第30話 初めまして。そして、さようなら
街の外に出て、街道沿いに二時間歩いた恒が立ち止まる。
「受付の人に聞いた場所だと、この辺から脇道があるって話だけど……」
『ワタル、あれじゃないの?』
「え? あ、ホントだ。ありがとう、ミモネ……って言うかさ。ミモネがちょっと上からオークの
『え~いいじゃん! それだと、すぐに目的地に着いて面白くないじゃないの』
「ったく。自分は歩かないからってさ……」
恒がぼやくようにミモネは恒の頭でパイルダーオンしているだけなのだ。
『ぼやかないの。足腰を鍛えるのも必要なの!』
「はいはい、分かりましたよ」
脇道に入り、藪を小夜で払いながら進んでいく。
『ちょっと、旦那様よ。ちと扱いが乱暴なのじゃが?』
「だって、しょうがないじゃない。藪を払わないと進めないんだし」
『それもそうじゃが、他のもあるではないか!』
「あるけど、解体用のナイフじゃ広い範囲は払えないじゃん。そう言えばさ、小夜って一応日本刀なんでしょ? なら、打刀本体の小夜とは別に脇差しがあるんじゃないの?」
『あ~ついにその話を聞かれることになったか。う~ん、どう言えばいいものか』
藪を払いながらも小夜は恒にどう言って説明しようかと考える。
「小夜、悪いけどその話は後でね」
『ん? どうしたのじゃ?』
「目的の場所が見えて来たからね。お喋りはここまで」
『む! 妾の本領発揮じゃな!』
恒は藪を払う手を止めて、少しだけ開けた先を見ると、粗末な作りの小屋といった風なのが見える範囲だけで五、六軒建てられている。
「本当にここなのかな。人が住んでいるような感じだけど……」
『ワタル、よく見るの。ここに住んでいるのは人じゃないの』
「……」
ミモネに言われ、もう一度小屋の方を見ると、中から人? が出てくるので注視する。
『ブモ……』
出て来たのは豚のような風貌の顔に二メートルを超す巨体の魔物だった。
「アレが……オーク」
『そうなの。オークもゴブリンと同じで繁殖目的で女の人を攫うの。ひょっとしたらここにもいるかもなの』
「そうか。じゃあ、派手な魔法は使えないね」
『そうなれば、妾が主役じゃな』
恒はふと、思い付いたことを聞いてみる。
「ねえ、小夜。例えばだけど、オークを斬ると血や脂で刀身が汚れるでしょ。そんな状態で人化しちゃったらどうなるの?」
『なんじゃ、旦那様はスプラッターがお好みか?』
「あ~やっぱり、そのままだと血塗れになっちゃうんだ……」
『まあ、だから使い終わったらキレイにして、ちゃんと手入れして欲しいのじゃ』
「わかったよ。じゃ、そろそろ行こうかな」
『ん? 作戦はないのか?』
「一人だからね。そんなの関係ないでしょ。それに殲滅予定だし。あ! ミモネは上から逃げ出すのがいないか見といてね」
『了解なの!』
恒は潜んでいた藪から飛び出ると、深く深呼吸すると集落に向かって叫ぶ。
「うぉぉぉ~!」
『『『プギ?』』』
さすがに叫びながら、自分達の集落へと走ってくる恒を見て、臨戦態勢になるオーク達。
「随分、雑だな……」
恒は自分に対し一列になって向かってくるオークを見て、そんな感想を漏らす。
「いくぞ、小夜」
『はいなのじゃ、旦那様』
恒はオーク達とすれ違いざまにその首を落としていく。
『ぜんぜん、手応えがないのじゃ……』
向かってくる集団を片付けると、その先に身構えながらこちらを見ている集団に気付く。
「やっぱり、まだいるよね。それに……子供なのかな」
恒の目の前には集団の後ろで山の方に向かって逃げる子供の様に小さなオークがいた。
「でも、ごめんね」
そう言って、恒は持っていた解体用のナイフを手に持つと、その集団に向かって投擲する。
恒が投げたナイフは最後尾の子供の首筋を後ろから貫かれ、その子供のオークは絶命する。
最後尾の子供が狙われたことで、その集団を守っていたオークが恒を見て激怒する。それに言葉は分からないが、まるで周りのオークが『こいつのせいだ!』と恒を指差して叫んでいるように思えた。
逃げていたハズのオークの集団は引き返し、恒をぐるっと取り囲む。
「ミモネ、逃げたのはいないかな?」
『うん。いないの。皆、怒りでワタルを殺す為に戻って来たの』
「そっか。俺を殺す為に……」
『うん! そうなの。だから、やっちゃってなの!』
「ああ」
その言葉を待っていたかのようにオークの集団が一斉に恒に襲いかかる。
恒は器用にオークの持つ棍棒や斧を躱しながら、その首だけを狙い刎ねていく。
一閃、二閃と小夜を振る度に頭を失ったオークの体は倒れていく。
やがて、向かってくる全てのオークを倒すと再び静寂が訪れる。
恒が噎せ返る血の臭いも気にせずに深呼吸をしてから、殺気がする方向を見ると他のオークとは一回りも二回りも大きい個体がそこにいた。
「ちょっと、他のとは違うね」
『鑑定してみるの』
ミモネのアドバイスに従い鑑定するとそこには『ジェネラル・オーク』という文字が記載されていた。
「へぇ、ようは上位種ってことか」
『もう首切りは飽きたのじゃ!』
「分かったよ」
恒は小夜の握りを片手持ちから両手でしっかりと握り、正眼で構える。
「こいつさえ、斬ってしまえば終わったも同然だな」
そう言うと恒はジェネラル・オークに向かって走り出す。
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