ラストエピソード(+Beyond Dimension)


「まあそういうことで」


 神先かみさきさんとあたしと、少年もれて“胃袋いぶくろが108”ってお店でランチでもって家族みたいな日曜日の風景。

『はい、いらっしゃいませ。あっちの厨房ちゅうぼうでうちの看板かんばんコック兼店長が、何故なぜだかあたしのお給料から材料費を毎回ぶんどって試作する、とびっきりのハンバーガーが丁度ちょうど今完成して、食べてみてくれる人を探してるんですけれどどうですか?』

 あふれるいっぱいの笑顔で注文を取りに来てくれたウエイターのお姉さんが、そのあっちに戻ってのぞき込んだ奥に『ねえシン! あんたまた何をどうやってってこんなにあたしの天引てんびきなんか増やしてくれちゃって! あたしが社長だって言ってんでしょうが!』って、でも何だか楽しそうにあーだとかこーだとかって続いてる。

 こっちからもほんのちらっとだけ見えたんだけど、そのおそろろしいまでに完成された、向こうでいそがしそうにしてるとんでもない美を持った青年コックさんの横顔がまた圧倒的な破壊力! いや、けどでもむむむ……うちの少年がもっと大きくなったらきっとこれ以上なんだって、あたしの贔屓ひいきだって目一杯が止まらないから!

 ひとしきりの電話を終えてテーブルに戻って、再度目の前に高々たかだかそびえ立つバーガーにかぶり付く巨漢きょかんが満足そうに。

「結局、神先かみさきさんは誰の味方でこれからどうするの」

 あたしがつまんだポテトを見ながら「僕もそれ食べる!」って愛らしく笑ってる天使がちょこんと隣に座ってる。

「だからさ、言ってやったんだって」

 何を? いつ? 誰に? って……まさか今のが……?

「全ての計画は破算はさん教祖きょうそはああやって覚悟を決めたし、こいつも“上”がさんざん試したけれど実際“こう”だから、お歴々れきれき監視かんしする必要も無い。俺にだってもう何の力も無い。ゆうちゃんの持つ力の存在は勿論もちろん報告してるけれど」

 けれど……。

「ガセもふくめて色んな“報告”ががってくる。だからうえの連中だって切り札は手元に置いておきたい。今までは都合良く、以前のこいつも教祖きょうそもそうだけど良くも悪くも相利共生そうりきょうせいが成り立っていたわけだ」

 そうよね。けれど、あたしはそんな都合良く利用されたりはしない。なにかの思想や、あまつさえの野望だっててんで持ってなんてないし。

「分かってる。だから言ってやったんだってば。“裏切る気なら命の保障は無い”って言われたからさ」

 成程なるほどね、命の保障はああああっ!? そ、そ、そ、それってあたしとかこの子もってこと!? え? だって神先かみさきさんの飼い主ってそもそも国家権力って!! 国家権力こわっ! B級映画の安っぽい台詞せりふまんま使うそのセンスこわっ!!

「いやだからさあ、“その時は希望のぞみゆうの力でお前らを消してやる”ってさ」

 いやいやいやいや!! あんた馬鹿じゃないの!!? だからあたしの力なんて例えば修正液みたいなもので!! そこに消せないボールペンのインクとか!! つまりそういうのがずあってこその力だってば!!

奴等やつらには、所詮しょせん何が本当で何が違うのかなんて分かりゃしないんだって。いやあすっきりしたなあ、だから俺警察もたった今めた」

 や、めたああああ!!?? お、親方おやかたまるで食いっぱぐれも無いからこの子を引き取れたんじゃないのおおお!? 

「何とかなるだろ」

 そう笑いながら少年の頭を満足そうにでると「アイス食べたい!」って元気良く可愛かわいらしくおねだり上手じょうずに! 本当に、なんて可愛かわいい子なんだろうってhshsハスハスハスハスが、これからだってずっと続きそうでもう色々があらゆる方向にヤバい。 

 あの事件が終わってぐ、家に置いてあるお父さんとお母さんの写真に色々報告した。色んな思いが込み上げて来て何をどう言えばいのかも全然分からなかったけれど。

 今はただ、暗中あんちゅうの中に地獄を見付け歩いてた日々から少しだけ解き放たれた気がしているけれど、お父さんのこともお母さんのことも勿論もちろんずっと、ずっと忘れたりなんてしない。

 そして、これから進む未来にこのなんの罪も無さそうに無邪気むじゃきでずっと楽しそうに笑っているこの子の様な子供達や、笑顔があふれる家族が増えますようにって、そう思ってるから。

『なあ、ゆうちゃん。本当に進学しなくていいのか?』

 って神先かみさきさんが。色々保証人にもなってくれるし、今回のことに恩義おんぎを感じて学費まで出してくれるって言ってくれた。でも、もういいの。他にやりたいことも出来たから。


なんとかってかさあ」

 あたし達のお腹の目一杯にまで、容赦ようしゃ無く責め立ててきたメニューを軽くいなしてた神先かみさきさんの背中で寝息を立ててる少年。

 お会計を済ませて、お店の外で待ってる二人にお財布をバッグに入れながら近づくあたしに声をける神先かみさきさんが。

「探偵でもやろうかってさ。色々さ“ツテ”はあるから」

 それは肝心かんじんな収入予測の話が先ね。

「いやまあ正直色々が色々重なって、何となくグレーな程度な金が多少なりともあるからさ」 

 まあ!!大袈裟に さぞあなたが飼われてた皮肉たっぷりに“おいえ”がお金持ちだったんでしょうねえ~!!

