第5話 合言葉
-- 前回までの『スナッキーな夜にしてくれ』 --
赤いドシフン三連星に遭遇した常松は、ジェットストリームアタック的な攻撃によって大ダメージを受けてしまうが、どうにかギリギリのところで戦線を離脱した。
しかし三連星の攻撃による後遺症からなのかはわからないが“筋トレする武○真治”と、ついでにサックスの音色までもが脳裏によぎってしまう。
徐々にニュータイプとしての資質が目覚める常松は生き延びることが出来るのか!?
「ツネマー、いきまーーす!!」
と叫びたい常松の前に立ちはだかるのは、ア・バオ......もとい『スナック亜空間』だった。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
一縷の望みをかけて向かったのは、謎に満ちた『
(とにかく、この得体のしれないビルから一刻も早く脱出しないと不味いぞ)
そう思いつつ、小学生の時に習ったラジオ体操のラストを飾るような深呼吸をして乱れた呼吸を整える。
ついに勇気を出してスナック亜空間の扉を開ける常松。
この妙な空間で、しかも初めて入るスナックには何の期待感も生まれない。
しかし、店のスタッフと話をしなければならない理由がある以上は、
それだけの使命があり、ここはまさに真剣勝負。
そう思うと妙な緊張感が生まれるものだ。
初めての店に入る際、常松がいつも使う常套手段がある。それは、とにかく極々普通の優良な、そして害がまったくない気の弱そうなサラリーマンになりきるという技だ。
さらに清潔感を前面に押し出すような笑顔をつくる。
決して他人に威張れるような技ではないが、磨き上げたこの技を瞬時に繰り出す体制が整っている。
同時に、見るからに堅気とは思えないおじさんマスターとか、やる気のない元ヤン的なママさんとか、気持ちはわかるんだけどまだまだ現役なのよ感を醸し出す初老を通り越したママさんとかが出てこないことを祈っていた。
「あの〜、初めてなんですけど、入れますか~?」
すると店のカウンター越しに、日本の首都の知事が選挙の時に着ていたようなグリーンの衣装をまとった女性が振り返る。
「入れますけど………合言葉は?」
「えっ?.........合言葉ですか??」
「この店に入るには“合言葉”が必要なのよ」
(ええーーーっ、そんなの知るわけないだろ。ただでさえ一見さん状態だというのに、それはないだろ。いや、むしろ、一見さんを追い返すための口実と読むべきかな)
いきなりの不意打ちに緊張が増していく。
しかし、ここで引き下がるわけにはいかず、常松はとっさにブロック攻撃に出る。
「いやだな~、またそんな冗談なんて、というよりも面白いジョークですよね」
「あら、いやだわ~、ジョークだなんてぇ………それで、合言葉は?」
(本気なのかよーーー!! なんだよ、合言葉って??)
(どうする、俺!)
焦りまくる常松! だが、その時、あのフレーズが脳裏に浮かび上がった。
“素敵なサムシン・グーーー”
(もしかして!? これがそうなのだろうか!? これって、○トームセンのあれではなかったのか!? そうだと記憶してるけど違うのか!?)
(こうなれば、イチかバチか! 恥ずかしいけど言うしかない!)
観念する常松は恥ずかしさを押し殺して言葉にする。
「す、素敵な、、、、、、、サムシン、グー」
「……えっ? な〜に? 声が小さくて聞こえないわよ♡」
「素敵なサムシング………ですかね?」
「あら、惜しいーーー!! でも、まあ、ほぼ正解だからいっかな♡」
「良かった〜! ホッとしましたよー」(ホントにーー! 本当に正解なのか??)
常松はホッとしつつも何かが引っかかる感じがしたが、とりあえず第一段階をクリアしたことで気持ちが楽になった。
しかし、妙なフレーズの合い言葉を口にすることになり、かなりの恥ずかしさが込み上げていた。
「お客さん、初めてでしょ♡ よく合言葉がわかったわね。誰かに聞いてきたんですか?」
「いや~、それはないですよ…………。なにしろ、初めて通りかかって初めて見つけたお店ですし、ただ、何故なのかはわからないんだけど、急にあの合言葉が頭の中に浮かび上がってきたんです」
「…………あら、そう。とても勘が冴えていらっしゃるのね。お一人かしら? こちらへどうぞ♡」
こうして、カウンターに腰かけた常松はようやく一息ついた。
「お酒は何をお召し上がりになりますぅ? ビールだったらうちは生がなくて小瓶になります。ウイスキーはバーボンとシングルモルト。あと、ワイン、芋焼酎がありますよ」
「じゃあ、まずはビールをお願いします」
店内を見渡すと、店のスタッフは目の前にいる都知事と同じ色の服を着た女性がただひとり。
客も常松だけのようだ。
(都知事を彷彿させるような衣装だな。名前も百合子とかだったりしてw)
「あの、ママさんですか?」
「あらごめんなさいね。自己紹介するのを忘れていたわ。そうなのよ。この店のママをやっています......ユリコです♡」
(きたーーぁ!! 東京都の偉い人と同じ名前――! 今日の俺って、ホント勘が冴えてたりするのかなw)
と、どうでもいいことだけは勘が冴える常松。
「いま、私の名前を聞いて都知事を思い浮かべたでしょーー♡」
(ズボシだ!!)
