第2話 あるある探検家

-- 前回までの『スナッキーなよるにしてくれ』 --

 会社の後輩からの羨ましくもムカつくメッセージを受け取った常松つねまつは、自分も飲みに行きたい衝動にかられてしまう。

とうとう誘惑に負けてしまい、行きつけの店があるはずの飲み屋ビルでエレベーターの故障に遭遇する。


 そして、よせばいいのに“異世界もの”を書いてみたまではよかったが、

あまりの無理やりな展開にオチのつけようがなくなっていることに気がついた作者の運命や如何に!



▽ ▼ ▽ ▼ ▽


 エレベーターを降りた常松は辺りを見渡すが、いつもの見慣れたフロアとは違う雰囲気が漂っていた。


 馴染みの店がある5階であれば通路の左右に合計4店舗の店が入っているはずだが、このフロアには店舗の看板の数は全部で5つある。当然いつもの見慣れたスナックの看板はない。

 

だからこのフロアはいつもの店がある5階ではないとわかった。


(あれ? いつものフロアじゃないのか。ってことは4階なのかな)


 もう一度エレベーターに乗って、扉横の▲ボタンを押してみるが反応がない。


ボタンは点灯しないし、動いている気配もない。


「おかしいな?? このエレベーター、やっぱり故障しちゃったのかな? まあ、せっかくだから4階にどんな店があるのか探索してみるか。そのあとに通路の先にある階段を上がればいいわけだからな」


 もう一度フロアを見渡すが、飲み屋ビルのわりにはなんだか閑散としていて賑わいが感じられない。


しかし、さほど気にも留めずに先に足を進めていくと、まず、手前に構える店はいかにも居酒屋風といった装飾が施されている。


天然木っぽい一枚板の看板に筆文字で書かれた店名は、


<--居酒屋 漢だらけ-->


(ん?? かん? かんだらけ?? なんだそりゃ・・。 あっ!! もしや!?)


漢を“かん” とは読まないと悟った常松に戦慄が走る。


「“おとこだらけ”!! これは、おとこだらけと読むのか!!」


中国の古代王朝のような漢字のくせに、むさ苦しい男の息吹を連想してしまい、驚愕のあまり思わず声に出してしまったが慌てて口をふさいだ。


(やっべえーっ、思わず声が出ちゃったよ。こんなんが聞こえたら店の中から男くさいフンドシ姿のごっついオヤジみたいなのが出てきちゃうかもしれないぞ。それはシャレにならない)


普通に考えれば、そんな店員は出てこないのだろうが、半歩後ずさりしながら身構える。


しかし当然、店からは誰も出てくる気配はなかったのでホッと胸を撫でおろす。


(まったく、驚かしやがって。っつうか、“だらけ”といってもイケメンの類が群れてるわけじゃあないだろうし、こんなむさ苦しい名前じゃあ女の子はおろか誰も寄りつかないよ)


 

 ひとしきり居酒屋をディスった後、次に見たのはむさ苦しい居酒屋と通路を挟んだ真向かいの店。

こちらも和風の佇まいである。店の入り口にスタンド式の電飾看板が置かれている。


<--大料理ゆうこ-->


(お・お・りょう・り?? 大料理ってなんだ?? 小料理じゃないのかよ!! ドデカい料理でも出てくるのかよ! そもそも小料理だから小さい料理ってわけではないにしても・・・って、まあいっか)


心の中でツッコミを入れてみるが、そんな自分の独りツッコミに虚しさが込み上げてくる。


やるせない気分を抑えつつ、さらに足を進めてみる。



 その先にある店は雰囲気からしてバーのようだ。


<ヘビメタBAR アイアンヘッド>


 真黒いベースカラーに赤い文字の店名が刻まれた看板は、いかにもヘヴィメタルを象徴するかのようなダークで攻撃的な雰囲気を醸し出しているのだが、カタカナで書かれた“アイアンヘッド”の文字がどこか残念さを強調させている。


(あ〜あ、アルファベットだったらカッコいいのになー、残念!!)


 モヒカン頭にトゲトゲの首輪とリストバンドを身につけたデニム&レザーのマッ○マックスの悪人みたいなバーテンダーをイメージしつつ、その向かいの店を見ると、ヘビメタBARとは対照的にカラフルなテイストのネオン看板が視界に入る。


それは昭和の土曜の夜にカトちゃんが出てくるときのスポットライトを彷彿させるような色彩だ。


<--熟魔女バー LL-->


(熟魔女って・・・・・・まぁ、ガールじゃあないバーということはわかるな)


 このバーのドアからは得体のしれない何か禍々しい気のようなものを感じるが、ネーミングそのものにも不気味さというか、何か危険な香りというか、決して覗いてはならない恐ろしい何かのような、いやむしろ、怖さというよりも“凄味”といった威圧を感じてしまう。


それは例えて言うなら、その昔、流行った歌謡曲『少女A』に対抗するかのように、熟女女優の●月み●りが世に解き放った『熟●B』のような“凄味”である。


そして同時に思うのは“LL”という意味深な店名。

 

(“LL”って、何だ??サイズのLのことか? 熟女だから体型がそれなりに発達してしまって、サイズがLを通り越してLLサイズなのか? そんな膨よかで、弾力性に富んだ熟した魔女がいるバーということかな。そうだとすると、この店はそういう(マニアックな)店ってことだよな。まあ、美魔女と謳っておいて全然美しくないのが出てきちゃってビックリするようなインチキくさい店よりはマシだけど。逆に敢えてそれを押しだすってのは、そういう専門のあれ専的な奴かもしれないけど、むしろ正直な店でもあるわけだ)


 何故か妙に感心してしまうのだが、店の看板を見つめながら独りであれこれ感心している常松の思考の方がどうかしていた。



 ここまで探索してきて、ディープ感満載のフロアに、衝撃というよりは、まさに“笑撃”を受けるが、同時に感動すら覚えてしまう。


しかし、奇妙な店の名前にばかり気をとられていた常松は、このフロアに渦巻く独特で異様な雰囲気にはまったく気がついていなかった。むしろ、興味津々といった思考になっていた。


(このビルにこんなに面白そうな店があったなんてホント知らなかった)

 

(いつかチャンスがあったら入ってみようかな)


異様な雰囲気のフロアだというのに、そんなことを考える常松の顔に笑みが浮かぶ。



 そして通路突き当たりには5軒目の店。


(さて、最後の店か)


 いつの間にか、期待に胸を膨らませてしまう。

冒険家にでもなったのかと思うような好奇心を剥き出しにして、この不思議なフロアを楽しんでいるかのような常松。


そんな常松は、本来の目的である馴染みの店に行く気はなくなってしまったのだろうか?


それともこの雑居ビルの、この妙なフロアの異様で特殊な何かに脳を侵されてしまったのだろうか?


というより主人公がこんなんで良いのだろうか?


本来の目的をすっかり忘れかけている常松の前にこのフロア最後の店が待ち構える。


「おっ♡、スナックじゃん・・ ん? ・・・あ、くう、かん??」

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