第十六話 色界集締貪
「兄姉貴、そのスマホでコイツの能力とか分かんないの?」
「無理。こいつ融合種、個体ごとに能力違う」
「じゃあ実践しかねーな。【焔海】ッ!」
光村が辺りを炎で包む。その炎は色有りに引火し、苦しみ悶えている様に見えた。…が、急に色有りは落ち着き、こちらに向かって炎を放ってきた。
「ッ、【水蛇】!」
高波が周りから水を発生させ、大蛇の形にして放つ。その蛇は色有りが出した炎を丸呑みにし、消火した。
「これ、光村の能力吸収してない!?」
「まずい。非常にまずい。僕の能力はアイツに使えなくなった。僕の能力が吸収されると、光村の能力はさっき僕がしたように無効化される。僕は防御のサポートする、二人は攻撃、理沙はできるだけ能力を使わないでほしい」
「りょーかい、兄姉貴!」
「【人体自然発火現象】!!」
光村が炎になり、色有りに突撃する。
「へへーんっ、これなら火を吐かれても効かないぜっ!」
色有りがさっきのように炎を放つが、逆に光村がそれを吸収する。一回りサイズが大きくなった光村が色有りを包み込むが、今度は色有りの中に入っていた金棒を外に出し、遠心力でバットをぐるぐると回すように回転させ始めた。
「うわっ!?」
色有りを包み込んでいた光村の炎が散らされたので、一旦炎状態から戻り色有りから離れる。
「何だよこいつ、めんどくせー防御方法思いついた子供か!?」
「色有りにも光村にも見たところダメージは入ってない…炎は無効化されるのかも。理沙、ちょっとその武器で殴るか斬るかしてみて」
「オッケー、行きますよリンさん!!」
上から一気に落ち、色有りへ突撃する。吐かれた炎はリンさんを回転させて防ぎ、そのままの勢いで中心を円月輪部分で斬った。すると、中からふわりとした香りと同時に先輩が出てきた。
「良く頑張ったな。実は、全部みんなに協力してもらったドッキリで、理沙が自立できるか確認してたんだ。すまなかったな、こっちにおいで」
「…何か理沙、色有りを斬ったきり動かない。光村、理沙を回収してほしい」
「分かった」
何があったのだろうと思いながら、城田の所へ向かう。
「先輩…やっぱりやられちゃう訳ないですもんね…!」
ぶつぶつと何かを呟いている。色有りに向けている目は普通ではない、様子がおかしい。
「城田、ちょい離れようぜ!このままだと攻撃される」
返事は無い。
「城田…?」
やがて城田が色有りの方へゆっくりと歩き始めた。色有りは理沙に覆い被さるような形を取り、城田が下に来るのを待っていた。
「城田、こっち行くぞっ!!」
おれは城田の手首を掴み、思いっきり引っ張った。その時、ふわりとした香りがして、
「…ありゃ?」
色有りは居なくなった。
(…これはもしかして、化かされてるんじゃないのか?)
さっき城田がぶつぶつと何かを呟いてたのも、それなら頷ける。
「あれ?先輩、いつの間にそっちに行ったんですか?」
「城田!そっちに行くな、幻を見せられてるぜ!」
城田の耳には入っていない。仕方なく反対方向にまた引っ張ろうとすると、冷たい流水に絡め取られた。
「光村、何をしてる!?今、光村は理沙を色有りの方へ引き込もうとしてた、正気の沙汰じゃあ…!…あ…そういうこと…」
兄姉貴も来てしまった。
「兄姉貴、そっち側に色有りが居るのか!?」
「うん、でも消えた。代わりにお前の父親の死体が転がってる。多分幻術、厄介なことになった」
今、何処に色有りが居るのか分からない。目の前に居るかもしれない、ゆっくりと近づいてきているのかもしれない。もしくはそのままの場所でどかっと構えておれたちがうっかり来るのを待っているのかもしれない…。
「…先輩じゃない」
「!城田、正気に戻ったのか!?」
「はい、だって先輩、おいでおいで言ってるばっかりでこっちに全く来ようとしないんです。あ、敬語の方がしっくり来るって気づいたんで敬語にしますけど気にしないで下さい。先輩との会話ですっかり慣れてしまって」
「城田…おまえ錯乱してるだろ?」
「あ、バレました?今あなた達も先輩に見えてるんですよね。何で分かったんですか?」
「聞いてないのに言ってきたりめちゃくちゃ早口で喋ってるから」
「うわっ!?」
