第9話 評議会館

 進軍することしばし。城下町に続く門のところまでやってきた。


「……大きい門ですね……」


 ここはモビルなスーツでも往来してんの? 軽く二十メートルはあんじゃね? てか、どうやって開くの?


「その昔、巨人が造ったとされています」


 巨人? この世界、巨人までいんの!? さすがに巨人と戦えってことはないよな? さすがのオレでも巨人には勝てんぞ! いや、どうなんだ? 巨人が強いならオレを呼び寄せる必要もないはず。オレ、もしかして巨人より強いのか?


 どうするんだ? と見てたらなにか銅鑼が鳴った。


 銅鑼の音は徐々に高くなり、それに合わせて巨大な扉が開いていった。マジか!?


 扉が完全に開き、その奥に街が見えた。


「ソレガシ様」


 ティア様に促されて門を潜った。


 大歓迎、ってことはなく、街の人たちが遠巻きにこちらを見ていた。


「歓迎されてません?」


「魔王軍に追いやられた王ですから」


 まあ、確かにそうか。自分たちを守る相手が捕まってたら信頼もなくすわな。


「でしたら城に向かっては? どこかに隠し通路があるならそこから突入して倒してきますよ」


 オレにはこの状況を覆すことなんてオレにはできない。できることは魔王軍と戦うことくらいだ。


「いえ。兵の士気を高めるためにも城下町を支配下に置いておきたいのです」


 ティア様がそう言うならそうなんだろう。なら、従うまでだ。


 進軍は街の中心まで続き、なにか高い建物の前でやってきた。なんです、ここ?


「評議会館です。城下町は評議員が治めているのです」


 ん? ここ王国だよね? なのに評議員? 統治するけど管理せず、ってことか? 


 その評議員らしき偉そうな男たちが片膝を突いて頭を下げていた。


「苦労をかけました。ですが、反撃の時です。神が魔王と戦う戦士を遣わせてくださいました」


 なんとも怪しいセリフだが、評議員の方々は誰一人異義を唱える者はなし。無視してんのか?


 ドン! と石畳を踏み抜いた。


 その音と衝撃に評議員たちが驚いて顔を上げた。


 城下町の方々には申し訳ないが、オレの後ろ盾はティア様だ。なら、優先させるべきはティア様の利益や安全。恨まれてもティア様の味方でいるべきだ。


「わたしは、山崎某。魔王とその配下を滅ぼすために神より遣わされた。女王陛下に仇なす者は敵と見なす!」


 オレに闘気とオーラとかはないが、力だけならある。また床を踏み締めて評議員たちをビビらしてやった。


「ソレガシ様。ご安心ください。この国に魔王に魂を売った者はおりませんわ。バルダル。そうですよね?」


 ティア様が優しく微笑みながら頭のハゲた六十くらいの男を見た。こいつが代表か。


「は、はい。評議会は、陛下とともに魔王軍と戦う所存です」


「我が国の民が勇敢で嬉しく思います。王都に巣くう魔王軍をともに戦いましょう」


 それで流れはティア様に向き、評議会館を一時的に王国軍の本部となった。


 しがないサラリーマンには手伝うことはなにもないので、ティア様の後ろに立って評議員たちを威嚇した。


 ……圧政かな……?


 まあ、圧政でも構わない。圧政できるってことは人間が治めているってこと。魔物のエサになるよりはマシだろうよ。


 会議は三日と続いたが、なんとかティア様が城下町を掌握できた。どの世界の会議も長くて嫌になるよ……。


 評議会館そのものを徴収し、一番よい部屋をティア様に与えられ、なぜかオレもその部屋で寛いでいた。 


 もちろん、世話係の侍女さんたちがいるので二人っきりってわけじゃないけど、なんか居心地が悪い。ティア様が偉い人ってこともあるが、女性ばかりの部屋にいるってのは落ち着かないよ。


「ソレガシ様、ありがとうございました。問題なく纏めることができました」


「オレは横に立っていただけですよ」


 本当に立っていただけで、話なんか聞いちゃいなかった。清流のように右から左に流れていったよ。


「横にいていただいたことが力となりました。わたくしだけではこうはいかなかったでしょうから」


「それはオレも同じですよ。ティア様がいなければ戸惑っていたでしょうからね」


 魔王軍の倒し方、なんてまったく知らない。一人だったら牢屋の中でタバコ吸っているだけだったろうよ。


「ところで、これからどうするので? 軍の再編ですか?」


 そんな話していたらごめんなさい。


「それもありますが、まずは情報収集ですね。魔王軍の本隊は王都に閉じ籠り、別動隊は逃げてしまったそうです。攻めたときに逃げた民もいます。王都に攻めるには国を纏める必要があります」


 まあ、まずは建て直さなきゃいけないか。烏合の衆では反撃もできないしな。


「兵士は集められそうなんですか?」


「第三軍と第五軍は無事のようで、周辺都市で魔王軍の進攻を抑えているそうです。残念ながら第一軍と第二軍は壊滅。数百人しか残ってないとか。第四、第六軍の状況はまだ確認中です」


 手遅れ、って状況ではなさそうだ。


「でしたらオレも外にいる魔王軍を倒しにいきますよ」


 オレは魔王軍を倒してなんぼ。閉じ籠っていては愛華も救えないしな。


「お願いします。ですが、もう少しわたくしにお付き合いできますか? まだ城下町を纏め切れてませんので」


 え? そうなの? 評議員は協力的、とはいかないが、逆らうような気概はなかった感じだ。


「わかりました。ティア様がいないとどうしようもありませんしね。足場が固まるまで側にいます」


 急がば回れ。まずは足場固めをしっかりやるとしよう。この世界のことも知らないしな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る