「そう言うなって。そこまで汚いことに関わってたわけでもないからって。あ、考え方の個人差はあるけどさ」

 ほらあ! 他人の物の見方みかた尺度しゃくど程恐ろしい物は無い!! ホイホイ付いていってあっという巻き込まれたら一巻の終わりだってこともたくさんあるってこと!

「まあまあ。正直何もかもこれで終わったとも思えないだろ。組織にいちゃ、そっちに何もかも加担かたんしなくちゃいけない現実が待ってる。ならさあ」

 そう……ね。 本当はあたしもそう。自分が与えられた力、まだまだ色々知りたい事もたくさんある。学校だけじゃ分からない事だってそれこそたくさん。まあ、探偵ならね色々やりながらあっちやこっちもやれるかもね!

「よし、そうと決まったら早速さっそく、公安のツレからの情報でさ。ヤバイ奴がいるらしいんだ。名前と顔が分かったら他人を殺せるとかなんとか。これが俺達と同じってことならやっぱり俺達が調べることであって。この件の経費けいひやら報酬ほうしゅうやらは“あっち”に請求せいきゅうするからさ」

 絶対それデスノー〇じゃん! そっちの調査をするのはあたし達じゃないから! さあ、今すぐキラッキラで燃エル話にライドンしなきゃ! っておい! 全く! ジャ〇プ+ばっかり読んでないで○英社さんごめんなさいマリッジトキ○ン面白い!KAD伏字KAWAの無料マンガサイト“C伏字micWalker”で角川角川角川大事なことだから繰り返すけど!の素晴らしい作品をたっくさんもっと読みなさいよ! “好き好○だいちゅきつよつよソード”とか“ダンジョンの幼○じみ”なんておすすめだから!! 

 つまり、♪めっち○こみぃっくうひゃひゃひゃひゃ~めっ○ゃこみぃっくうひょう○ょひょひょ~♪ってこと……じゃない! 全然こっちじゃなかったからもうホントに全部忘れて下さいごめんなさい!!

「まあそうだなあ。こんな事が言えてる位、表向きまだまだこの世界には平和がそこかしこにあるって事だなあ」

 そう、神先かみさきさんがうなずいて笑った。

 やれやれ、結局浮気調査だの迷子になった動物探しとか? いやいや、ごとなんて言っちゃいられない! この子の為にもガツガツかせがなくちゃならないんだから!

「ねえ~“パパ”はたよりにならないねえ~」

 神先かみさきさんの背中でウトウトしながらむにゃむにゃしてた少年に思わずそう言っちゃったら、キョトンとしてた顔から世界で一等いっとうあいらしい無邪気な笑顔であたしを指差して。

「ママ!」

 って……え? つ、つまりそれって、か、神先かみさきさんとあたし……が?

 「なんだ? それよりさあ、お宝でも探して一獲千金いっかくせんきんとかどうかなあ? 徳川埋蔵金とかさあ! あれも全然見つかんねえよなあ」

 全然聞いてないじゃん! って何よこれ!? そ、そんなつもりだったりなんてべ、別に! そんなあたしの好みのタイプが神……ちがっ! 違う違うっ!!

 ……あ、あんたのそのモヒカンがやたらヒャッハーしてるから! や、やっぱり結局……あんたみたいな汚物おぶつはあたしが消毒しょうどくしてあげてもいいんだからね!!

「お空がきれいだね、パパ!」

「そうだなあ。それよりなんか飲みたくないか? あ、ゆうちゃんさあ、教祖きょうその百円まだ持ってたろ? 自販機でなにか買ってきてくんない」

 ボソボソ言ってるあたしの話なんて誰も聞いちゃいないだろうけれどなによりあれ今使ったらここまでの話が全部なんだったんだってやっぱり絶対あんたのモヒカンをありない程ヒャッハーするまで退かない! びない! かえりみないいいいいっ!!


                  ◇


「ねえ、神様はホントはどういうつもりであたし達に力なんて与えたりするのかな」

 オレンジ色がはしゃぐ空のもとで眠った少年を、その大きな背中でぎこちなくも背負う神先かみさきさんに聞いた。

「神ってのは、一生懸命いっしょうけんめいに見える“あり達”をただ可哀相かわいそうだって思ってる全能ぜんのう傍観者ぼうかんしゃってところだな。ゆうちゃんだって、その蟻達全部の“となり”が分かる訳でもないだろ」

