第二話 狩人としての新しい日常
先輩の家に、私と先輩含めて四人が集合していた。
「…じゃあ、私の友達を紹介するよ。こっちはルナ」
金髪で緑の目、そして背中に浮かんでいる青い輪っかに付いている純白の羽根。そして頭には天使の輪。言われずとも分かる、天使というやつだろう。青い輪っかが気になるが大した問題では無い。水色がメインで、真ん中に黄色の十字架のデザインが入っている緑の袖のローブを着ている。髪は長く、先っぽで一つくびりにしてあった。
「初めまして、理沙さん。よろしくお願いします」
穏やかな笑顔だ。
「で、こっちが新田 大輝」
白と赤で彩られたパーカーを着ている。
「初めまして、だねぇ。よろしく」
手を差し出してきたので、握手する。強く握り返してきた。
「他にも居るんだが、それは会った時にまた紹介しよう。では、初後輩を記念して!」
「「「「かんぱーい!」」」」
死者なので、酒はオッケーである。酒盛りは初めてなので、ワクワクしている。もちろんだが、死んでいない未成年者の飲酒はNGだ。
「いやぁ、大したつまみが出せなくてすまないな」
テーブルに乗っているのはスナック菓子、枝豆、さきいか、鶏の炭火焼などだ。
「いやいや、むしろこういったのが良いんですよ。あまり高級なもの出されちゃうと罪悪感に苛まれますし」
「…あれ、もう寝たのかい。相変わらず早いねぇ、酔うの」
先輩が隣でよだれを垂らしながら寝ている。かわいい。
「では、僕は真衣さんをおぶりながら寝室に案内しますので、ついてきてください。ドアを開けてもらいたいので」
「分かりました!」
廊下を進む。割と家は大きいので、廊下も長いし、部屋数もある。狭間ができる前は結構人気の物件だったようだ。
「理沙さん、何故真衣さんについていこうと?」
「え、かっこいいなって思ったからです。それと…」
「かわいい、でしょう?」
「あ、分かります?」
「分かりますよ、カッコいいとかわいいが同居している。かなりの逸材ですよね」
「それとですね…なんか、やっと待ってた人に会えた、って気がして」
「というと?」
「詳しくは分からないんです。まぁ、私自体結構曖昧なところあるので仕方ないんですけど」
寝室に入り、ルナがそっと布団に先輩を乗せる。
「ん…あぁ、運んできてくれたのか…ありがとう」
目を閉じながら先輩が言う。
「じゃ、おやすみ…」
そのまま、またくうくうと寝息を立てている。
「…では、リビングに戻りましょうか」
「はい」
今来た道を、反対に進む。
「…真衣さんを、裏切ったりしないでくださいね」
「なんで裏切ったりなんかするんですか?」
「いや…要らぬ心配でしたね。さぁ、酒盛りを続けましょう」
「…んえ…?」
朝日が眩しい。どうやら、あのまま飲んだくれて寝てしまっていた様だ。隣には先輩が寝ている。ん?隣に…?
「ここ、もしかして…寝室?」
しかも、同じ布団である。あたたかい。寝顔かわいい。…いや、そんな事思ってる場合ではない。脳がヒートアップしてしまいそうだ…出ないと。いや、でも、出たくない…。
「…んぅ…」
そうこうしているうちに、先輩が目を開けた。
「…ん?…理沙か。はは、おはよう」
「…お、おはようございます!」
かなりの至近距離ではにかみ笑い掛けられる。やばい、尊い、死にそう。いや、もう死んでるけど。
だんだんと昨夜の記憶が蘇ってきた。途中で眠くなって、ルナさんが
『僕は、真衣さんの幸せを応援してますから』
とか言って私をここに…成る程、犯人はルナさんでしたか。ありがとう。…ん?私の幸せは別に応援していない?まあいっか。
「さて。朝食は食パンとベーコンでいいか?」
「はい!」
「それじゃあ、いっただっきまーす!」
「いただきます」
あの世の食材は、大体が【悪意の塊】、通称【塊】で出来ているらしい。悪意の塊というのは、色無しを倒すと【神守り】に補充されるエネルギーの塊みたいなものらしい。因みに、神守りは狩人が戦う上で必要不可欠なアイテムだそうだ。
「そうだ、理沙。今日は神守りをもらいに行こう。食べたら行くぞ」
「やったあ!」
先輩の家の廊下にある、上に【神依】と書いてあるプレートがあるドアを開けると、
「うわぁ…」
かなり雅な風景が広がっていた。悠に二十五メートルはある鳥居が何処までも続いていて、その中の人混みに巫女さんや神主さんの格好をした人も歩いていたりする。
