢。
全身を刺されまくり、猛毒がすぐに回って命を落としていく。
死に至った兵士はそのまま細かくちぎられていき、肉が巣に持ち運ばれていった。
飛び回るスズメバチの群れで周囲が見えなくなった。
しかし、シオンの周囲だけは何故かスズメバチがいなかった。
どうやらクリスタルの光を避けているようだ。
そして俺と大男は、未だその光の中で殴り合っていた。
俺は右頬を勢いよく殴られ、吹き飛ぶ。
目の前をスズメバチが横切った。
あと僅かでスズメバチの群れに頭を突っ込むところだった。
俺は手に何かを感じる。
大男はとどめを刺そうと近寄ってきた。
しかし、俺から見ればこれはチャンスだった。
手に掴んだ木の棒を思い切り大男の顔面目掛けて振り切った。
鈍い音がする。
男は目を見開く。
ふらっと、そのまま倒れた。
どうやら軽い脳震盪を起こしたようだ。
倒れた。
そう、スズメバチの群れの中に。
男は意識を取り戻すと、周囲のスズメバチ囲まれており、全身を刺され絶叫しながら息絶えた。
俺達はジャングルを切り抜けて、洞窟内に逃げ込む。
ツルハシや爆薬で何かを砕いた跡があった。
どうやらなにかの採石場だったようだ。
レールがあって、上にトロッコが置いてある。
そして背後からは、帝国の装輪車が迫ってくる音がする。
「シオン、トロッコに乗って!!」
俺はシオンが乗ったトロッコを押す。
錆びついているからか、動かない。
「ふんぐぐぐぐぐぐ」
装輪車の鈍い駆動音が大きくなってきた。
トロッコが少しずつ動き始める。
しかし、敵はもうすぐ後ろだ。
「動けえええええええっ!!」
全力でトロッコを押すと、ようやく動き始めた。
速度が乗る前に俺は飛び乗る。
「ばいばーい」
帝国兵はライフルを放つも時すでに遅し、俺達は遥か彼方へ走っていった。
轟音を立てながら走るトロッコ。行き先は不安だが、敵を撒けたと思うのでひとまず安心した。
しかし、シオンは前を指を差して怯えた表情をしていた。
シオンの指の先には、並列に走る線路があり、その上にはもう1台のトロッコがあったのだ。
中には、数人の帝国兵が銃剣を持って乗っていた。
「伏せろ!!」
俺はシオンに言い、俺自身も姿勢を低くする。
激しい銃撃が上方を掠める。
徐々に車間が狭くなる。
成人男性が軽く跨げるくらいの距離になると、敵兵は銃を置いて手を伸ばしてくる。
俺は敵兵に髪を引っ張られた。
「やめろ、やめろぉ、髪が抜ける!!」
「私の彼氏に、何してんのよっ!!」
シオンは思い切りスコップをフルスイングし、敵兵を叩き落とした。
「ひえっ、おっかねぇ~」
俺は思わず声が出てしまった。
タバコを吸っていた敵兵の一人がフロギストン爆薬を取り出してニヤリと笑う。
タバコの先端で導火線に火をつけ、こっちに向かって投げつけてきた。
「わーっ、パスパスパス!」
俺は思わずシオンの方に投げてしまった。
「翼君! こっちに渡さないで!! えっと、ごめんなさい!」
導火線がもう少ししかない爆弾を敵兵のトロッコの中に放り投げる。
敵兵達は慌てて状況を理解し、ドタバタし始めるも既に遅い。
ダイナマイトのような筒は耳をつんざく爆発を起こし、トロッコは谷底へと落ちていった。
安心したのもつかの間、線路の反対方向からも別の兵たちがやってきた。
「あっちからも来たよ!!」
響く銃声。
とっさにかがんで回避する。
敵はこっちに手を伸ばすも、まだ距離がある。
俺はトロッコの中にあった石炭をとにかく投げつける。
そのうちの1個が1人の兵士の顔面に命中。気絶したようだ。
しかしこれで、投げるものが見当たらなくなった。
「投げるもの、投げるもの」
