第十九話 大輝との決着、そして三度目の仮面達
「全体、装填開始!!」
大輝の号令とともに、先程まで静止していた人形達が銃やらロケットランチャーやらを装填しだす。
「【ユダ】、応答せよ!個体【カマエル】へ追加の物資を要求する!【ユダ】、応答せよ!…【ユダ】?」
何やら大輝にとって想定外の事態が起こっているようだ。電話などは持っていないようだが、何か通信か、テレパシーでも使っているのだろうか。
『【ボールネット】!!』
私は自分でも知らない技を発動した。遊具に自分から出た蜘蛛の巣をそこかしこに設置し、大きい球形にして私と大輝のどちらも出られないようにした。背中の足がジェットコースターに掛かった巣に飛び移る。何か自分ではない何かに身体を動かされているような違和感を感じるが、別にどうでもいい。勝つのが最優先だ。
「…全く、分かってはいたけどまさかこのタイミングとは…」
「…そのまま誰かと喋っててくれたら不意打ちできたから楽だったんですけどね」
「理沙さん、君段々私に思考回路が似てきてないかい?丁度欠員出たし、仲間になってくれたら嬉しいな」
「なる訳ないじゃないですか、先輩裏切ったの誰だと思ってるんですか」
白々しい笑顔を向けてくる大輝に対して、今一度睨みつける。仲間になるなど、冗談じゃない。どこまでも自分勝手で苛立ってくる。
「…物凄い殺気だね、怖いなあ」
…互いに、攻撃のタイミングを伺っている。下手な時に仕掛ければ、カウンターされて逆にこちらが攻撃を受ける可能性があるからだ。よくアニメや漫画などで、汗が滴り落ちたり崖やら何やらが崩れ落ちたりした瞬間に戦闘を開始したりするが、こういう事なのかなと勝手に思った。
そして、先程の大輝との戦闘で壊れるか壊れないかの瀬戸際にあった観覧車のゴンドラが限界を告げ、ギシギシと軋む音を立てながら地面に落ちた。
「全体、撃てーっ!!」
「っ!」
背中の足で蜘蛛の巣を上りながら、【チェーンウォール】を目前に張りこちらへの着弾を防ぐ。手榴弾も混じっていたため爆風が来てしまったが、運良く右半身側だったためまた【マジックワイヤー】で修復する。大輝はもう爆風で見えなくなってしまったが、次は刃物や鉄パイプ、バールなどを持った人形達が近づいてきた。
「うおらああああぁぁっ!!」
リンさんを振り回し、【縫い針】を発射して人形達を倒すが全方位から次から次へと湧いてくる。再装填を終えたのか銃弾もまた飛んできており、防戦一方となっていた。
(ここからどうするか…このままだと消耗戦で私が負けることは明確、何か打開策を考えなくては…)
だが、そんなにポンポン思いつくようなものでもない。そして、そうこうしているうちに一体の人形がリンさんの攻撃をかいくぐり、私に鉄のバットを振り下ろしてきた。逃げられない、と思った矢先、
『【アシダカの分崩離析】!』
またもや勝手に知らない技名が口から出た。蜘蛛の足の方に白く平たい卵の塊が出現したが、それだけだった。
(防げない…!!)
