スナッキーな夜にしてくれ ~異世界でもスナックに行ってる件~
火夢露 by.YUMEBOSHI-P
第1話 ボルトの時速って?
Thursday
PM8:30
「あ~ぁ、今日も気がついたらこんな時間かよ」
ここのところ仕事が忙しく昼飯もゆっくり食べる時間がない。
今日も夕方4時過ぎに立ち食い蕎麦屋に入りわずか5分ほどでランチタイムを終えると、そのまま仕事に戻って急ぎの案件の企画書をまとめていたが、忙しいときの時間の流れってやつは、まるでウ○イン・ボルトのような速さであっという間に過ぎてゆく。
そういえば、ボルトの時速ってどのくらいなんだろうか?
おっと、話を戻そう。
腕時計に目をやると夜の8時30分をまわっているが、肝心の企画書はようやく7〜8割程度書きあがったところだろうか。
「よーーーし!」
何が良しなのかは自分でもよく判らないが、今日の仕事はもうおしまいと自分に言い聞かせるように声をあげると、そそくさと帰り支度をはじめた。
ふと、スマホを見ると新着メッセージが1件届いている。
ーーお仕事ご苦労様です。
今日はこれから合コンなんで、仕事でつまんない想いをしている先輩の分も
美味い酒と美味しそうなお姉ちゃんをガッツリご馳走になってきますよ!
では! ーー
後輩の辻野からの羨ましいけど嫌がらせ丸出しのメッセージだった。
(あいつ、腹立つなーーー。自慢かよ!! な〜んか、このメッセージ読んだら余計に疲れがドッと押し寄せてきたな。あ~、早く帰ろ)
常松は妙な虚しさをかかえてオフィスを出た。
会社を出て、まず目に飛び込んでくるのは、すでにほろ酔いのサラリーマン、楽しそうに笑いあうOLたち、これから飲みに行くであろう男女のグループ、周囲のすべての人々がみな笑顔で楽しそうに見えて自分ひとりだけが孤独の中の孤独の王様なのではないかと思ってしまう。
もともと仕事はテキトーでいい加減さには定評があり、だけど寂しがり屋で、酒に走るのが大好きな常松は残業続きで飲みに行きたくても行けない状況が続いていた。
こんな酒日照りで女日照りの状態だから、酔っぱらったオッサン軍団はともかく、浮かれた男女の楽しそうな笑い声がメンタルに突き刺さる。
(クソッ! どいつもこいつも浮かれてやがるなー。。。ダメだ。余計にテンションさがってきた)
そんな光景を尻目にいつもの地下鉄の駅を目指す。
地下鉄のホームには、すでに発車寸前の電車が扉を開けて待っていたが、発車ベルの音とともになんとか飛び乗ることができた。
(タイミング良く急行電車に乗れたのはラッキーだったな。少しでも早く家に着きたいしな)
なんとなくホッとした常松だったが、やっぱり虚しさが込み上げてくる。
(このまま帰るのも寂しいしなー。やっぱり、飲みに行っちゃおうかなー)
こんな日こそ楽しく飲んで歌って、明日の鋭気を養うのも悪くない。
後輩の辻野からの羨ましいメッセージや街中の浮かれ飛んだビジネスマンたちの姿に感化されてしまった常松は、自分にそう言い聞かせると馴染みのスナックへ向かうことにした。
しかし、だからといって“明日の鋭気”を養えるのかどうかは判らないのだが............。
常松が利用する最寄り駅の一つ手前、急行停車駅S駅で途中下車して馴染みの店を目指す。
その店はバスロータリーを抜けた飲み屋スポットの一角にある雑居ビルの5Fにあった。
居酒屋、バー、スナックなどが各階に入る、いわゆる“飲み屋ビル”。
このビルのエレベーターは4~5人も乗れば窮屈になってブザーが鳴ってしまう雑居ビルにありがちなサイズのもので、早い時間だとエレベーター待ちの先客がいることがあり、そうすると一度でエレベーターに乗れずに待つことがしばしばだったが、この日はビルの入口に先客はおらずスムーズに乗ることができた。
『5階』のボタンを押してドアが閉まり、エレベーターが上昇していく・・・・。
独りで乗っているせいなのか、疲れているからなのか、エレベーターはいつもよりもゆっくり上がっていくような気がした。
テンションが落ち込んでいることもあってか、妙な静寂さまで感じてしまう。
突然、ガクンッとエレベーターが止まった。
(あれ??? マジかよ! まさか、こんなところに閉じ込められちゃうわけ? 地震か?)
一瞬焦るが、地震のような揺れは感じないし、エレベーター内の電気は消えていないので停電ではないようだ。
エレベーターのドア上にあるフロア表示を見ると、4階と5階のランプが点滅している。
「4階、それとも5階で止まったのか?? なんで表示が点滅しているんだろ?」
しかし、しばらくしてもエレベーターは動かない。
よく見ると押しボタンの「4」「5」のボタンも点滅している。
(まさか4階と5階の間で停まっちゃったのかな?)
常松はおそるおそる、点滅しているボタンを押してみる。
最初に「4」を押すが変化はない。次に「5」を押すがこちらも反応がない。
(おいおい、マジかよ! 開いてくれ。開けーーー!)
心の中でそう念じて、焦る気持ちを殺しながら「4」と「5」両方を同時に押してみる。
すると、『チーン』という音とともに扉が開いた。
「良かったーー! 開いた―ーー。マジで閉じ込められるのかと思ったよ」
ホッとして思わず声がもれる。
常松は扉が開いた安堵感からなのか、閉じ込められそうになった恐怖心なのか、扉の先をよく確認もしないままエレベーターを降りた。
——————そして、ここからナイスな♡夜♡の冒険がはじまる。
が、ボルトの時速については、また別の機会に考えることにする。
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