第4話 躍動! 赤い三連星

-- 前回までの『スナッキーな夜にしてくれ』 --

 

 自分が異世界に迷い込んだことに全く気がついていないスチャラカ能天気サラリーマン常松は、調子に乗ってこのフロアの店をディスりまくっていた。

 更にそれだけでは飽き足らず、五月み○りさんのヒット曲『熟○B』に何ともいえないエモさ、否、エロスを感じた挙げ句にリバウンド王エドは○みまでもディスりまくる暴挙に出る。


 果たして常松は、自分が異世界に迷い込んでいることに気づくことが出来るのだろうか? 

というより、そんな物語で良いのだろうか?


 しかし「それでは不味いだろう」と悟った作者の無理矢理な急展開によって、それまでまったく謎に気づく素振りを見せることはなかった常松に異世界転移の事実を知る絶好のチャンスが訪れる.........あれ? そんなあらすじだったかな? 


 まあ、間違ってはいないだろうということで、常松に最大の謎が立ちはだかる。



▽ ▼ ▽ ▼ ▽


「マジかよ!!エレベーターが消えちゃったよ………………」


 エレベーターのあった場所をよくよく見ると、左右に開閉するドアではなく、片開きの黒い引き戸が1枚あるだけだった。


 ついさっき乗ってきたはずのエレベーターがなくなっている状況が信じられないというより理解できない。いったい、ここで何が起きているのか?


 頭が混乱気味で冷静に考えられなくなっているため、こんな時に思うのは、


“夢でも見ているのだろうか?”とか “これは夢に違いない”

というような現実逃避に走ろうとする思考と得体のしれない恐怖心である。


だから、この黒いドアは不気味すぎてドアノブに手をかけるのを躊躇ってしまう。


(このビルに閉じ込められて、一生ここから抜け出せなくなるんじゃあないよな?)


(どうする?開けてみようか?………その前に……いったん少し落ち着こう)


 無理やりにでも落ち着こうと自分に言い聞かせるように深呼吸をして状況を整理してみる。


このフロアにエレベーターで上がってきたこと。


そして、ここにある5つの店をチェックしたこと。


一番奥のスナック亜空間の前まで行って折り返し、今ここまで引き返してきたこと。


途中、このフロアの店をディスったりしたが、この際それはどうでも良い。


 本当にエレベーターが消えたのか?

 もともとエレベーターはなかったのか?


 エレベーターはこのフロアを通過するような造りになっていたのか?

 エレベーターを降りたこの空間がどこなのか?


 それとも夢でも見てるのだろうか?


 思案する常松の頭の中に、またあのフレーズが浮かび上がる。



――素敵なサムシング――



(“素敵なサムシング”が頭から離れないなー。これはいったい何なのだ?---まさか呪文だったりして......)


(もしかしたら、唱えるとこのダンジョン的なところから脱出できるとか?)


「いや、そんなバカなことはないか」


 何故、“素敵なサムシング”が脳裏に浮かんでくるのか、それは常松が能天気でスチャラカな男だからなのかもしれないが、この状況についていろいろ思考を巡らせてみても、最後に浮かんでくるのはやっぱり“素敵なサムシング”というフレーズだった。


 こんなあり得ない状況を、そう簡単に理解出来ないのは当たり前のことだが、自分の思考回路の方がショートしかかっているのかもしれない。

しかし常松は、もう一度、通路を見渡して思う。


(こうなったらどこかの店の店員に話を聞くしかないか)


いくつかの店の看板を見回しながら、どの店に入るか思案してみる。


(バーとかスナックの扉を開けるのは気が引けるよなー。そうなると大料理か居酒屋のどちらかだけど、大料理ってのはなんだか面倒くさそうだし、やっぱり居酒屋の店員に聞くのが無難だよな)


常松は消去法で居酒屋の店員に話を聞くことにした。



 居酒屋漢だらけの入り口で扉に手をかけたとき、一瞬なにやら妙な胸騒ぎがしたがそれにはかまわず、暖簾に頭が当たらないように中腰になって静かに扉を開けた。


「すみませーん」


店内に入りそっと頭を上げて辺り一面を見渡すと、


———!!!!!!!



