第三話 立っているだけ、見てるだけ?
「えーと、歯ブラシに布団、コップに…あと何かありましたっけ?」
「制服以外の服は要らないのか?」
先輩と二人で生活必需品を見にきていた。周りの人達が目に見えて去っていくが、先輩には
「気にしないでおきましょう、あの人達は先輩の素晴らしさをわかってないんですよ。貸し切りにしてくれたとでも考えておきましょう」
と言っておいた。
「私、服のセンスが無いんですよね」
「私もだ。今になってもちゃんちゃんこ着てるしな」
「おや、海里と翔じゃないか。昨日に続いて偶然だな」
「よう!俺たち服選びに来たんだけどさ、こいつだけじゃ不安だからオレも来たんだよな」
「あ、そうだ。どうせだから理沙の服も選んでくれないか?このメンバーだと些か不安なんだ」
「わかったぜ」
「唐館、これはどうだ?」
見てみると、海里さんは『さいだぁ』と黒く書かれているシャツを選んでいた。
「…よし、選び直すか」
「えっ、結構いいと思ったんだが…」
「…あの、すみません」
「ん、どした?」
本人には聞くのが難しい疑問を投げかけてみる。
「なんで先輩は嫌われてるんですか?悪人には到底思えませんが…」
「…ああ、ちょっと伝えるのが早いかもしれんな、この話題は」
「そうだな。ま、オレが言える事は、真衣は根っからの善人ってことだけだな」
…一体、何が原因で嫌われているんだろう。
「ただいま」
「ただいまー」
二人とも癖で誰もいないのにただいまと言う。
「いやぁ、それにしても最近のケータイってすごいな。現世があの世を解明する日も近いんじゃないか?」
「スマホまで買ってもらって申し訳ないです…」
デパートを巡り、ケータイショップも巡り、ついでにスーパーで安い野菜を買ってきた。
「じゃ、私はちょっと用事があるから留守番お願いな」
「はい!了解です、いってらっしゃい!」
「ただいまー!」
「おかえりなさい、先輩!…その袋は?」
「ああ、暑いからな、アイス買ってきたんだ。食うか?」
「食べます‼︎」
手洗いをし、リビングのソファーにどかりと座り袋を開ける。
「あ、バニラとチョコどっちがいい?」
「チョコです」
チョコのソフトクリームを渡され、カップを開けて軽くかぶりつく。おいしい。隣の先輩はバニラのアイスキャンデーをペロペロ舐めている。誘ってるのか疑うぐらい可愛い。
「おいしいですね」
「やっぱ夏はこれだよな」
「…一部の人達を除いてみんな先輩に対して冷たいですけど、なんかしたんですか?」
「あっ、やっぱ気になるか。色々あってな、悪い事はしてないんだが…そうだ、明日は理沙一人で狩りに行ってみないか?自衛の力を付けないといけないからな。ノルマの塊は十個、因みに塊一個で百円だ」
「はい、頑張ります!」
夜。布団の中で、少し考えていた。
(…今先輩について調べるのは、違う気がする。翔さんと海里さんにも、まだ早い的なニュアンスで言われたし…先輩から話されるのを待つしかないか)
「?どうした、神妙な顔して」
「いえ、なんでも。先輩可愛いなって」
「えっ…さ、さぁ、もう寝るぞ」
くるりと反対方向を向いて寝てしまった。ちょっと焦っていたような気がする、可愛い。
「おやすみなさい」
「…おやすみ」
「えーっと、これも色無しなんだよね…?」
影の住宅街。最初の日に会った目玉の色が反転している奴を見て、言った。
『はい、ボウカンシャという名前です』
「うわぁ!?って、ルナさんか、びっくりしましたよ…。なんかルナさん、透けてません?」
『遠くから思念を飛ばしているんです。僕たち天使はこうやって初心者の方々のサポートをしたり、他にも足りない職業欄の穴を埋めるのが主な仕事なんですよ。他にも、塊を渡してもらえれば回復もできます』
「へぇ…あ、そうだ、そのボウカンシャってのはどんな行動をするんですか?」
試しに聞いてみる。
『ふふ、こういうのはですね、最初に自分で行動してみるのが一番なんですよ。本当に危険な時は全力でサポートしますので、今はとにかくやってみてください。当たって砕けろですよ』
「いや砕けたらダメだと思いますけど…」
敵意があるかどうかも定かではないようにぼーっとこちらを見ているので、取り敢えず頭を撫でてみる。それでも抵抗しなかったのでほっぺたをもにゅもにゅしてみた。なんだか子供みたいな感触で可愛い。
