連携

 僕は五年くらい前から長い間タンク型LMに駆り、二次元的な射撃戦をしていた。それこそが今までのストレイ人生だ。

 しかしLBは違う。タンク型LMと違ってLB……特に二脚型LBは空を飛び、開けた場所では三次元的な高機動戦闘がメインに、都市部では格闘戦がメインとなる。

 多くのパターンへの対応が可能になったと同時に、多くの判断が必要とされ、体勢を崩されるという弱点も持つ。

 僕はとにかく経験が浅い。徐々に慣れていくしかないだろう。

 特に難しいのは格闘戦だ。都市部では、LBの射撃は周辺被害が大きすぎて使えない。

 そこで新装備を増設する事にした。

 LMの装甲を破壊できる最低限に威力を調整した小型レールガン二丁を、旋回性の良い頭部に内蔵し、都市部でも射撃戦を可能にしたのだ。

 更に腕部に小型プラズマブレードを内蔵、緊急時の格闘戦での攻撃力を上げ、LMに対する一撃必殺の手段も得た。


『よし、完了か』


 それにしても、LBの拡張性には目を見張る物がある。

 特別な施設も無しでハードポイントの増設から武装の追加まで行うことが出来てしまうのだ。

 流石にライフルやマシンガンのように一定のサイズを超えてしまうと難しいが、かなり自由な改造を行える。

 それはまるで、意図的に進化させられる生命体の様。本当に、ナノマシン技術は時に恐ろしいとさえ思ってしまうものだ。


「改修完了です、動作をチェックしてみてください」

『頭部レールガン、ちゃんと動いてる。プラズマブレードの発生も確認。オッケーだね』

「では、今日もバッチリ依頼をこなしていきましょうかっ!」


 早速の依頼。今回はピース・シティ付近の広い荒野で暴れている集団の排除だ。LM四機小隊といくらかの移動用車両らしい。

 これは二手に分かれた作戦であり、僕の任務はLMの陽動と撃破だ。

 そして、今回はフィエスタの援護がある。僕のLMには、背部にミサイルランチャーとプラズマミサイル、狙撃砲。

 腕部にガトリング砲とバズーカ。

 タンク型脚部に対歩兵機関銃、ロケット砲、グレネードランチャーと多数の武装を装備している。

 弾幕張りから狙撃、爆撃までこなせるようになっている、まさに火薬庫のようなカスタムだ。

 しかも弾丸製造機能もあり、素材さえあれば長時間の戦闘が出来る。

 しかし、グレネードランチャーは高価な弾薬。あまり爆撃を行う事は無いが。


『よし、少し早いけど出撃しよう』

「はい!」




「敵部隊確認、オオサカ重工の二脚型LM、O-2L-TOISHIトイシが三機。私達のLMと同型のタンク型LM、O-TL-UEDAウエダが一機です!」

『通常射撃は通らないか……チャージショットで撃ち抜く、足止めを』


 オオサカ重工は極めて頑強な装甲で有名な企業だ。

 LMですらLBの標準装備のマシンガンを受け止めてしまう強度を誇る。

 しかし、それは計算上チャージショットで貫通できるはずだ。

 チャージの間は頭部レールガン以外の射撃が不可能になるので、回避を優先する。その間に牽制するのと、射撃時に足を止め確実に落とす手伝いをフィエスタにしてもらいたい。

 僕のLMの狙撃砲でも落とすことはできるが、射撃姿勢が必要であり隙が大きい。もし相手がLMの皮を被ったバケモノだった場合非常に危ないので使わせたくはないのだ。


「射撃を開始します、当たらないでくださいね!」

『了解。誤射したら怒るからね』

「ふふっ、気をつけます」


 オオサカ重工の機体は前進に関しては見た目以上に速い。二脚はブーストと歩行、タンクは無限軌道を採用しており一定以上の機動力を持つ。


「LBだ、警戒しろ!」

「通常射撃でこの装甲は貫けない、攻めの姿勢を崩すな」

「タンク、奴を撃ち落せ。袋叩きだ」

「待て! LMがいる! 俺と同じ型だ!」


 敵タンクは……腕部にショットガンを二丁、背部にガトリング砲を二丁と、攻めの姿勢が見て取れる武装だ。

 前回同様、ショットガンにだけは注意しなければ。

 ガトリング砲を撃ちながら、フィエスタがミサイルランチャーを使った。

 プラズマブースターの推進力と質量による運動エネルギーでの攻撃力を持つ武装だ。二脚型三機に一発ずつ撃ち込み、体勢を崩す。 


「足を止めました! く、装甲の貫通まではいかなかったけど!」

『まず一機!』


 計算通り、狙いを澄ましたチャージショットは敵の装甲の下、コックピットまでをしっかりと貫いてくれた。


「やられたっ!? チャージショットか……だが足さえ止まらなければ問題ない」

「敵タンクをなんとかします!」


 二脚が一機フィエスタの方へ向かった。

 しかしマシンガンは今放ったばかり。チャージはまだだ、止めるには格闘しかないか。


「て、敵が来るっ…!」

『フィエスタ、手を止めるな!』