 雨の中でふるえてる野良猫のらねこに食べ物をあげてみたり。でも、ニャンニャン鳴きながら呪文でも詠唱えいしょう出来るようになるならそれはそれで最強だけど、生物間の知能の差が、もちいる手段の段階の違いを生むのは当然だし、だから、人間と神様とでそのスケール感がまるで違うのはそれもやっぱり当然で、それぞれ与えることの出来るものことが“雲泥うんでいの差”ってことに、つまりなるんだろうけれど実際その時出会ったその猫がどんな生活けんでどんな役割をしてるのかなんて考えたりしないまま、ただその時に一緒に“遊べればい”ってのは人間側の身勝手な話で。

もらった力の使い方を間違える、俺達人間の意識いしきもモラルも低いって話もな」

 少年と深いつながりがあった各方面かくほうめんの人間達は、結局だんまりを決め込んだらしいって神先かみさきさんが調べた結果を教えてくれた。

 少年の“過去”じゃなくて、そのおそるべきつながりのほう

 かなり有名な大きな会社やら、いくつもある宗教団体やら、ては裏の世界にまで。

 何もかもそのつながりの存在を表に出せるわけでも無く、それこそそこに様々さまざま思惑おもわくで権力の中枢ちゅうすうが登場するわけで、それは彼らにとっては“闇”ではなくこの世界を生きる為の堂々どうどうたる力なのかもしれないけれど、願わくばそれがあたし達みたいな悲しい出来事を持つ人間達をまた生み出す力にかたむかない様にって。 

 少年の犯した罪は決してこの先も永遠に消えないだろう。けれど、一度は悪魔の様に生まれ変わった少年が、今は天使の様に神先かみさきさんの背中で全てを忘れてまた無邪気に眠っている。

 ……そして、もしかしたら大人達の欲望にまれたままのすえその命さえ消えていた“天使”が、決して気紛きまぐれなんかじゃないどれだけかのスケール感さえ見通す神様の“はからい”によって“堕天使だてんし”に変わってしまったことすら、そのせめてもの奇跡のその中にあらかじめもしもあったのだとするのなら、今もう一度“天使”に生まれ変わることが出来たことまでが、それが全部……その全部全てが神の御業みわざであったのだと……。

 そこにただあるだけの“現象げんしょう”を本当につむつないでるのは、どこまでかてしなく続く無限むげんにも思える要因よういんとその結果。あたし達には到底とうていその複雑な因果いんがを見通すことなんて出来やしない。

 そして、その因果いんがが“本当はどこまでの領域りょういき”をふくむのかすらも。一体どこまでが“真実しんじつ”かなんて、それはあたし達と、例えば猫達との認識力の違いによる“世界そのものを構成する範囲(そのアプローチはマクロ・ミクロ方向に加え多世界的解釈にまで)”への理解すらも全く違うってことからも分かるように、誰のスケールが何処どこまでを“真実しんじつ”だと理解出来るかってこと。

 だから、神様が何を考えて"本当は誰のこと”を思って……そして、その真実しんじつは“あたし達”には一見いっけん複雑ふくざつに見えるだけで、それはとてもシンプルでから……。


 そして、それこそそれは“神のみぞ知る”であって。

 けれど、あたし達が俯瞰ふかんすることが出来ない神のそのきびしくも優しい心を、本当は“誰か”が今はもう知っているのかも知れないってそう思うから。


 

 何故なぜなら、あたしも少年が見たのと同じものを、あの時あの向こうに見たのだから。

 


                  ◇



 あいわらず少年は、さっきからずっと神先かみさきさんの背中で安心しきった様に眠り続けている。

「なあゆうちゃん、そろそろ帰ろうか」

 さっきスーパーで買い込んだあれやこれの食材が神先かみさきさんの両手の大き目袋に一杯いっぱいどっさりまれてるから、今日の晩御飯なんにしようか。

 三人が帰り道を辿たどるその空には、たしかな形の雲達が夜のおむかえに大忙おおいそがしであっちこっちに行ったりたり。

「そう言えば今日は満月まんげつだって言ってたなあ」

 神先かみさきさんがそう言って振りあおいだその向こうでは、夜がもうすぐあの空をノックして、にぎやかな星達をさそって光り輝く月に今日も会いに来るんだろう。

 この世界も人間も、これからだって変わらずにこんな朝と夜を繰り返していくはずだから。

「そうだ、ちょっと待って」

 って二人に声をけて振り返ったあたしが目を閉じたのが“分かる”? 



 “その優しさ”に気付かないままだったとしても確かにそこに奇跡が起きたと感じたのならば、戸惑とまどわず躊躇ためらわず、どれだけかの感謝と一緒に何か“行動”してみれば、いつか辿たどり着いた先でそれが何だったのか分かる日が来るかもしれないから。



ゆうちゃん、ほら」

「お姉ちゃん!」


 気が付くと、ほんの少し先の方からまねきしながらんでる神先かみさきさんや少年と、そして色んな人達に出会えた奇跡きせきを本当は最初からなにもかも、“誰か”が知ってたのかもって……あたしは、そう信じてるから!



              


2nd episode(第2話)から始まった

この物語の本当のタイトルは

儀範ぎはん」 




                    おわり


The title of this story itself is the 1st episode.

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神のその手先が優しく希望を添えていたことを誰も知らない物語。 ぞう3 @3ji3

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