第二十六話 大掃除と融合と雑談
協議の結果、今日は大掃除をすることにした。この家はなんさま広いため、先輩が記憶を失う前から使っていなかった部屋が割とある。整理整頓した部屋もあるが、そうでない部屋もあるため今一度まとまった時間が欲しかったのだ。
「えーと、この部屋は…何に使ってたのかわかります?ルナさん」
『…あ!ここ、僕の部屋です!』
他の何も置かれていなかった部屋よりかは埃が少なく、手入れがされていたように見える。あるのはタンス、棚、何かの箱、小さめのベッド、その他家具諸々。壁は他と比べてなんだか汚いような…ぱちりと電気を付け、カーテンを開ける。白い壁にはクレヨンとマーカーで落書きがしてあった。汚さの正体だろう。
「…この箱の中は…おもちゃ?」
『はい。銃のおもちゃとか、それに詰めるBB弾とか、つみきとかけん玉とか、ビー玉とかラジコンとか…何だか箱の中が足りないような気もしますが』
箱の中にはルナさんが使っていたであろうおもちゃが入っていた。プラスチック製の刀は強く叩いてしまったのか折り目が付いてしまっており、百均でよく見るような虹色のバネはぐちゃぐちゃに絡まっている。銃のおもちゃは三回に一回は弾が詰まってしまい、どれも故障という子供が遊び倒したおもちゃの称号が付いていた。すごろくで使うらしい紙幣はくしゃくしゃになっている。
「どれも年季入ってますね…」
『僕が住んでた頃のおもちゃですから。それにしても、まだここにあったんですか…てっきり捨てたものだと思っていましたが』
『で、何で片付けから僕のアルバム鑑賞会になっているのですか』
「あるあるですよね、部屋の片付けしてたのにいつの間にか出てきた漫画読んじゃう現象。それですよ」
「寮生活を思い出します…あの方達真面目に片付けをしないんですよ…」
「…水山さん、貴方元は小間使いか何かだったんです?」
他愛無い話をしながらアルバムをめくっていると、一枚の写真が目に入った。大輝が子供のルナさんを抱っこしている写真である。
「うげ、大輝だ…」
嫌すぎて抜けなかった敬語が思わず抜け落ちてしまった。普段からこんな風に普通の口調で喋りたいのだが…。というかこの部屋敬語多すぎないか?三人とも全員敬語である。
『水山さん、大輝は【カトリケー】ではどんな人だったのですか?』
「え?うーん…なんか…昨津様と同じような感じの…」
「サクツ?って誰なんですか」
初めて聞いた名前である。これも【十二使徒】か何かの人だろうか。
「あ、そういえば教えていませんでしたね。【カトリケー】のトップです」
まさかのトップだった。
「じゃあ、その昨津って人が、前言ってた部屋から出られないから遊んでる人なんですか?」
「はい」
『本拠地を教えてください。すぐにカチコミしましょう』
「ルナさんもカチコミって言葉使うんですね…」
『冗談ですよ』
まあ今すぐにでもカチコミしたくなる気持ちはわかる。この戦力で勝てるかと言われれば話は別だが。
「ちなみに、昨津の能力は何なんですか?」
「…特に得意なのが人形を操ることですかね」
『え?人形…ですか?』
大輝の能力と同じである。
「能力がかぶっちゃったんですかね」
『いいえ!理沙さん、そんなことは絶対にありえません!神守りの能力は、死神の神守り以外は絶対に被らないのです!』
「え…そうなんですか?」
そもそも死神の神守りという単語が気になるが、確かに今まで会ってきた中で能力が被っている人は見たことがない。…いや、そういえば天使の【リカバリー】は?