普段はまったく当たらない勘が的中した。


(おいおい、おいー! これはさっき俺がディスってた通りの奴らなんじゃあねえのかー!!)


 なんと、常松の目の前に躍動感あふれる赤いフンドシ姿のマッチョな店員せんとういんがあらわれた!


しかも、


中央に赤いフンドシ


左に赤いフンドシ


右にも赤いフンドシ


なんと、赤いフンドシが3体!!

それらが一斉に声をあげる。


「ヘイ!!らっしゃーーい!!」「らっしゃーーーい!」「らっしゃーーい」


 赤いフンドシのそいつらは、いずれも同じようなマッチョ体型で妙なポージングをキメている。


(赤い彗星......じゃなかった赤いマッチョが、ひとり、ふたり、3人。これは、まさか・・・・・赤いけど、黒い三連星的なあれなのか!! 赤いのはシ○アのはずだからな)


と、つまらないことが脳裏をよぎるが、次の瞬間、強烈なジェットストリーム的なアタックが常松を襲う!


 三連星の波状攻撃!!


「お客様、何名様ですかーー!?」


「ご予約のお客様ですかーー?」


「おタバコはお吸いになりますかーー?」


 常松にとってまったく目の保養にならない三連星の筋肉は躍動しまくっている。

出来ることなら見たくもないのだが、しかも三連星は全くいらないポーズを次々に繰り出してくる!

 

 三連星の攻撃を受けて思わず、某公共放送のマッチョが出てくる体操番組が脳裏に浮かんでくる。


その番組に出演しているマッチョ且つむさ苦しい野郎たちよりも、セクシーなお姉様達を思い出したいと願う常松なのだが......


何故なのだろうか? こんな非常時だというのに思い出されるのは、画面真ん中でパンプしまくる武○真治の筋肉だった。


そして、ついでにサクソフォンまでもが脳裏をよぎるのであった。


常松の思考については、このくらいにしておこう。


 

 3枚(3体)のドシフンのせいで、眼前が真っ赤に染まるような恐ろしい光景に目眩がするのを耐え凌ぐ。


 その状況から間髪入れずに繰り出されるガイア、マッシュ、オルテガっぽい赤いドシフン三連星の見事なフォーメーション攻撃に翻弄されながらも必死に堪えるが、得体のしれないダメージがジワジワと襲ってくる。


野郎の裸などには1mmも興味のない常松にとっては究極超絶魔法並みの攻撃に感じてしまうのだ。


ヒットポイントを大幅に削られるが、それでも必死にギリギリ声を絞り出す。


「すいません、店を間違えました〜!!」



 常松は間一髪!ジェットストリーム的なアタックをかわすと、ドシフンで赤く染まった前線から逃げるように離脱した。そのまま店の外で一息ついた。

 

 そして、ドシフンによる軽い目眩と疲れが出てきてしまったので壁にもたれかかった。


「なんなんだ!? あれは? あれは、ねぇーよなー。。。。。っつーか反則だな。あの赤いのは......」


 赤いから反則なのかどーなのかは、置いておくとして、一息ついて気を取り直した常松は思った。



「俺がニュータイプだったらどーなってたんだろなぁ............」



 窮地を脱した常松は、それでも前を向いて前進あるのみだと自分を奮い立たせるように言い聞かせる。

そしてこの不思議な状況を打破するには、どうしても誰かに話を聞いてみる必要があるし、それはRPGの基本でもあるはずだと、スー○ーファミ○ンのカセットに息を吹きかけていた若かりし頃の自分を思い出す。


(あのカセットは接触悪かったよなー......って、どうでもいいよな)


常松は気を取り直すと次のターゲットに狙いを定めることにした。


 そして、再びフロアの奥まで足を進めて行く。


「スナック好きの俺としては、やっぱりあの店で聞くしかないよな」


 常松の視線の先に待ち構えるのは、この『裏飲み屋ビルダンジョン』の一番奥にある部屋。


〈ーースナック亜空間ーー〉



▽ ▼ ▽ ▼ ▽


次回、いよいよ、あの扉が開かれる。

君は転移することが出来るか!!?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る