第11話 ルームシェア
「……ここが、ソレガシ様の家ですか……」
造りが違うからか、ティア様がびっくり眼でセフティーホームを見ていた。
「散らかっててすみません。まだ魔石が足りなくて部屋を拡張できないんです」
辛うじて横になるスペースは作れたけど、一国の女王様を迎えるには狭すぎる。不敬以外なにものでもないな。
「凄い荷物ですね」
「ええ。この世界にくるときリミット様からいただいた資金で用意しました。まずは風呂にでも入ってください」
その間にティア様が寝れる場所を作らねば。
脱衣場の使い方と風呂の使い方を教え、衣服は洗濯機に入れてもらい、スイッチを入れてもらうようにする。
洗濯機は全自動で乾燥までしてくれるもの。上がるまでは……乾かないか。着替えはオレのスエット(新品)を着てもらうか。下着はないのでお許しくださいませ。
「わからないときは声をかけてください」
まあ、声をかけられても入ってはいけないけどさ。
「はい。ありがとうございます」
さっさと脱衣場から出て荷物を端に片付け、なんとか布団を敷ける空間を作った。オレの寝るところは三十センチになってしまったがな……。
流し台によりかかりながらタバコを一服。換気扇の下でとか居場所のないお父さんになった気分だよ。
三十分くらいしてティア様が風呂から上がってきた。
「ティア様は酒は飲めますか?」
「はい。大好きです」
あ、うん。それはなによりです。
冷蔵庫からスパークリングワインを出してやり、グラスに注いで渡した。
「とても美味しいです」
とても笑顔なティア様。買っておいてよかったです。
「オレはあまり酒は飲まないのであまり買ってないんですが、この冷蔵庫って箱に入っているので好きに飲んでください」
たまに飲みたくはなるが、なければないで一向に構わない。この世界にも酒はあるだろうしな。
「部屋の中のものも自由に使ってくれて構いませんから」
男一人暮らし。女性が興味を持つものがあるかわからないが、ここに入れるようになったらティア様のものにもなる。お好きにどうぞ、だ。
「あ、タバコはダメですよ。体に悪いものですから」
できればタバコは吸わないでください。限りがあるものなので。
「悪いものを吸っているのですか?」
「オレは体が丈夫なので毒にも強いんです。これは精神を落ち着かせるために吸っているんですよ」
力のコントロールはできているとは言え、感情の生き物。ちょっとの感情から相手を傷つけてしまう恐れがある。吸えば落ち着くと暗示をかけてもいるのだ。
「魔石が集まったら喫煙室を創るので、それまで許してください」
明日から魔物狩りを始めんとな。
「飲んだら休んでください。そこを使ってくれて構わないので」
セフティーホームの温度は二十四度。タオルケットをかけたら寒くはないはずだ。
「ソレガシ様はどこで休まれるのです?」
「オレはそこで寝ます」
三十センチの隙間を指差した。
「こちらを使ってください。わたしがそちらで休みます」
「女性にそんなことはさせられませんよ」
さすがに女王様にさせたと配下の者に知られたら大顰蹙を買うわ。今後を考えたら三十センチの隙間で寝ることくらい造作もないわ。
「気にしないでください。オレはどこでも眠れますから」
タバコを吸い終わり、オレも風呂に入ることにする。
五分くらいで上がってきたらティア様は眠りについていた。
疲れているんだろうな。女王としての立場で、弱いところを見せないでいるとか想像を絶するプレッシャーだろうよ。オレなら胃に穴が空いて、吐血血便しているところだ。
タオルケットをかけてやり、オレもビールを一缶飲んで眠りについた。
朝、気持ちよく目覚めたらティア様は起きており、積み重ねてある荷物を移していた。
「おはようございます。うるさくしてすみません」
「いえ、大丈夫ですよ。荷物、崩れましたか?」
かなり無理して積み重ねたからな~。ちょっとぶつけても崩れてしまっても不思議じゃない。
「いえ、外に出しても大丈夫なものを選んでました」
うん? どういうこと?
「衣服と紙の箱に入ったものを外に置いてはどうでしょうか? わたしの部屋なら側仕えしか入りません。今すぐ必要ではないものを出せばソレガシ様もゆっくり眠れるはずです」
なるほど。その発想はなかった。
必要最低限のものがあれば荷物は外に置いても構わない。ティア様の部屋に置いておけばティア様が入れてくれるんだからな。
「そうですね。そうしましょうか」
さすがに毎日三十センチの隙間で寝るのは勘弁してもらいたいしな。
「とは言え、なにがなんだかわからない状態なんで、とりあえず外に出しましょうか。ティア様の荷物も運び込む必要もありますしね」
女性の荷物は多いもの。押し入れの上を開けるとしよう。
ティア様が脱衣場で着替え、荷物を出すことを伝えに出た。
その間に顔を洗ったりして用意を済ませる。出た先はティア様の部屋(寝室)だ。仕える侍女さんがいるのだから身嗜みはしっかりしないとな。
一時間くらいしてティア様が入ってきた。女王スタイルで。
「話をつけてきました。運び出しましょう」
と言うので、運び出しを開始した。
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