第九話 近況報告会という名の集まり

「おめでとうございます、お幸せに!」

「まだ結婚って訳じゃないんですけどね」

「仲間の仲がいい事は誇るべきことだよ。おめでとう」

私達の家で待ち合わせをしていたので、待っている時間にルナさんと大輝さんに付き合った事を報告していた。

「それにしても、随分早かったね。君の性格上、長々と先延ばしにしてそうだったけど、こんなに早く告白するなんて」

図星である。

「少し訳があってな。あの焦りようは見てて面白かった」

遠くから二人が走ってきた。

「よー!こうして集まんのも久しぶりだな」

「久しぶり」

「おっ、来たな翔に海里。あとはモア達だけか」

「あ、そういえば、理沙さんはモアさん達と会うのは初めてですね」

「モアさん達って誰ですか?」


その時、照明の光と床の影から二人の男の子が現れた。

「ごめん、ちょっと遅くなった!」

「大丈夫です、時間通りですよ」

白髪のボブの髪型。結構変わった髪色と、服は見たこともないような異国のセンスをしているので結構目立つ。肩に布があり、白のブカブカの長い襟袖の服とブカブカのズボンだ。黄色のマントをなびかせている。先端に双四角錐の器をつけた杖をついていた。中身は空である。そして、円の模様が延々とついている翼というか羽根というか、そういうものが背中にあった。

「すまぬ、待ったか勇者!久しぶりであるなぁ!」

「久しぶり」

黒髪のショートヘアのちょっとボサボサした感じ…と言えば分かりやすいだろうか。服は先程と同じようなもので、黒色ということと半袖だけが違った。赤のマントをなびかせている。こちらはボウカンシャの頭の模様をした球体をつけた杖である。たぽんたぽんと中から黒液の音が聞こえた。こっちはどうやら中身はあるようだ。喋り方がかなり独特である。

