第24話 精霊の世界と、接待

Side:スパロ

 精霊の畑の前に未婚の女達が3人集められた。

 成人男性の姿が現れた。


 初めて見るナノの姿だ。

 顔が平たいな。

 お世辞にも整っているとは言い難い。

 それどころか、不細工と言われても仕方ない。

 ゴブリンほどじゃないけど酷い。


「俺の恋人になってくれ」


 そう言えば、ナノは声も出せたんだな。

 だけど、声は畑から出ているようだ。


「不細工なのはちょっと」

『ガーン』


「短足はね」

『くそう』


「私なっても良い。精霊様は金持ちだから」

『くっ、金目当てかよ』


「ナノ、諦めた方が良いよ」

『いやまだだ』


「精霊の世界で食べ放題をつける。美味しいぞ。天国の味だ。宝石だってある。精霊の世界からは持ち出せないが、好きなだけ持って行って良い」


 ナノ必死だな。

 まあ、あの容姿だったら、必死なのも頷ける。


「やります。美味しい物大好き。お金大好き」

「ちょっといいかも」

「みんながやるなら」


「じゃあ、お試しって事で、畑に寝て」


 3人が畑に寝ると土が盛り上がり、包み込んだ。


『ベルベルちゃんとイユンティちゃんも呼んで来てよ』

「ああ、呼んで来る」


 二人が到着した。


「聖女様、ナノが精霊の世界に招待してくれるようです」

「それは興味がありますね。ぜひ」

「凄く行ってみたい。どんな所なんだろう。わくわくする」

「畑に寝ると行けるらしい」


 二人が畑に寝ると、土が包み込んだ。

 包み込んだ土の顔の部分は透明なガラスで出来ている。

 そこから見えるみんなの顔は安らかだ。


「俺も行ってみたい」

『じゃ特別だ』


 俺も畑に寝ると、眠くなって、意識が暗転した。

 意識が戻って見えたのは街の風景だ。

 先に行ったみんなも街に立って、興味深げに観察していた。


 ナノが俺に握手を求めて来た。

 恐る恐る触ると、確かな感触がある。

 精霊の世界だとナノに触れるんだな。


「よろしく」

「ああ、よろしく」


 何がよろしくなんだろう。

 ナノとは初対面じゃないのに。

 きっと、引率よろしくって事だよな。


 聖女様はともかく、ベルベルと村の女の子は見張っておこう。


Side:ハイチック8000


 やった、VR空間に女の子が来る。

 スパロは余分だったが、アシストしてくれるよな。

 俺の考えが分からないって事はないだろう。


 スパロに握手を求めたら、納得してくれたらしい。

 今日中にエッチまでこぎつけるんだ。


「みんな、レストランに行くよ」

「やった、楽しみ」

「精霊の世界では食べる必要はなかったのでは?」


「食べなくても飢えないよ。でも楽しみは必要だ」

「そうなのですか。天国ですね」


「みんな、いくら食べても太らないから、気にしないで食べるといい」


 みんなをレストランに連れて行く。

 店員は、データだけのベルベルちゃんとイユンティちゃんだ。

 店の奥から、料理を運んできた。


 ジュウジュウと音を立ててソースが蒸発する。

 デミグラスソースのハンバーグだ。

 当たり障りのない物からにしてみた。


「じゃあ頂きます」

「その手を合わせるのは何ですか?」


「食べる前の作法。食材と作ってくれた人に感謝の祈りを奉げるんだ」

「精霊様の世界の作法ですね。頂きます」

「「「「「頂きます」」」」」


「召し上がれ」


 村の女達は手づかみでハンバーグを食べている。

 汚い食い方だな。

 一定以上の痛覚を切っておいて良かった。

 そうでなければ火傷するところだった。


 ベルベルちゃんとイユンティちゃんはナイフとフォークを上手く使っている。

 スパロは知らん、勝手にやっとけ。


 スパロが村の女達にフォークとナイフの使い方を教え始めた。

 密着しやがって。

 待てよ、お手本を見せてくれたのか。


 俺もやるぞ。


「マドモアゼル、食器の使い方をお教えしましょう」

「いい、領主様に教わるから」


 えっ、スパロの奴。

 これはあれか。

 合コンに当て馬を用意したら、当て馬にみんな持ってかれたという奴か。


 スパロ、お前にはベルベルちゃんがいるだろう。

 貴族だからってハーレム目指しているのか。

 くそう。

 許せん。


「ベルベルちゃん、スパロが村の女の子といちゃいちゃしてるぞ」


 チクってやった。


「親切に教えているだけだよ。変なナノ」


 くそう効果なしか。

 味方はいないのか。


「イユンティちゃん、味はどう?」

「美味しいです。今まで食べた料理はゴミだと言えます」


「複数の妻を持つのをどう考える?」

「いけませんね。伴侶には誠実にあるべきです」

「だよね」

「そうです。3人の恋人候補を持つなど誠実ではありません。精霊様も悔い改めて下さい」


 くそう、ブーメランだ。

 イユンティちゃんは教義にどっぷり浸かっている。

 味方はいなさそうだな。

 孤軍奮闘だが、諦めないぞ。


 こういう時のマニュアルは。


【花は散るから美しいのです。美しく散りましょう】


 玉砕前提かよ。

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