ぬちょ、と頭に不快な感覚が走る。おれ達がいつまで経っても動かないので自分から取り込みに来たのだろう。
「どっちから来てるんですか、コイツ…!」
「理沙!【パーフェクトボール】は!?」
「ダメです、間合いが分からないし色有りが入ってきたらそれこそ一貫の終わりです!」
「…仕方ない!僕の水で一旦引き剥がす、その隙に何処でもいいから散る!」
兄姉貴が水を作り出し、みんなの周りに纏わせる。
「いっせーので走る。…いっせーの…」
三人が身構える。
「せっ!!」
ダッ!と合わせて走り出した。その途端、
どぷん。
ふわふわとした無気力な感覚に襲われる。心地良く、何もやる気が起きない。矛盾しているがひどい倦怠感にも襲われ、指一本動かすのも億劫である。目を開けてみると、城田と兄姉貴も同じ状態になっていた。
(多分、兄姉貴がおれを助けてくれた時に、もう能力を吸収されちまってたんだろうな…)
もうろくに回らない頭で辛うじて思考する。
(まぁ、いっか…)
普段ならおかしい思考回路だが、まるで思考抑制剤を打たれたかのように何も考えられない。最早成す術が無いので諦めて色有りに身を任せていると、人の声が聞こえてきた。
「…………と………ぜ……………さ……や…」
誰かと話しているようだ。ゆらゆらと光の屈折で揺れるぐにゃぐにゃの人影は次第に大きくなっていき、
がっと手首を掴まれ、一気に引っ張り出された。
「大丈夫か、お前ら!!」
意識からもやもやがすうっと引いていき、明瞭化していく。見てみると手はどこに繋がっているのでもなく、肘までしか無い六本の手が兄姉貴と城田とおれをそれぞれ持っている。合わせて十八本だ。それらを操っているのは多分目の前の金髪の男の人だろう。
「唐館さん!!」
城田が目の前に居る男の人に感謝と驚きの声をあげる。どうやら、からたちというらしい。
「真衣さんが記憶無くしたっていうから家まで来ようとしたんだけどな、その途中でお前らが色有りに囚われてんだから驚いたんだぜ!?んで、オレのまやかしの能力、そしてまやかしを具現化させる能力で助けたって訳だ」
「…あの色有りは能力を吸収する。そんな強い能力手に入れられたら、もう今度こそ成す術が…」
「だーいじょうぶだって。オレの能力は、そのまやかしを認知できる奴にしか効かない。そして、今はそれを認知出来ない奴が戦ってる。オレの彼氏、海里だよ」
俺はこの時にもなって、コイツと決着がつけられるとは思ってもいなかった。
「久しぶりだな、憲…!」
アルマゲドンの時、俺は地獄に居た。まぁ、地獄と言っても賽の河原だが。
賽の河原は親より先に死んだ子が行く地獄だ。俺は神消滅事件が起こる前に死んだから、守り人の救済制度を受けられなかったし知らなかった。それでずっと石を積み続けて退屈している時、憲達と出会った。どうやら天国を目指して反乱していたらしかった。
俺達は犠牲を出しながらも、ついに地獄から脱出した。だがその時、この色界集締貪が現れた。元々こいつは欲があるやつの願望の幻を見せて、それで誘き寄せて捕食するような能力の融合種らしかったのだが、憲を捕食してしまい触れた能力を吸収する能力も身につけてしまった。それから仲間二人が魂を懸けて狭間に封印してくれて、今まで活動していなかったからこそ、この時点でもまだ三人で善戦できるぐらいの強さだったのだろうが、何故今になって封印が解けたのか…。
「ま、そんな事は今はどうでも良い。」
俺の守り人衣装は正統派な中世の鎧だ。右手の手の平を床方向に向けると斧が生み出されるので、ちょうど出来上がったタイミングで斧の取っ手を掴む。
「これ以上強くなられると厄介だからな、倒させてもらう!!」
ダンッと地面を蹴り距離を詰め、斧を振り下ろそうとするとあちらも金棒を取り出し防御される。
「…!」
この金棒は、憲が元々使っていたものだ。
「この野郎!!」
仲間の遺品をさも最初から自分の物のように扱われると、無性に腹が立つ。がきんがきんがきんと互いに打ち合い、火花が散った。途端に色有りは俺の後ろに回り込み、俺を取り込もうと身体を広げるが、
「お前は幻が見えてる前提で戦ってるかもしれないがな、俺には幻が見えてないんだよ!!」
