第38話 派遣要請と、スタンピード

Side:スパロ

 国から役人がきた。


「この領には兵士100人を要請したい」

「ちなみに断ったら」

「反意ありとして受け取られるでしょう」


 要請とは書いてあるけど断れないみたい。

 役人が袖に指を出し入れしてる。

 何かのゼスチャーだと思うけど、なんの意味か分からない。


「ええと何かな?」

「田舎貴族はこれだから。袖の下ですよ。払えば派遣する兵士の数を減らして差し上げましょう」


 腐っているな。


「断る」

「では兵士100人をお願いします」


 役人が帰っていった。


「ナノどうしよう?」

『ゴーレムを派遣したら、良いんじゃないか。任務は何だ?』

「ええと、モンスター氾濫による災害の阻止」

『害獣退治なら任せろ』


 ゴーレム100体を率いてモンスタースタンピードの現場に入った。

 今回氾濫したのはパックウルフ。

 その前にホーンラビットが大繁殖したみたいだけど、害がなかったから放っておいたらしい。

 そうしたら、パックウルフの推定1万頭からなる群れが出来上がったようだ。


 領主の不手際じゃないか。

 兵士の顔はみんな暗い。

 この中に何割かは死ぬからだ。


 俺も城壁の上に立ってみて、眼下を埋め尽くす群れを見た時は縮みあがった。


「ナノ平気だよね?」

『そんなに緊張するなよ。たかが犬っころだろ』


 軍議が開かれる。


「先鋒は、ティトマウス卿にお願いする」


 将軍がそう言葉を発した。

 ティトマウス卿は俺だ。

 俺の所に来た役人が、将軍の横でニタニタと笑っている。


 くそう。


『受けちゃえよ。ゴーレムを前面に出すだけだよ。軽い軽い』


 ナノを信じよう。


「承ります」


 軍議は進んで行く。

 俺はベルベルに宛てた遺書を書き始めた。

 聖女様にも手紙をしたためる。

 何かがあった時はベルベルを守ってほしいと。


 遺書が書き終わる頃には、軍議も終わってた。

 さて行くぞ。

 必中の弓と精霊の加護のある剣を手に、ゴーレムと共に出陣だ。


「道を開けろ。出るぞ。スパロ・ティトマウス参る」


 門が開けられた。

 パックウルフが雪崩の様に飛び込んでくる。


Side:ハイチック8000


 犬っころ如きにみんな大げさだな。

 門が開いてパックウルフがなだれ込んでくる。


【パラライズビーム。見よ。我が軍は圧倒的だ】


 パックウルフはみんな痺れた。

 おや、火を吐いて来る個体がいる。


 魔力を使っているのだな。

 だが、シリコン合金で出来たゴーレムには通用しない。


【パラライズビーム。どんなもんよ】


『スパロ、どんどん矢を撃って止めを刺せ』

「分かった」


 スパロの弓は引かなくても連射できる。

 矢が勝手に飛んで行くのだ。

 矢はそばにいるゴーレムが補充する。


 1千はやっただろうか。

 死骸が邪魔だな。


【精霊の畑、出張版作成】


 ゴーレムが死骸を畑と言う名のナノマシン集合体に放り込む。

 死骸は分解され資源になった。


 何か作っちゃおうかな。

 畑から植物が生え、杖の実をつける。

 魔石があると魔道具が作れる。

 柄は骨から出来ている。


 後は食い物が良いだろうな。

 タンパク質を消費するにはそれが良い。


 畑から肉の実や、パンの実が出来る。

 ゴレームが収穫作業をやる。

 そして見ている見物人に配った。


『スパロ、お布施を頼んでくれ』

「皆さん、精霊に感謝を。金属とか石とかを精霊の畑に投げ込んで下さい。銅貨とかも喜びます」


 見物人が精霊の畑に色々な金属を投げ込む。

 穴の開いた鍋だって、俺にとっては資源だ。


 魔道具を見物人が受け取って、攻撃を始めた。

 パックウルフの死骸も続々と放り込まれる。


 門の周りは精霊の畑になった。

 討伐数が2千を超えた辺りで、将軍が焦ったらしい。


「ええい、総攻撃だ」


 露払いよろしく、パラライズビームを撃ちながら、俺はゴーレム達を前進させた。

 軍は止めを刺す作業員となった。

 死骸を精霊の畑に放り込んでくれるのはありがたい。


 ほどなくしてスタンピードは治まった。


「ナノ、ありがと」

『感謝する事もないよ。資源集まったし』


【精霊の畑、多脚戦車バージョン】


「化け物だ!」


【ちょっと不味かったか。じゃあ天使バーション】


 多脚戦車が羽の生えた天使になった。

 顔の形はイユンティちゃんだ。

 後光と光の輪も忘れない。


「ありがたや」


 拝む人続出。

 タンパク質と糖質と脂肪は要らないから、放出しちまおう。


【干し肉と飴玉の雨】


 天使の背中から植物が生え、干し肉と飴玉が実った。

 スパロが美味しいよと言って収穫すると、人がわっと群がった。


 こんなんで良いのかな。

 さあ、帰ろう。

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