第三十五話 転生、違和感、覚醒
「えっ!?唐館さん、これはどういう…!?」
しばらく歩くととんでもない勢いで放出されている塊のエネルギー残骸が感じ取れたため、その方向に急いで向かってみると海里さんと唐館さんが居た。どうやら唐館さんが大技を出している最中のようだが、おかしい。唐館さんは気絶している。それに加えて、見えるのだ、唐館さんの魂を構成する何かが技と一緒に唐館さんの身体から放出されているところが!
「海里さん!何やってるのか全然把握できないんですけどこのままだとやばいです!唐館さん消えちゃいます!」
「百も承知だそんなこと…!だが、止めてもやばい!」
「……海里さん、転生しても一緒ってシチュあこがれません!?【縁結び】します!!」
「えっ」
あまりの急激な展開に間抜けな声が漏れた。転生しても一緒なのは確かに憧れるけど、この逼迫した状況の中で言うべきことなのだろうかと思ったところで、心を読んで初めて真意に気がついた。俺の運命の糸的なもので唐館を救おうとしているのだ。何かそれっぽいことを真衣さんにしたと聞いたことがある。だが…
「大丈夫なのか、二度も【縁結び】をして!!前回が大丈夫でも今回は駄目だったってことも有り得るぞ!!」
「大丈夫です、前回ほど私の負担は多くありません!前は私に全負担がのしかかりましたが、今回は海里さんに縁を結ぶので!デメリットは有って無いようなもんです、『何度転生しても二人は絶対に出会う』ということだけですので!むしろメリットですよね!?ずるい!!」
「…ははっ、本当に驚くほどデメリットが無いな!?正直どんなデメリットでも受けて立とうと思っていたが、その条件で俺が拒否する訳が無い!思う存分俺の運命の糸を使ってくれ!」
「はい!【縁結び】!!」
その言葉と同時に、俺の身体から無数の糸が出てくるような感覚に襲われる。理沙ちゃんは神守り自体が【縁結び】なので糸が見えているらしい…。
『…駄目だ!唐館さんが弱りすぎてて縁を結んでも存在が確立できない…【転生の扉】を開けるしかない!』
「待て!【転生の扉】…!?」
理沙ちゃんが恐ろしいことを考えている!【転生の扉】、これは入ると転生ができる扉だが【縁結び】と同じく神の使う技だ!真衣さんを奪還する前に俺達が退場となると戦力が減ってしまう、そして何より理沙ちゃんの無事が保証できない!
「やめろ!勝率が下がるぞ、真衣さんを取り戻せなくなる…!」
理沙ちゃんは真衣さんのことが絡むと途端に弱くなる。そう考えていたが、
「駄目ですよ。海里さんにとっての唐館さんは私にとっての先輩なんですから、そんなこと言っちゃ。真衣さんは助けたいですけど、それはこっちで頑張りますから心配しないでください」
…この子は、何がなんでも俺達を転生させる気だ。意見を覆すという思考が無い。扉が出現してしまった、この扉は俺達が通るまで理沙ちゃんの何かを消費し続けて顕現し続ける、もう通るしか無い。
「………理沙ちゃん…ごめん、ありがとう…!!翔!行くぞ!」
俺は未だ気絶したまま技を出し続けている翔を抱えて、扉を開けた。
夢の中で柏野さんが開けていた扉。ぶっつけ本番だったが、なんとかものにできた。…だが、一つ懸念点がある。【縁結び】、今まで副作用という副作用が出てきたことが無いのだ。いや、頭痛が起きたことはあるのだがそれだけなのである、明らかにおかしい。軽すぎる。…と、そう考えを巡らせているその時、どさりどさりと人が続けざまに倒れる音がした。先程まで生き埋めにされていたであろう人達…二、三…四人!?二人で四人も相手してたんですか海里さん達!?人数倍じゃないですか!!そのうち二人は気絶しているようで、他の二人はよろよろと起き上がってきた。あれは【バルトロマイ】と…誰だ?残りの二人は一方は自身が持っている杯から少しだけ零れ出ている毒で身体の表面と床が融けており、もう一人は…いやあれ気絶してない。意識は有るけど体力が残ってないだけだ。あの顔は【トマス】かな?