「理沙、紹介しよう。全体的に白い方が宮成 慎吾、全体的に黒い方が不知火 湊。それぞれ恐怖の大王とアンゴルモアの大王だ」

「…えっ、あの?なんだっけ、アルマゲドンの首謀者っていう…」

驚きすぎて敬語を忘れる。

「そうだよ。理沙って言うんだね、よろしくね」

「湊でもアンゴルモアでもモアさんでもモアくんでもモアちゃんでも良いぞよ。よろしく頼む!」

…なんか、普通に良い人そうである。


「よし、みんな集まったな。これから第二十回近況報告会を始める」

私含む八人が座った時、先輩が言った。

「何ですかそれ?」

「ぬ、雛鳥は初めてだったな、この集会は」

「雛鳥!?」

「あ、不知火くんは人にあだ名を付けるクセがあるんだ」

どうやったらそんなクセが付くんだ一体。

「勇者に『まるで雛鳥のようだ』と言いながら散々惚気られたのだぞ」

「ちょっ、言うな!」

そういえば告白した日もそんな事を言っていた。

「まあ、近況報告会はみんなで集まってお菓子食べながら最近あったことを話す集会みたいなものだね。基本ゆる~い感じで行われる」

「最初は近況報告だけですけど徐々にそれが普通の話に変わっていくんです」


「では僕から。こちらは特に変わった事はありません。出来事といえば、せいぜいUFOキャッチャーで五千円溶かしたぐらいです」

ルナさんが報告する。何をムキになってそんなに使ったのだろうか。

「それ、取れた?」

宮成さんが聞く。

「はい。クマさんのぬいぐるみです」

割と可愛いものだった。

「じゃあ次は私だね。こちらも特に変わった事は無いよ、コレクションが増えたぐらいで」

「コレクションですか?」

「大輝は人形を使って攻撃するから、家に沢山の人形があるんだよな。それがコレクション…だと思う。多分。あ、オレんとこも特に無いぜ」

翔が言う。ぬいぐるみは戦闘に使わないのか疑問だが、柔らかいので多分そういう事だろう。それにしてもコレクションを戦闘に使うのも何か違う気もする。

「そうだな。強いて言えば、大人の玩具をポチったぐらいだな」

「ちょっ、それ言わなくて良いだろ⁉︎」

「エネ…」

「あーあーあー!!」

エネから先は何なのだろうか。取り敢えず詮索はしないでおこう。

「五月蝿いぞ見かけパリピと嫉妬男!」

「…えー、では気を取り直して。私達、付き合いました!」

「おめでとう!」

「おめっとさん」

「はい、終わり。次ー」

簡潔すぎる。

「ちょっ、早いですよ先輩!もっと語りたかったのに」

「こっちが気恥ずかしくなるからな」


一通り言い終えた後で、今度は普通の話に変わった。

「でさー、その漫画が再アニメ化しないかなってずっと思ってるんだよなー。二十年ぐらい前から。途中でアニメ終わったのがもう悔しくて悔しくて」

先輩はいつも言っていることを繰り返し言っている。昔の漫画すぎて読んだことも聞いたことも無かったのだが、どうやら王道の少年漫画で、あるゲームを基にしたものらしい。もし再アニメ化してグッズが出たら買い漁るんじゃないだろうか先輩は。

「その話もう何回聞いたんですかね、僕」

「耳にタコができるぐらいだな」

「まあリメイクとかされますよ。多分」

根拠のない答えを出して、皆スナックやら煎餅やらをボリボリ食べながら話している。

「あーん」

「何があーんだよ、人前だぜ!」

海里さん達は勝手にイチャついている。そういえばこのギャラリー男女で付き合ってる奴が居ない、何故だろうか。

「うぬら、そろそろ外に出ぬか?面白そうな場所を見つけたのだ」

「あ、私はもう帰るよ」

「む、もう帰るのか人形。もう少し居れば良いものを」

「あ、オレらも帰りまーす。商品が届くのが今日だったの忘れてた」

「例のヤツか」

「例のヤツ言うなし」


ということで、私と先輩と宮成さん、モアさんが残った。現世の路地裏で、モアさんが杖を掲げて【反転】と唱えると、現世では普通薄い実体が濃くなった。どうやら生きている状態になったようだ。因みにモアさん単体でしか出来ないようである、面白い能力だ。

「では、反転したのでついてまいれ!」

「その格好で目立たないんですか?」

「我はそんな事気にせぬ。警察やらに呼び止められたら幽霊に戻ればいい話だ、反応も面白いのだぞ」

「いつもこうなんだよ、不知火くん。僕は何度も止めたんだけど、もう諦めちゃった」

「苦労してますね」

暫く歩くと、

「ここは?」

青いビニールシートを屋根にして、竹藪の中にあるそこそこ大きなスペース。近くにはお菓子のストックが置いてあり、ノートと鉛筆もある。ゴミ捨て場から持って来たのであろうソファーも設置されていた。田舎だからできる秘密基地的な場所である。

「む、なんだ、今日はやけに人が多いな」

「え、そんなに?不知火くんしか居ないよ。あ、もしかして、本当に幽霊連れてきたの⁉︎」

「そうとも、本物厨二病に翻訳機!我は勇者に僧侶、雛鳥に親友を連れてきてやったなり!」

一人も名前を言われていない。永遠くんに至っては普通に名前を呼んだ方が良いほどちょっと長い。

「一ヶ月ぶりだな、永遠に陽人だっけか?まさかモアと知り合いだったとは驚いた」

「おひさー。今日はあの兄妹は居ないの?」

元々友達なので敬語を解く。

「ああ、今は黙示録に記されるべき真実の物語を探している最中でな。そもそも入れないし」

「オカルト同好会の参入者を探してるんだよ。幽霊が見える人とか…僕たちは霊障とかに逢いやすい体質だから、ここにいるんだ。ここには悪霊とかは入って来れないから。…まあ理沙ちゃん達も入って来れないけど」