そして、鉄バットが私の腹部に直撃した。
「ぐぅぉおあっ!?」
今まで攻撃される前に倒していたから気づいていなかったが、人形の小さな腕から繰り出された一撃は以前戦ったムクロステに匹敵するほどの威力だった。肋骨が砕けた音がし、とてつもなく鈍い痛みが走る。鉄バットの衝撃に後ろの白く平べったい塊が私の腹部諸共潰れた時、それは起こった。赤い糸で出来た全長六センチ位の蜘蛛が、一斉に白く平べったい塊から生まれ始めたのだ。数え切れないほどの蜘蛛に一瞬悪寒がしたが、自分の技なら味方なのだろうと考え冷静になる。多すぎて数え切れないが、多分三桁は居るだろう。私は半数の蜘蛛達が人形の相手をしている隙に残りの蜘蛛達を連れてその場を離れ、大輝の方へと巣伝いに向かい始めた。
「目には目を、数には数をって事ですか…」
バラバラになった肋骨の位置を糸で少しずつ直しながら、呟く。正直痛みでどうにかなりそうだが、先輩の安全とこの場での安全が確保出来ていない以上、未だおかしくなんかなってられない。
大輝が見えてきたが、やはり人形達が守っているので【縫い針】を発射して人形の数をできるだけ減らしてから、蜘蛛を人形の方へ攻撃に向かわせる。大輝は私が倒す。
「やっと来たのかい。遅かったね」
私は問答無用で大輝にリンさんを叩きつけた。大きな針で受け止められたが、すぐに攻撃を切り替え素早く腹に突き刺す。確実に腹を貫いたがやはり痛がる素振りを見せないので鍔を変形させ大輝を固定し、そのまま思いっきり大輝ごとリンさんをぶん回し、勢いで大輝を地面に叩きつけ左脇腹をぶった切った。
「うーわ、もうこれ下半身が使い物にならなくなっちゃったじゃないか…ま、いいか。どうせ使わないし」
「…そもそも貴方、何で全然痛がんないんですか。痛覚イカれてるんですか」
「感覚共有はされてないんだよ」
全く意味の分からないことを言っている。理解不能だ。
「ま、君も大概イカれてると思うけどね。頭が」
「貴方にだけは絶対に言われたくない言葉ですね、それ」
大輝は千切れかかっている右脇腹を自分でブチブチと千切り、上半身だけになった。
「はあっ!!」
「ぐ…っ」
針を振り下ろされたので、リンさんで受け止める。お互い足が無い状態なので飛んで戦っているが、大輝も操る人形と同じ位の力である。ムクロステと戦った時のように腕が折れそうだ。
「よく、耐えられるね…まあ真衣さんには劣るけど」
「…当然ですよ…先輩は…不意打ちなんかされなければ、誰に、も…負けませんからっ!!」
なんとか、針を押し返してまたリンさんを振り、首にざっくりと刃を入れた。
「!驚いたよ、まさか力負けするとは…」
「これで…っ、終わりですっ!!!」
今一度、首に刺さっているリンさんに力を入れ、思い切り頸椎を折った。
「それじゃあね、理沙さん。【ユダ】を宜しくね」
「は、ぁ……一旦、終わった…」
ドサリとその場に倒れる。【覚醒】も解けてしまい、また黒液切れの状態になってしまった。糸でカバーしていた右半身も黒液が無くなったことで再び骨が露出し、カタカタと音を鳴らした。
(…あれ、そういえば大輝…分離…してない…)
そこに転がっている大輝の頭には肉と綿が詰まっている。私が斬った首からは今もドクドクと血が流れ出しており、仰向けになっている私の髪と服を濡らしていた。
(まあ、それよりも…これ、結構…ヤバい状態ですよね、先輩…)
大輝を倒した達成感と、先輩を早く助けに行かなければいけないという使命感と、今この状態では何も出来ないという焦燥感で一周回って冷静になる。萌さんも早く回復しないといけない。このままでは、二人共消滅してしまう。
(なんとか…先輩の、元へ…)
残っている左半身の腕と脚を使って地面を這い、先輩が皆と一緒に逃げていった方向へ向かう。
「黒液切れ、なんて…根性で、どうにでも…してやりますよ!!!」
それはまさしく、執着だった。
時は戻り、城田と巻中が大輝と戦い始めた頃、おれ達は真衣さんと唐館さん、海里さんを安全な場所に避難させ、回復させるために遊園地から逃げていた。真衣さんは唐館さんが出した幻の車に乗っており、おれ達二人はそれにしがみついて敵が来ていないか全方位を見張っている。他の客はいつの間にか、多分最初に大輝が騒ぎを起こした時から逃げていたのだろう、もぬけの殻だった。
「光村、あれ!」
「今度はなんだ!?」
兄姉貴が指差す暇もなく、上から大勢の人が降りてきた。不気味な仮面、フード。この特徴は間違いない、仮面の男だ。女もいる。ちょっと前に城田の家に襲撃していたのを聞いていたから複数居るのは分かっていたが、まさかこんな時にまで会う羽目になるとは。
「何が目的なんだよこいつら…!?」
「分からない。ただ…」
「全体、敵車に向かって襲撃ーッ!!」