「ひ…酷い目にあった…」
「バルトロマイ、私はもうリタイアです。身体が…っ動かせない。恐らくどこか神経をやられました」
「ええっ!?大丈夫かよ、痛みは無いか!?っていうか、コイツもやべえことになってる!」
コイツというのは融けている男のことだろうか。
「どっちも大丈夫です。【迷宮ラビュリントス】は維持できるのでまずはそこの人を倒してください」
「そこの人?」
その言葉で、初めてバルトロマイは私に気がついた。もう一人意識がある混紡を持った少女は既に気がついていたようだが、無口なのか静観している。
「…あれ?あの男二人は?」
「転生しました」
「転生?…え?転生?」
私が口にした転生という言葉に困惑しているようだ。
「え?それ…お前がやったの?」
「はい、そうですが」
確かにぶっつけ本番だったが、そんなにすごいことだったのだろうか。…ちょっと待て。私はどうやって扉を作った?記憶はあるが思考があやふやだ。
「…お前、人なのか?」
「え」
自分は自分を人としか思っていない。だが、バルトロマイのその問いに何か引っかかるものがあった。先輩やモアさんが色無しから人になったのなら、その逆も有り得る。先輩が記憶を無くした日に話していた【守護神】、【祟り神】、【神のなり損ない】。これらは全て人が人ならざるものに変質したものだ。なら、私もそれになりかけているのか?おかしい、早すぎる。まだ私は【覚醒】を一回しかしておらず、【暴走】も一回だけだ。
「…………もしかして…【縁結び】?」
神の所業を自ら行う。強すぎる結果。ルナさんの二つの言葉が私の頭を這いずり回っていた。
…いや。思考する前に、やらなくてはいけないことがある。眼前の敵を倒さなくてはならない。先輩を取り戻さなくてはならない。そうだ、先輩は大金庫の中で泣きながら助けを待っているに違いないのだ。早野さん達二人を来世に送ったのは私だ、ツケを払うのも私である。
「…今は私が何かなんて関係ありません」
「そっか。じゃあやるか、タダイ」
第一印象より少し聡明に見えたバルトロマイは、複雑な心境を胸に宿したような、哀れみともみれる眼を此方に向けていた。その横に立つタダイと呼ばれた少女は、無表情のまま此方を見るだけだった。
先に仕掛けてきたのはタダイだった。混紡を振りかぶり私の頭蓋をかち割ろうとしてくるが、リンさんで弾き飛ばす。その時タダイの後ろからナイフが飛んできて私の頬を掠めた。バルトロマイの仕業だ。
「【マジックワイヤー】!!」
続々と飛んでくるナイフを【マジックワイヤー】で掴み、一気に投げ返す。
「うわわわっ」
攻撃されるのにあまり慣れていないのか、バルトロマイは慌てた様子で投げ返されたナイフを避けている。服に少しかすっただけだった。
「……」
タダイは技名も叫ばず、声も発さぬまま混紡をぶん回す。顔面に後少しであたりそうだったのを咄嗟に躱して距離を取ると、ぶん回すのをやめた。三半規管が丈夫なようで、ふらつきもしない。
「【チェーンウォール】!!」
この狭い空間では【チェーンウォール】は絶大な効果を発揮する。塊の消費量は痛いが、相手は敵幹部なのだ、優先度はそれ相応だろう。
「フンッ」
だが、タダイが混紡を一振りするとガシャンと鎖の壁は壊れ、人が通れるほどの穴ができてしまった。タダイは毒に塗れている男を姫抱っこで抱えて、バルトロマイはトマスを抱えて穴をくぐる。大技を続けざまに出す気力は無かった。
「…君の声を聞いたのなんて久しぶりですよ、タダイ」
「……」
どうやら相当喋らない性格のようだ、トマスの言っていることにも答えない。
「だ、大丈夫かよ?融けてきてんぞ、タダイ」
バルトロマイがそう言うと、タダイは自分の身体を眺め始めた。少し距離がある此方からでもタダイの皮膚が融けているのを視認できるのだから、実際は相当なものだろう。どうやら未だ気絶したままの男に付着していた毒をそのまま触ってしまったため溶けてしまっているらしい。そのうち、タダイは抱きかかえたままの男をゆさゆさと乱暴に揺すりだした。ぼたぼたとタダイと男の身体の液が混ざりながら落ちる。
「…起きて、ヨハネ」
「「喋った!?」」
喋った!さっきまで気合の『フンッ』ぐらいしか声を出していなかったのに!
