第16話 畑泥棒と、多脚戦車

Side:スパロ

 やられた。

 夜のうちにナノの畑をごっそりと持っていかれた。

 土の一部を取ろうとしても、硬くて無理だから、たぶん魔法で持ち上げたのだろう。

 こんな事が出来るのは、フィンチイとゲールに違いない。


 俺はどうしたら良いんだ。


「ナノ、返事してくれ」

『はいよ』


「やった、答えがあった。今どこに?」

『街道を歩いているところ。昼頃には着くだろう』

「じゃあ、話は着いてから」


 俺は村の入口でナノを待った。

 カサカサという音が聞こえそうな姿でナノが現れた。

 ドラゴン並みの大きさの虫だ。


「あれはナノだよね」

『多脚戦車は悪路でも走行が可能なんだ。恰好は悪いがな。キャタピラの方がロマンがあると思う。ホバーもロマンだが、空中を飛ぶのは邪道だな』


 ナノがわけ分からない事を喋っている。

 とにかく無事で良かった。


 虫形態のナノは穴が開いている畑に納まると土に姿を変えた。

 土が畑からはみ出る。

 何か成長した?


「太ったね。それよりも状況を説明して」

『夜中にフィンチイとゲールがやってきて、俺を魔法で連れていった』

「戻って来れるなら。連れていかれる時に合図してくれたらいいのに」

『ちょっと面白かったから』

「心配したんだよ」

『悪い悪い』


 良かった。

 戻ってくれて。


 ナノの畑一面に植物が生える。

 そして、杖や魔道具やポーションや名剣が実った。


 これを売ったら、借金が返せるぞ。


『ダイエット完了』


 事情を知らない参拝客が詰めかけて来た。

 守ったり、参拝客を捌く兵士が必要だな。


「ゴーレムを増産は出来ないの?」

『何で?』

「何でって、ナノを守る為」

『要らないよ』


 ナノのあっけらかんとした答え。

 精霊に何か出来る人間なんかいないか。


「今度から、何かあったら、連絡してよ」

『嫌だ。昨日のあれは美味しかったな。ああいうボーナスタイムは見逃せない』


 精霊は気まぐれだ。

 人間の心配事は人間がなんとかしないといけないんだな。

 とりあえず、街で収穫物を売ったら、警備の冒険者を雇おう。


Side:ハイチック8000


 夜中、現地住人がきた。


「<睡眠>。眠ったはずです」

「精霊も眠るのか?」


 この声はフィンチイだな。

 ナノマシンを眠らせる事が出来ると思っているらしい。

 ご苦労な事だ。


「はい、アンデッドさえ眠ります」

「よし、手筈通りやれ」

「<浮遊>。重い」

「手伝ってやれ」

「<浮遊>」

「<浮遊>」

「<浮遊>。持ち上がったぞ」


 おお、俺を持ち上げたぞ。

 ちょっとわくわくしてきたな。


「撤収だ」


 魔法もなかなかやるな。

 何トンもの物を運ぶとは。


 こいつらをどうにかするのは容易い。

 パラライズレーザーの照射でなんとかなる。

 でも面白そうなんだよな。

 しばらく様子を見よう。


 街道を運ばれ、ある村に降ろされた。


「フィンチイ、よくやった。それで、どうやったら精霊の畑は作物が実るんだ」


 この声はゲール。


「へい、あっしが見たところだと、石を投げ込んで、水を掛けてました。剣を植えたら、剣が生りましたぜ」

「ほう。よし、石を投げ込め」


 くれるものなら何でも貰うよ。


【お布施の範疇だよね】

【適用内です】


 石が次々に投げ込まれる。

 うひょう、儲け儲け。


 鉱石が無いのが不満だな。

 名剣、魔道具、杖、弓、盾、色々な武器が置かれたので、取り込んでやった。


「生らないな。足りないのか。おいもっとだ」


 うひょう、こういう美味しいイベントはこれからも欲しいな。

 石の投げ込みが終わった。

 そろそろ、おいとまする時間か。


 俺は体を多脚戦車に変えた。


「うひっ、怪物」

「眠らせろ」


「<睡眠>。駄目です効きません」

「ええい、殺しても構わん」


「<大火球>。やったか」


 エネルギーごちそうさん。


「くそう。何をしてる。早く殺せ」


【正当防衛発動。エネルギーを少し返してやる。ブラスター照射】


「うわぁ、私の髪の毛が」

「ゲール様をお助けするんだ」


 ゲールの髪の毛は燃え上がった。


【過剰防衛の疑いあり】

【毛が怪我をしただけだ。あんなの再生槽に入れば治る】

【認めます】


 踏みつぶさないように撤収と。

 色々とごちそう様。

 また呼んでくれ。


 追いかけてくる奴はいないようだ。

 もっとも馬の速度じゃ、振り切ってやるがな。


 無事、元居た村に帰った。

 スパロとの会話の後。


 だいぶ資源が溜まったな。

 少し放出してやるか。


 これで、スパロの借金もなくなるだろう。

 スパロ死ななくて良かったな。

 しかし、女っ気なんでこうもないのか。


 女をスキャンをさせてくれたらお礼の一つ二つするのに。

 ああ、報酬は駄目なんだっけ。


 女を集める方法。

 マニュアルは?


【金です。全ては金です。一生懸命働きましょう。労働する男は美しい】


 24時間働いているって、これ以上どうすれば良いってんだ。

 教えてくれよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る