俺はトロッコの中に何か突き出したものを見つけ、それを力任せに引き抜く。
「あ、ブレーキはずれちまった」
「翼君のばかあああっ!!」
「クソ、こうなったら!!」
ブレーキレバーだったものを、敵兵ではなく別の所に投げつける。
ルートの切り替えレバーだ。
俺達の乗るトロッコは、敵兵たちがいたのとは離れた方向へと進む。
「ばいばーい」
俺は、走って追いかけようとする敵兵たちに手を振った。
しかし、シオンはまだ怯えた表情だ。
「敵兵はもういないって、どうしたの……?」
そう言って振り返ると、岩の壁があった。
こっちのルートはかつて封鎖された道だったのだ。
「ブレーキ! ブレーキ! シオン、ブレーキ!」
「翼君がさっき壊したんでしょーーー!!」
「ぶつかるーーーーっ!!」
漫才のようなやり取りの後、トロッコは勢いよく壁に激突した。
俺達は衝撃で空中に投げ出されていた。
下は大穴、底も見えない。
シオンは意識を失っており、頭から真っ逆さまに落ちている。
俺は空中で平泳ぎをし、なんとかシオンを抱きとめる。
しかし、このままだと俺も落下時の衝撃で死んでしまうだろう。
今はただ、重力に従って落ちていくことしかできなかった。
そんな事を考えていた時、シオンのクリスタルが輝いた。
青い光を放ち、落下速度がゆっくりになっていった。
穴の底に降りると、少しずつクリスタルの光が消え始める。
「あっ、ちょっと待って」
完全に消えて真っ暗になる前に、俺はランプに火をつけた。
やがて、シオンが目を覚ます。
俺はテントを設営し、シオンを寝袋に寝かせていた。
「あ、起きた」
「ううん、何が起きていたの?」
「空飛んだんだよ、俺達。すごいよ、魔法みたいだった。こう、ふわーってさ」
あまりにも衝撃的な光景だったので、身振り手振りで伝えようとする。
「魔法……多分、違うよ。これも科学の力なんだと思う。行き過ぎた科学は魔法と同じって、艦長は言ってた」
「アーサー・C・クラークだな……」
俺は元の世界の知識で名前を出す。
艦長のいた世界は俺と同じ世界なんだろうと感じた。
そんな事を考えていると、シオンは思い出したかのように怒り出す。
「元はと言えば翼君のせいよ!! なんでブレーキ投げつけるのよ!!」
「すまん……とっさの判断でな」
俺は謝る。
それを見てシオンは「言い過ぎた」という表情で追求を止めた。
「……ここで喧嘩してても仕方ないよね……。とりあえず出口を探しましょう」
俺は上を見上げると、はるか遠くに線路脇の灯りが見える。
「随分深い所まで落ちちゃったみたいだね……」
「ええ……」
シオンは不安そうな表情になる。
そんな中、シオンのお腹がなった。
「あっ、やだ……」
洞窟の中に響く音が、場の雰囲気を和ませてくれた。
「そうだ、飯にしようか」
俺はバッグから包みを取り出した。
目玉焼きを乗せたトーストだ。
念のため、2人分持ってきたのだ。
俺はその1つにかぶりつく。
目玉焼きをズルっと啜り、残ったパンをガツガツと食べ終えた。
シオンはもう片方のトーストを受け取ると、目玉焼きを少しずつ食べながらパンを食べ進めた。
腹ごしらえを済ませて地下を探索し始める。
「待って、クリスタルが!!」
クリスタルが、いつもに増して凄まじい勢いで反応している。
「きっとここに何かあるんだ!!」
クリスタルの輝きで高所にある石版が見えた。
シオンはそれを見ると、何か読み始めた。
「文字が書いてある……」
「――ホルスーシャとは天空の翼を意味する」
いつかのような機械的な声と目。
間違いない。
ここは古代ホルスーシャ文明の遺跡だ。
「シオン、行こう。ここには何かあるよ」
