第35話 討伐したんだよな?

ギルマスからのお祝いと言う名の焦げ付き案件をもらって小夜と一緒に山の中をひたすら歩く。

「もう、その盗賊のアジトはまだなのか? 歩き疲れたのじゃ」

「文句言わないの」

「言いたくもなるじゃろ。ギルドの焦げ付き案件をCランクアップというエサに食い付いてからに」

「それは分かっているけどさ」

確かにギルマスに乗せられた感はあるけど、パーティーメンバーにCランクがいるだけでパーティーにも多少の恩恵があると聞くので無駄にはならないだろうと恒は思う。


「着いたみたいだぞ」

「ん? あそこか」


恒が指差す方向を確認する小夜。

「では、行くのじゃな?」

「そうだな。『解除』」

小夜が村正に戻り、それを腰に差す。


「行くか」

恒は腰に差した小夜を確かめると、見張りが立つ盗賊のアジトへと近付く。


「おい! 誰だお前は! そこで止まれ!」

「イヤです」

「何っ! おい! やるぞ!」

「おう!」

二人が恒の肩を掴むが恒は構わず洞窟の中へと進む。肩を掴んだ見張りの二人が恒を抑え込もうとするが、恒は振り向き様に二人の顎を殴り昏倒させると拘束魔法で見張りの二人の自由を奪い洞窟の奧へと進む。


「おじゃましますよ~」

「あ~ん、誰だ? オゴッ……」

恒に向かってきた男を小夜の柄で鳩尾を殴ると、昏倒させ拘束魔法を使う。


「あと、何人いるんだろうね」

『さあの。奧にもまだ気配がするのじゃ』

「なんか面倒だな」


人が二人並んで通れるくらいの広さの洞窟の中を進むと開けた場所に出る。

「おう、表の騒がしいのはなんだった? って、誰だお前は!」

「通りすがりの討伐者で~す……よっ」

「アガッ……」

話しかけて来た男の頬を殴ると、それに気付いた他の男達が一斉に武器を手に持ち構える。

「えっと、これで全部かな?」

恒は『気配察知』を使い洞窟内を探ると、更に奧の方に気配を感じる。


「奧にいるのなら、ここの下っ端を倒さないといけないってことか」

恒がそう呟くと近くにいた男が反応する。


「言うねぇ兄ちゃん。ここまで来たことは褒めてやりたいが、無謀すぎたな。悪いがここまでだ」

「え~奧にいる奴に会いたいんだけど?」

「お前、舐めてんのか? 俺らを誰だと思ってんだ、おい!」

「誰って、隠れてる盗賊でしょ?」

「ふん! 分かってるじゃねえか。なのにたった一人で俺達を討伐しようってのか?」

『一人ではない! 妾もおるのじゃ!』

「ん? 誰かいるのか?」

「いませんよ。それより、これと奧にいるので全部なのかな?」

「ああ、そうだ。なんだ今更命乞いでもしようってのか?」

「まさか。一人でも取り逃がすと依頼が失敗するのかと思ってさ」

「ふん! そんな心配はいらねえよ」

「そうだね。かしらを連れてけばいいはずだから、後は……どうしようかな。全員、連れて行くのも面倒だよね。ねえ、どうしたらいいと思う?」

「知るか! おい、やっちまえ!」

「「「おう!」」」


男の掛け声で、その場にいた男達が一斉に恒へと押し掛かる。

「もう、せめて教えてからにしてよ」

小夜を抜くと正眼に構え、向かってくる男達の首を狙って撥ねていく。


五,六人が殺られたところで、恒が普通じゃないことに気付き、男達も躊躇し攻撃の手をゆるめる。


「あれ? もう、終わりなの?」

「「「……」」」

恒の攻撃的な視線を受け、男達は後退りするが洞窟の出口は恒が塞いでいるため、すぐに洞窟の壁に阻まれる。


「どうするの?」

「「「……」」」

「まあ、俺としては大人しくしてくれている方が殺りやすいけどね」

「く、クソ!」


一人の男がこのままでは殺られると思ったのか、堰を切ったように恒に襲いかかる。男は必死の形相で恒に剣を振り下ろすが恒に剣先を逸らされ、そのまま首を撥ねられる。

「次は誰?」

「「「……」」」

恒が男達にそう言うと、男達は手に持っていた剣や槍を地面に置く。


「え? どうしたの?」

「「「降参です!」」」

男達は両手を上にして恒に降参すると言う。


「ふ~ん、死にたくはない……そういうこと?」

男達は無言で頷く。


「分かった。じゃあ『拘束バインド』×十七」

「「「アガッ!」」」

拘束された男達は地面に転がる。


「じゃあ、悪いけど通らせてもらうね」

「「「……」」」


扉で仕切られた前に立つ。

『うわぁヤバい殺気なのじゃ』

「うん、そうだね。でも、行くしかないからなぁ。さてと……」


恒は腰を低く構えると、右足で目の前の扉を蹴り飛ばす。

「さあ、観念するんだ!」

中へと入り蹴り飛ばした扉を踏んで辺りを見回すが、頭らしき人物は見当たらない。どこだどこだと扉の上で辺りを見回していると足下から変な声がする。

「ブギュッ……」

「へ?」


もしかして……と思い、扉の上で二,三度飛び跳ねてみる。

「ムギュッ……」

「フガッ……」

「ブハッ……」

『いるの』

「ああ、いるね」

恒は扉から下りて扉をどかすと、そこにはいかにもな人相の悪い男がのびていた。

「じゃあ、これも『拘束』っと」


『のう、それでこいつらはどうするんじゃ?』

「どうって、連れて行くしかないでしょ」

『その前に宝探しはしないのか?』

「宝探し?」

『そうじゃ。賊なら、どこかに隠し持っているものじゃろ』

「でも、どこに?」

『そんなの旦那様のスキルで出来るじゃろ』

「俺のスキル?」

『ああ、そうじゃ。ほれ、『探査ソナー』があるじゃろ。それで気になったところを探ってみればええ』

「うん、やってみるよ。『探査』……ん? んん?」

『何か分かったのか?』

「ああ、分かったよ」


恒は壁の前に立つとコンコンと軽く壁を叩くと明らかに軽い音が返ってくる。

「うん、当たりみたい。でも、取っ手みたいな物も見当たらないな」

『なら、妾を使えばええ』

「どういうこと?」

『どこかに隙間があるじゃろ。そこに妾を差し込み蝶番なり鍵なり斬ればええ』

「ああ、そういうことね。分かった。やってみるよ」


小夜に言われた通りに壁の怪しいところをよく見てみると、小夜が言うように確かに隙間があった。そこに小夜を差し込み、下から上へと刃を滑らせると『カチリ』と何かが当たる音がしたので、そのまま少しだけ力を込めて上へと刃を滑らせる。

『カタリ』と音がして壁の一部が剥がれると壁の中へと入れるようになる。


『ライト』を使って、中の様子を確認すると結構な量のお宝を目にする。


「以外と多いな」

目に付く物を片っ端から収納していき、やがて倉庫の中が空っぽにすると、ここでの仕事は終わりだ。


「じゃあ、ギルドに帰ってコイツらの回収も頼もうか」

『ああ、そうじゃな』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る