第10話 一人目の仲間

 じゃあ、やることもないし、セフティーホームに戻ろうとしたら侍女さんに呼び止められた。なんでしょう?


「陛下をソレガシ様のところに連れていってもらえませんでしょうか?」


 はぁ? え? どーゆーこと?


「陛下の安全と安らぎを確保したいのです」


 ……つまり、女王様をオレの部屋に入れろと? 


「いやいやいや、それは大問題でしょう! 相手は女王様ですよ!? 不味いでしょう!!」


 なにもしないとは言え、男女が二人っきりって醜聞以外なにものでもない。そんなこと知られたら大問題になるでしょう!


「ソレガシ様なら問題ありません」


 なぜに?


「陛下にはお子様がおります。王都を奪還できれば王の座から降りるとのことです。ですが、それまでは陛下には生きてもらわねばなりません。醜聞など許容ないです」


 そ、そういうものなの? よくわからんけどさぁ……。


「ダメでしょうか?」


「んー。オレのところは魔王を倒す仲間にならないと入れないんですよね。しかも、五人までしか入れません。その枠にティア様を入れるのはちょっと……」


 まさか女王を魔王退治に連れていくわけにはいかんでしょう。醜聞以上に大問題になるわ。


 ──ピローン。


 ん? なんだ? なんの音だ? 


 ──仲間は何人でも構いません。ただ、入れるのは五人までです。一人でも多く仲間を集め魔王を退治してください。アルティア王国を奪還した暁には一千万円のボーナスと入室許可を六人に許可します。


 え? 今の声、リミット様? なんなのいったい!?


「ソレガシ様、どうなさいましたか?」


「あ、いや、リミット様、女神様の声がして……」


 なぜこのタイミング? リミット様はオレを見ているってことか? なんか緊張するんですけど!


「し、神託ですか?」


「あ、いや、そこまで仰々しいものでは。アルティア王国を奪還した暁には六人まで入れるようにしてくれるそうです」


 一千万円のことは黙っておこう。お金のことだしな。


「女神様が陛下を認めたということですか?」


「え? いや、まあ、そう……なんですかね?」


 まあ、このタイミングで言ってきたからそうだととられても仕方がない、のか?


「ティア様はなんとおっしゃってるんです? さすがに嫌がる女性を連れ込むなんてできませんよ」


 童貞でも紳士たれ。拒んでいる女性を連れ込むなんてできないからな。


「問題ありません。陛下は嫌がりませんから」


 なんて断言されて返す言葉がない。


 まあ、子供産んでるなら母は強しな感じなんだろう。たぶん……。


 別の部屋で待っていると、ティア様が荷物を持ってやってきた。


「ソレガシ様。よろしくお願いします」


「オレ、侍女さんのようなことできませんよ?」


 やれと言われても困るよ。服なんて脱がせないし!


「自分のことは自分でやれますよ。子供ではないのですから」


 女王様って自分で着替えるものなのか? 何人もの侍女に着替えさせられるイメージなんだが……。


「わ、わかりました。ティア様を仲間にします」


 ──ピローン。


 また音がした。


 ──マイレティア・オル・アルティアが山崎某さんの仲間に加わりました。力を合わせて魔王を倒すことを願います。


「え? なんですか、今の声は?」


 オレだけじゃなく仲間になるとリミット様の声が聞こえる仕様になるんだ。


「今のがリミット様。オレに魔王退治をお願いした女神様です」


「……い、今のが、女神様……」


 なにか震え出したと思ったら両膝を床につけて祈り出した。ど、どうしたのよ!?


「あぁ、女神リミット様。ソレガシ様をお寄越しくださりありがとうございます。この身尽きるまであなた様に捧げます」


 神様なんて縁遠い世界で生きてきた者としては大袈裟な、と思うけど、魔王がいるファンタジー世界では神が身近にいるんだろうな~。もしかして、軽く対応しているオレって、もしかして罰当たりなんだろうか?


 十分くらいリミット様に祈りを捧げてやっと立ち上がってくれた。


「ティア様。入り方はわかりますか?」


「はい。リミット様より教えていただきました。エレン。あとはお願いね。朝には戻ってくるわ」


「はい。ゆっくりお休みください」


 今さらだが、この侍女さんってタダ者ではない? 物凄く冷静なんですけど。


「ソレガシ様。お先に入らせていただきます」


「あ、荷物が多いので気をつけてくださいね」


「はい。わかりました──」


 スッと消えるティア様。セフティーホームに入るときってこうなるんだ。知らない者が見たらびっくらこくな……。


「えーと。では、オレも失礼しますね」


「はい。陛下をよろしくお願い致します」


 なにができるかわからないが、わかりましたと返事してセフティーホームに入った。


 玄関に現れると、横にティア様がいた。


 さすが女神製。ぶつかるってことはないのか。オレが思う以上にしっかりしている場所なんだな。


「まだ散らかったままですが、遠慮なく上がってください。あ、靴は脱いでくださいね。ここ、土足厳禁なので」


 玄関で靴を脱ぎ、部屋に上がってみせた。


「はい。失礼します」


 ティア様が素直に靴を脱ぎ、部屋へ上がった。


 しかし、最初の仲間が女王様とか、オレの魔王退治、どうなるんだろうな?

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