第16話 エクセリア

「あ、なにさんでしたっけ?」


 すみません。なにさんだったか完全に忘れてしまいました。


「ロンドルの民。エルセイの森のエクセリアよ!」


「じゃあ、エクセリアさんと呼んでも構いませんか?」


 まさか「ロンドルの民。エルセイの森のエクセリア」が一つの名前ってわけじゃないだろうし、エクセリアが個体名なんだろうよ。


「え、ええ、構わないわ。ヤマザキソレガシ」


「某で構いませんよ。山崎は家名なんで」


 ヤマザキソレガシって呼ばれるのも違和感しかないからな。


「オレは魔物を倒さないといけないので失礼しますね」


「あ、女王の下にいると言うならロンドルの民が盟約を果たしにきたと伝えて欲しい。そう言えば伝わるはずよ」


 なにやらアルティア王国と深い繋がりがある感じ。それなら無視するわけにはいかないか。まずはロイズさんに話してみるとしよう。


「わかりました。では、城下町に向かいましょう」


 まずは下町に向かい、巡回している兵士を捕まえてロイズさんを呼んできてもらった。


「──エクセリア様!?」


 様? 偉い人だったのか? 何者?!


「ロイズ、だったかしら? 老けたわね」


 やはりエルフだから長寿のようだ。何百年と生きているんだろうか? 見た目は少女のようなのに。


「あなたは変わりませんな」


「エルフでも長命なロンドルの民だからね。十年二十年では変わらないわ。マイレティアは元気?」


「はい。ソレガシ殿のお陰で元気に過ごしております」


 と、オレを見るエクセリアさん。まあ、どこの馬の骨ともわからない男。そう簡単には警戒は解けないだろうよ。


「こちらへ」


「では、オレは魔物を殺してきますね」


 オレがついていってもやることもないので、命を刈りにいくとしよう。


「あ、ソレガシ殿もお願いします。陛下からソレガシ殿を紹介していただきたいので」


 さっき自己紹介しましたよ。と、言える空気ではないので、わかりましたと答えてあとに続いた。


「……かなり被害が出ているのね……」


 下町のあちこちで復興が始まっているが、元の下町を知っているエクセリアさんにはショックのようだ。


「灰塵と化す前にソレガシ殿が魔物たちを全滅してくださいました」


「一人で?」


「はい。それはもう鬼神のようでした」


 この世界にも鬼神っているんだ。女神様に会ったことあるオレとしてはなんら感動はないな。


 下町から城下町に入り、評議会館に向かった。


「城下町は無事のようね」


「はい。評議会が善戦してくれました」


 さすがに閉じ籠もっていたとは言えんか。城下町の人たちが何事かとこちらを見ているんだからな。


 先に誰かを走らせていたのか、評議会館の前にティア様が待っていた。エクセリアさん、女王が自ら出迎えるほどの存在なんだ。さんじゃなく、様呼びのほうがいいんだろうか?


「……エクセリア様……」


「遅れてごめんなさい。あなたが無事でよかったわ」


 抱き合う二人。いったいどんな関係なんだ? 深い関係なのはわかるけどさ。


 ……どんな関係かを察せられないのがオレの欠点だな……。


 人と関わるのを避けてきた結果とは言え、この世界で生きていくならもっと人との関わりを持っていかないとダメだな。オレ一人で魔王を倒せるとは思えないし……。


 二人の抱擁が終わり、評議会館に入った。なぜかオレも。


 ティナ様の部屋に向かい、これまたなぜか三人だけになってしまった。いや、オレがいてもなんら役にも立ちませんけど。


「エクセリア様。ソレガシ様が女神の使徒であることはお聞きになさいましたか?」


 女神の使徒? オレ、そんな扱いになってんの? まあ、勇者とかにされるよりはマシだけどさ。


「女神に連れてこられとは聞いた。それは本当なのか? 疑って申し訳ないが……」


 いやまあ、いきなり信じられる人はいないでしょうよ。オレだって「神を信じますか?」と言われたって信じるわけがないし。


「ソレガシ様。エクセリア様を仲間にしていただけませんでしょうか? エクセリア様なら頼もしい仲間となるはずです。アルティア王国の守護者ですから」


 守護者? このピンク髪のエルフさんが? いや、オレを吹き飛ばすんだからかなりの実力者ってのはわかるが。


「まあ、エクセリアさんは魔法使いのようですし、仲間になっていただけるならありがたいですが、エクセリアさん的にはどうなんです? あなたからしたらどこの馬の骨ともわからない男ですしね」


 どこの馬の骨が通じるかわからんが、ついさっき会ったばかりの殺戮者。信頼どころか不審しかないだろうよ。


「いいだろう。ティナを助けてくれ、魔物を倒す腕を持つ。少し話してみても邪心も感じない。なにより、本当に女神の使徒ならこちらから頭を下げるべきだ」


「いや、頭は下げないでください。オレが魔王を倒すのは私情であってこの国のためでもなければティナ様のためでもありません。オレが決めたことです」


 リミット様から頼まれたとは言え、愛華を救うチャンスを与えてくれた。それだけで命を懸ける理由になる。


「ソレガシ様はこういう方です。信じるに値します」


 ティナ様からの信頼が重い。オレはそこまでの男じゃありませんよ。


「わかった。頭は下げない。同等な立場として仲間にしてくれ」


 うん。こういう人が仲間になってくれたら心強そうだ。同等の立場として仲間になってもらうことにしよう。


「エクセリアさんを仲間とします」

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女神のような女性から魔王を倒せと異世界に転移させられた山崎某、血塗れになりながら戦っています タカハシあん @antakahasi

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