第25話 理想と、人間として

Side:スパロ

 精霊の世界の食べ物は美味しい。

 ハンバーグという肉料理や、パン、パフェ、ワインも。

 この世界をお手本にやらないといけないのだな。

 街を見ていて思った。

 ゴミが落ちていない。

 嫌な臭いもしない。


 天国だと思う反面、何となく人が住む世界ではないなと思った。

 この世界はある意味で理想だけど。

 そうだ、絵に描いた理想なんだ。

 何となくそう思う。


 続いて行った服屋と宝石店も何となくそう考えるとどこか虚しい。

 綺麗な絵を見て確かに心は和む。

 でもそれだけじゃ生活は出来ない。

 生きていかないといけないんだ。


「スパロが好きそうな催し物を用意した」


 興味なさそうな俺を気遣ってくれたのか、ナノがそう言った。


「見せてくれるかな」


 俺達は建物に入った。

 中は白い空間だ。


 ナノが手を振ると景色が荒野に切り替わった。

 俺の目の前に剣がずらっと並ぶ。


「好きなのを手に取れよ」


 俺は言われた通り剣を手に取った。

 ナノが手を振ると、ゴブリンが現れた。


「きゃあ、モンスターよ」

「ナノ様、私に杖をお貸し下さいませ」

「慌てなくていいよ。ここは訓練する所なんだ。遊びと言ってもいい」


「こういう場所があるという事は、人間の業は深いのですね。満たされた暮らしでも戦いを求める」

「まあそうかもね。スパロ、戦ってみろよ」


「ああ、訓練なら、やる」


 俺はゴブリンに近寄った。

 ナノが手を振るとゴブリンが動き出す。

 俺は剣を打ち込む。

 ゴブリンが手に持った棍棒で受け止めた。

 そして、蹴りを放ってくる。


 俺はまともに食らってしまった。

 剣が手から離れる。

 ゴブリンは棍棒で俺を滅多打ちにした。


 そして、急に痛みが無くなって、元の位置に立ってた。


「負けたんだな」

「そうだ。スパロの負けだ。だが、ここでは死なない」

「好きなだけ訓練が出来るんだな」

「まあそうだ」


「戦っても死なない世界。素晴らしいですわ」


 そうだろうか。

 本当に素晴らしいのか。

 生きていないような気がする。

 なんというか、本当の人生ではないような。


 この世界は色々と考えさせられる。


Side:ハイチック8000


 服屋に行った。

 みんな好きな服に着替える。

 VR上なので着替えも一瞬だ。

 ちぇ、着替えを見れたらな。


 宝石店に入った。


「私はこういう場所は好きではありません。贅沢は罪です」

「そう言わずに。持ち出せないんだから」


「私これほしい」

「いいよ、好きなだけ持っていって」

「ほんと」

「私はこれ」


 女の子達が宝石に群がる。

 ベルベルちゃんとイユンティちゃんはあまり気が進まないようだ。


 村の女の子は好感度アップだけど、この二人は下がったってわけか。

 まあ、ありがちだな。


「俺と良い事するなら、もっと凄いのをあげるよ」


 女の子の一人にそう囁いてみた。


「持ち出せないって言ってたよね。じゃ、駄目ね」


 くそう、駄目か。

 騙されたりはしてくれない。

 それというのもスパロが的確にアシストしないからだ。


 そうだ、戦闘を見せてやろう。

 きっとスパロの株が下がるぞ。


 戦闘訓練の部屋に連れていった。

 スパロとゴブリンの戦闘が始まる。

 予想通り、スパロは負けた。


「恰好良い」

「うんうん、村の男じゃこうならないわよね」

「そうね。素敵」


 えっ、株が上がるの。

 何で?


「負けたじゃないか」

「立ち向かう勇気が凄いのよ」

「そうそう、村の男じゃ一歩も村から出られないわ。ゴブリンと戦う勇気なんてない」

「それに実戦ではウィルダネスウルフだって仕留めているわ」


 スパロは信用があるのか。

 信頼と実績は大事。

 知ってた。

 脳スキャン受けた時の俺はクズだった。

 信用なんてこれぽっちもない。


 ここに来てもそれは変わらない。

 人間として何も出来ないスパロに俺は負けたのか。

 打ちのめされた気分だ。


 俺は何でも出来るけど、何にも出来ない。

 何も成し遂げてはいない。


「ナノ、どうしたの」

「俺って駄目な奴だな」

「どこが? ナノは凄いよ。色んな事が出来て」


 それは俺が凄いんじゃなくて付属してるAIとナノマシンが凄いんだ。

 こんな俺でも変われるかな。

 村を発展させたら変われるのかな。


「俺、村を発展させて人の役に立ってみせるよ」

「急にどうしたんだ」


「一緒に村を発展させよう」

「そうだね。理想の世界を実現するぞ」


 何となく頑張れるような気がする。

 もちろんエロは諦めてない。

 だけど、人間性で好きになって貰うんだ。

 頑張ろう。

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