この色有りには視覚が無い為、自身の創り出した幻と触覚を基盤として行動している。そして、色有りは自分の戦っている相手が自分の思い通りに動いていない事に疑問を感じながらも、錯乱してたまたま自分に攻撃が当たっていると推測して行動していた。そして、相手の後ろに回り込めば相手の攻撃が空振り、幻の自分に炎を吐かせて相手が怯んだその隙に取り込んでしまおうと考えていた。
「おりゃぁああああああ!!」
その考えをゲル状の身体もろとも一刀両断され、
「はあっ!!」
核に攻撃を当てられた。
核を壊された色界集締貪は、ボロボロと赤いパズルピースとなって崩れていき、七個の塊と三個の錐、金棒を残して活動を停止した。
「よいしょっと」
守り人状態を解き、塊を神守りに入れて、左手に錐、右手に金棒を手に取った。ずしりとした重さがある。
「…これ、こんなに重かったんだな」
まるで中身のさほど入っていないカバンを持つように、軽々と何とも無い感じで持っていた憲を思い出した。ぶんぶんと振り回し、ガツンと敵の脳天にぶち当てる。そんなアイツの姿を。
「海里ー!」
翔が三人を浮かせながら走ってくる。俺の能力は真実だけを見る照魔鏡の能力のため、翔の幻が見えないから三人が浮いているように見えているが、四人にはどう見えているのだろうか。
「翔!…どうやら三人とも無事だったようで良かった。俺は早野 海里、二人は?」
「光村 功!」
「…高波 雨月」
「そうか。理沙、功君と雨月…」
…どうしよう。男の子か女の子か分からない…もし間違ってしまったら失礼だろう。
「…くんでもちゃんでも良い」
本人から助け舟が出た。
「ありがとう。功君と雨月君とは知り合い?」
「はい、家にも入れてます。すみません、助けてもらっちゃって…」
「いや、良いんだよ。そ」
「それより!真衣さんは今、どんな状態なんだ!?」
同じ内容で遮られた。
私は今まであった事を大雑把に二人に話し、
「…なるほど、大輝が裏切り、ルナも第二次アルマゲドンを起こそうとしている、ねぇ…そういえば海里、アイツの心が読めないって前言ってなかったか?」
「そういえばそうだった。三人とも、俺は人の心も読めるんだが、大体十人に一人ぐらい読めない人が居るんだ。何かのヒントになるか分からないけど、その中に大輝も居たという事を伝えておこう」
海里さんが心が読めないという十人に一人。ただの力不足だろうか、それとも他に何か理由が…?
「心が読めない人の共通点とか見つけたら教えてください。あ、そうだ、先輩の家に向かってたんでしたよね。ここでずっと話すのも何ですし、一回家に帰ろうと思うんですけど、どうします?」
「ただいまですー、先輩ー!」
「おじゃましまーす…」
「おかえりー!」
先輩がドタドタと廊下を走って出迎えに来てくれた。
「…あれ、理沙、その人たち誰ー?」
先輩は唐館さんと海里さんを指差して、首を傾げる。
「…マジに、忘れちまったのかよ…」
二人は変わり果ててしまった先輩を見て、ショックを受けたようだった。
「海里さんと翔さんですよ」
「そっかあ。海里さんと翔さん?」
「…呼び捨てで、良いよ」
「…オレも。なんか真衣さんにさん付けで呼ばれるのって…違和感が凄いよな…」
二人とも今まで呼び捨てで呼ばれていたから、先輩が記憶を無くしたのに現実味が出てしまったのだろう。
「おかえり、五人とも。海里さんと翔さんは僕が呼んだんだけど、途中で合流してたんだね。道理で少し遅いなと思ったよ」
宮成さんが廊下の光の当たっている場所からにゅっと出てきた。
「よう、宮成。最初聞いた時は信じられなかったけど、やっぱ本当なんだな…。大輝の野郎に怒れば良いのか、真衣さんの事で悲しめば良いのか分かんねぇぜ…」
「大輝やルナの居場所は未だ掴めてないんだよな、宮成。俺達も協力する」
『・融合種
同じような感情からできた色無しが五匹以上集まって、融合してできる色無しや色有りの総称。同じ種類の融合種でも持っている能力には個体差があるため、あまりその種類についての詳しい説明は出来ないが鑑定は可能である』
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