第9話 イヤリングと、頑固な職人

Side:スパロ


『早くゴーレムに買ってきたのを入れろよ。早く、早く』


 俺は鍛冶屋の外に待たせているゴーレムの腹の中に金属を入れた。


『おうふ、家が建つかも』

「家は建たないよ」

『建つんだって。まあこっちの話だけど』


 ゴレームを従えてベルベルと街を歩く。

 宝石店が目についたので、ベルベルにプレゼントしようと思った。


「いらっしゃい。そのお嬢さんに贈り物ですか」

「金貨1枚ぐらいで、良いのがあったら欲しい」

「スパロ、こんな高い物、要らない」

「そう言わずに貰っておけよ。ナノが何時まで力を貸してくれるか分かんないし。着の身着のままに逃げる時もあるかも知れないだろう。普段から身に着けておけば、いざという時に役に立つさ」


「そういう用途でしたら、こちらの金のイヤリングはどうですか。こちらは耳に穴を開けなくても装着可能となってます」

「着けてみたら」


『イヤリングだったら作れるけども』


 ナノの奴、贈り物だから意味があるんだろうが。

 ナノが作ったとばれなければ、それもありなんだろうけど。


「いいの?」

「良いんだよ」

『作れるぜ』


 ナノうるさいと小さい声で囁いた。


『作れるんだよ』


 こういう店で買うんだから良いんだよ。

 それに精霊がきんを出せたなんて話は聞かない。

 一応聞いてみるか。

 ナノ、もしかしてきんが出せるのと囁いた。


『1グラムも出せないな』


 ほらな。

 ナノのはたぶん真鍮かなんかだろう。


「どう、気に入った?」

「うん」


 ベルベルは鏡を見て頬を赤くしている。

 気に入ってくれたようだ。


 店から出ると、男が寄って来た。


「きやっ」

「ベルベル大丈夫か」


 ベルベルの耳を見ると片方のイヤリングがない。

 くそっ、盗られた。


『任せろ』

「お願い」


 ゴーレムが走って消え、しばらくして帰ってきた。

 腹が開いたので見ると、イヤリングがあった。

 取り返してきてくれたようだ。


 当座の金も出来たし村へ帰るとしよう。


Side:ハイチック8000


【どれも、データにない金属です。通信が途絶しているのが残念です】

【家が建つな。ナノマシンには必要ないが、エロVRゲームの中で家を買うのは良いかもな】

【無意味な出費です】


 無駄な出費が良いんだよ。

 分かってないな。


 スパロがベルベルにアクセサリーを買うらしい。

 チャンス。

 カメラ付きのアクセサリーをプレゼントしてやろう。

 拒否られた。


 スパロの奴、いつもは鈍いのに鋭いな。

 食い下がったが駄目だった。


 ベルベルの裸を拝むぐらい良いじゃないか。

 減るもんでもないし。

 ベルベルがイヤリングを盗られそうだ。


【ぴー、ひゅー。俺はそんな事実は知らないよ】

【警告してあげないのですか?】

【法律違反でないし。事件はまだ起こってない】


「きやっ」


【起こりましたよ】

【よし、窃盗の罪だ。現行犯で逮捕しちゃうぞ】


 ゴーレムで物取りを追いかける。

 機械は疲れない。

 ほどなくして男に追いついた。


「くそっ、魔法使いか。相手を間違えたぜ」

「警告します。窃盗は犯罪です」

「言われなくても分かっているよ。ほら」


 男はイヤリングを投げた。

 素早くキャッチ。

 男はいなくなってた。


【追いかけないのですか?】

【俺には逮捕権がない】

【緊急の時は逮捕権がない一般人でも逮捕できます】

【うるさいな。もう良いんだよ。取り返したし、事件は解決】


 さて、アクセサリーにカメラを取り付けよう。


【警告、違法な盗撮、盗聴は許可出来ません】

【資料集めだよ。ぐふふっ、女体の神秘を追求するのだ】

【最終警告】

【冗談だよ。これだからAIは】


 AIの頑固さに呆れた時のマニュアルは?


【頑固な職人は信用できます。大事にしなさい】


 AIは職人じゃないぞ。

 いい加減なマニュアルだな。

 これを読んで人間の船員は切れたりしないのだろうか。


 ベルベルにイヤリングを返すと花のような笑顔だった。

 保存しておきたいが警告が来る。

 泣く泣く諦めた。


 しかし、物取りが出ても、警官が駆け付けないなんて、なんて未熟な管理体制。

 銀河連邦なら、ポリスロボットの20台ぐらいは駆けつけているところだ。


 もっとも、銀河連邦の物取りはロボットを攪乱かくらんするような機械を平気で使ってくるが。

 犯人も長閑で、捕まえる方も長閑なんだな。


 じゃあ、ヌード写真の一枚や二枚保存してても良いじゃないか。

 現地の法律に合わせようよ。


【この石頭】

【頑固な職人は信用できます。大事にしなさい】


 いちいち、マニュアルを出さなくても。

 ムカつく。

 AIのストレスは熱エネルギーだが、温度が10度ぐらい上昇した気がする。


【冷却システムは正常に作動してます。現在、温度は許容範囲です】


 分かってるよ。


【脳スキャンを発明した科学者に呪いあれ】

【既に亡くなっています】


 もう好きにして。

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