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第36話 回収して来てって言ってるだけなのに……

街の手前まで転移で戻りギルドに入るとカウンターに行き討伐した賊の回収を頼む。

「すみませんが、もう一度お願い出来ますか？」

「え？　また、言うの？」

「はい、すみません。こちらの聞き違いと思いますので……」

「はぁ～だから、これ！　ちゃんと、討伐して来たって言ってるでしょ」

「はい。それは分かりますが、討伐ですよね？」

「そのつもりだけど？」

「今日のお昼前に出たんですよね？」

「そうだけど？」

「なら、討伐して来たなんて嘘ですね！　そんなところにギルド職員を派遣して襲われたらどうするんですか！」

恒はさっきから本当のことしか言っていないというのにギルドの受付のお姉さんは頭から嘘だと決めつけてしまい、こちらの話をちゃんと聞いてくれない。いつもの犬耳のお姉さんリズを探すが、その姿を確認することは出来ない。

「旦那様よ。どうにも面倒くさい奴に捕まったようじゃの」

「うん、俺もそう思う。どうしようかな……」

「聞いてますか！」

「うん、聞いてるよ。でも、お姉さんじゃ話にならないから、他の人に代わってもらってもいいかな。例えば、リズさんとかさ」

「はい？　何を言ってるんですか？　なぜ、リズさんがあなたのような嘘つきの相手をしなければいけないのですか？　いいから、さっさと依頼を進めて下さい！」

「もう、だから、それは終わったんだって……もう、こうなりゃしょうがない。小夜、ちょっと耳を塞いでいてね」

「うむ、分かった。旦那様の気の済むようにやるのじゃ」

「ありがとう。じゃあ……すぅ」

「何をするつもりですか？」

「いいから、お主は黙っておれ」

「な、私に向かってその「出て来い！　ギルマス～！」……え、何？」

恒がギルド内に響き渡る様に大きな声でギルマスを呼び出すと、周りの連中は何が起こったのかと、カウンターの恒達に注目する。

「なんだよ、人が打ち合わせしているってのに……って、お前かよ。なんでわざわざ俺を呼び出すんだ？」

「ワタル様、どうしましたか？」

ギルド奧の執務室から、ギルマスと探していたリズさんが出てくる。

「あ、リズさんもいたんだ。ちょうどよかった。依頼が終わったから、確認と回収をお願いしているのに、このお姉さんが受けてくれないんだよ」

「分かりました。至急手配します。ちょっと、手空きの人に馬車……すみません。ワタル様、馬車は何台ほどあればいいでしょうか？」

「三台もあれば足りると思う。生きている連中は手足を拘束しているから、横積みにでもすれば結構載ると思うよ」

「ありがとうございます。では、荷馬車を三台用意して、ここまで行って下さい」

「「「はい！」」」

「……」

恒のお願いを拒否していたお姉さんはギルマスとリズの恒に対する扱いを見て、自分が何をしてしまったのかを理解する。だが、頭では理解しても納得出来ない自分がいた。

「リズさん、どうしてこんな人の言うことを信じるんですか？」

「どうして……って、ワタル様だからですよ」

「ですが、まだランクも低いのに盗賊の討伐を昼前に出て行って、今『討伐してきました』って言われて信じられますか！」

「まあ、普通ならそう思うかもね。でも、いい機会だから覚えとくといいわ。それが出来るのがワタル様だから」

「……」

「まあ、信じられないのも分かるが、今回のことはいい笑い話になると思うぞ。なあ、ワタル」

「さあ、それはどうでしょうね。俺が言っていることがそこのお姉さんの言う様に嘘かも知れないし」

「そ、そうですよ、ギルマス！　大体、こんな若い子が「そこまでだ、シュリ」……分かりました」

ギルマスに一喝され、シュリと呼ばれたお姉さんがシュンとなる。

「大体な、シュリよ。よく依頼書を見たのか？　それを受理したのはリズだぞ」

「あ……」

「分かったな？　そういうことだ。これ以上はお前が心酔するリズがしたことを疑うことになるぞ」

「ギルマス、そこまでにして下さい。シュリ、そういうことだから、一概に全部を受け入れろとは言いませんが、私のサインがある依頼書を持つ人なら私に確認してくれてもよかったのではと思います」