「あ、本当だ」

四方に盛り塩が置いてあり、入ろうとしても謎の結界みたいなもので立ち入る事が出来なかった。

「まあ幽霊さん用スペースもあるからくつろいでいってね。何も無いけど、休憩場所にはなるんじゃないかな」

まるで急に来た子供の友達に対応するお母さんのようだ。

「どうだ、秘密基地のようで面白いであろう!?」

「のようというか本当に秘密基地なんじゃないか、これ」

「いかにもって感じだよね、逆にこれが秘密基地じゃなかったら何なんだって話になるよ」

先輩と宮成さんが思わず突っ込む。

「三年前ぐらいに作ったんだ。三人でね、不法投棄とかされてる場所から持ってきて…台風で諸々飛ばされた事とかもあったけど、その度に補強してるよ」

「秘密基地は男のロマンだろう。だから思い出にと作ったんだが、まさか今も使うことになるだろうとは思わなかった」

「永遠くんの口調って割と普通のときあるよね」

「ボキャブラリーが少ないからな」


「では、また会おうぞ!」

「バイバイ。道中気をつけてね」

そうやって二人に別れを告げた。二人はまだ秘密基地にいるらしい、今日はやる事が残っているそうだ。

「じゃ、帰りますか?」

「そうだな」

冬だから日が落ちるのが早いというのもあるが、もうすっかり夕方である。

「あの子たち、門限っていつぐらいだろう」

「我は日が落ちるまでなり。全く、我の能力は辺りが闇に満ちた時が本領発揮だというのに」

「物凄く厨二病っぽい発言してるけど本当の事だから誤解しないでね。いつも苦笑いされるから先に言っておくけど」

宮成さんがフォローする。

「では、我らも日が暮れぬ内に失礼するぞ!暮れてしまうと親友が明かりを見つけるまで帰れぬのだ」

「たまには名前で呼んでね…」


『おじさん、どこ行くの?』

柏野さんが大輝さんに聞いた。

『おじ…⁉︎…大輝お兄さんだよ。少なくとも身体は若い…筈だし』

少しショックを受けたようだ。

『僕は今日政府の秘密を暴きに行くんだ。絶対アイツらには何かある。だから、誰にも言っちゃいけないよ。たとえ僕にでもね』

大輝さんは柏野さんの肩のとルアリの頭に手を置いて言った。


…矛盾点がある。だが、何処か忘れてしまった。

(うーん、何処だっけ…何か、違和感があるような…)

それに、『僕にでもね』も気になる。何故自分にも言ってはいけないのだろうか、それともただの思い過ごしなのだろうか。

「ま、いっか!」


「おはようございまーす、先輩いつも早起きですね」

「習慣だからな。ほら、冷えない内に食べるぞ」

「いただきます」

ほかほかの鮭とご飯と味噌汁だ。鮭を箸でほぐして口に運んだ。


「じゃあ、行ってきまーす!」

狭間のドアから影に移動して、今回はあまり行かない方角の山へ来た。マッピングはゲームでも現実でもあの世でも大事なのだ。

「それに、大体新マップにはちょっとレベル高い敵とかがいるのがRPGの鉄板だからね。ガンガンレベル上げるぞー!」

独り言を言いながら、道中四つん這いになっている色無しや、空き缶や袋などのゴミの塊でできたような色無しを倒しながらずんずんと進んでいった。

だが、その判断は間違いだった。

「…やっぱ来るタイミング間違えたかも…」

割と山奥の方で見つけた、目の前にはかなりガタイのいい色無しがいた。頭は無いが帽子を被っており、大きなシャベルを持ち、徘徊している。着ているシャツはピチピチで、色無しなのに筋肉がついている。種類は分からないが、明らかな強キャラ感を醸し出していた。そして、帽子がこちらの方向を向いた。

「あ」

色無しはクラウチングスタートを始め、私は逃げた。だが、私の方が先に走り始めたのにも関わらず、もう追いつかれようとしている。

「…逃げるが勝ちだっ!【チェーンウォール】ッ!!」

走ってくる軌道上に鎖の壁を作ったが、そのままタックルされるといとも簡単に壊された。空に飛んでもみたが、脚力だけで追いつかれ、

「グエッ!?」

飛び蹴りをくらわされた。

「ゲホッ…絶対コイツ特殊能力をフィジカルだけで突破してくる奴じゃん!」

どうやら普通に逃げたのでは追いつかれる運命のようだ。

「くっそ、やるよ、やってやりますよ!」

戦いが始まる。


『・天使

物心つくまでに亡くなった子供達がなる姿。背中には二つの青色の輪っかがあり、これに天使の羽根が付いている。羽根は自由自在に動かす事が出来るが、普通に体力が必要なためきちんと筋トレをしていなければならない。死因は衰弱死、病死、虐待、事故、事件など様々で、死因や出来事によっては怨みが蓄積し堕天使(→三十七ページ六行目)になる事例も見られる。また、悪魔との契約でも堕天使になるが、その時は天使の羽根がその悪魔の羽根の姿に変わる。殆どが【リカバリー】(→二巻三ページ八行目)という治癒能力を持っているが、そもそものレベル(→四十ページ一行目)が低いと回復量も雀の涙ほどなので専門の公務員試験に受かるのはほんの一握りだけである。天使は覚醒すると元々持つ筈だった能力を使う事が出来、羽根がその能力に関連した姿に変化する(燃える、刃物になる、光線を放つなど)』

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