第3話 0.01パーセントの命

 人間は大切な存在を守るためならどこまでも残酷になれる。


 それを今、オレは痛感させられていた。


 命は平等じゃない。幸せは一部の者にしか与えられない。強い者はより強い者に食われ、弱い者はより弱い者を食らうのだ。


 オレだって普通の体に産まれていたらもっと違った人生になっていたはずだ。友達と遊んだり、彼女を作ったり、誰もがやっている幸せを送れたはずなのだ。


 だが、現実はこれだ。特異体質で産まれ、力を押さえて生き、今はこうして魔物を殴り殺している。血にまみれている。


 この世は不平等。それに嘆いたって仕方がない。人は世界に合わせて生きなきゃ排除されるか食われるかのどちらかなのだ。


 ハァー。肉を殴る感覚が気持ち悪い。


 それでも豚頭を殴るのは止めない。0.01パーセントの命がオレを通してどこかに流れていっているのがわかったからだ。


 しかし、狭い牢屋なのにやたらと豚頭が出てくるな? どこから湧いてきてるんだ?


 もう百匹は殴り殺しているとは思うのだが、一向に減らない。広範囲の攻撃魔法とか欲しいと切に願うよ……。


 飽き飽きしながらも現れる豚頭を殴り殺していると、全身鎧を纏い、手に金棒を持った三メートルくらいバケモノが現れた。


 見た目はかなり強そうだが、なんで高さが二メートルくらいのところにきたの? 屈んでいるよね? バカなの?


 器用にも屈みながら金棒を振り回してきたが、豚頭ごととか容赦ない。いや、お前が殺したんじゃオレの戦果にはならないんだよ!


 突いてくる金棒を受け止め、足元に転がっている豚頭を蹴ってバケモノ鎧の顔面に当ててやった。


 怯んだら懐に入って正拳突き。この力をコントロールしようと小さい頃、空手教室に通ったこともあるのだ。まあ、力を抑えているのがやる気なしと見られて一月しか通えなかったけどな。


 鎧がヘコミ、おそらく内部もヘコんでいるはず。てか、いった! どんだけ硬いんだよ! さすがに手の骨にヒビが入った感じがするな。


 とは言え、オレの特異は膂力ばかりじゃなく回復力(治癒力?)も特異だ。鉄筋が腹に刺さっても抜いたその瞬間から回復していき一分もしないで全快する。


 まあ、つまりオレはバケモノだってことだ。


 こんなバケモノが人の中で暮らすなんて土台無理なこと。このファンタジーな世界にきたのは必然だったのかもな。


 バケモノ鎧が膝から崩れ、正座する形で天に召された。もし、来世があるならマシな種族に生まれ変われよ。


 ここのリーサルウェポンだったのか、バケモノ鎧が死んだとわかると豚頭たちが一斉に逃げ出してしまった。


 ふぅー。まずは一息できそうだ。


 体力も特異だが、精神まで特異ではない。いや、これだけ殺しているのにまったく罪悪感も嫌悪もないんだから特異だな。


「こいつらに魔石はあるのか?」


 しゃべったとは言え、姿は魔物っぽい。あるならセフティーホーム拡張のためにも調べてみるか。


 落ちている槍を使い、四肢を斬り落とし、とりあえず適当に切り裂いてみた。


「あ、これか?」


 BB弾くらいの紫の石が心臓の近くから出てきた。


「てか、ちっさ。こんな小さいと拡張できるのか?」


 その説明は受けてないが、まず無理だろうというのはわかる。絶対、一ミリも拡張されないぞ。


「まあ、こんだけあれば本棚くらいは拡張できるか」


 それに、緑色のバケモノとバケモノ鎧がいる。横になれるスペースくらいは拡張できるだろうよ。


 なんて魔石を取り出したけど、五匹で断念しました。血の臭いで気持ち悪くなったよ!


「やってられるか!」


 がまんできずに持っていた槍を叩きつけてやった。


 なんだ、この苦行は? やっていることサイコキラーだよ! もう両手が血で染められているよ!


 オレ、こんなにサイコだったの? 特異体質ではあるが犯罪などしなかったし、車に跳ねられた猫から目を背けるくらいだったんだぞ。なんでこんなに平気でいられるんだよ!


「あ、あの、もし」


 突然、声がして振り向けば、牢の中に女性が入っていた。


 髪は荒れ、汚れていているので年齢はわからないが、今の声からして若い感じがする。


「オレのことで?」


 荒ぶった気持ちを落ち着かせ、背広の右ポケットからハンカチを取り出して血塗れの手を拭いた。まったく落ちないがな。


「は、はい。あなたはいったい何者ですか……」


「オレは、いえ、わたしは山崎某。とある女性に魔王を倒せと命令された者です」


 今のオレのアイデンティティーは魔王を倒すこと。そして、愛華のために魔物を殺すこと。何者ですかと問われたらそう答えるしかないだろう。


「ゆ、勇者様ですか!?」


「いえ、そうとは言われてないので違うと思いますよ」


 オレに勇気とか義とかはまるでない。魔王や魔物を倒すと利があるから引き受けたまで。そんな不純な理由で勇者とは名乗れないだろうよ。


「そういうあなたはどちら様で?」


 なにか纏っている空気に品があり、口調が丁寧だ。きっと身分ある女性なんだと思う。


「アルティア王国国王、マイレティア・オル・アルティアです」


 なんと、まさかの女王様でした!

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