第12話 鍛冶ギルドと、願い

Side:スパロ

 剣を売りに、街の鍛冶屋まで行った。

 希少金属を売ってもらったあの鍛冶屋だ。


「剣を買い取ってもらいたいんだけど」

「うちは武器屋じゃないんだが、まあ良いだろ。見せてみな」


 剣を作業台に積み上げた。


「あー、何だ。うん、こりゃあ。凄いんだが、才能の無駄遣いだな。お前の所の鍛冶屋は偏屈らしい」


 鍛冶屋が剣を見て言った。


「ええと、どういう事?」

「刃こぼれも、傷も、何もかも、全て同じに出来てやがる。剣は中古品の安物だから、1振り銀貨30枚ぐらいの値段だな。だが、この技術はなんというか。凄すぎて言葉が出ない」


 ナノの奴、凄いんだか、凄くないんだか。

 ここのおっちゃんは良さそうな人だから、売るべきだろうね。


「買い取ってよ」

「26本も買い取れない。いいとこ3本だな」

「それで良いよ」

「はいよ、銀貨90枚だ。これが名剣だったらな。今日ほど才能の無駄遣いってを感じた時はないな」


 名剣を買って帰ったら、凄く儲かるんじゃないだろうか。

 あー、駄目だ。

 材料がない。


 あれ以上の石を集めるのは苦労する。

 鉱石を買っていくべきだな。


「この金で買えるだけの鉱石が欲しい」

「うちは鍛冶屋だ。鉱石を仕入れるなら、鍛冶ギルドに行きな」

「俺でも登録できるの?」

「ああ、試験なんかはない。その代わり特典もないがな」


「色々とありがと」

「おう、今日は良い物を見せてもらった。上には上がいる。それが分かったよ」


 鍛冶屋を出て、馬車で鍛冶ギルドに行く。

 途中、女冒険者とすれ違った。


「あんた、武器屋かい?」


 声を掛けられた。

 馬車を停止させる。


「違うけど」

「その剣はどうするんだい?」

「売りに行くところだよ」

「一振り、あたいに売ってくれないか」

「安物の中古品だよ」

「構わないさ。そういうのが欲しかったんだ」

「1本、銀貨30枚だよ」

「安いね。訳ありかい」


「そんなところ。お姉さんはまた何で声を掛けたの?」

「依頼をしくじってしまってさ。剣を折ってしまったんだよ。違約金は取られるし、踏んだり蹴ったりさ」

「それで安物を」

「ああ、安物でもないよりはましさ」


『スキャンしたい。可能かどうか聞いてくれ』

「ええとスキャンしたいんだってさ」

「スキャンが何か分からないけど依頼ならね」


『依頼じゃ駄目だ。ええと立っているだけで良いから。精霊助けだと思って』

「ただじゃないと駄目なんだって。スキャンは採寸の事で、立っているだけで良いらしいよ」

「うんにゃ駄目だね。金を貰わなきゃ」


 ゴーレムの腹が開いて、白銀のアクセサリーが現れた。


『プレゼントだと言って』

「俺からじゃないけど、プレゼントだって。ベルベル睨まなくて良いから。ナノがそう言っているんだ」

「あたいにかい?」

「そうみたい」


 アクセサリーを手に取った女冒険者が驚いてまん丸の目になった。


「なんて軽い金属だい。これは相当の値打ちもんだよ。くれるのかい。スキャンでも何でもやっとくれ」

『あー、そんなぁ。プレゼントも報酬も変わらないって。くそう、ありがとうと言っておいて。ただでスキャンしてくれる気になったらいつでも言って』


「駄目だったみたい。ありがとうだって。ただでスキャンしてくれる気になったら、いつでもだって」

「あたいはタルダだよ。依頼なら冒険者ギルドに伝言を寄越しとくれ」

「俺はスパロ。こっちはベルベル」


 ナノの奴、剣以外のお宝も出せるんじゃないか。

 後で作らせるとしよう。


Side:ハイチック8000


 女冒険者と出会った。

 顔はいまいちだが体つきは合格だ。

 引き締まったウエスト。

 たぶん、腹筋は割れているんだろ。

 胸は筋肉でかさ上げされているのか、でかい。

 これはこれで美しい。

 スキャンしたい。


 報酬は駄目だ。

 プレゼントはどうか。


 俺はアルミの髪留めを作って出した。


【贈与も報酬だとみなされます。スキャンできません】

【何だってー】


 くそう。

 ただでスキャンさせてくれる女性はいないのか。


【アルミの髪留めは、技術漏洩の可能性があります。以後の放出は禁止します】

【アルミさえ存在しないのかよ。遅れてるのにも程がある】


 どうやったら、ただでスキャンできる。

 やっぱり信者だな。

 精霊を崇めている人間に頼もう。

 それしかない。


 いつになったら願いが叶うのか。

 マニュアルでは?


【星同様、願いは遠くにありて思うもの。手が届かないで、こいねがうのが願いというものです】


 くそう、この役立たずのマニュアルを燃やしたい。

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