第6話 王座を追われた女王
地下の闘技場まできたら天幕がいくつも張られていた。
どこから持ってきたかわからないが、しっかりしたものだ。ボロ布を纏っていた者も豚頭が装備していた革鎧を着ていた。あ、ロイズさんがここは軍の駐屯地って言ってたっけ。なら、軍の備品があっても不思議じゃないか。
「あの、女王様はどちらにいますか?」
ちょうどよく通りかかった女性に尋ねた。
「あ、ソレガシ様。水をいただけませんでしょうか? 陛下を綺麗にして差し上げたいのです」
「え、あ、はい。構いませんよ。すぐに用意します」
確かなんかの役に立つだろうと盥を買ったはず。あと、タオルと石鹸も渡しておくか。
女王様の天幕まで案内してもらい、そこでホームに入った。
血塗れの背広やズボン、シャツ、ネクタイ、靴下をランドリーボックスに入れ、流しで体を洗った。風呂にも荷物を放り込んだので使えないんです。
盥と水をえっちらほっちら運び出し、あとは女性たちに任せた。
「一服するか」
部屋着に着替えてもタバコとライターは忘れない。天幕の森から離れ、ヤンキー座りをしながら一服した。フー。ウメー!
一本吸って気分が落ち着いた。落ち着いたらいろいろ不安やら戸惑いやらが湧いてきた。
「……これからどうしようかね……?」
いや、女王様に後ろ盾になってもらい魔王と戦うとは考えたが、あくまでも大雑把な思いつき。細かいことなんてなにも考えてない。魔王退治ってどうやるものなんだ?
コントローラを壊すからと、これまでゲームなんてしてこなかった。だから、勇者が魔王を倒す工程(?)など曖昧にしか知らない。旅に出たら自然と魔王の情報が得られるのか? 魔物倒したら辿り着けるのか? リミット様、説明書くださいよ……。
勝手にやれ、ってのはさすがに鬼仕様ですよ。せめて次の目標を教えてくださいよ……。
どうしたものかと悩んでいたらさっきの女性がやってきた。
「ソレガシ様。度々申し訳ありません。なにか羽織るものはありませんでしょうか? 陛下が寒そうにしているのです」
「ここには備品とかないのですか?」
「はい。何十年と閉鎖していたところなので、大したものは運び出されておりました。武器や食料などはあったのですが……」
「東区の城下町には?」
「兵士が向かいましたが、堅く閉ざされているようで回り道しても明日になりそうだと申しておりました」
明日か。まあ、城下町にいけるなら今日を乗り切ればいいってことか。確か、旅になるかもと空気マットを買ったはず。
「少しお待ちを。探してきます」
片付けが隔たなので、どこに置いたかわからんのですよ。
セフティーホームに入って空気マット探しだが、羽織るものが見つからない。冬物買ったはずなんだけどな~。ほんと、早く拡張しないとここの意味がなくなるな。
見つからないのでとりあえず空気マットとバスタオルを持って外に出た。
「貴重なものをすみません」
「構いませんよ。魔王を倒すために国の、女王様の支援が必要ですからね。これくらいで済むなら安いものです」
オレの人生で絶対欠かせないのはタバコだ。これと言った趣味もなく、好き嫌いもない。酒も嗜むていどだ。
つまらない人生だとよく言われるが、オレみたいな特異体質は普通に暮らせるだけで幸せだ。迫害されるとか謎の研究所で解剖されるとか御免だからな。
グゥ~。
さすがにあれだけ暴れたら腹は減るか。
普段は力を使わないようにしているから食べる量は普通の人と同じだが、特異能力を使うと、それに見合った食事をしないと倒れてしまうのだ。まったく、面倒な力だよ。
「食事をしてきます」
一礼して女王様の前から下がり、食事担当の人に豚頭の肉を焼いてもらい、焼肉のタレかけて腹が満ちるまで食べ続けた。
……慣れると豚頭も結構イケるな……。
二頭分くらい食べてやっと腹が満ちてくれた。てかオレ、こんなに食えたんだ! 五十キロは余裕で食ったぞ!?
「……まさか、胃も特異だったとは思わなかったよ……」
これまでで一番のドン引きだよ。オレ、気持ちワリー。
まあ、バケモノがよりバケモノになっただけ。それより食後の一服だ。これだけは止められないんだよ。プハー。
「ソレガシ様。陛下がお呼びです」
一本吸った頃、先ほどの女性がやってきた。
「わかりました。着替えたらすぐいきます」
さっきは部屋着で会ってしまったが、一国の女王様にあれは失礼だろう。あちらも似たような格好だったとしても。あ、そう言えば、冬に備えてコートを買ったな。あれを着てもらおうとしよう。
ランドリーボックスで綺麗になった背広を着込み、さらにぐちゅぐちゃになった中にコートが出ているのに気がついて引っ張り出した。
外に出て女王様の天幕にいくと、ロイズさんがいて、中に通してくれた。
女王様と先ほどの女性だけかと思ったら、四十歳くらいの男性と初老の男性がいた。誰?
「ソレガシ様。お休みのところ呼び出して申し訳ありません」
「いえ、構いません。あ、男物で恐縮ですが、これを羽織ってください。バスタオルは膝にでもかけてください」
控えていた女性にコートを渡した。
「ありがとうございます。ソレガシ様には助けられてばかりですね」
「見返りを求めてのこと。王座に戻れたら魔王退治にご協力お願いします」
片膝をついて女王様に頭を下げた。
おそらく、二人の男は地位のある存在だ。今後のことを考えて女王様にへりくだった態度を取ってみせた。
「今のわたくしは王座を追われた女王。畏まらず楽にしてくだい」
いいのかな? と思いながらも女王様に対する作法なんて知らん。お言葉に甘えて胡座をかいて座らせてもらった。
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