遺跡の中はクリスタルでできていた。
オートマトンのような石像が並び、通路には奇妙な光る文字がある。
その模様は、アクエリアスの艦橋にあるものと一致していた。
「これは……」
巨大な人間の骨格が大の字になって横たわっている。
その頭蓋は鎧にも見え、肩からは得体の知れない突起が何本も突き出していた。
シオンは文字を読む。
「最初の人間、アダム……」
旧約聖書における、神が作り出した人間の名だ。
他にも様々な生物を保管したカプセルが置いてある。
「すげぇ……ダーウィンが見たら目ん玉飛び出すだろうな……」
中には既に絶滅してしまった種類まであった。
続く通路には地上にはナスカの地上絵に似た図案が描かれ、周囲には様々な物品が置いてあった。
よく見るとそれは一般的な金銀財宝の他、黄金のスペースシャトル、カブレラストーン、アンティキティラの歯車、コソの点火プラグ、ヴォイニッチ手稿、聖櫃、バグダッド電池、聖杯など、見覚えがあるものばかりで、壁にはヴィマナ、人工衛星、UFO、虚船、エアカーなどといった物の設計図、遺伝子や原子核、宇宙の泡構造やカラビ・ヤウ空間なども描かれており、古代ホルスーシャ文明の進みすぎた科学力を物語っている。
「俺の世界にこんな場所があったら宗教戦争間違いなしだな……。それどころか考古学者も匙を投げるだろうよ……」
奥へと進むと、厳重に閉ざされた部屋があった。
そこには何かを嵌め込むようなくぼみがあり、シオンはそこにクリスタルを嵌めた。
すると、扉が開き、中へと誘われる。
その中は円状に広がる空間。
周囲には衣を纏った人間の石像が並んでいた。
「――この世界と異なる世界があった。かつては狭間などなく、人が偶発的に迷い込むことがあった」
シオンは突然人が変わったかのように喋り始める。
すると、シオンの持っていたクリスタルが一人でに宙に浮き、映像を投影し始める。
映像だけでなく、俺の脳内に直接情報も入ってきた。
「――生命がいる前の原始的な世界に、ひとりの異邦人アインが迷い込む」
マグマオーシャンの地球が映し出された。
その中に、布をまとった人間が現れる。
「――万能の力を持ったアインは、寂しいその星に、生命を作り出した」
その人間が、試験管を取り出し、地上に何かを蒔いた。
「――それから生命は独自の進化を辿り、この星は緑豊かな自然の地へと変化した」
すると、その種から植物が生み出され、物凄い速度で広がり、原始的な甲殻類、昆虫、魚、爬虫類、恐竜、鳥、獣と変化していった。
「――その後に来た女性のバビロンは、自身の分身となる存在を作るべく、ここにいる生物を作り変えた」
バビロン、と呼ばれた女性が地上に降り立つ。
彼女は周囲の生物を捕まえ、それを粘土のように捏ね回し、人型の爬虫類や子鬼、翼の生えた人やイルカのような生き物を生み出した。
「――その結果、人類が誕生した」
人類の中にも大量に種類があった。
脳内に直接入ってきた情報では、電子工学の分野で使われ最も酷使された人造奴隷ヤプー、死者の魂を身に宿すことができるエルフ耳を持つ種族、火を扱うことに長けたドワーフのような姿の種族、手軽に量産できて簡単に洗脳できる人造兵士デザインアーミー、食用人類ソイレント……。
正直もう見たくないし知りたくもない。
しかし、強制的に入ってくる情報に対し、目を背けることはできなかった。
「――彼らは勤勉で活動的だった」
その次に映し出された壁画にはバベルの塔や多くの街の絵が描かれている。
「――しかし、彼らの中に知恵の実という機能が生じてしまった」
金色の果実に絡みつく黒い蛇の壁画が映し出された。
「――彼らの中にバビロンによる支配に反発する者が生まれ、やがて大きな争いへと発展した」