「…この子は別に倒さなくても良いんじゃ…」
『うーん、でも放っておくと他の色無しに吸収されたり、魂を食べたりするのでそういう訳にもいかないんですよ。情をわかせてはいけません』
「でも、敵意があるようには…」
そう言った途端、明後日の方向へ走りだした。
「ウェッ!?」
『いけません、理沙さん!ボウカンシャの方へ向かって下さい!』
そう言われ、全力で走る。すると、ふよふよ浮いている人魂に向かっている事に気がついた。それに向かっているボウカンシャの目に鋭い歯が張り巡らされ、がちがちと鳴らしていることにも。
『さあ、その魂を早く錐の中へ!』
【錐】とは三角錐の形をした、狩人の残機みたいなものだ。器の欠けた所を修復するため、図らずとも器と同じ成分でできている。その為、器の代わりにもなるのだ。
「わかりました!」
すぽんと錐を魂にかぶせ、中に入れる。その途端、ボウカンシャの様子が元に戻った。相変わらずぼーっとこちらを見ている。
「…条件下によって凶暴化する色無しもいるんですね」
『そうです、覚えておいて下さいね。…さて、僕はちょっと用事があるので、ここで失礼します。それでは』
『…真衣さん、やはりこちらで見ておられましたか』
「はは…バレたか」
理沙が見える色のない屋根の上、そこにいた。
「勘違いしないでくれよ。私は先輩として後輩を見守っているだけで、決して心配だとか…」
『はいはい、分かっていますよ』
少しツンデレじみた言動であった。
魂を保護したので、神依でルナさんと合流し、治してもらう。
「【リカバリー】」
そうルナさんが唱えて両手をかざすと、十字型の黄色いリボンが魂を包み込んだ。そしてリボンが自然消滅すると、中から私と同じ歳ぐらいの男の子が出てきた。耳ぐらいまでのふわふわな茶色と黒が混ざった髪で、橙色のパーカーを着ていた。下は黒のズボンである。
「助かったー!何とかナキムシと相打ちになったけど、今度はボウカンシャが来たからヒヤヒヤしたんだ。ありがとう、名前なんていうんだ?」
「城田 理沙だよ」
同年代というのもあり、かなり慣れ慣れしい。だが、別に構わないのでこっちも慣れ慣れしくすることにした。
「そっか!おれは光村 功。城田、勝負してくれ!」
「えっ、何で?」
「おれが今回消滅しかけたのは、己の実力不足からだと思うんだ。だから、腕を磨く為に勝負してほしい!」
「えっと…私、そんな強くないから期待しないでよ。狩人超初心者だし」
ルールは、悪意の塊は十個まで。それだけである。
迷惑にならない場所で、互いに守り人に変身する。光村が変身すると、髪が炎になり、肋骨までのはんてんを纏った。黒のズボンからも炎が吹き出し、まるで火炎放射器のようだった。
「いくよ、【マジックワイヤー】!」
【マジックワイヤー】は、説明書に書いてあった【右人】とか【右親】とか【右子】とか覚えるのも言うのもいちいちめんどくさいという理由で私が改名したものだ。技名はオリジナルでも普通に発動するので、説明書に書いてあるのはまぁ初期設定みたいなものだと思う。因みに私は魔法の糸という意味にしたかったのだが、ワイヤーは糸ではないことを改名した後に気づいた。
「いくぜ、【焔海】っ!!」
辺りが炎に包まれた。
(あっつ…それに、息が…!)
死んでいるのに息ができないとはこれいかにという感じだが、全国の神力が弱まっているので仕方ないのである。因みに神力とは…
(っていけないいけない、今は相手の事だけを考えないと!現実逃避しちゃダメだ…!)
推測、というか見て分かる通り光村は炎系の守り人であることは間違いない。そして、マジックワイヤーの素材仕様をただの糸にしていたので焼き切れてしまった。
「なら、【拘束】っ!」
左の手のひらから鎖を出して、首に巻き付けた。
「へへっ、どうよ!」
「甘いな!【人体自然発火現象】!!」
すると、光村の身体が炎になり、鎖からするりと抜けてしまった。
「えっ⁉︎ちょ、それはずるい!」
そのまま突撃してきたのでギリギリかわす。
「リンさんに頼るしかない!やあああああああああああっ‼︎」
炎に対して闇雲に切り掛かってみたが、【焔海】の炎に紛れて中々命中しない。そもそも命中してもダメージがあるかも怪しいところだ。
(魔力は残り塊六つ分、息が出来なくて魔力消費も激しくなってるし、一回落ち着いて呼吸を…!)
