第29話 初依頼は討伐で

「じゃ、行くね」

朝食を済ませると恒は宿を出る。

「ちぇ、恒の奴。いいよなぁ~」

「ぼやかないの。いいから、私達も早く訓練終わらせるよ」

「それでも、羨ましいよ」

「「「はぁ~」」」

明良達三人もギルドへと向かうが、これからの訓練の内容を考えると足取りは重くなる一方だ。


恒はギルマスからまずはFランクでしばらくは様子見だということになり、今日は依頼に出る前に昨日の内に頼んでいた防具の受け取りに向かう。


「おはよう。キール。もう、出来てる?」

「おう、ワタルか。調整するから、こっちに来い!」

「分かったよ」

恒が朝から訪れたのは、防具や武具の作成販売を行っているドワーフのキールが営んでいる店だ。


「どら。ちょっと袖を通してみろ」

キールに渡されたベストの様な革鎧を着た恒は軽く動いて問題ないことを確かめる。

「どうだ? 動きに支障があるなら手直しするぞ」

「うん、問題ないよ。でも、本当にタダでもらっていいの?」

「ああ、お前が持ち込んだ革だし、余り物の端切れでも十分に元は取れる。それにそんな革を扱うこと自体があまりないからな。俺にとってもいい経験だ。本当にありがとうな」

「お礼はいいんだけどさ。後、三人分作って欲しいんだけどいい?」

「今すぐじゃないなら、問題ないぞ」

「後ね、これで解体用のナイフと、ショートソードを作って欲しいんだ」

そう言って、マジックバッグに見せ掛けた肩掛けカバンからドリーの爪と牙を取り出すとキールに見せる。

「お前はまた、こんな物……」

並の龍の物ではないと見ただけで分かる様な物をポンポンと気軽に出して来る目の前の小僧に対しキールは少し訝しむ。

「ダメ? ダメなら他の「ダメではない」……なら」

「解体用のナイフなら、この爪で数本は作れるが、欲しいのは何本だ? 後、ショートソードは使う奴の体型や、クセで代わるんだ。だから、使い手を連れて来てからの話だ」

「分かったよ。じゃあ、解体用のナイフは五本でお願いね」

「そりゃ、いいが。五本でも余るぞ?」

キールは嬉しそうな顔をして、恒からの返事を待つ。

「じゃあ、余った分を引き取るとして、ナイフケースと「いらん!」……え?」

「ケースなんかは、さっきの余った革が使える。だから……」

「爪の余った分が欲しいの?」

キールは恒に黙って頷く。

「でも、それだと俺の方がもらい過ぎな気がするんだけど?」

「あ~気にするな。さっきも言った通り、こんな部材は俺が金をいくら積んでも手に入りそうにない物ばかりだ。それを扱えるだけでもありがたいってもんだ」

「でもな~」

「まあ、そんなに気にするんなら、今度酒でも持ってきてくれたらいいよ」

「そんなんでいいの?」

「ああ、だからそんなに気にするな。でも、また何か面白い素材があったら、優先してくれな」

「うん、分かった。じゃあ、ありがとうね」

「おう! 怪我するなよ!」


キール製の革鎧を着込んだ恒は、早速ギルドに出向くと依頼書が貼られている掲示板を眺める。

「ん~不思議と読めるね。え~と、俺の今のランクがFランクだから、Eランクまでは受けられるんだよな。あ~やっぱり、手頃なのはないな。ん? あ、これならいけそう」

恒は一枚の依頼書を掲示板から剥がすと受付へと持って行く。


「これ、お願いします」

「はい、お預かりします」

恒が持って来た依頼書と、冒険者ライセンスカードを受け取ったのは犬耳のお姉さん。

恒はピクピク動くケモ耳に興味津々だ。


「あの~この依頼書なんですけど……」

「ん? Eランクまでは受けられるんじゃ?」

「ええ。確かにランクとしてはそうなんですが、パーティ前提なんですよね」

「パーティ前提? でも、そんなこと「書いてますよ」……え?」

「ほら、ここに」

「……確かに」

恒は受付嬢の差す箇所を見ると、『四人以上で構成するパーティ推奨』と小さく書かれていた。

「あ~ダメか」

恒が諦め、受付のお姉さんにお礼を言って戻ろうとすると「受けてやれ」と奧から声がする。

「「ギルマス!」」

恒と受付のお姉さんが声のする方を見ると、ギルマスがいた。

「対象はEランクなんだろ。だったら、そいつでも十分だ、そうだろ?」

そう言って、ギルマスは恒に対しニヤリと笑う。


「でも、この子は一昨日登録したばかりでしょ。無茶すぎます!」

「だが、そいつはドリーを退かせたぞ?」

「え? ドリー様をですか?」

「そうだ。それでも不十分か?」

「いえ。ギルマスがそこまで言うのでしたら、私が口を挟むことはありません。……分かりました。受領します。では、ワタル様。お怪我しないように」

「はい。ありがとうございます」

恒は受付のお姉さんとギルマスにお礼を言うと、ギルドから出て行く。


そんな恒を見送った受付のお姉さんはギルマスを睨み付ける。

「ギルマス! 本当に大丈夫なんでしょうね? 私、イヤですよ。登録したばかりのあんな若い子が死ぬなんて……」

「心配するな。ちゃんと帰って来るって。なんなら、賭けてもいいぞ?」

ギルマスはニヤニヤしながら、そんなことを受付のお姉さんに持ちかける。

「……やめときます。ギルマスがそこまで言うのなら、多分大丈夫なんでしょうよ。でも、本当に大丈夫なのかな? オークの集団を壊滅なんて……」

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