矢や槍が飛び交い、徐々にそれが大砲、レーザーへと変わっていく。
「――バビロンは自分が絶対種であると誇示するために科学の力を振るった」
圧倒的な光が一つの街を破壊する。
その後、バビロンがジグラットに居座り、ライオンを従える姿。
それは恐ろしくも神々しくも見えた。
「――その力は国を作り、それは後にホルスーシャ帝国となった」
帝国の図が凛々しく描かれる。
その都市は城壁で囲まれており、さながらレトロフューチャーに出てくるような曲線を中心としたものだった。
「――しかし、バビロンも寿命には勝てなかった。そのため、こちらの人類との間に子を設けた」
バビロンの力が次の世代、次の世代へと受け継がれていく。
「――異邦人の血には異なる世界と繋がるパスのようなものがあり、こうした力は魔法と呼ばれるようになった」
映像の中で、バビロンの力を継いだ子の体内に光のラインが浮かび上がる。
そしてシオンの方を見ると、シオンの身体にも同じラインが見えるようになっていた。
「――王の一族のみが異なる世界から物や人を喚び、その力でホルスーシャ帝国は絶大的な力を発揮するようになった」
バビロンの力を継ぐ子達が次々と異なる外見を持つ人々を召喚していく。
「――やがて、星規模での大洪水が世界を覆う」
星に大量の水が降り注いだ。
街が巻き込まれ、森や山も波に攫われていく、ショッキングな映像が流れる。
「――しかし、異なる世界の知恵によって作られた13の船が、大洪水を避け宇宙に逃げ、人類や動植物を延びさせた」
船が人や動植物を乗せて宇宙へ向かって飛び立つ映像に変わった。
「――洪水が去ると、再び地上に新たな文明が作られた」
波が引いた世界に船が降りてきた。
そこから出てきた人は再び街を作り始める。
「――しかし、その13の船はやがて、戦争をするためのものへ改造された」
人々はその船を金槌で叩いたり溶接したりして徐々に形を変えていった。
その姿は今まで見てきたゾディアック級と同じものだ。
「――ゾディアック率いる13の兵器は世界を滅ぼす戦争は人々の99%を消し、地上の文明はほとんどが更地となった」
巨大な船が世界を飛び、地上を焼け野原にする。
人々が焼かれ、船同士が攻撃しあい、船の上でも人同士が銃で撃ち合っていた。
「生き残った王族たちは、同じ過ちを繰り返さないために、両界の狭間を閉じ、魔法の全てをクリスタルに封じたんだって……」
クリスタルの映像が流れ終わると、シオンの目に感情が戻り始めた。
「だから、クリスタルを使った召喚魔法には、大きな代償が必要なんだ……」
シオンは部屋の天井を見る。
そこには台の上に乗った女がナイフで刺され血を流している絵が描かれていた。
生贄の儀式だろう。
シオンは泣き崩れた。
彼女から見るとその女性は自分の母親に見えるんだろう。
「俺を呼び出す時にシオンの母さんが死んだのも、全て昔の人が馬鹿やったせいだってのかよ……。あまりにも馬鹿げているぜ……」
俺は誓った。
何者かが再びあの帝国を蘇らせ、過ちを繰り返すなら同じような被害者が出ると。
この世界にいるシオンは幸せになれないんだと。
「終わらせよう、シオン。一緒に」
俺とシオンは更に奥にある足場に乗ると、一瞬のうちに遺跡の外へと出た。
どうやらワープ装置のようだった。
天井を見て、巨大樹を見る。
ここは地下ジャングルの中だ。
「俺達、戻ってきたんだ……」
そう安堵していると、敵の輸送機が飛んできた。
「シオン、逃げろ!!」
シオンの手を離し、前に立ちはだかる。
輸送機は着陸し、中から敵兵がぞろぞろと出てきた。