目の前に顔を近づけてくる都知事的なママに見抜かれてハッとする。
「ええーーーっと、いや、ママの服装というかカラ―も緑色なんで、なんとな~く都知事を彷彿とさせるというか、とにかく素敵な方だなーと思って………」
「お客さん、お上手ね♡ ところでお名前を伺っても良いかしら」
「あっ、はじめまして、常松と言います」
「珍しいお名前ね♡」
「よく言われるんですよ………。ところで、何故、お店に入るのに合言葉が必要なんですか?」
ママはその質問に、意味ありげな笑みを浮かべて
「何故だと思いますぅ?」
まさかの質問返しが炸裂。
「えっ、いやだなー、不思議に思ったから聞いてみたんだけど……。
あっ、もしかしたら一見さんお断り的なやつですかね?」
「あら、いい線ついてますわ。確かに、このお店はほとんど私ひとりで切り盛りしているから、怖いお兄さんとか、チャラい男の子とか、苦手な方が見えられた時には、とっても良い手段になるのよね」
(その言い方だと正解ではないのか)
「常松さんも、ここに迷い込んでしまわれたんでしょ。迷い込んだ方々のほとんどがこのお店に逃げ込んでくるのよ」
「迷う?? 逃げ込む??」
ママの言葉を聞いて、ハッ! とする。と同時に、頭の中に霧のようにモヤモヤしていたものが晴れた気がしてきた。
(やっぱり、これは非常にマズい状況というより、あり得ない状況になってるみたいだな。ここは普通の場所なんかじゃあないぞ!)
常松の表情を見て、ママが続ける。
「夜の街で迷ってしまうことってよくあるでしょ?」
「それって、酔っぱらって方向感覚がなくなったり、酩酊状態で自分がどこにいるのかわからなくなるってことですよね?」
「常松さんも経験がおありのようね♡ だけどネ、ここは、このお店はそういう酷く酔っぱらってしまった人達には決して入れないようになっているのよ」
「ん? でも、さっき、迷った人がこのお店に逃げ込んでくるという話でしたよね。確かに俺はまだお酒を一滴も飲んでいないから酔っていないし、だからお店に入れたということですか?」
「そうよ。だからさっきの合言葉につながるのよ」
「どういうことですか?」
「ひどく酔っぱらっている人だと、決して合言葉がわからないから」
「つまり?」
「さっき、合言葉は?って質問した時に、常松さんの頭の中にあの言葉が浮かんできたでしょ♡」
(!!!!!!!)
「……………確かに! そうなんですよ!!」
「つまり、そういうことなのよ♡ でも、酩酊状態の人には合言葉が伝わらないし、お酒にやられてしまって思考回路もショートしちゃってると思うから♡」
(つまり、あの合言葉はテレパシーのような、よくわからないけど、そんな力で誰かが俺に教えてくれたということなのか? しかも酔っぱらいにはテレパシーが伝わらないということなのか、まあそれは理解できるけどな)
「合言葉を言えない方は、決してこのお店に入ることは出来ないのよ♡」
ママの一連の話を聞き、尚も常松は足りない頭をフル回転させて熟考する。
(だけど、ママは俺の合言葉が“ほぼ正解”と言っていたけど、完璧な正解ってなんだろう?)
「ほぼ正解と言われたことが引っ掛かるのかしら?」
「えっ!!!?」
ママは常松の心の内を見透かしているかのように言葉を続ける。
「本当の正解を知りたいわよね♡」
「ええ、はい。もちろん知りたいけど、教えてくれるんですか?」
「じゃあ、今夜は特別にサービスしちゃうわ〜♡♡ オ・シ・エ・テ・ア♡ ゲ♡ ル」
そう言って、ママは両手を突き出すと親指を立てる。常松はママの色気に思わず生唾を飲み込んだ。
そしてママのセクシーな口がまたまた開く。(※股は開かないが......)
「ステキな♡ サムシン・グ~~~!」
「………」
(それってーー!! もしや○ド・はるみのやつなのかーー?)
この妙な
というより、そんな当初の目的なんかは既に忘れていそうだが、
それよりも、この奇妙な裏飲み屋ダンジョンから生還できるのだろうか??
しかし、真相解明への道のりはまだまだ長い.........かもしれない。
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