「このドアも狭間でな、上に神依って板があったろ?その名の通り、ここは神依に繋がっている狭間なんだ。ここは狩人がかなりの頻度で使う場所で、神守りを貰えたり、悪意の塊を売る事が出来る。他にも、役立つ道具とかを買えたりな。…ほら、靴忘れてるぞ」
「あ、すいません」
白い靴を渡され、履く。これは私が死んだ日履いていたものだ。
「行くぞ。人混みではぐれないようにな」
「はい!」
人混みと言ったが、そうでは無かった。理沙と先輩の周りだけ、異常に人が居ない。空白の円が作られているように感じた。
「もしかして…避けられてます?」
「もしかしなくても、避けられてるな。大丈夫、いつものことだ」
訳が判らない。何故、この様な善良な人を避けるのだろう。そう思っているうちに、目的の場所へ着いたらしい。先輩の歩みが止まった。
巫女さんに神札に手をかざすよう指示された。手をかざすと、瞬く間に神札は燃え、その燃え後から御守りが出てきた。どうやらこれが神守りのようだ。
「では、城田 理沙様。貴方の適正神守りは【縁結び】と診断されました。お受け取りください」
渡されて、手に取る。持っていてとても落ち着く。身体の一部のような感覚だ。
「へぇ、縁結びかぁ。私は縁切りだったんだよな」
先輩が感慨深そうに言う。
「じゃあ、帰るぞ。あんまりここに居ても…」
先輩が辺りを見渡す。十列ほど並ぶ場所があるのだが、この列には私たち以外居ない。他の列はかなり並んでいるのにだ。
「他のお客さんが迷惑するだろうしな」
「お姉さん達。ちょっとお茶していかない?」
戻る道を歩いていると、突然チャラそうな金髪の男の人が話しかけてきた。
「やあ、翔。紹介するよ、後輩の理沙だ。…理沙、この男は唐館 翔。友達だ」
ナンパでは無いようだ。
(からたち しょう…一体どんな漢字なんだろう…)
後で聞いてみよう。
「真衣さんめっちゃ見つけやすいよなー!それにしても、いやぁ、真衣さんにも遂に後輩かぁ~!ほら、お前もちょっと来いよ!」
すると、奥から黒髪の真面目そうな男の人が来た。
「…誰をナンパしてるのかと思えば、真衣さんだったのか。っていうか、後輩?一体どうなったらそうなるんだ?」
「いやぁ、色々あってね。この人は早野 海里。この人も友達だ」
「ちょっとさ、オレにはこの男って言っといて海里にはこの人って酷くない?」
「それぐらい良いでしょ。…ほら、唐館。帰るよ」
「へへっ、バイバイ!」
唐館さん達が見えなくなってから、先輩が言った。
「いやー、ああ見えてあいつら付き合ってるんだよな」
「えっでも今ナンパしてませんでした?」
「海里が嫉妬してんのを見て楽しんでるみたいだ。あいつ知ってる人にしかナンパしないからな」
それはもうナンパと呼んでいいのだろうか。
家に帰ってきた。
「よし、じゃあまた外に行くぞ。一番最初に会った場所は覚えてるか?」
「はい。あの白黒の世界ですか?」
「ああ。あそこは【色無し世界】、通称【影】。色無し世界っていう名称だが、たまに色有りも居るからな。色有りは、色無しが魂を吸収した姿の事だ。その名の通り色が付いているが、段違いに強いから気をつけろよ」
「それで、その影とやらにはどうやって?」
「ここだ」
そう言って、今度は【影】と書かれたプレートが上にあるドアを開けた。白黒の世界が広がっている。
「…狭間って便利ですね」
「そうだな、制御出来てないの書斎ぐらいだし。因みに、他の人達はお地蔵様とかに頼んだり、【闇】とかに飛び込んでるな」
先輩が神守りを目の前に浮かせ、右手をかざす。すると、神守りが巨大化してバッと開き、先輩を包み込んだ。
「えっ!?だ、大丈夫ですか先輩!?」
すると、たちまちに神守りが沢山の黒いパズルのピースに変わっていき、先輩の形を作っていく。そして、残ったピースが服に変わった。いつか見た裾が長い赤いちゃんちゃんこだ。そして、最初に会った先輩と全く同じ姿に変身した。
「はは、そんなに心配するな。これは狩人の変身だ。生身から【守り人】という形態になる。いわば、今流行りの魔法少女というものに近いな。男ももちろんなれるが。今魔法少女というものがナウなヤングにバカウケなのだろう?」
「…先輩、それ死語です」
