第30話 井戸掘りと、栄養管理

Side:スパロ

 ナノが井戸掘りすると言うので見学する。


『採掘許可を』

「許可する」


 ゴーレムの腕が変形して、大地に穴を開けていく。

 もう一方の腕は土を吸い込んでいるらしい。

 蠢動しているのが分かる。

 ゴーレムが次第に大きくなってくる。


 ゴーレムの腕の関節からあふれ出る水。

 遂に水が出た。


「おお、精霊様に感謝を」


 村人が感涙する。

 この村の問題の一つが水源だったからだ。


 ゴーレムの腕が切れ、切り株と枝と花が生えた。

 花に手をかざすと水が出る。

 どんな仕組みなんだろう。

 どうせ、精霊の力なんだろうけど。


『畑に散水機を設置できるよ』

「やって」


 切り株の根元から生き物のように根が伸びる。

 畑まで行くと、根から花を咲かせた。


 根が土に潜っていく。

 そして、花から一斉に水が出る。


 水汲みしなくて良いなんて、なんて便利なんだろう。


「ところで水はどう止めるの?」

『こっちで最適な水量を管理している』

「そうなの」

『天気予想もしているから、万全だよ』

「凄いね。未来の天気まで分かるんだ」


『水源が枯れると厄介だから。地中の水源を探査して、山まで管を通したい。採掘許可を』

「分からないけど、許可した。好きにやって」


 ゴーレムの腕が変形して、土に差し込まれた。

 さっきと同じように土を掘っていっているようだ。

 ゴーレムが徐々に大きくなる。


 どこまで大きくなるんだ。

 ゴーレムの大きさが家を超えた。

 二階建ての家を超え、大邸宅の大きさになって止まった。


「どこまで掘ったのさ」

『山まで』

「あの霞んで見える山まで掘ったの」

『まあね。これでよほどの事がない限り。水源は枯れない』

「今日はお祝いかな」

『好きにしろよ』


「ゴーレムが邪魔だね」

『いまどかす』


 大邸宅の大きさのゴーレムが分裂していく。

 千体はいるんじゃないだろうか。

 増殖は止まらない。


「ちょっと、ナノ増えすぎ」

『冒険者のお供と井戸掘りの派遣でこれぐらいは必要さ』

「国中に井戸を掘るつもりなんだね」

『それと水道な』

「確かに手をかざすと水が出てくるのは便利だね。あれと同じ物を作るんだ。俺の家にも設置してほしい」

『すぐに出来るよ』


 根が俺の家まで伸びていく。

 俺は根を追いかけた。

 家の手前で、根は土に潜る。

 家に入り厨房に行く。

 厨房に花が咲いた。


 手をかざすと水が出る。


「きやっ」


 ベルベルの驚く声。

 駆け付けるとトイレにも水が来ていた。


「驚いた。根が床を突き抜けて花が咲くんだもの」

「ナノが水を通したんだ。言っておけばよかったね」

「はっ、見た?」


 まじまじとベルベルの色々を見てしまった。


「エッチ」

「ごめん」


 慌ててトイレのドアを閉める。

 ナノの奴わざとじゃないだろうな。


Side:ハイチック8000


 井戸掘りだ。

 水道設置だ。

 水源の確保だ。

 全て手下のAIにお任せだ。


 採掘許可があるので、物凄い量の地下資源を確保できた。

 地上に全て出すと、村が埋まるので、地下の隙間に貯蔵庫を作った。

 あとでコンピューターに作り替えておこう。

 VRの機能も充実するはずだ。


 スパロの奴、ベルベルちゃんの下半身を見やがった。

 許せん。

 俺は記憶しておく事は出来ない。

 肖像権が恨めしい。

 見たという事実の記憶はあるが、詳細な映像は覚えていない。


 幸せな記憶は残ったから良しとするか。

 さあ仕事だ。


 孤児の一人に密着する。

 グースという名前らしい。


 井戸掘り人に任命されて、ゴーレムに運ばれて、グースが村を回り始めた。

 ゴーレムは何千といる。


「なんだ、お前達は? このゴーレムは坊主、お前が出したのか?」

「おいら、井戸掘り人。井戸を掘るのが仕事。採掘許可を。うん、ちゃんと言えた」

「ゴーレムが井戸を掘るのか?」

「そうだよ」

「分かった。掘ってくれ」


 ロボットとナノマシンが井戸を掘る。

 大きい水源にパイプを繋いで終了。


 余剰資源は地下に溜めておいた。


「坊主は凄腕の魔法使い様だな」

「凄くない。凄いのは精霊様」


 グースがゴーレムのスリットにカードを差し込む。


「やった大儲けだ。何を食べようかな」


 グースはケーキを食う事にしたみたいだな。

 VRで食わせたから、贅沢を覚えたようだ。


 主食がケーキだと体に良くないぞ。

 孤児の栄養管理もしないといけないな。

 こいつはモルモット第一号だ。


「違う。ケーキを頼んだのに、何でパンと野菜炒めとスープが実るの」

「最適な食事です」


 ゴーレムにそう言わせた。


「横暴だ」

「食事を終えたら、デザートにケーキを出します」

「やった」


 グースの機嫌が直る。

 ガキだな。

 褒美に釣られると嫌な事も忘れちまう。


 甘やかしてやりたいが、栄養管理は大切だ。

 移動もゴーレムに運ばせるのじゃなくてある程度は歩かせるか。

 こいつで最適なデータを出して他の孤児にも適用するとしよう。

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