 怯えた声がスピーカーから聞こえる。カタカタという音は震える手で操縦桿を握っているからだろうか。


「うっ!」


 フィエスタがガトリング砲を放つが全く受け付けない。

 そんな事はお構いなしと、敵はマシンガンを撃ちながらバズーカを放つ。

 通常のLM程度の射撃なら僕のLMはビクともしないが、被弾の振動は轟音と共に彼女を揺らす。

 フィエスタはかなり怯えているようだ。


「きゃァァァッ!」

『このッ!』


 敵に急降下からのドロップキックを叩き込む。

 その流れのままそこから追撃のプラズマブレードを突き付けようとするも、そう簡単にはいかなかった。


「そこっ!」


 ゲリラ豪雨が如く弾丸が降り注ぎ、危うく姿勢を崩される寸前まで機体が傾く。

 このままではまずい。僕は敵機を踏み台に飛び上がった。


『鬱陶しいタンクが!』

「ぷ、プラズマミサイルを発射します!」


 プラズマミサイルを敵のタンクに飛来、その弾頭から大量の超高温プラズマを吐き散らして敵機の装甲を焼いた。


「熱量が高すぎる! 緊急冷却を開始、カバー頼む!」


 流石はオオサカ重工と言った所か。溶けはしても、内部機能の保護は完璧だった。

 だが、その分厚い装甲は熱を逃がしにくい。

 逃げ場を無くした熱は、機体に必死の排熱を強いた。


「狙撃砲をっ……!」


 恐怖が殺意に変わったのだろうか。フィエスタは敵の隙を決して見逃さなかった。

 狙撃姿勢になり、狙撃砲を展開する。

 機体の全長を超える砲身からは、このレールガンのチャージショットを超える威力の弾丸を発射できる。LMが持つ武装としてはとんでもない物だ。


「クソッ! 早く動けッ!」 


 やっとの思いで動き始める敵機。しかしその動きはあまりに遅く、絶好の的だ。

 こうも装甲が溶けてはハッチも開かない。

もはや、死の道以外は残されていないだろう。


「……発射!」


 爆音と共に超音速の弾丸が発射される。

 命を奪わんと風を切り、分厚い金属板すらも貫き、目にも止まらぬ速さでタンクを撃ち抜いた。


「タンク、応答を!」

「……」


 タンクはただ黙々と走り続けている。パイロットを撃ち抜いたのだろう。

 まるで、撃たれた事に気づいていないように、ただ走り続けている。少し恐怖さえ感じてしまうような光景だ。


「はぁ……はぁ……ひ、人を……私が……!

 違う、やらなきゃ殺される……から……!!」


 フィエスタはダメになっている。恐らくは初めての実戦で、初めての人殺しだったのだろう。

 しかし、敵を全部倒した訳ではない。

 僕は無言でチャージを済ませ、次へと向かう事にした。 

 フィエスタがダメな以上、自分で足止めをするしかない。頭部レールガンを撃ちつつ、格闘を仕掛ける。

 回し蹴りからの横蹴りで転倒させ、踏みつけた。


「速いっ!?」

「足掻け! 援護に向かう!」


 もちろん、敵はカバーに来る。

 だが、自分は撃たれないだろうという油断が丸見えだった。

 僕は油断しているその一機めがけてチャージショットを放った。


「ぐわぁっ……! し、しまっ……」


 転げ回って沈黙する。戦場での油断は一瞬でも命取りになる、そう理解せざるを得ない光景だ。


「はぁっはぁっ……う、撃つなら、撃てよ!」

『チャージがまだなんだよ、すぐ楽にするから待っててくれ』


 暴れる敵を何度も踏みつける。

 その時、スピーカーから再び震えた声が聞こえてきた。


「やだ……手が、気持ち悪いよ……」


 半泣きの声はフィエスタのものだ。

 コックピット内の映像には、体を抱き締めてうずくまる姿も見える。

 強く握り締めた手は、不快感を何とか誤魔化そうと必死のようだった。


『フィエスタ……』


 いつからだろうか。敵が苦しむ声を聞いても、何も感じなくなったのは。

 自分を守るためとはいえ、人を殺めてショックを受ける気持ちは、分からなくはない。しかし、何故か割り切れるようになってしまったのだ。

 ……いや、今考え事をするのはよそう。仮にもここは、戦場だ。

 戦場にセンチメンタルな感情なんて物を持ってくる奴は、その内死ぬ。冷酷だか、それは事実だ。


『チャージ完了だ』

「ひいっ……」


 コックピットを撃ち抜き、別働隊に状況報告。

 するとすぐに、向こうも無事制圧完了との返答が返ってきた。

 作戦、終了だ。 


『フィエスタ……大丈夫?』


 マイク越しでは心のケアに限度がある。今はすぐに帰って、フィエスタのケアの時間だ。

 心の傷は体の傷と同等の悪影響を及ぼす。決して放置をしてはならない。


「す、すみません……」

『気にしないで、帰還しよう』


 フィエスタに足並みを合わせ、貸ガレージへと帰還した。

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