第15話 近隣の村人と、来ない女

Side:スパロ

 村へ帰ってきた。

 精霊の噂を聞きつけて近隣の村から、村人が沢山来ている。

 どの村人も痩せこけている。

 この村だけが飢餓というわけではなかったんだな。


 ただ、他の村は備蓄があったのだろう。


「精霊様、どうか俺達の村を豊作にして下さい」

「病気の我が子が治りますように」


『スパロ、この精霊への祈りは石を畑に投げる事だ。鉱石だとなお良いぞ。水も掛けてくれ』

「みんな、精霊様が言うには祈りを奉げて、畑に石を投げ込むんだって。鉱石だとなお良い。水を掛けるのも良いらしい」


 石は村の外を少し探せばすぐに見つかる。

 みんな石を持って来て祈りを奉げた。

 石が畑に飲み込まれていく。


「おお、精霊様が石を受け取って下さった」

「どんどん投げ込もう」

「水もお飲み下され」


 井戸の水はよそ者が勝手に使えない。

 水筒の水を畑に撒く。


『大盤振る舞いだ』


 畑から植物が生え、花を咲かせ、キラキラとした粉上の実が吹き上げられ、参拝客に降り掛かる。

 粉は人に当たると溶けたように見えなくなった。


「精霊様の祝福だ」

「ありがたやありがたや」


「痛い足が治った」

「そう言えば体調が良い」

「見えないはずの片目が見えるぞ」


「奇跡だ」

「精霊様、万歳」


 参拝客はみんな喜んで、ひれ伏している。


「くそっ、なんて硬い土なんだ」


 参拝客の一人が畑の土を取ろうして失敗したらしい。


『踊り子には手を触れないようにお願いします』


 踊り子だって、場末の酒場なんか行った事がないのに。

 よくナノは知っているな。

 俺だって話に聞いただけなのに。


「畑には触らないようにだって」


「そうだ。精霊様の仮の体を盗ろうとは、何て罰当たりだ」

「畳んでしまえ」

「ふくろ叩きだ」


「まあまあ、次から気をつけてくれたらいいから」


 信仰心があるのは良いけど、領主として人殺しは許可出来ない。


 ゴーレムが大小様々な金属の箱を腹から出して、畑に乗せる。

 箱は飲み込まれ、すぐに見えなくなった。


 俺は名剣を畑に植えた。


 植物が生え、名剣の実が生る。


「おお、奇跡だ」

「凄い。これが精霊様のお力か」


 名剣を収穫した。

 また街に売りに行かないと。


Side:ハイチック8000


 うひょひょ。

 何も知らない奴らが、資源を恵んでくれる。

 それにしても健康状態が悪い奴らだな。


 ナノマシンを体に入れて治してやろう。


【警告、技術漏洩の恐れあり】

【あー、難民を支援する法律とかないのか】

【難民支援法があります。食料支援や医療行為は許されます】

【それを適用な】


 まったく、堅いんだから。

 それにしても、女が居ないな。

 ゼロだ。


 精霊を崇める若い美人の女はいないのか。


【女がいないのは何でだと思う?】

【野生動物の脅威の為だと思われます】


 くそっ、そんな落ちかよ。

 まあ、銀河連邦の治安の悪い星では、女の一人歩きはしない方が良いって所もある。


 女を護衛して連れて来いよ。

 男だろ。

 女を守ってなんぼだろ。


 色々な場所に旅行に連れて行き、気を引いたりしないのか。

 くそう、上手くいかない。

 マニュアルよカモン。


【女連れで旅行したいのかい。そんな奴はブラックホールに飲み込まれてしまえ】

【ちなみに人が乗っている宇宙船でも異性同士のクルーは有り得ません。繁殖行動に走るからです。避妊は100%ではないですから】


 宇宙船のクルーよ、ざまあみろ。

 もっとも、冷凍睡眠で寝てる時間が長いから、異性が欲しいとは考えないか。


 気を取り直してと。

 俺は口コミ評判を増やすための努力は怠らない。

 参拝客の体に入れた医療用ナノマシンは一次感染ありにしておいた。


 増殖は無しだから、3人ぐらいにナノマシンを移すと打ち止めだろう。

 家族に病気の人がいても助かるはずだ。


 これで口コミが増えるはず。


 名剣は鋼で出来ていた。

 これで名剣は笑っちゃうよな。

 宇宙船の外装に使う合金とまではいかないが、銀河連邦の椅子の素材ぐらいにはならないものか。

 ステンレスがあるのか怪しいんだよな。


 アルミはないみたいだし。

 チタンもないみたいだ。


 チタン合金の剣を作れば一攫千金いっかくせんきんなんだよな。

 おおそうだ。

 杖と魔道具とポーションを作るのを忘れてた。


 疑似植物を生やして、それらを実らせる。


 歓声が上がった。


『使えるか。参拝客に試させてよ』

「みなさん、精霊様からのお土産です」


「これはポーション」

「魔法杖ではないか」

「こっちは魔道具か」


 魔法を使ったり、魔道具を使ったりしている。

 おお、やっぱり生物が入出力の機械の役目をしてるんだな。


【人体の内部構造のスキャンはしたよな。医療用ナノマシンだから】

【データは提供出来ません】


【未知の粒子をエネルギーに変化させている。原因を知りたいだけなんだけど】

【原因不明です】


 ちっ、使えない奴。

 まあ良いや。

 人型にもなれないし、冒険する歳でもないしな。


 VRゲームに武器として杖と魔道具の要素を追加しておこう。

 これでスパロのスペックでも野生動物に負けないぞ。

 がぜん面白くなった。

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