「う…ごめん、タダイ…」
「しかもヨハネが敬語じゃない…!」
ヨハネと呼ばれた男はバルトロマイに敬語ではないことを驚かれている。
「え…?喋るのお前…?」
「……」
またもや無口である。
「タダイ、ありがとうな。起きるよ」
ヨハネはタダイの腕の中から起き上がると、
「【メルトイーグル】」
融けた身体の液を鳥の形に形成する。あの形状は鷲だろうか。
「一対三…これめちゃくちゃやばくないです?」
なんとか戦えるぐらいには息を整えたが、正直言って自分一人でこの三人を倒さなければいけないのかと内心震え、先程ツケを払うのは私だと考えていたくせに、
「とんでもなく高いツケを残していきましたね」
と一人ごちた。
またもやタダイが最初に仕掛けた。融けた腕は既に骨が見え始めていたが、そんなことお構いなしというように力いっぱいに混紡を振り回してくる。それを最初のようにリンさんで受け止めたが、ジュワリと嫌な音がしてその音がした箇所を認識した。融けている、リンさんが!タダイの融けた腕の液でリンさんがダメージを負ってしまったのだ!直後にリンさんの柄がぼきりと折れたので後ろに飛び退き距離を取り、半分になってしまったリンさんをどうするかと思案する。その間にもタダイとバルトロマイの投げたナイフが迫ってきているので、リンさんの折れてしまった柄に【マジックワイヤー】を巻き付けて大きなヌンチャクのような形状にした。タダイには【マジックワイヤー】を何本も鬱陶しいように纏わり付かせて足止めをし、ナイフに対してはヌンチャクリンさんで身体に当たりそうなものだけを選別し弾き飛ばす。【マジックワイヤー】が伸縮可能なので割と使い勝手がいい。その時、【メルトイーグル】が飛んできていることに気がついた。ボタボタと融けながら此方に向かってきており、その液が触れた床はリンさんと同じように融けている。あれに触れてはならないし、追い返さなければいけない。
「【拘束】」
試しに鎖で拘束してみようとしたが、一瞬のうちに鎖が融け落ちてしまった。【メルトイーグル】は他のものを融かしたからか少しだけ小さくなっていたが、この分ではリンさんで叩き落とそうとしても触れた部分が使い物にならなくなるだけだろう、さてどうしたものか。取り敢えずタダイを【拘束】できるかやってみよう。
「【拘束】ッ!」
タダイに鎖が巻き付いた。壊された、無理だこれ。フィジカル強すぎ。と、ここで頭が無関係なところから【メルトイーグル】に対しての策を導き出した。こちらの塊を使わずノーリスクで攻撃できるバルトロマイのナイフを使えば良い。私はその辺に落ちているナイフと今も尚飛んできているナイフを【マジックワイヤー】で掴み、一斉に【メルトイーグル】の方向へ投げる。ジュワジュワと音を立ててナイフが消滅していくが、【メルトイーグル】は目に見えて小さくなっていった。
「あー!!俺のナイフー!!!」
「接近戦しないからですよバルトロマイ。それにしても、私の【メルトイーグル】も無くなってしまいましたね…ちょっと予想外です」
「ヨハネも接近戦してねーじゃねーか!!」
「こっちはこっちで制御にコツがいるから良いんです!…まあ、こちらも体力は戻ったのとですし接近戦に移りますか」
「うう…俺もー」
キッッッッツ!!!!きっつい!!正直言ってさっきの方がマシだった気がする!!
私は今文字通り浴びるような攻撃を受けており、対処で手一杯になっていた。バルトロマイは先程のような一方向からのナイフではなく、頻度が減ったものの色々な角度からナイフを投げてくるのでたまに死角からのを捌けずにいるし、ヨハネは【メルトイーグル】からではなく直接杯からバシャバシャと毒のような酸のような何かをかけようとしてくるし、タダイは純粋に力による脅威!一発喰らえば只ではすまないような攻撃が次々と飛んでくる。そしてタダイの一撃がついに届いてしまった。私の胴である。
「ッ!?!!!ァ!!?!」
内臓を吹っ飛ばされたその時、器が白く光りだした。これは【暴走】か?いや、違う!あの時のような激しい痛みを伴う変形ではなく、身体の底から力が湧き上がってくる。【覚醒】だ!
・【電光石火】
本来電光や石を打った時の火花から非常に素早いことの例えだが、それを光村の解釈で一瞬で電光も火花も散るということにし、電光そのものである大ヤコブと炎そのものである光村の双方を消滅する技として作り出された。
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