仮面達は違法武器を構え、車に発泡する者、バットやハンマーなどの武器で向かってきた。
「…敵であることは確か」
「唐館さん!この車、火とか水が触れても大丈夫か!?」
「ああ、大丈夫だ!安心して全力を出してくれ」
「【焔海】っ!!」
「【超高圧洗浄銃】」
大体の仮面をおれが燃やして倒す。だが、後ろからは仮面が燃えながら追いかけてきており、それを兄姉貴が水を高圧で打ち出す銃で倒している。
「…気付いてるか、光村」
「なんだよ兄姉貴、敵が多いってことはさすがのおれでも…」
「違う。明らかに、人数に悲鳴が比例してない」
確かに、この場には次々と仮面が送り込まれており、既に二十人位は燃やしているが、その中の三人位の悲鳴しか聞こえない。それ以外は少しのうめき声すら出さず、そのままこちらを追いかけて来ていた。
「原因は分からない。ただ、光村には攻撃じゃなく、防御をしててほしい。炎になって車の周りから三センチの余白を開けて纏わりつき、銃弾が車に着弾する前に溶かす。僕はその三センチの余白に水流を発生させて、その溶かした銃弾の勢いを無くして無効化する。水蒸気爆発は個人魔法の炎と水だから起こらない。そういう作戦」
「分かった。じゃ、攻撃はまかせたっ!!」
兄姉貴は身体の一部を【水化】させ、車の周りに水流を発生させる。おれは兄姉貴に言われた通りにその上に被さるように【人体自然発火現象】で炎の防御壁を作った。
「…まかされた」
銃弾が車に向けて撃たれるが、兄姉貴の作戦通り銃弾は車に到達すること無く無効化されている。その状況がしばらく続いたが、痺れを切らしたのか届いたのか、手榴弾を投げてきた。その爆発はおれの炎では防げず、車の天井に穴を空ける。
「こっ、こわい!!」
「ヤベェ!?」
唐館さんは幻で出来た車を走らせたまま咄嗟に真衣さんを庇い、仮面達は一瞬だけおれ達の防御壁が無くなったのを見計らってそこに三人程仮面が入ってきた。唐館さんは真衣さんを抱きかかえて後部座席に逃げ込み鉄で壁を張るが、なんと、大輝との戦闘の時の人形のように、幻覚の壁をすり抜けてハンマーを振りかざしてきた。幸い頭には当たらなかったものの、唐館さんの右肩に思い切り当たってしまい、肩甲骨を骨折してしまった。
「【ファイヤーエスプレッソ】ォッ!!」
おれは仮面達に近づき、
「【燎原之火】ッ!!」
仮面達を一瞬で焼き尽くした。
「消火する、ちょっと待て」
車にも火がついていたので、兄姉貴が【水化】した身体で車の中を這いずり回り、消火する。その後、兄姉貴が一人の仮面を何気なく剥いだ後、一瞬とても驚いた顔をした。
「車を修復して走らせて。光村は外の仮面達を相手しててほしい。僕は唐館さんに話しがある」
「おっけー、後で話の内容教えてくれよ、兄姉貴!」
僕は真衣さんを抱きかかえ、敵がいつ中に入ってきても対処できるような体制になった。
「唐館さん。僕が思うに、この仮面達…殆ど、大輝の人形と同じようなものだと思う」
「…ああ、オレもさっき幻をすり抜けられた時その可能性は思った…そういえば、さっきの仮面の顔を見て随分驚いてたが、なにかあったのか?」
「ここからが本題。こいつの顔、見て」
僕は先程仮面を剥いだ男の顔を見せる。それは,光村の顔だった。
「なるほど…。…ん?は!?」
唐館さんがまず一回顔を見て、しばらくしてからまた見る。そしてまた信じられないと言うような顔で見た。三度見である。
「僕も驚いた」
「いや驚いてる奴の反応じゃないだろそれ!?…まあいい、光村は…敵なのか?」
「いや、それはない。そもそも光村と真衣さんが接触できたのは全くの偶然。…まあ、大輝みたいな可能性も考えられるけど…」
「それはないって言いながら一瞬で意見覆したな…ま、今は信じとくぜ。ちゃんと敵も対処してくれてるみたいだし…」
その瞬間、助手席に一発の弾が打ち込まれた。どうやら光村が防御し損ねたようだ。
「ごめーん!!大丈夫かぁー!?」
「…大丈夫、誰も当たって無い。ありがとう光村、僕もそっちに戻る」
「おう!ありがと、兄姉貴!」
少し呆れたような、そしてちょっと安心した顔で僕は返事をし、光村からは元気な声で返答が返ってきた。
『・並行世界
パラレルワールドとも呼ばれている。ある世界から分岐し、それに並行して存在する別の時空のことを指すが、石を蹴ったり水を一滴溢しただけで世界が分岐するため全ての世界の観測は不可能だとされている。人の想像する数だけ並行世界は存在するという説もあるが、それだと先程不可能と書いた【全ての世界の観測】も何処かの並行世界では行われていることになる。また、この説は色々と矛盾ができることが多いため実際のところはよく分かっていない。あくまでも一説である』
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