第三十七話 "内助の功"バルトロマイと"諦観"トマス

…まぁ、元々あの時点で話すつもりだったから良いけどさ。話した後に『もう用済みだからとどめ刺しまーす』とかやめてくれよ。

「えっ何話そうとしてるんですかバルトロマイ?私の記憶ではあの話は絶対に他人にしてはいけないと再三言われていた筈ですが。今私の身体が動いているならばもう原型が無くなるほどボッコボコにしているところですが」

(確かに話をしようとした時にヨハネがバルトロマイを制止していた。じゃあこの話はカトリケー、もしくは十二使徒だけに伝えられているのか?)

いーじゃんどっちにしろもう話すまでここを離れなさそうだし。

「そういう状況にしたのは貴方ですしそもそもそのまま話さずにここで足止めしておけばいいのでは?」

やだ。

「責任は貴方一人で取ってくださいよ…」


端的に言うと、今はあの世を運用するエネルギーが足りてないんだ。ほら、今現世でも燃料問題がうんたらかんたら〜とか言ってるだろ?そんな感じ。で、原因は神消滅事件。それまでは八百万の神様が色無しを少ないエネルギーで倒してそれ以上のエネルギーを得ていて何も問題は無かったんだけど、神消滅事件が起こってからは神様に代わって守り人が色無しを倒しているからエネルギーの効率が悪いんだ。で、その足りないエネルギーを代わりに無理矢理生成してるのが俺らのボス、昨津。

「様をつけてください様を」

へいへい。んで、昨津様はエネルギーが足りなすぎて代替案を考えた。沢山考えた中でどれも上手くいかず、最後の手段が【魂変換装置化計画】!

「あーあ言っちゃいましたよこの馬鹿は…もう私何も言いませんよ…寝ます…」

(諦めた…)

因みにユダはこの計画の産物だけど、伝えるのが酷だから伝えてなかった。無から魂を作れるならそれを使うに越した事はないって寸法だったけど、魂は無から作れなかったし意思も持ってしまった。だから早々に実物を使うことにしたんだけど、黒咲とかアンゴルモア大王って他の人より強いよな?

「ええ、まあ。モアさんに関しては戦ってるところを見たことがないのであまり分かりませんが…」

えっ見た事ねぇの?…まあこの話は置いとくか、【色人間】は今のところ二人だけなんだけど…あ、色人間が何のことなのか分かってるよな?

「色無しから人間になった人のことですよね?」

そう!んで、この二人が何故強いのかというと色人間は塊の燃費が良いからなんだ。だから昨津様は色人間の魂が欲しいと思って黒咲を騙し討ちして、七つの魂のかけらを回収したんだぜ。



「回収!?!?」

私はバルトロマイの両肩を掴み、揺さぶった。魂のかけらを回収、それが意味するのは。

「まだ先輩の魂のかけらはその昨津って奴のところにあるって事ですか!?!?」

「ああ」

これが本当なら、もしかしたら先輩の記憶が元に戻るかもしれない!!

「昨津は何処に!?」

「わかんねぇ!それを知ってるのはユダとペテロだけ…ヤコブも知ってるっちゃ知ってるが、ヤコブってのは小ヤコブのあだ名なんだけどあいつはまだ幼いからあんま期待はしないほうがいいぜ。マタイは知ってるかもだけどあいつ消滅しそうになっても絶対口割らない」