「す、すみませんでした～」

シュリが、リズにキレイなお辞儀で謝罪する。

「謝る相手を間違っていますよ。私ではなくワタル様に謝って下さい」

「は、はい。この度は本当に申し訳ありませんでした」

「もう、いいよ。でも、気を付けた方がいいのは確かだね。相手は俺みたいに優しいとは限らないからね」

「そうじゃな。旦那様はやさしいからの」

恒は謝罪するシュリに対し、今度から気を付けるように言うと、ギルマスから部屋で話を聞こうと言われ、執務室へと向かう。

「で、どうだった？」

「いきなりだね」

執務室に入り、ソファに座ると同時にギルマスがそう切り出す。

「お前のことだ。特に苦労することもなかったんだろう？」

「まあね。数は多かったけど、狭い洞窟内だから。そんなに囲まれることはなかったし、多くても一度に二，三人を相手にするくらいで済んだし。それにある程度片付けたら、後は武器を放り出して降参してくれたから楽だったよ」

「ふむ。あの連中を楽と言うか。まあいい、Ｃランクにするかどうかは回収に行った連中が帰ってきてからだな。馬車を使っているとはいえ往復でも三時間は掛かるだろうから、明日だな」

「分かったよ。後、盗賊の連中が溜め込んでいたお宝はどうすればいいのかな？」

「ほう、やっぱりあったか」

「まあ、それなりにはね」

「そうだな。出来れば、元の持ち主に返したいところだが……」

そこまで言ってギルマスは恒を一瞥する。

「別にいいよ。元の持ち主や遺品として引き取りたいって人がいるならね」

「そうか。じゃあ、ここへ……は無理か？」

「そうだね、テーブルには載らないかな。どこか倉庫みたいなところで分別したほうがいいかもね」

「分かった。じゃあ、倉庫へ行こうか」

「うん」

執務室を出て、倉庫へ行く前にギルマスがリズに声を掛け、一緒に来てくれるようにお願いする。

「じゃ、ここに出してもらえるか」

「うん、分かった」

倉庫へ入るとギルマスの指定した場所へ盗賊から没収した金品をインベントリから取り出す。

「ほう、結構あるな」

「そうですね。では、私の方で目録を作り、持ち主の記名やハッキリと個人の所有者が分かる物に分けておきます」

「あ～そうだな。頼む」

「はい」

「それでだ、ワタルよ」

「はい？」

ギルマスが恒に向かって言うことは、押収してきた金品の代金についてだった。

「え？　どういうこと？　そのまま、返すんじゃないの？」

「まあ、そうしたいのは山々なんだがな。そうすると、他の連中が見付けた遺品を持ち帰ってくれなくなってしまうんでな」

「あ～そういうこと。なら、遺品については最低金額で。他の装飾品とか趣味的な物は要相談にしておこうかな」

「なんで、要相談なんだ？」

「いや、なんとなくだけど無理難題を言ってくるのには吹っ掛けてやろうかなとか、思ったりしてないからね」

「ふふふ、そういうことか。なら、これなんかは面白いことになると思うぞ」

そう言って、ギルマスが押収した品の中から、少し変わった様子の木箱を取り出す。

大きさはギルマスの手にすっぽり収まってはいるが、十センチメートル四方はある。その箱の外見は豪華ではないが、凝った作りであることは一目で分かる。

「確かに……ちょっと高そうではありますね」

「だろ？　ちょっと、面白いモノがみれそうだろ？」

ギルマスは持ち主の想像が付くのか、ニヤニヤと楽しそうにしている。