DH-シリーズ 001  03 あなたのお母さん

滋賀県は琵琶湖が有名というイメージが強いが、山に囲まれていることも有名だ。琵琶湖につながる川のうち、山から流れる川が大半だ。


そんな山々は隠居したり雲隠れするにはぴったりの場所らしい。


「伊吹山……。冬にはウィンタースポーツで賑わうそうですが、そこに送人博士の研究所があるなんて…」


モノカキからため息代わりのブレスが出る。モノカキの目の前にあるのは看板が蔦で覆われ、窓のガラスが全て割れている廃病院だった。


スキャニングにより周囲に推定危険生物がないないことを確認した際、何か引っかかるものがあった。


「この建物の下…空洞?というより地下室ですか。周辺に人の気配などは一切ないですし、隠れ蓑にするにはもってこいですね」


廃病院とはいえロックはかかっていたがそれも何世代も前の旧式。ロックはハッキング機能により簡単に解除された。


廃病院の中に入るモノカキ。廃病院の中は至る所に雑草が生え、雨漏りができている。 


「建物は一階だけとはいえ、地下に繋がる扉の痕跡がない?そんなはずはないでしょうが…やはり経年劣化が進行していますね。一体どこにあると…」


病院内のマップをダウンロードしたものの、博士の研究室らしきものは見当たらない。待合室、診察室、受付……。床に細工があるかと思ってみるが

それらしきものもない。


「とすると…考えられるのはこの扉の奥ですかね」


モノカキの前にある扉はまさに異質だった。蔦で覆われて所々が錆びながらも、形を保ち何人たりとも入れぬ扉としての役割を果たしている。普通はこれほどの廃墟にそんな扉は残らない。高性能な扉を配置した理由は明らかだ。


「『大事なものには幾重もの仕掛けを』。

やはり人間にはそういう思考回路でも存在しているのですかね?なにより大当たりです」


ドアノブを回して扉を開けると地下に続く長い階段があった。所々にあるLEDが弱々しく床を照らす。雨漏りはしているが造りは頑丈だ。


「病院とは似合わないオーバテクノロジーの扉、階段…。間違いはないようですね」


そこに送人博士の研究室がある。


モノカキは迷うことなく階段を降り、空にその向こうの部屋の扉を開けた。











研究室は明かりがなかった。モノカキにはサーモグラフィーも搭載しているが、それへのステルス機能を持つ機械もあるに決まっている。片切スイッチを見つけたのでそれをつけるとやはりそこには異様な光景が広がっていた。


小学校の体育館ほどの広い部屋に所狭しと培養器が並んでいる。そこに入ってるのは人の目では見ることのできない小さな細胞、完全に人だとわかる胎児の頭につけられた謎の機械だとか。これを見たのが人間なら間違いなく生理的嫌悪を宿していただろう。


「これほど多くの研究個体たち…。共通する部分からわかるのは、人間と機械の融合?中央にあるこれが完成形とでも……?!」


中央にある培養器には完全に人間とわかるほど形が完成している個体だった。それの異常性は右腕にあるガトリングガンから放たれている。

送人博士が何を目的に研究を重ねていたのかはわからない。しかしそれでもこの光景は異様だ。人のために「DH-シリーズ」を作った博士ではなかったのか。


「これではまるで精神異常者です……」


モノカキがそう呟くと部屋の片隅で機械の起動音が鳴り響く。


『研究室ニ異常ヲ発見。侵入者ガいるモヨウ。……管理者ヨリ危険人物オヨビ危険生物デないト判断。あなたノ所属または個体名ヲお答えクダサイ』


「DH-シリーズ 001 モノカキ。Mrマキよりここに送人博士の研究データの捜索と確保を目的としてきました。あなたの名前は?」


『ナンダ、Mrマキの使いカ。ソコラ辺ニアルモン全部持っテケ。ワタシはアイツニ関わらン。用事が終ワレバサッサと帰レ』


先程のアナウンスのような対応とはうってかわって非常に流暢だ。まるで本当の人間かのように喋るその話し方には覚えがある。


「Cナノの旧機体?いえ、しかしこれほどのアイデンティティを確立している機体など時代的にどこにもないはず……」


『ナニ?あんたCナノを知っテルノ?マァ、アレハワタシが基盤ベースダカラね。というかあんた人間ジャナイ?サイボーグと言うヨリ…あぁ、アンドロイドね。送人博士の研究の成果とイウヨリMrマキがぱくッタのネ。マァこんな形ニなるトハ思ってナカッタケド…』


おかしい。普通のCナノに視覚認識機能はないはず。それにこの機体が基盤ベース?明らかにその時代では扱えないオーバーテクノロジーだ。


「ここまでのプログラムが組み込まれた機体はありえない!一体あなたは何なんですか?!」


疑問の叫びに淡々と正体を告げるアナウンス。


『ワタシを誰だが知らナイ?ワタシは送人博士によって作らレタ『Communication System code プロト 送人Ver.』。送人博士の目的ヲ達成スル為に生まレタ機体であり…』


部屋の中央に位置した培養器が大きな罅が入り、壊れる。中にあった個体である10代の少女が解き放たれた。ゆっくりと立ち上がり、目を開く。


そこに輝いていたのは無機質な青色の光だった。


口から出た言葉はモノカキが処理しきれないかと思うほどの情報だ。










『あんたのお母さんッテトコかしら』

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