「結構知ってる人多いじゃないですか…。じゃあ貴方達は何処に居るかもわからない奴の言う事を聞いてるんですか?」

「存在は証明されてる。俺が知ってるのはここまでだ、後はペテロに聞いた方がいいぜ。あいつは正々堂々戦って強さを証明したなら少しは質問に答えてくれる筈だ」

「…ありがとうございました。器は返しときます」

私は回収していたヨハネとタダイの器をバルトロマイに持たせ、トマスとバルトロマイの拘束を解いた。

「身体痛ぇ…そういや俺らの前には誰と鉢合わせたんだ?」

「マッテヤです。先輩を化け物って言ったので圧殺しました」

「あーあいつ調子乗ると失礼な事言う節あるからな…」

「器は潰れない程度にしたので多分まだ生きてるか分離してるかだと思います。じゃあ、急いでるので!」

私が大金庫を探しに走り去ろうとすると、

「あ、待て!!思い出した!!一個言い忘れてた!!」

「何ですか!?」

「大金庫あっち!!」



「あいたた…えと、ここは…?」

僕はいつの間にか皆と逸れてしまっていたらしい。何処かで打ったらしい痛めた腰をさすりながら立ち上がると、

「おはよう!もう起きたんだね、はやいねえ」

と幼い声がした。振り返ると、ぶかぶかの司祭服を着た黒髪の天使の男の子が体育座りをしている。その横には縮絨棒とロープが置いてあった。

「あのね、ぼく小ヤコブ!ヤコブってあだ名」

「えっ、あっそうなのですね」

しかも言動というかイントネーションも幼児か小学生だ、何故こんなところに?というか小ヤコブって十二使徒のことじゃなかったか、何故こんな小さい子が十二使徒としてここに立っているんだ?

「あの、失礼ですが…保護者の方などは居ないのですか?」

「ほんとはマタイお姉ちゃんといっしょに待機だったけど抜け出してきたの。ということでお縄につけーい!」

そう言うとヤコブはロープを持ってぐるぐると僕の周りを回り始めた。…もしかしてこれで僕を捕まえようとしているのだろうか?だとしたら先程僕が眠っている間に済ませておけばいい話だしそもそもロープの巻きが緩すぎて拘束になっていない。

「あれ!?ぜんぜん巻けない!くそう、最終手段!暴力!」

今度は縮絨棒で僕を叩き始めたが、少し防御特化しているだけの【スペシャリゼイション・シルバー】で防げてしまうほど殺傷能力がない。

(ど、どうすればいいのでしょうか…)

本人的には真面目に本気で戦っているつもりなのであろうが、如何せん戦力差がありすぎる。このヤコブ相手に本気で戦うのは大人げないというものだし、どうするか…。

「ぜ、ぜんぜん効かない…!もういい!かえる!」

「えっ」

まさか帰るとは思わず困惑してしまった。まぁ幼い子供の思考回路はこんなものかもしれない、と思っていると。

「あれ、あれ」

何やら困っているようだ。

「どうしたのですか?」

「地図と道がちがうの…」

……はい。これは共々迷子ということですね。


巻中さんからのメールによると、もう既存の地図は使えなくなったそうだ。

「スマホなどで助けを呼ぶことはできないのですか?」

「GPS機能ついてるアプリ入ってるから置いてきちゃった」

一回アンインストールするか設定で位置機能をオフにすればいいのでは?

「ではどうしましょう…とりあえず歩いてみますか?」

「うん」

僕は手を差し出し、ヤコブはそれを握った。何故僕は敵幹部を子守しているのだろうか。

「何故一人で此処に来たのですか?」

「皆のお手伝いしようと思って…でもマタイお姉ちゃんが『危ないからお姉ちゃんと一緒に待ってようね』って言ったからこっそり…」

「…まぁ、危ないことは確かですね。もし僕の代わりに、暴走して正気を失った理沙さんとかがここに居たら消滅してたかも」

「えっ」

このぐらい脅かしても文句は言われないだろう、そもそも本当に考えられるケースだし。

「お姉ちゃんの言うことは聞かなきゃ駄目ですよ」

「はーい…」


「ヤコブくん、貴方の【アトリビュート】は?先程叩くぐらいしか攻撃をしてきませんでしたので」

「まだ貰ってないんだ。雄来からは『今考えてるのだと能力がタダイと被るからちょっと待ってて』って言われてるけど」

「雄来?上の名前は何ですか?」

雄来という名前は初耳だ。

「昨津だよ」

「昨津!?」

カトリケーのトップと水山さんが言っていたあの昨津?

