遥か遠きAカップを求めて~転生吸血鬼は巨乳になんか負けない~
睦月スバル
貧乳好き、転生す
第1話 始まりの失言
男には心が二つあると言う。
誰が言ったか知らないけど、多分それは真実だ。
だって僕には二つの心があるのだから。
こう書くと二重人格みたいな風で随分と大げさなようだけども事実として僕には二つの心がある。
そう、上半身と、下半身に、各一つづつ。
いやいやいや、待て。待って欲しい。ブラウザバックは僕の話を最後まで聞いてからでも良い筈だ。
手始めに、そうだ。こんな話はどうだろう。
イメージして欲しい。大海原の遥か彼方におわす水平線を。美しいと、そうは思わないか。曰く人は海より来たり海に還るとか。成る程、母なる海とはよく言ったものだ。
つまり彼方に見えるあの水平線こそが、母なる海の象徴なのである。
え、何を言っているか分からない? ……仕方がない。迂遠な言い方は止そう。
こういう直截的な言い方はあまり好まないが、分からないと言うのなら仕方がない。
僕は貧乳が大好きなのだ。
おい、一体どんな脈絡でこんなことを言ってるんだコイツと思われるかもしれないが、結局のところそういうことなのだ。
僕の上半身の心は貧乳を愛してやまない。薄い胸元に顔を寄せて頬擦りしたいし、薄い胸の奥にある鼓動を感じたい。扁平と侮るなかれよ。それは確かに素晴らしい筈だ。
嗚呼貧乳。鼻孔一杯にその芳香を嗅いだら、どれだけ僕は幸せだろう。
多分、飛ぶ。否、絶対に飛ぶ。中毒性もスゴイに違いない。想像しただけでデビル昂奮して胸が熱い。
しかし。
しかし、だ。
前述した通り僕にはもう一つの心がある。
……そう、お察しの通り下半身の心だ。
彼はある意味上半身よりも素直だ。彼は登山家の如く山を求める。否、山を求めた結果自身すら山へと身を転じてしまうのだ。要するに巨乳好きである。我ながらしょうもないと言うか何というか。兎にも角にも俗である。
え、貧乳に比して字数少なくないかって? 俗の一言で片付く事を何故書く必要がある。
思うに下半身は情緒がまだ育ち切っていないのだ。乳離れが出来ていないと見える。まぁ、上半身も貧乳を舐りたいと考えている辺り似たり寄ったりではあるのだが。
さて何故今こんなことを考えているのか。その理由はたった一つ。
「お、おぎゃあ……」
……僕ことヴラド・ニューボーンは生まれたばかりの赤ちゃんだから下らない思案をする位しかやる事がないのだ。
♪ ♪ ♪
事の発端はどれ程前か、僕こと浦戸新は事故死した。享年二十歳。若過ぎる死であった。規制が強化される昨今飲酒運転に遭うなんてそうそうないと思っていたが、まぁ結果としては死んでしまった訳で。
で、転生の女神様とご対面した。
ここまでコテコテのテンプレをなぞっている事実に感動すら覚えつつ、女神の言に耳を傾ける。
曰く、手違いだのなんだの。まぁその部分に関しては特筆して記すべき内容は無い。他のラノベで好きに補完すれば多分それが正解だ。正に、内容がないよう。
ただ一点、僕が死んだ理由以外には特筆すべき点はあった。
僕に、転生した後の種族の選択権があったのだ。
女神はゆっくり考えるように言ったが僕は即答を返してやった。
「吸血鬼で」
「えぇ……」
その時の女神のドン引きしたような顔を恐らく僕は一生忘れないだろう。女性がしてはいけない顔が、そこにはあった。加えて言うと女神は巨乳であり、下半身の心が少しウキウキしていた。
僕の友人に『嫌な顔されながらおパンツを見せて貰いたい』とか言った真性の馬鹿が居たが、実際に豊満な肉体美を誇る女性にドン引きされると何か胸に迫るモノを感じる。馬鹿と天才とはまこと、紙一重である。
僕は新たな扉を開きかけていた。
「理由をお聞きしても……?」
「曰く、血液と母乳とは成分的に近いらしい。つまり、女性の血液を飲む=女性の母乳を飲むことと同意義。そして、僕は……貧乳の女の子の血液をちゅぱちゅぱしておぎゃりたい!!」
だからか、僕は言う必要のない事まで口走ってしまった。
紳士を自認する僕としては最悪な失敗だった。
しかし覆水盆に返らず。しっかりと僕の心のシャウトは響いてしまった。
「……えぇ、ヤバ」
それに対する女神の言はこれである。もう取り返しがつかないのは自明であった。
そして僕の意識は段々と遠のき……。
異世界の地で、僕は浦戸新改めヴラド・ニューボーンとして新たな生を受けたのだった。
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