第7話 頭下げすぎ問題

「明日、城下町へ続く門が開いたらそちらに移動します。ソレガシ様も同行していただけますか?」


「はい、わかりました。同行させていただきます」


 今後の予定も計画もない。今は女王様の流れに乗っておこう。どうせ、王宮を占拠している魔王軍を倒さないとうけないんだしな。


「ソレガシ殿」


 と、初老の男性に名を呼ばれ、そちらを向いた。


「わしは、宮廷魔導師団、次席長のマイゼル・サナリアと申す」


 それがどのくらいの地位かわからないが、とりあえず偉い人認定して深々と頭を下げておいた。オレ、偉い人とは争いたくないので。


「まずは救っていただいたことを感謝する」


 マイゼルさんも深々と頭を下げた。


 しかし、どこの馬の骨ともしらない男に随分と丁寧だこと。もっとこう、頭ごなしに言われると思ったんだがな。ここの偉い人は人格者がデフォなのか?


「いえ、どう致しまして。わたしは、魔王を倒すためにここにきただけなので」


「勇者なので?」


「自ら勇者とは恥ずかしくて言えませんね。別に世界を救いたくて魔王を倒そうとは思ってないので。これはわたしの事情。わたしの意思で魔王を倒します」


 魔王になんの恨みもないが、愛華のために死んでもらう。魔王に嫁や子供がいようと、オレが大切に思うのは愛華を救えるなら鬼にも悪魔にもなってやるさ。


「そ、そうか。ソレガシ殿の思いは理解した」


「ソレガシ殿。わたしは、タイゼント・ロン・マイオリオ侯爵。アルティア王国の宰相だ」


 次に口を開いたのは四十歳くらいの男性だ。宰相って大臣みたいなものだっけ? まあ、この人も偉い人って認識しておこう。


 宰相さんも頭を下げたので、オレはさらに頭を下げておいた。と言うか、この国はお辞儀とかあるのか? 偉い人なのに頭下げているけど?


「王都を取り返すために動いていただけるそうだが」


「魔王、正確に言えば魔王軍に所属する者を殺せばその命がわたしに入ります。微々たるものですが、その命はわたしの姪を救います。あと、魔石はわたしの住む家を拡張できる力となります。わたしに名誉も財産も権力も無用。いや、魔王と戦う資金はいただけると助かります。わたしには金儲けする才がないので」


 誰かの下について、ノルマ達成のために働いているのが性に合っている。


「資金をいただけるなら女王陛下の名で魔王の下に向かいましょう」


 その名声や成果は女王様に差し上げます。下手に睨まれても面倒だからな。


「そなたはそれでよいのか?」


「構いません。名誉も名声もあったところでわたしの手には余るもの。それなら魔王軍の情報をいただくほうがありがたいです」


 オレ、警戒されてんのかな? 自分たちの地位を脅かすヤツって? 金ならまだしも爵位や領地をもらったってオレにどうこうできる能力はない。もらったとして早々に破綻するのが目に見えるよ。


「わたしの言葉が信じられないのなら、王都の魔王軍を排除したら速やかにこの地を去ります」


「──いや、誤解なさらないで欲しい。確かにソレガシ殿を信頼できるかと言えば、わからぬとしか言いようがない。だが、ソレガシ殿の行動を見ていれば悪意がないことはわかる」


 それはよかった。見る目がある人で。


「こちらはソレガシ殿のお陰でこうして生きていられ、ソレガシ殿の力がなければここから出ることもままならぬ。害することなどできようもない」


「その通り。ソレガシ殿に頼らねばならぬ立場。ソレガシ殿から信用を得なければならないのはわしらのほうだ」


「ソレガシ様」


 二人が熱くなる中、女王様が静かに口を開いた。


「国を導かなければならない王がこんなことを口にするなど情けない限りですが、あなた様の力をどうかこの国のためにお貸しくださいませ」


 女王様が空気マットから下り、片膝をついて頭を下げた。いや、宰相さんも次席長さんも同じように頭を下げてきた。


 え、えーーーっ!? なにこれ? 王が頭を下げたりしていいの?! いや、ダメでしょ!! なにが不味いとはすぐには言えないけど、それは不味いでしょう!!


「あ、頭を上げてください! もとより魔王を倒すためにきたのです。この力でよければいくらでもお貸ししますよ!」


 こんなところ見られたらオレのほうが不味いような気がする。妬まれたり疎外されたりするのが嫌だから下手に出てんだからさ、そういうの止めてよ!


「ありがとうございます」


 だからそう簡単に頭を下げないでくださいよ! 女王様なら命令してくれたらそれでいいんだからさ!


 いや、女王様に命令とか、なんか卑猥な気がしないでもないが、いや、オレにマゾの気はない。こ、これは偉い人には従う性を持ったサラリーマンの本能なんだ!


「では、明日のために休ませていただきます」


 失礼だろうが無礼だとか構うものかと、そそくさと女王様の前から下がった。


 天幕を出たらロイズさんと兵士が何人かいた。


「ソレガシ殿。これを。トールの魔石です」


 なにかの革袋を三つ渡された。さすがにあれだけの数の魔石となると結構な量になるな。


「ありがとうございます。申し訳ありませんが、明日のために先に休ませてもらいます。朝にはまた出てきます」


「はい。ごゆっくりお休みください」


 ほんと、頭を下げるの止めて欲しい。オレは頭を下げられる存在じゃないんだからよ!


 文句を言っても無駄だろうと、出かかった言葉を飲み込んでセフティーホームに逃げ込んだ。

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