DH-シリーズ 001 02 狂っている博士
ピコン♪
小気味の良い充電完了の音が鳴り響く。頬の電源マークが青く点灯、電験がONになる。
『おはよ、モノカキ。よく眠れた?』
「私はアンドロイドなのでその問答は意味がないと思いますが……」
『ばっか、挨拶に決まってんでしょー?「よく眠れた?」って聞かれたなら「もちろん!バッチグーよ!」って答えるのが挨拶。社会で当然の礼儀でしょ。ほら、早く言ってごらんな!』
「言いませんし、それを礼儀とは言いません。それより私は今からMr.マキのところに行きます」
どこか冷たいながらも返事を返すモノカキ。
『ほんとに行く気なんだ……。一応Mr.マキのスケジュールは空いてたし、アポ入れといたよ。感謝して咽び泣きな!』
「……泣くことができない私に泣けと?潤滑油でも流しましょうか?」
『片付けが面倒だからヤメロ!!』
☆
軽口を叩くCナノを置いてMr.マキの研究室へ向かう。モノカキが暮らしているのはトリニア社開発棟の一部屋。それゆえ、暮らしているのはアンドロイドのモノカキだけではない。廊下を歩いていると数人とすれ違う。
「おはようございます」
「「「…………」」」
おかしいのはいくら挨拶をしても挨拶が帰ってこないことだ。酷い人間は目を逸らす。
(Cナノが言うには挨拶は社会で当然の礼儀だそうですが…。礼儀ができていないのか、何か理由があって挨拶を返さないのか。後者でしょうけど、いずれにしても問題では?)
この建物の中でモノカキに声をかけてくれる人間は数少ない。みんななかったことにしたいのだろう。人類の夢とされた人工知能搭載アンドロイドの初号機が大失敗してしまったとこで。
(私が一方的に悪いわけではないはずなんですけど)
そう思いながらMr.マキの研究室に着いた。ドアをノックする。
☆
「Mr.マキ。モノカキです。アポを入れていたので来ました。相談があるのですが」
モノカキがそう言った瞬間、ドアが開く。
「珍しいな、モノカキ。君がここに来るとは。まぁ、なんだ。とりあえず入るといい」
「はい」
白衣を着て目の下に隈ができてる男性。彼はMr.マキ。プログラミングを主な仕事とするのに何故か年中白衣を着て過ごす人だ。
(一時期私に自分のことをマスターと呼んでくれといったときは精神病院を紹介しましたが…。変化はあるんでしょうか?)
「といってもなにかもてなすこともできないがね。それで、要件とは?」
「……単純なことです。私に『心』をください」
「ほほぅ?何が飛び出てくるかと思えば…。『心』ねぇ……」
品定めをするように見るMr.マキ。焦ることはないがモノカキはこのあとの展開が読めない。そう思っていると…。
「いいんじゃない?『心』、ほしいんだろう?けど、それをプログラミングするのも手間も時間もお金もかかるのはわかるか?それを未だ結果が出ていないのに投資しようにも迷うでしょう。僕の言ってること間違ってるかい?」
「間違いはないです。けどあなたは私、モノカキを作った責任者です。望みを叶えては?」
交渉はモノカキが上手だったようだ。Mr.マキはため息をついた。
「……そこをつかれると痛いね。まあ他の方法もあるし、引き受けよう。ただし、君に条件がある」
人差し指を指してMr.マキが話し出す。
「条件?」
「『心』を1からプログラミングするなんてことは人間には不可能なんだよ。ベースとなるものを増幅することぐらいしかできない。とはいっても感情のベースはもうすでにインストールされている。つまりどういうことがわかる?」
少し考えた後、モノカキは話す。
「感情の拡大と増幅機能のデータがあれば『心』に近いものを得ることができるというわけですね」
「そう!つまりそれを掻っ払ってきてほしいんだよ!」
Mr.マキはデータを掻っ払ってこいと言った。
……どこから?
「「どこから掻っ払って来るの?」って顔してるね。君たち「DH-シリーズ」の本当の生みの親であり、プロジェクトの元責任者であり、故人の送人博士の研究所に決まってるじゃないか!」
それは不味いのではと思いながら、あまりの怒涛の情報に若干ショート気味なモノカキであった。
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