「…あの、居場所とか分かったりしますか?」

「分かんない。何処にでもあって何処にも無い場所だよ。気がつくと真っ暗なそこに居たりするの」

…つまり。行ったことはあるけど行き方とか場所は分からないということだろうか、その後に言ったことはよく分からないが。と考えていると、仮面の男に遭遇した。

「…え!?あーっ!!?小ヤコブ様!!!…横に居るのは?」

「あのね、この人は一緒に迷子になってて……そういえば名前聞いてなかった」

「ルナです」

「ルナ!?!?」

仮面の男は僅かに後退り個人魔法の剣を取り出したが、一応幹部なのだから正しい判断の下敵と行動しているのだろうと考え、

「…なるほど!捕縛したのですね!?」

「ううん、縛れなかったし攻撃しても効かなかった」

「何で一緒に行動してるんですか!?」

一瞬にして期待を裏切られていた。

「と、とにかく、小ヤコブ様から離れろ!俺は刺し違えてでも救出する覚悟だ!!」

「いやあの、僕危害は加えてませんし寧ろ他の僕の仲間と遭遇した時に万が一襲われないように保護している側なんですが…」

「嘘つけ、そんな事する理由は無い、それに敵だ!!益々保護する意味が分からない!」

「それは本当にそうとしか言えませんね…」


「…つまり。本来はお前は敵だが小ヤコブ様がまだ何もできない子供だから一緒に出口を探していると?」

「そうなります。正直言いますと貴方を保護者としてヤコブくんを引き渡したいのですが」

「ええっ!?…い、いや俺には荷が重すぎるといいますか…みんなのアイドル的存在を独り占めは抜け駆け禁止の規律に反するといいますか…イエスショタノータッチといいますか…」

…言っちゃあなんだが、絶妙にキモい。第一印象とキャラ変わり過ぎでは?

「どうしましょうこの人に預けるの不安になってきました…何故僕は敵幹部の心配を…?」

とうとう口に出してしまった。

「ねえ、道わかる?」

「俺は通知に気づかなくてここから出るのに出遅れてスマホも壁にもみくちゃにされたので普通に迷子ですね」

三人寄れば文殊の知恵というが、これほど現状において無能と呼べる三人組が居たであろうか。

「多分俺以外に残ってるのは俺みたいな出遅れた人か十二使徒だけになりますから、とりあえず移動が得策になります。小ヤコブ様、ささ、俺の手を握ってください」

「ノータッチは何処に行ってしまわれたのでしょうか」

「敵に任せておくよりはマシという判断だ!多分他のクラブ会員達も許してくれる」

「クラブ会員!?」

「あ、加入する?」

「しません!」


僕達は当てもなくフラフラと迷宮を彷徨っていた。一応僕のリボンを垂らして目印にしているので来た道は分かる。

「えっ、他の十二使徒のファンクラブまであるのですか!?」

「最近はユダ様のファンクラブがお通夜状態だ。いや、本当に…」

「…………」

「ま、まあユダ様の話は置いといて、活動は主に十二使徒の皆様が何をしていたかなどの報告会を定期的にして情報を仕入れることだな。カメラを向けるとたまにノリに乗ってくださることがあるからブロマイドはその都度作成されてる」

「全然知らなかった…そんなのあったんだ…」

「本人に知らされてなかったのですねファンクラブの存在…」

「迷惑は掛けられませんし、知らぬが仏というやつですよ小ヤコブ様。でも別に隠してたわけではありませんし報告するのもアレだから言ってなかっただけです。あの、ところで足疲れてません?抱っこしましょうか?おんぶとか」

「じゃあお願」

「僕がします!!!」

僕はリボンを何重にも重ねて厚い絨毯状にし、端っこをまたリボンで結び固定して宙に浮かせた。魔法の絨毯のようなものである。

「うわあ…!!すごい、ルナ!」

「それに乗ってて下さいね。その男に任せると安心できませんので」

「し、信用ゼロ…」

「そもそも敵なのに信用ある方がおかしいと思います」

「確かに!」

ヤコブは浮いて魔法の絨毯に乗った。自分で浮けはするがそれはそれとして魔法の絨毯とはロマンそのものである。小さい頃はプールでビート板を重ねてその上に乗り魔法の絨毯や筋斗雲ごっこをしたものだ、浮力にビート板が負けて下から射出され母さんの顔にクリーンヒットした時は大目玉を喰らったが。

「とりあえず出口を見つけても貴方以外の人を見つけるまでは離れられませんね」

「お腹すいたあ…」

「…はい、飴。本当は真衣さん用ですが特別にあげちゃいます」

「ありがとう!」

ヤコブは青りんご味の飴の包装を破り、ひょいと口に入れた。疑いの欠片も無い。

「あの、あげた僕が言うのもなんですが知らない人から貰ったお菓子とか食べちゃ駄目ですよ。何か入ってる可能性もありますので」

「はーい!」

「くそう…俺が今何か食べるものを持っていれば餌付け的なことができた筈だったのに…!!」

「こういう人から貰ったものが一番駄目です」


・【水蛇】

周りの水素と酸素を集めて水にし、大蛇の形にして意思を与え意のままに操る技。

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