「さあ、言え。アクエリアスはどこだ!!」
「知らねえ!!」
俺は銃を構える。
「きゃあっ」
後ろで女の子の声がした。
シオンが後ろからやってきた敵兵に捕らえられている。
「さあ言え、娘の命はないぞ!!」
敵兵は銃剣を突きつけ、俺に脅しをかけてきた。
敵は徐々に数を増す。
突如、空に轟音が響いた。
空を裂く、音を超えるような衝撃音。
ナイトバードよりもやや細長い銀色の機体に跨った航空隊が空を飛ぶ。
「アレは……!! ゼロ・ホース! ロールアウトしていたのか!!」
次々飛んでくる輸送機とドッグファイトを繰り広げていた。
「ヒャッハーーーー!! 今までの俺達とは一味違うぜ!!」
ゼロ・ホース……零式空中戦闘騎は96式空中戦闘騎ナイトバードをより発展させた新型だ。
機体の軽量化、主機のベクタードスラスト化により近接格闘戦能力を限界まで高め、カリッカリにチューンされたエンジンはピーキーな調整故人を選ぶものの、簡略化された操作系と高度な飛行支援OSを搭載する事で、適正の高い人が乗った場合には無類の強さを発揮する。
アクエリアスの火器管制システムをコピーしたものが搭載されており、少しの操作で対地攻撃や電子戦も可能と、マルチロール性能も高い万能戦闘騎という仕上がりだ。
また別のゼロ・ホースが次々と戦車や装甲車、強襲揚陸艇を破壊していく。
敵兵も皆、空を見上げる。
その隙にシオンは自分を掴んでいる腕に噛みつく。
「いだだだっ!!」
敵兵が思わず手を離した隙にシオンは走って離脱した。
「翼君!!」
「止まれ、止まらんと撃つぞ!!」
後ろから敵兵が銃剣を構えて走ってくる。
逃げた先は行き止まりだった。
もう逃げ場がない、と思った矢先、上空からの機銃掃射が帝国兵を消し飛ばした。
ゼロ・ホースに乗ったアンだった。
「掴まって! 早く逃げるわよ!」
俺はシオンと一緒にゼロ・ホースに掴まり、そのまま元来た場所へと戻る。
この樹海の端、透明な壁に擬態した扉だ。
その前には彼女の部下二人が立っていた。
「格納庫の扉を開け!」
アンが命じるとその扉が開き、ゼロ・ホースに乗ったまま通過した。
「乗員全ての収容終わりました!」
ラクシェネラの報告を受け、クリスタルがモノリスに戻った事を確認すると、艦長は告げる。
「今だ!! 脱出するぞ、アクエリアス、浮上!」
アクエリアスが地上に近づくと格納庫が開き、地上へと脱出した。
そして、再び目的地へと向かい飛翔した。
フック艦長は報告書に目を通すと、なるほどな……と呟く。
「思い出したことが1つある」
俺とシオンはその話に耳を傾けた。
「バビロンは私と同じ世界、同じ時代から来た者だ。薄い糸のような何かでの繋がりを感じる」
「私となんの因果があったのかはわからないが、恐らく私の使命は奴の遺した負の遺産を消す事だ」
ふと、俺はラクシェネラが見ていた電子制御装置の操作パネルに目を奪われた。
それは、ヒラガやマルコのものとは違う。古代ホルスーシャ文字とほとんど変わらなかったからだ。
――目標地点到達まで残り65,000キオメルテ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
零式空中戦闘騎 KN-2 ゼロ・ホース
開発:アクエリアス工作班
装甲:超アダマン合金
全長:3.5メルテ
全幅:0.3メルテ
全高:1.5メルテ
最大速力:252ロノート
主機:パルスジェットエンジン E-21
兵装
20モアメルテ近接格闘機銃
56モアメルテ榴弾砲
無誘導ロケット弾
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