第14話 Ay--------oh!!

-- 前回までの『スナッキーな夜にしてくれ』 --


 すっかり執筆が滞ってしまったせいで、既にストーリーの進捗を作者本人も忘れてしまっていた。

 そんな状況であることから、この物語を無理してお読みいただいている心優しい読者の皆様に至っては、既にこんな小説の存在そのものを忘れて平穏無事に過ごされているであろう。

が、その平穏をぶち壊すかのように意外にも物語は続いてしまうのであった。


 スナック亜空間でユリコママとの甘〜くて辛くて、塩っぱいひと時を過ごした常松は、この裏世界ビル内に次元パトロールという脅威の存在が警らしていることを知る。

 自分がこのビル内にいてはいけない人間だということに気がつき、何とかこのフロア(ビル)から抜け出さなければならないと考え、脱出を試みようと決意する。


 お世話になったユリコママから、日本昔ばなしでお馴染みのメチャメチャS級なんじゃあないのかと推測されるレアアイテム“三枚のお札”をゲットし、さらには、有難いアドバイスまでいただいて脱出の準備はそこそこに万端。


 こうしてスナック亜空間をあとにした常松を待ち受ける運命とは!??



▽ ▼ ▽ ▼ ▽


 この先に待ち受ける未知なる冒険、常松はそれに真っ直ぐ立ち向かうべく『スナック亜空間』をあとにした。


 正直なところ、ユリコママの魅力にグッときてしまい後髪を引かれる思いであるが、本来自分が住むべき世界に戻らなければならないのだ。

 そう考えると、昭和の大スターで四角い顔をしたフーテンのおじさんが醸し出す男はつらいぜ的な概念が理解できるかのような想いであった。

 しかし、店の外には例の次元パトロールなどという捕まったら超絶にヤバそうな得体の知れない奴がウロチョロしているのだ。そんなのといつ遭遇してしまうのかわからない危険地帯にいるのだから、今は男のつらさについて深掘りしている余裕はない。


 そもそも、次元パトロールはどんな姿形なのだろうか? 

 こちら側の世界のいわゆる警察のような存在? 

 それともSF映画に登場するようなロボット型なのか? 

 まさかとは思うがネコ型ではないのか? 

 それすらわからないのだが、まあこの先で目に映るもの全てに注意を払えば良いのだろうと常松は考えた。


(わかんないものを想像しても意味ないよなあ。この先に綺麗なお姉さんが待ち受けているわけでもないんだから、見たものは全て危険と思うしかないな)


 そう心の中で呟くと、先ずは出口に辿り着くためのルートを思案する。


『――――ここを出たら、最初にBarアイアンヘッドに入れ――――』


 ふと脳裏にユリコママの言葉が浮かぶ。


(さて、どうするかな。ここはママのアドバイス通り、隣のBARアイアンヘッドへ入って様子をみるに限るな)


 そう決心すると、スナック亜空間を背にして通路や両脇の店舗前などを確認するが、相変わらず人影のひとつも見えない。


 ひとつ大きく深呼吸をして『BARアイアンヘッド』を見据えると、その店の扉まで早足で歩き出す。


(音を立てないように、そおーーっと行こう。抜き足差し足ってやつだな。考えてみると、抜き足差し足って、カッコよく言えば忍者のようなイメージだけど、悪く言えばコソ泥と同じ動きだよなー。きっと俺のはコソ泥にしか見えない動きだよな〜、こんなダサい姿をユリコママには見られたくないよな)


 常松は小さい頃から、緊張したり恐怖したりしてしまうと、こんなどうでも良いことを考えてしまうというより、勝手に脳がそう考えてしまう癖があった。


 思えば、小学生の頃、夏休みに肝試しで夜の墓場をひとりで歩いて通り抜けた時も、高校時代によせば良いのに自転車で日本横断を試みて真夜中に山奥を彷徨って半ベソかいた時も、大学時代に友人の車で有名な心霊スポットへ出かけて夜のトンネル内で車から降ろされてしまい、恐怖のあまり走り去る友人の車をドーピング後のベン・ジ◯ンソン並みのスピードで追いかけた時もそうだった。


 そんな恐怖に支配された状況でも、常松の頭の中に浮かび上がるのは、朗らかなテーマソングに乗っかって横一列に軽いステップを刻みつつ画面の奥から押し寄せてくる磯野家の面々であった。

 

 これはつまり、常松の現実逃避モードへの切り替え速度が音速の貴公子並みであることに加え、恐怖に焦る意識を明るく楽しい真逆のものに変換する力がずば抜けていたから成せる技であった。



 話を戻して、常松がアイアンヘッドの扉の前に立ったその時。


「――――――!!」


 元のエレベーターがあった辺りにサイレン灯のような赤い灯りが点滅しているのが見えた。


 思わず声を上げそうになるのを両手で口を抑えて堪える常松。


(何だあれは!? マズイぞ! あれは、もしかして……)


 慌てて、目の前のBARのドアノブを掴み、ノブを回してドアを押す………が、扉はびくともしない。ドアを引いてみるが、やはり扉は開かない。


(あれ!? おいぃぃぃ、なんで開かない!?? おいおい、開いてくれよーー!)


 ドアノブを掴みながら、赤い灯の方を見ると、灯りそのものが大きくなっているのがわかる。


(マズい! マズいぞおー!! これってあの赤いのがこっちに近づいて来ちゃうんじゃあないのーー!)


ドンドンドンドン!


 常松は、扉を中途半端な強さで叩いた。あまり大きな音を立ててしまうと完全に見つかってしまうと思ったからである。


 ついには、これまた中途半端に絞ったような声を出す。


「ちょっとーー! すみませーーーぇん!! お店を開けてくださーーーーー! お願いでええーーす!」


 流石に常松の声に反応したのか、店の中から声が返ってきた。


「Ay--------oh!!!」


(・・・・・・・・・??)


 甲高い男の声のようだ。何か叫んでいるかのように聞こえる。


「誰かいらっしゃるんですよねえ? お願いですからドアを開けてもらえませんか?」


 すると、また同じような叫び声が返ってくる。


「エーーーーーーーーオ!!」


(何だよ、これは!? こんな時にふざけてるのかな!)


「いや、すみません。マジでちょっと危険が迫ってるんですよーーー! 俺にですけどぉ。ここを開けてもらえませんかー!」


 常松は必死になって扉の向こうにいるだろう男に懇願する。


「エーーーーーーーーオ♪」


(またかよ、ん? ………いや、あれ? これって、もしかしてフ◯ディのあれじゃあないのか?? ということは……)


 扉の向こうの男の声に何か反応しなければならないという直感からなのか、常松はあの伝説のLIVE AIDの猛々しい髭をたくわえた白いタンクトップの男の勇姿を思い出していた。


 そして、反応する。


(もしかして、これって、あのコールアンドレスポンスなのか!? いやいや考えている暇はない!! もう、こうなればイチカバチかやるしかない!)


 常松は、店内からのコールに応えるように叫んだ。


「エーーーーーーーーッオ!♪」


すると今度は短めのコールが返ってくる。

「Ay---oh!」


常松のレスポンスも短めにする。

「エーーオ!」


「Ay-oh」

「エオ」


そして、ついに扉の開く音と共に、満足げな叫び声が響き渡った。


「オオオーーーールライッッ!!!(ALL RIGHT) 」

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