「【リカバリー】は天使のみなさんが使いまくってるじゃないですか」
『あれは天使固有の能力なので神守りとは関係ありません』
そうなんだ、知らなかった。
「へぇ…じゃあ、大輝と昨津は何で同じ神守りを持ってるんでしょうかね。水山さんはわかります?」
「いえ…」
アルバムを片付け、再度大掃除に取り掛かる。
「先輩早く帰ってきませんかね…」
「もう禁断症状が出ているのですか?普通に狩りに行ってる時間の方が長いですよ」
そう愚痴をこぼしながらも、着々と掃除は進んでいった。
泊まり込み二日目。
「で、今日は何します?」
『何すると言われましても…』
掃除は昨日で終わってしまったので、また何をするか三人で悩んでいると、ルナさんが閃いたようだった。
『そうだ!私の本体の所へ行きませんか?』
どうやら情報共有のついでに水山さんを本体のルナさんに実際に合わせてみたいらしい。確かに先輩が居る時では三人同時にあのマンションに行くことはできない。今が好機だろう。ルナさんにメールを送った。
「えっと、おじゃましまー…」
「あ、そこ罠ありますよ」
「すぅっ!?」
水山さんが玄関の一歩目に貼られてある御札を危うく踏むところだったので、腕を引いてそれを防ぐ。
「す、すみません…」
『水山さん、僕のマンションは知ってても入ったことは無かったんですね』
「あ、はい…幹部やってると報連相で情報は入ってくるもので…」
「…なんか幹部の水山さんの姿が思い浮かばないんですけど…どんなことしてたんですか?」
「どんなこと…直属部隊の指示とか、戦闘中の人に武器をワープさせるとか…あと寮のお片付けとか、掃除とか」
「やっぱり後半は小間使いじゃないですか」
前回来た時の記憶を頼りに罠をかわしながら進むと、やがてルナさんの部屋が見えてきた。
「あー…怖かった…ぼくお化け苦手なんですよ…」
「元から幽霊なのにですか?」
「だって心霊番組とかホラー映画とかホラゲーとか怖いじゃないですか…」
そう。なんと、あの世にもそういった番組やコンテンツが存在するのだ。生前のように怖がって楽しむ人や、心霊番組なら実際の幽霊か偽物か判別して楽しむ人、自分ならこうやって脅かすと幽霊の映り方や脅かせ方を批評して楽しむ人も居る。遊園地にはお化け屋敷も存在するのだ、自分が住んでいる家も一応お化け屋敷だというのに。変な話である。
『ただいまです』
「…またですか、偽物」
「いやいやいやまたですかこの流れ!?ちゃんとメールもしましたよ私!!」
ルナさんは私の発言を聞くとすぐさま部屋に戻り、スマホを確認すると、
「すみません…通知に気づかず…」
頭をかきながら部屋の奥から出てきた。その癖を見て先輩を思い出す。
「偽物疑惑がとけたんなら良かったです」
ルナさんはあまりスマホを使わないため、こういうことが多々起こるのだ。ルナさんに未読無視されても大抵は気づいてもらえていないだけである。
「…もしかして、隣の方が水山さんですか?」
ルナさんは私の隣に居る水山さんを見ながら言った。
『はい。融合して記憶を一つに纏めたほうが早いので融合しませんか?』
「それもそうですね」
まるで幽体離脱から戻った時のようにスウ、と思念体のルナさんが本体のルナさんと融合する。
「…あー…そういうことですか…。理沙さん、つい最近真衣さんと一緒に戦ったあの色無し居たじゃないですか」
「?はい」
「あの正体がわかりました。融合種の修惑色界貪です」
「しゅわくしきかいとん?」
この前戦った色界集締貪と同じような名前をしている。
「あの…詳しいことはあまり言えないんですが…」
「何でですか?」
「恥ずかしいので」
恥ずかしくなるような内容なのか…。
「あの色無し…もし真衣さんが捕まったまま全滅してしまっていたら大変なことになっていましたよ」
そもそも全滅自体が大変なことなのでは?
「さらなる力の研究をするために色無しの文献も読み漁っていたのですが、それと思念体の僕の調べていた情報が合致して融合種の種類を特定できたのですが…あの時現世ではちょっと…事件が起こっていまして…ボウカンシャが十体ほど居ましたよね」
「はい」
「現世では、あそこには当時死体があったそうなんですが…女の子のだったそうです」
「はい?」
「しかも幼い子」
確かに先輩も今は幼い女の子だが…それと事件に何か関係があるのだろうか。
「で、裸」
ん?
