第31話 戦いの後に人知れず戦いが終わる

ジェネラル・オークは恒に向かうと、左手に持つ斧のような形状の武器を勢いよく恒に向かって振り下ろすが、恒はその斧を躱すと、その左手を足場にしてジェネラル・オークの首元に一閃する。

「これで終わり……っと」

『ワタル、まだなの!』

ジェネラル・オークの肩口から飛び降りたところで、ミモネから危ないと注意され振り向くと恒に向かって、血だらけの右手で払おうとしてきた。

「え? うわ!」

恒は慌てて身を躱すとどういうことなのかと斬ったハズのジェネラル・オークを見ると、ジェネラル・オークの右手からは血が出ているが、首には傷一つない。

「あれ? 確かに首を斬った手応えはあったのに……」

『違うの! あの、ジェネラル・オークは咄嗟に首を右腕で庇ったの! 変にかっこ付けるからなの!』

恒を捕まえようとするジェネラル・オークの右手、恒に当てようと乱暴に振り回す左手の斧を避けながら、ミモネに注意されながら少しずつジェネラル・オークとの間合いを詰めていく。

「なら、今度は邪魔されないようにまずは……左腕だな」

恒はジェネラル・オークが地面に対し水平になぎ払うように近付いてくる左腕に対し、正眼に構える。

『あ! ワタル危ないの!』

ジェネラル・オークの斧が恒に当たると思われた瞬間、恒はその場で跳躍すると、そのまま小夜を振り下ろす。

『プギィ~!』

ジェネラル・オークの悲鳴と共に『ドスン』と音がしたと思ったら、ジェネラル・オークの左手首から先が地面に落ちた。


ジェネラル・オークは右手で左手を押さえながら、恒を睨み付けるが恒にとってはなんの脅威もない。

「じゃあ、今度こそ。その首をもらうよ!」

恒はジェネラル・オークに向かって助走すると大きく跳躍し、ジェネラル・オークの首筋を直接狙いにいく。

ジェネラル・オークもそれを承知してか、手首のない左手、更にその上から右手で首筋を庇う様にする。

「そりゃ、そうするよね。でもね……」

恒はそういうと、小夜を振り上げず、ジェネラル・オークが庇う両手の隙間を目掛けて、そのまま真っ直ぐに首に突き入れる。

『ブモォ……』

斬られた動脈から鮮血が吹き出し、両手で首を押さえたままの状態でジェネラル・オークが地面に倒れる。

「さ、これで大物は仕留めた。後は……」

そう言って、恒は自分を囲っていたオークの集団に向かうと、たやすくその首を撥ねていく。

終わる頃には、辺りには鉄のような血の臭いが立ち込めていた。


『血塗れじゃな……』

「そうだね」

恒は先に討伐したオークをインベントリに収納すると、ジェネラル・オークに近付く。

なんとなく手を合わせると、その亡骸をインベントリへと収納する。


「これで全部かな」

恒は辺りを見回し、回収漏れがないことを確認するとまずは自分に『クリーン』を掛け身綺麗にした後に、小夜にも『クリーン』を掛け鞘へとしまう。


「じゃあ、後は小屋の始末だな。このままじゃ、また誰に使われるか分からないし」

恒はそう一人で呟きながら、小屋を片付ける前に中に捕らわれている人がいないかを一つずつ確認していき、確認が終わった小屋はインベントリへと収納する。


「ふぅ~とりあえず捕まっていた人はいなかったけど……」

そう、確かに小屋の中には捕まった人はいなかった。いなかったが、恒の手には十数枚の冒険者ライセンスカードがあった。

「やっぱり、犠牲者はいたんだね」

『まあ、こればっかりはしょうがないのじゃ』

「そうだね。よし、後は小屋を埋めて燃やせば終わりだ!」


恒は自分を鼓舞するように口に出して言うと、土魔法で深さ一メートル、幅十メートルほどの穴を掘ると、インベントリに収納していたオークの小屋をその穴の中に放り込むと火球を放ち、そのまま燃やす。


やがて、大部分が灰になったことを確認すると、その穴に土を被せて埋めてしまう。

「よし、終わり! 帰ろうか」

『うむ。それはいいのじゃが、人化してもよいじゃろ?』

「え? なんで?」

『なんでって……旦那様は相変わらず分かってくれないのじゃ』

小夜は恒の了解はいらないと、その場で人化すると恒の腕に絡みつく。

「小夜、歩きづらいんだけど?」

『妾は構わないのじゃ。今なら、あの五月蠅い小娘達もいないから旦那様を独り占めなのじゃ!」

「まあ、いいけど……」


街に戻りギルドへ入ると依頼を受け付けてくれたお姉さんと目が合う。

「よかった~まだ行ってなかったのね。で、どうする? あの依頼なら、まだ取り消せるわよ?」

「なんのことです。討伐してきましたけど?」

「え? でも……」

時間はすでに夕暮れ近く。午前中に受けた依頼だけど往復で単純に四時間近く使ったので遅くはなったけどと思いながら、恒はお姉さんに依頼達成の報告はどうすればいいのかを聞く。