「っ、【パーフェクトボール】!」
糸で自分の周りに半径三メートルの隙間ない球体を作り、そこで体制を整えようとしたが、
「【ファイヤーエスプレッソ】ォォォ‼︎」
炎状態の光村に物凄い勢いで距離を詰められ、中に入り込まれてしまった。息が出来ない…だが、これは好機でもある!
(こうなったら、体力勝負だ!)
「さっさとギブアップした方がいい、もう勝ちの光明は見えないぞ!現に攻撃してこないのが証拠だ!!」
攻撃してはこちらの体力が削れ、魔力も消費されこのボールが消える可能性が高い。この中は暑くて堪らないが我慢すれば良い話だ、それに。
(そろそろ、かな)
息を止めるのも苦しくなってきたころ、変化は訪れた。明らかに光村の炎が小さくなっているのだ。視界も揺れているが見間違いというわけではない。とっさに私は距離を詰めた、もう終わるなら何でも良い。
ぱちん!
私は光村の残り少ない炎を両手で叩き潰した。手が焼け焦げる音も聞こえたが、まずはボールを分解する。やっとまともに息ができるという達成感があった。
「お疲れ様でした、お二人とも。…【リカバリー】!」
光村、本日二回目のリカバリーである。私もして貰ったが、中は神秘的な光で満ちていた。
「負けちまった…やっぱ油断は禁物だな、学習した!」
「いやあ、あそこでボールの中に突っ込んでくれなかったら負けてたね。強かったぁ…」
「じゃあ、塊を光村さんは二個、理沙さんは一個、回復魔力としてお願いします。格安ですよ?定価は一回十個ぐらいの値段ですから」
「定価でも結構安いですよね」
「公務員ですから」
公務員なのか…。
「やっば、ノルマ忘れてたあぁ!」
光村のせいである。ノルマの十個集めきれていたのに四個になってしまった、もう夕方だ。
「…ん、良い方法思いついた!」
「おかえり、晩ご飯作ってるぞ。今日はオムライスだ」
「ただいまです!トラブルもありましたけど、無事十個集めきれました!」
色無しが生まれやすい名物クレーマーで狩らなければ間に合わなかった…。
「おお!やったじゃないか、よく頑張ったな」
頭をガシガシと撫でられた。あ~幸せ~。それにしても、黒のエプロン姿の先輩も可愛い。
「さ、手洗いうがいしてこい。早くしないと冷めるぞ」
「はーい!」
「…ついていって分かったけどあいつ、独り言多いんだな」
先輩がぼそりと言った。
「ごちそうさまでした!…そういえば先輩、私達ってもし色無しにやられたらどうなるんですか?」
「…魂を食べられて終わりだ。残っているのは身体と虚無だな」
「え?身体って残るんですか?」
「残るが、回収屋が回収してくれる。その後何処に行っているかは誰にも分からないらしい、何も問題は無いからみんな追求はしてないが…」
「へー。ちょっと怖いですね」
まぁ、確かに何も問題は無いけど…。
(一体、何のために死体なんか集めてるんだろ。…ん?)
「あ、先輩、論点ずれちゃいました。黒液が限界まで溜まったらどうなるんですか?」
「ん、記憶が無くなって二つに分かれる、魂の器も無くなるかな。確か、黒液の凝縮体が悪魔、記憶を無くした人間の方がカラ族になるんだったかな。因みに例外が一人だけ居てな、そいつが…」
その時、ピンポンとチャイムが鳴った。
「誰でしょうね、一体」
「見に行こう」
「あ、私も行きます!」
玄関を開けると、誰も居なかった。
「…ピンポンダッシュですかね、下らない事しますね」
「ああ。下らなさすぎて最早小学生レベルだな、もう慣れたが。…塩でもまいておくか」
「そうですね」
自分達も幽霊なのに?というツッコミが湧いたが、頭の中だけに留めておこう。除霊とかされないのだろうか。まぁその理論だったら料理に使った塩で消滅するから大丈夫なのだろう。死因が味塩ってなんか嫌だし。
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