「そして修惑色界貪には銃、バナナ、バット、キノコ…これらがナニを表すのか…ここに話したくなかった理由があるのです」
「思っ糞性犯罪だったんですね…」
大体言いたいことは分かったし全滅したらどうなっていたのかも分かった。考えただけでゾッとする。ここで今まで黙っていた水山さんが口を開いた。
「そ、そういう色無しだったんですか、あれは…そういえば、現世で犯罪現場を見ている傍観者の中に犯人が潜んでいると、影のボウカンシャの群れの中にそれに関する色無しや色有りがボウカンシャに擬態するケースがあるとは聞いたことがありましたが…まさか自分たちがそれに遭遇するとは思いませんでした」
「そのケースを早く教えて欲しかったですね…」
話は変わり。
「そういえば、ルナ様。仕事はどうやって辞めたんでしょうか?民間でも法律上二週間前には退職の意を伝えておいて欲しかったのですが…ルナ様、公務員ですのでちゃんと申請をして特定の条件をクリアしてから退職してもらわないと…」
「…すみません、半ば自暴自棄になってしまっていて…そういえば水山さん政府なのでしたね…」
「退職って退職届け出せばいいもんじゃないんですか?」
中学二年生以上になればそこらへんの勉強も出来たのだろうか。
「それ何処で知ったんです?」
「ドラマです」
「あー…」
ドラマかぁ…という顔をされて少しムッとする。一応まだ子供…いや水山さんってそういえば何歳なんだ…?場合によっては私より年下も有り得るな…。
「退職制度というのは先程も言ったとおり、民間の会社なら二週間前に辞めることを申告すれば期間を過ぎた後は辞めていいのですが、公務員だとそうはいかず、部署によって差はありますが…分かりやすく言いますと、引き継ぎをしないといけないんです。まあ引き継ぎしないといけないのは民間も同じなのですが、そもそも申告もせずにバックレるのも居ます。僕のように」
「つまり会社からすると大変困るというわけなんです」
「じゃあ水山さんも引き継ぎとかしたんですか?」
「…してないですね…」
「人のこと言えないじゃないですか…」
ルナさんが突っ込んだ。
(そ、そうでした…ぼく裏切り者設定だから今は政府側に味方する発言をしちゃいけないんでした…)
スパイだったことを今思い出した。気が緩み過ぎである。
(本当はぼくが居ない間の仕事を何処に振り分けるのかも仕事内容の通達もレクチャーもその他諸々も全部済ませてからこのスパイの仕事に移ったのに…これじゃぼくがちゃんとしてないのに自分のことを棚にあげて人に嫌味とか言う嫌な奴みたいじゃないですか…うう…)
正直言ってぼくはそのような人種が大変嫌いである。というか殆どの人は嫌いそうだが、何故自分もちゃんとしていないというのに堂々と人に聴こえる大きな声で厭味ったらしく言うのかが理解できない。その場に居る殆どの人が(こいつまたやってんのか…)とか(お前もだろブーメラン発言恥ずかしくないのか…)とか思っているはずである。加えてああいったのは新人のミスを態々探すので滑稽でしょうがない。そういうことをする前にきちっと仕事をしてほしいものである。
(…はっ、気づいたら昔居た嫌な人を思い出してしまっていました…ともかく引き継ぎをしていない体でいかないと、何故裏切ったのに引き継ぎができているのかという矛盾が生まれてしまいます。気をつけなければ…)
泊まり込み三日目。
「よーし、気をとりなおして !!午前は必殺技開発にするわよ!!」
「必殺技!?やったー!!」
真衣さんに必殺技の開発を告げる。それを聞いた真衣さんは子供らしく目をキラキラさせ、はしゃいでいた。やはり子供というのは必殺技という単語に弱いものだ、特に男子。真衣さんは女子だが。
「まずはどんな必殺技を作るか…内容からいくわ。何か意見がある人~!」
「はーい!」
真衣さんは元気に手を上げ、ひょいと椅子から降りておもちゃの剣を取り、構えをとった。剣を逆さに持ち…何か見たことのある構えである。
「アバ…」
「ちょっとやめときましょう…パクリは良くないわ」
先生に真衣さんの趣味嗜好を教えてもらっておいてよかった…でなきゃ生きてる年代が違うから気づかなかった。流石に二~三十年前の作品は分からないわ…。
「えー」
「向き不向きがあるし、ちょっとその技はほぼ不可能だと思うわ。この技を指南できる人は此処には居ないし…」
二次元の人を呼ぶのは神守りの願いを使わないと無理である。
「オリジナルの技にしましょうよ。その方が深みも出るし相性も合うわよ」
「はーい」
【覚醒】
理沙の場合、背中に六本の蜘蛛の脚が生え、下半身は蜘蛛の腹のようになる。
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