「え? ホントに討伐したの? だって、その依頼書に書かれているだけでもオークは百体近くいて集団を形成しているから、ジェネラル・オークもいるはずだと」

「ああ、書いてましたね。それより報告はどんな形で済ませればいいんですか?」

「あ! ホントなのね?」

「ホントです。もう疑うんならギルマス呼んで下さい!」

「わ、分かったから。え~と、依頼書にも書かれてあったと思うけど、オークの場合は食肉としての需要もあるから、そのオーク本体そのものが討伐証明になるの。でも、君は討伐したと言うけれど……オークは持って来てないわよね? そうなると、申し訳ないんだけど討伐達成とは言えないわ。ごめんなさい。最初にちゃんと言っとけばよかったわね」

「あるよ」

「え?」

「だから、オークでしょ。あるよ」

「あるって……でも、どこに? もしかして、街の外とか?」

「あ~もう、面倒だな。これ! 分かる?」

恒は受付のお姉さんにマジックバッグ代わりのバッグを見せるが、小夜が横から口を挟む。

「もし、そこのお嬢さんや。私の旦那様をバカにしているのじゃな。よかろう、なら妾が相手してやるのじゃ……フガッ」

「はい、小夜はややこしくなるから、ちょっと黙ってようね」

恒に口を塞がれ、フガフガ言ってると、いつの間にか現れたギルマスが、お姉さんの後ろに立ち、恒を黙って見ている。

「ワタルよ。討伐したと言うのだな」

ギルマスの言葉に黙って頷く恒に対し、ギルマスも黙って頷くと、ちょっと来いと恒と受付のお姉さんを連れて、ギルドの裏手にある魔物の解体倉庫へと連れて行く。

「ここなら、いいだろう。まずは普通のオークを出してみろ」

「うん、いいよ」

恒はギルマスに返事をすると、見せかけのマジックバッグから取りだしたようにみせて、インベントリからオークの死体を取り出すと、そのまま解体倉庫の床に置く。

「え? 本当にオークなの?」

「ああ、そうか。体だけじゃ分からんか。ワタル、頭はどうした?」

「もちろんあるけど、そいつの頭かどうかはわからないけどいいよね」

そう言って恒はインベントリから一つの頭を取り出し、横に置く。

「間違いなくオークだわ」

「ああ、そうだな。じゃあ、今度はジェネラル・オークだ」

「うん」

恒はジェネラル・オークの巨体を引っ張るように取り出すとそのまま地面に置く。

「え、え~本当にジェネラル・オークをこの子が……」

「だから、言っただろ。おい、これで依頼達成だな。それと、念の為に依頼書の場所に人をやって確認させてくれ」

「分かりました。ギルマス。それと、疑ってすみませんでした!」

受付のお姉さんはギルマスからの用件を承諾すると恒に対し謝罪する。

「ほれ、見たことか! 私の旦那様を見くびりすぎじゃフガッ」

「もう、いいから。小夜は黙ってて。お姉さん、謝罪は受け取ります。でも、今回の依頼を俺が達成したことは内緒でお願いします」

「うん、そうだな。その方がいいか」

「分かりました。では、その様に致します。では、受付へ」

「あ、ちょっと待ってよ。他のオークはどうすればいいの?」

「「他?」」

「そうだよ。だって集落を壊滅させたんだから」

「ワタル、それはどのくらいだ?」

「え、ちょっと待って」

ワタルはインベントリ内のオークの数をギルマスに伝える。

「ちょっと待て! いくらなんでもその数は裁けない。今日はジェネラル・オークもあるし、あと五体だな」

「わかったよ。じゃあ」

恒は五体のオークを地面に並べると、解体倉庫を受付のお姉さんと一緒に出ると受付で依頼達成の処理をしてもらい、依頼達成の金額である金貨十枚を受け取る。ジェネラル・オークと他のオークの買い取りについては査定が終わってっから用意すると言われたので、恒はお礼を言うと小夜と一緒にギルドを後にする。


そんな恒を見送った後、受付のお姉さんは一人呟く。

「久々の若手のホープと思ったら、もうお手付きか~ハァ~」

「あの、すみません」

「はっひゃい、なんでしょ」

マズい、聞かれてないわよねと願いつつ恒からの用件を聞くことにする。

「その、オークの集落で見付けた物です」

そう言って、恒はカウンターの上にオークの集落で見付けた冒険者ライセンスカードを並べる。

「え! こんなに……」

「じゃあ、後はお任せしていいですか?」

「あ、うん。ありがとうね」

「いいえ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る