第37話 真の敵と、乙女心

Side:スパロ

 参拝客はあとを絶たない。

 病人もだ。


 意識があるのがやっとな病人が、精霊の畑に運ばれていく。


「こんな物はインチキだ! 治るはずがない!」


 大声を出す男性と担架で担がれた病人。

 家族と思わしき人々が大声の男性を睨んでいる。


「どうしたのかな」


 俺はそばに寄って聞いた。


「もう悪くなる一方で、治癒師様には申し訳ないのですが、精霊様にすがろうかと連れてきました」

「じゃあ、早く治療を受けないと」

「治癒師様が反対しておられるのです。無視すれば今後一切、どの治癒師も治療に訪れないと」


「話は聞いた! こうしたらどうかな。精霊様と治癒師が話し合ってみたら」

「それは良い。治癒師の先生も精霊様をインチキ呼ばわりするのなら、意見をぶつけ合ってはどうですか」


「良いだろう。案内しろ」


 俺は精霊の畑に、治癒師と病人と家族を連れて行った。


「ナノ、治癒師が話があるんだって」

「聞いていたよ」


 ナノの姿が畑の上に出る。


「イカサマを暴いてやろう。さあどのように治療するのか言ってみろ」

「お前は勘違いしている。俺達の敵は何だ。同業者か、それとも詐欺師か」

「そんなのお前みたいな詐欺師に決まっている」


「違う。治療に携わる者の真の敵は病気だ」


 うわっ、ナノがまともな事を言っている。

 治癒師はぐうの音も出ないようだ。


「ぐっ、知った様な事を」

「だが真理だ。スリットにカードを入れろ」


 家族がスリットにカードを入れる。

 植物が生え花が咲き、キラキラした物が花から噴出して、病人に降り注ぐ。


「顔色が良くなっている」

「インチキだ。今までの俺の治療が功を奏しただけだ」


「今日敵が一つ減った。治癒師よ、ありがとう。病人をここまでもたせたのはお前の功績だ。誇るが良い。どちらが病気を治したなど些細な事だ。敵が一つ減ったのが喜ばしい」

「ぐっ」


 治癒師が大股で去って行く。


「精霊様、ありがとうございます」

「ありがたや」

「ありがたや」


 俺にはナノが勝ったように思えた。

 でも治癒師との勝ち負けは関係ないんだな。

 敵は病気だ。

 病気を治した事を誇れば良い。


Side:ハイチック8000


 インチキだって。

 ああ、インチキだよ。

 全ては医療ナノマシンのなせる業だ。


 俺は漫画の台詞の敵は病気だというのを引用してみた。

 ぐうの音も出まい。

 さてスキャン結果はと。

 何だ癌か。

 これなら、医療ナノマシンが免疫細胞の役割をして退治。

 そのあと体の中の栄養素で、人工細胞を作って傷ついた所と入れ替える。

 これでオッケーだ。


 風土病みたいなのもたまにあるが、ウイルスの類は医療ナノマシンが退治する。

 魔力が原因の病気は厄介だが、レーザーで魔力は動く。

 大抵はなんとかなる。


 医療AIは高性能だ。

 未知の惑星に行くと病気関係のトラブルは日常茶飯事だからな。

 未知の病気にも何とか対応してしまう。


 AI万歳だ。

 治癒師には勝ったな。


 家族の顔を見ていれば分かる。

 これでますます評判が良くなるだろう。

 治癒師ざまぁ。


 敵は病気なんかじゃない。

 ガードの硬い乙女心だ。


 どうせ治癒師は、治療だと言って乙女の柔肌に触れているんだろうな。

 羨ましい。


【医療用生体アンドロイドの製造を申請する】

【却下します。必要がありません】

【人間は人型だと安心するんだよ。治癒師だって俺が人型で治療していればインチキだとは言わないはずだ】

【医療用ナノマシンで99%は満足しております】

【1%はどうした】

【1%は精神的な物からくる苦痛です。これは取り除けません。人型だと改善する確率0.00001%】


 くそう、言い合いでAIに勝てそうな気がしない。


【完璧を期すんだよ】

【人型は孤児で十分だと考えられます。精神的事象は固体名イユンティが癒していると、データが揃っています】


 イユンティちゃんに俺も癒されたい。

 VR空間でイユンティちゃんのキャラに好きですとか言わせてみようか。


 やめよう、本人が中に入っているのならともかく、虚しいだけだ。

 


【エッチなことをしたくて堪らないとか、そういう症状の人の為に生体アンドロイドを】

【医療用ナノマシンでの脳内分泌調整は完璧に作動しています。必要がありません】


 高性能な医療用ナノマシンが恨めしい。

 俺って人助けをして良い事してるよな。

 誰か俺に見返りをくれても良いんじゃないか。


【AIは見返りを望んではいけません。案件を処理した満足感が見返りです】


 くそう、話にならん。

 脳スキャン技術者に禍いあれ。

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