「えっ」
真似して、神守りに手をかざす。さっきと同じように神守りが巨大化し、包み込まれた。私のは白いパズルのピースで、私の身体を作っていると言うより、身体に覆いかぶさっているようだ。前が空いたスカートを形作り、両手には赤い手袋がはめられる。髪には白いリボンがポニーテールに付けられ、腰にはベルトがわりの大きな黒いリボンが巻かれた。スカートの裾には水色の炎のような模様、胸あたりには同じく水色の太陽のようなものが描かれている。
「すっご…!まるでアニメみたいですね!」
「で…これ、どうやって攻撃するんですか?」
「ほら、説明書」
「うわっ!」
厚さ十センチ程もある説明書を投げられて身構える。説明書は地面に落ちた。
「…すまん、渡し方間違えた」
頭をかきながら申し訳なさそうに先輩が言う。ガサツすぎる気もするが可愛いので許す。
「えーっと、縁結び縁結び…あっ!これですかね?」
赤い手袋が書いてある。糸と針で攻撃するようだ。
「…?先輩、この【個人魔法】っていう欄って何ですか?」
「あ、それはな、魂によって違う武器や魔法、能力の事だな。武器魔法能力それぞれではなく、どれか一つだ」
武器の場合は手を合わせて一気に広げると出現するらしい。試してみると、槍に円月輪がついたようなものが出てきた。円月輪は取り外し可能らしい。
「【右人】、そして【縫い針】!」
説明書に書いてあった通りに唱えると、右人差し指の手袋から赤い糸が出て、その先っちょに縫い針が結んである。頭のイメージ通りに動く。因みに右人は右の人差し指の略なので特に深い意味は無いらしい。説明書に書いてあった。
「じゃ、試しにこいつを倒してみろ」
そう言って、最初に私を襲った大きな口の化け物の首を鷲掴みにした先輩が来た。どうやらボウショクと言うらしい。
「行きます!」
先輩を傷つけないように避けて糸のついた針でボウショクの頭を貫く。だが、
「あ、あれ?」
一部がパズルのピースの形に取れただけで、致命傷を与えた感じでは無い。
「じゃあ、こうです!」
針をそのままターンさせて、下半身の方の背中に刺した。そして、お腹から出てきたところをイメージで引っ張る。
「おりゃあああ!!」
そうすると、お腹と背中の辺りがバラバラのピースになり、そして黒い球を残して地面に溶けるように消えた。どうやらこの黒い球が【悪意の塊】らしい。
「よし、次は実戦だ!私は何も手を貸さないから、一人で倒してみせろ。がんばれ」
ボウショクが放された。
「よ、よしっ、今度はこれで!」
槍に円月輪がついたようなもの、名付けて『リンさん』の円月輪の所に糸をぐるぐるに巻きつけて、遠心力を使って敵を打撃する。途端に、さっきのようにバラバラになり、消えた。
「はあっ、はあっ、リンさん、結構重いんですね」
「そりゃそうだろ、刃の部分は鉄なんだから。逆に振り回せた事にびっくりだよ」
何時間にもわたって修行が続いた後。
「先輩、お背中お流ししましょう!」
「頼むよ」
風呂に入っていた。女の子同士であることに加え、五十日も一緒に居たので先輩もすっかり心を許している。
(こ、これを急接近のチャンスに…!)
「なぁ、理沙」
「はっ、はい!」
妙に緊張してしまった。
「誰かとお風呂に入るなんて、本当に久しぶりだよ。温泉とか、銭湯とかにも行けなかったからさ」
「…今日からは、毎日一緒に入りますよ!先輩が嫌ってんなら話は別ですけど」
「…ふふ。嫌な訳ないさ。…それにしても毎日一緒に入るって、なんかカップルみたいだな」
「かっ、かかか、カップル!?」
「あっ、ごめん、嫌だったか?」
「いっ、いえ!!むしろ逆です、超嬉しいです!!」
いつか本当のカップルになる日も来るのだろうか。いや、来させるのだ。来なかったら無理やり連れてこよう。
「じゃあ、おやすみ。理沙」
「おやすみなさい、先輩!」
隣に予備の布団を敷いてもらった。明日は生活必需品を買いに行くらしい。お金を出してしまうので申し訳ないと伝えると、あの世は現世の平均三倍ぐらい儲かってるから気にしないでいいと返された。どんだけ儲かってるんだよという話だ。まあ先輩は腕利きの狩人だからかもしれないが。
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