第4話 バールのようなもの

 とりあえず、鉄格子を取っ払って女王様を外に出した。


「感謝します。ヤマザキソレガシ様」


 辛い日々を送ってきただろうに、心を折ることなく気丈に振る舞っている。女王とは凄いものだ。


「某で構いませんよ。オレは貴族でもなければ立派な肩書きもありませんから」


 今のオレはただの殺戮者。敬意を受けるどころか軽蔑される立場だろうよ。


「では、ソレガシ様と呼ばせていただきます」


「お好きにどうぞ」


 まあ、女王様が「おい、ソレガシ」とか乱暴には呼べないだろう。いいように呼んでください、だ。


「ソレガシ様。他の檻も開けていただけませんでしょうか? 兵だった者もいます。自由にしていただければソレガシ様の力に成れるかと」


 なるほど。兵士に魔石を取り出してもらえばいいのか。女王様、ナイス!


「わかりました。すべて開けましょう」


 片っ端から鉄格子をとりあえずいった。


 豚頭を殴っているときは気づかなかったが、この牢屋、やけに広くないか?  一人用独房が百以上あり、捕まっていた者らと階段を上がるとドーム状の空間に出た。


「……ここは……?」


「我が国の地下闘技場です。その昔、ここでは剣闘士たちが戦っていたそうですが、八十年前に剣闘士同士の戦いは禁止され、魔王軍が攻めてくるまでは封鎖されておりました」


 歩くのもやっとだろうに、気丈にもオレの呟きに答えてくれた。


「少し、待っててください」


 セフティーホームに入り、荷物の中からカセットコンロとガス、鍋に紙コップ、ヤカンに水を入れて外に出た。


 カセットコンロにヤカンをかけ、少し沸かしてから女王様に飲ませ、他の人にも飲ませていった。


 何度か水を汲んでは沸かしを繰り返し、捕まっていた者たちに水分を取らせた。


「助かりました。閉じ込められてからまともに口にできることは少なかったものですから」


 白湯を飲んだだけなのに、少し顔色がよくなった囚われ人たち。異世界人の回復力どうなってんの?


「ソレガシ様。火を貸していただけませんでしょうか? 皆にトールを食べさせたいので」


 一人の男性がそんなことを言ってきた。トール?


「ソレガシ様が倒した魔物です。本来は野にいる魔物で、我々には狩りの対象でした」


 首を傾げたら豚頭がトールって言う魔物であり、狩って食べるものなんだとか。さすが異世界。食文化が違いすぎる……。


 とは言え、郷に入れば郷に従え、だ。オレもこの世界で生きていいかなければならないのだから魔物の一つや二つ、食えるようになっておかなければいけないだろう。


 刃物は豚頭たちが人間から奪ったものを使っていたので解体に苦労はしなかったが、血抜きも不完全なものを鍋で焼いただけのものを食うっていうのは抵抗がある。ありすぎる。


 なので、ホームから味塩こしょうを持ってきて振りかけて食べてもらった。


「美味い!」


「こんな美味いトールは初めてだ!」


 なにやら大好評のようでガス缶を十二本も使ってカセットコンロが壊れてしまったが、あと九台あるので問題ない。もう一台引っ張り出してきて、次はフライパンで焼きまくった。


 皆が充分に食べたらオレもいただいた。


 ちょっと血生臭くて獣臭があるが、そう悪い味はしなかった。ちゃんと処理したら美味しいのかもしれないな。


 ポリタンクに水を汲んできて、ヤカンで沸かしてインスタントのレモンティーを入れてやって皆に飲ませた。


 貴重な物資が減ってしまうが、異世界での協力者は必要だ。それが、女王となればカセットコンロやレモンティーくらい安いものだ。国家が後ろ盾となってくれれば魔王退治に苦労しないだろうからな。


「ソレガシ様。魔石を集めてきました」


 髭もじゃの男性がボロ切れに魔石を包んで持ってきてくれた。


「ありがとうございます。助かります」


 数は力とはよく言ったものだ。オレ一人だったら早々に諦め……てたな。オレ、根性なしすぎる……。


「陛下。これより地上に向かいます」


「ロイズ。無理をしてはなりません。まだ体力も回復してないのですから」


 長いこと牢に入れられてただろうに、衰えぬ筋肉がタダ者ではないと語っている。この国の将軍とかだろうか?


「それならオレがいきますよ。魔石が欲しいので」


 集めてもらってなんだが、これっぽっちでは六畳間も拡張できない。緑色のバケモノとバケモノ鎧をボックスに入れてみたが、冷蔵庫一つ置けるかどうかしか拡張できなかった。


 あのゴルフボールサイズくらいの魔石でアレなら豚頭なら百匹分は必要だ。仲間五人入れるなら最低でも五部屋は必要なのだから数万匹は殺さないとダメだろうよ。


「ロイズ。動ける者は何人ですか?」


「二十三人です」


 牢に入れられた者は約百人。大体が王宮にいた者なんだとか。


「まあ、そのくらいいれば問題ないでしょう。丈夫そうな剣を一本貸してください」


 剣なんて使ったことないが、殴るのも気持ち悪い。剣で殴り殺そう。


「これでよろしいでしょうか? ソレガシ殿が使うならこれがよいと思います」


 ロイズさんが一・五メートルくらいの鉄の棒を渡してくれた。バールのようなものか?


 振ってみたらなかなか感じがいい。これならバケモノ鎧を殴っても折れなさそうだ。


「ロイズさん。案内、お願いします」


「はっ。こちらです」


 ロイズさんの先導で地上に向けて出発した。

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